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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-41ナンパ

紗英の同僚である村井理恵子視点です。


私は一人ベンチでぼーっとしながら、さっきの事を思い返して幸せだった。

野上君が一緒に回ろうなんて言ってくるの初めてだ。

何だか最近よく話しかけてくれるようになったし、少しぐらい気になる女の子になりつつあるんだろうか?

私は色んな期待をしてしまって顔がにやけそうになるのを必死に堪えた。


そんな不審な私の前に影がかかり、私は表情をいつもの鉄仮面に戻して顔を上げた。

すると目の前には三人組のチャラそうな男性達がこっちを見下ろしていた。

私は何のようかと睨みつける。


「ねぇ、今一人?」


リーダー格っぽいニヤついた茶髪の男が訊いてきた。

私はナンパかと思って目を細めた。

女子高、女子大育ちの私は友達といるときによくナンパされた。

その経験もあって、あしらい方は身についている。

私は立ち上がると、一睨みしてきっぱりと突き放す言葉を浴びせる。


「連れがいるんで。」


私はそれだけ言い残して立ち去ろうとしたが、目の前の男に腕を掴まれた。

私は今までなかった反応に驚いて目を剥いた。

今までだったら、冷たい女だと思われて興味をそぐはずなのだけど…

目の前の男たちはニヤニヤ笑いを止めずに私を見ている。

その顔にさすがに体が強張った。


「君、なんかナンパ慣れしてるよね?俺、そういう経験者大好き。」

「俺も、俺も!!それに君、すっごい美人だし、一石二鳥だよ!!」


一石二鳥って使い方違うから!!

私はいつもの教師モードが出てきそうで、口を噤んだ。

何とか腕を離してもらおうと暴れるけど、力が強くて離してくれそうもない。

それに暴れる事で向こうに火をつけてしまったようだった。


「離してください!!」

「嫌がられるとマジそそるんだけど!」


私は歯を食いしばって悲鳴でも上げてやろうと思っていると、横から声がかかった。


「村井さん!!こんな所にいたんだ!」


この空気をぶち破るように声を上げたのは沼田さんだった。

沼田さんは強張った笑顔を浮かべてこっちに手を振ると、強引に男の人の壁を割り込んできて私の手をとった。

その手が汗で濡れていて、彼女が相当勇気を出して私に声をかけてくれたのが分かった。


「すみません!彼女、私の連れなのでここで失礼しま~す…。」


沼田さんは男の人たちを一切見ようとせずに、私を引っ張って逃げ出そうとしていたけど、男の人に目の前を塞がれて怯えながら立ち止まった。


「君も一緒に遊ばない?彼女の連れなんだったら歓迎するよ?」

「あ…あっと…、結構です。私たち彼氏と一緒なんで!」


沼田さんは言い切るときに胸を張って男の人を見据えた。

私はそんな沼田さんを見つめてから、ちらっと男の人たちを見ると、男の人たちは顔を見合わせながら笑っていた。

そんな姿にイラッとしてくる。


「怯えて可愛いね?彼氏なんて嘘つかなくてもいいよ。」

「嘘じゃありません!!」


余裕で返してくる男の人の方が何枚も上手で、沼田さんは茶髪の人の横にいた短髪で頭にサングラスをつけている男の人に腕を掴まれて抵抗している。

私は沼田さんを巻き込んでしまった事に申し訳なくなりながら、誰か助けを呼ぼうと大きく息を吸いこんだ。

そのとき目の前の男の人の脇から見覚えのある顔がのぞいて、私は吸い込んだ息をほっと吐き出した。


「おい、その手を離せ。」


額に青筋を浮かべて低い声を発したのは竜也さんだった。

その横から翔平さんも顔を覗かせて、沼田さんの手を掴んでいる人を睨みつけてから沼田さんを守るように手を引きはがした。


「何なんだよ!お前ら!!」


急に現れた二人を見て、男の人たちは二人にガンを飛ばし始めた。

一触即発の雰囲気に私は沼田さんの手を握りしめて見守るしかなかった。


「俺らはその二人の連れだけど?そっちこそ何の用があってこんな事してんだよ?」

「彼氏って…お前らのことかよ。」

「マジかよ。萎えたわ。行くぞ。」


背の高い二人に威圧されたのか男の人たちは意外とあっさり引き下がって、ブツブツ文句を言いながら立ち去っていった。

それを見て緊張が解けたのか、沼田さんがその場にへたり込んでしまった。


「……た…助かった…。」

「紗英!大丈夫か!?」

「沼田さん!!あ…と村井さんも大丈夫?」


翔平さんが沼田さんを支えているのを見てから、竜也さんが私に優しく声をかけてくれてドキッとした。

こんなカッコいい人に助けられるなんて人生で初めての経験だ。

私はさっきの二人の姿を思い返して、心臓が高鳴っていた。


「う…うん。大丈夫。ありがとう、助けてくれて…。」

「いいよ。これぐらい。何もなくて良かった。」


さらっと爽やかに笑顔で返されて、相当モテるだろうな…と思った。

竜也さんは沼田さんに手を貸してあげていて、そんな姿でさえも輝いて見える。

沼田さんは立ち上がると、私に顔を向けて申し訳なさそうに口を開いた。


「村井さん。ごめん!私、何の役にも立てなかった…。上手く助けようと思ってたのに…」

「いいの!沼田さんが来てくれて嬉しかったよ!私こそ、巻き込んでごめんね。」


沼田さんは気にしてない私を見て安心したのか、優しい笑顔を浮かべた。

出会ったときから思ったけど、沼田さんってすごく優しい顔をする。

だから、なんだか和んでしまって自分の事を打ち明けたくなる。

これは沼田さんの長所だと思う。


「紗英!!助けようとしたって何の話だよ!?」

「え?…えっと村井さんが男の人に絡まれてるのを向こうから見つけて…その、助けようと思って…たんだけど…。あはは…。」


沼田さんは笑って誤魔化そうとしていたけど、翔平さんや竜也さんの顔がみるみる変わっていくのが見えた。

私はそんな二人を見て、あることに気づいてしまった。


「紗英!!何でそんな危ないとこに突っ込んでいくんだよ!!」

「そうだよ!!男三人もいるのに無謀すぎる!!そういうときは助け呼べよ!!」


「ご…ごめん…。」


竜也さんと翔平さんは飽きれた様に沼田さんを叱っている。

沼田さんもさすがに反省しているようで、小さくなって謝った。


すると向こうから足音が聞こえてきて、事情の知らない竜聖さんが走って駆け寄ってきた。


「紗英!!翔平に竜也も…何があったんだよ?」


竜聖さんはどこかで買い物でもしていたのか男性ブランドのお店の袋を下げていた。

そんな竜聖さんを見て、翔平さんと竜也さんが冷たい目を竜聖さんに浴びせた。


「お前…今までどこ行ってた!!」

「どこって…ちょっと買い物に…。」

「このバカ!!買い物楽しんでる場合じゃねぇだろ!?」

「は?何の話だよ?」


竜聖さんは意味が分からないと首を傾げながら、沼田さんを見てふっと笑顔を見せた。

沼田さんも嬉しそうに微笑んでいて、私はそんな二人の何気ないやり取りが羨ましくなった。

言葉を交わさなくても意思の疎通が図れていてすごい。

彼氏彼女の関係ってホントに憧れる。


すると竜也さんと翔平さんが同時に沼田さんの手を握ると、竜聖さんを睨んで吐き捨てた。


「お前なんかに任せてられるか!このバカ!!」

「どこでも好きなところで買い物してろ!このバカ!!」


「バカ、バカって何なんだよ…。って、おい!!何、紗英のこと連れてってんだよ!?」


沼田さんはオロオロとしていたが、翔平さんと竜也さんは完全に何か頭にきているのか無視して沼田さんの手を引いて歩いて行く。

竜聖さんと私は取り残されて、竜聖さんが困ったように私を見たので、さっきの事を教えてあげることにした。


「あの、私と沼田さん、さっき知らない男の人たちに囲まれて、どこかに連れて行かれそうになって…それを二人が見つけて助けてくれたんです。」

「……それって…、ナンパってこと?」

「…そうなりますね。」


私はみるみる表情を強張らせた竜聖さんを見て、沼田さんを巻き込んだことが申し訳なくなった。

竜聖さんは顔をしかめると頭を抱え込んで呟いた。


「…最悪だ…。」


私は落ち込んでしまった竜聖さんにかける言葉が見つからない。

歩いて行ってしまう沼田さん達と竜聖さんを交互に見て、どうしようか悩んでいると、竜聖さんが急に走り出した。

私は一人取り残されるのは嫌だったので、その後を追いかけて走ると、竜聖さんは翔平さん達から沼田さんを引き離して何か言った後、沼田さんを抱きしめた。

私はその様子を目を見開いて見つめながら、そこに追いつくと足を止めてその様子を見守った。

翔平さんも竜也さんも驚いた顔で抱き合う二人を見つめている。


「ごめん、紗英。ごめん。怖い思いさせたよな。」

「ううん。大丈夫。というか…私が首突っ込んだんだから、自業自得っていうか…」

「俺は自分が許せねぇよ…。もう、紗英の傍から離れねぇから…約束する。」


沼田さんに向けられた甘い言葉の数々にこっちが照れてきた。

彼氏っていうのは、こんなにも彼女のことを一番に考えてくれるものなのだろうか?

私は経験がないだけに、二人を見ていると付き合うっていいなと何度も思ってしまう。

そんな二人を見つめるのは私だけじゃなくて、翔平さんと竜也さんも同じように二人を見つめていた。

でもその二人の目を見て私はドキッとしてしまった。

二人は嬉しそうに笑っているものの、どこか寂し気で切なそうな目をしていた。


私はさっき気づいた二人の気持ちに胸が苦しくなってきた。

きっと竜也さんも翔平さんも沼田さんの事が好きなんだと思う。

付き合いたいほどの好きかは分からないけど、どこかで特別だと思ってる気がする。

私は二人の沼田さんに接する態度や今の表情で何となく分かってしまった。


沼田さんは二人の気持ちに気づいているのだろうか?


私は幸せそうな沼田さんと竜聖さんを見て、モヤモヤと複雑な気持ちが生まれていった。








ここから翔平に少しだけ異変が現れてきます。

次は川遊び編です。

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