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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
158/218

4-40ショッピングモールにて

紗英の同僚の野上颯太視点です。


俺が妹の和花とアイスクリームを片手にショッピングモールをぶらついていると、ふとある店に竜聖がいるのを見つけて足を止めた。


「あれ?竜聖だ。何で一人でいるんだ?」


俺は竜聖のいる店の看板を見上げて、目を剥いた。

ジュ…ジュエリーショップ…!?

俺はその事実に店の中で熱心に宝石を見つめる竜聖を二度見してしまった。

あいつ…何もこんなところで買わなくても…

よほど沼田さんのこと独り占めしてぇんだなぁ~…

俺は竜聖と出会ってからの事を思い返して感慨深くなった。


沼田さんに最初、大事な友人だと紹介されたときにはすごいイケメンだけど、影のある奴だと思ってた。

竜聖は見た目もいいし、佇まいも男の俺から見てもカッコいい。

そんな竜聖と沼田さんが友達だという事にも驚いたが、まさか付き合う事になるなんて思わなかった。

はっきり言って沼田さんは特別可愛いわけでも、綺麗なわけでもない。

いたって平凡で受け答えの面白い女子って感じだ。

そんな沼田さんがどうやって竜聖を落としたのか…謎だ。


でも付き合った今、どっちかというと竜聖の方が沼田さんにどっぷりと溺れてるようだ。

今の熱心な様子を見てもよく分かる。

俺には沼田さんのどこが良いのか理解できない。

同じ同僚でも村井さんの方が美人だし、付き合うなら彼女の方が楽そうだ。

沼田さんはすぐ表情に出るし、結構面倒くさい面があるから男は嫌がりそうなものだけど…

人の好みってのは分からないものだ。


そんな事を考えていると、横から和花が腕を引っ張った。


「ねぇ、あの人ってお兄ちゃんの同僚の沼田さんの彼氏だよね?」

「んあ?そうだな。桐谷竜聖っていうんだよ。」

「ふーん。あの人、お兄ちゃん以上にイケメンだよね。」


和花がアイスを頬張りながら言った。

俺以上と評されて、俺は当たり前だろ…と心の中で呟いた。

俺が竜聖に勝てる要素といえば、話術ぐらいのものだ。


「そうだなー。あいつは10人女子がいたら、10人全員がイケメンだと言うだろうな~。」

「でもさ、あの人のお友達の二人も負けず劣らずカッコいいよね?」

「友達?」


俺は竜聖の友達と言われて、昨日水をかけあってじゃれあっていた二人の顔を思い出した。

確か…翔平と竜也だったっけ?

あの二人も沼田さんの知り合いなんだよな…

俺は何気に沼田さんがすごく見えてきて、目を細めた。

イケメンに囲まれてるって…沼田さんって何者?

俺は彼らの関係が気になってきた。


「あ、もちろんお兄ちゃんもカッコいいよ!私はお兄ちゃんが一番だからね!!」


フォローしてくる和花に俺は「どうもな。」といつものように流すと、ジュエリーショップいる竜聖を横目に足を進めた。

そしてしばらく行くと、ベンチに一人で座っている村井さんを見つけて声をかけた。


「村井さん!一人で何やってんの?」

「あ、野上君。」


村井さんは俺を見て顔を綻ばせると、ちらっと和花を気にしながら言った。


「さっきまで城田さんたちといたんだけど、城田さんが竜也さんと二人になりたいって言うから別れたの。ちょっと疲れてきたのもあったから…。」

「ふーん…。」


村井さんの態度を見て気を遣ったんだろうなというのが見て取れた。

彼女はいつも壁があるけれど、それは人の事をよく見てるからだってのは一緒に働いた数カ月で分かっていた。

村井さんって変に不器用だよな~…

俺は村井さんが一人で寂しいのではないだろうかと思って、誘いを持ちかけた。


「なら、一緒に回る?」

「えっ…?」


「えー!!何でぇ!?私はお兄ちゃんと二人がいいーっ!!」


俺は横で騒いでいる和花をどついて黙らせると、目を見開いている彼女にもう一度告げた。


「一人じゃ面白くないでしょ?こいつうるさいかもしれないけど、一人よりは楽しいと思うよ?どうかな?」


俺の誘いに村井さんはしばらく考え込むと、じっと和花を見てから遠慮がちに笑った。


「私はいいよ。特に買いたいものもないし。しばらくここで休んでおくよ。」

「そ…か。了解。」


俺は断られた事に少し残念だったが、無理強いするわけにもいかないので素直に諦めた。

でも断った村井さんも心なしか残念そうに顔をしかめていて、俺はその様子に首をかしげた。

また何か遠慮してるのかな…?

俺は村井さんの壁が分厚すぎて、気持ちをくみ取ることができない。

う~ん…さっき付き合ったら楽だと思ったけど、そうでもないかもなぁ…

俺は村井さんも沼田さんとは別の意味で面倒くさそうだなと思った。


「じゃあ、俺らもう行くな。お昼には集合になると思うから、もしそれまでに気が変わったら電話でもしてくれよな。」

「分かった。ありがとう。」


村井さんはまた笑顔を作ると、優しげな声で言った。

そして俺は和花に腕を引かれるままに、その場を後にした。





***





ショッピングモールもだいたい回り終えて、そろそろお昼になるので集合をかけようケータイを取り出すと、道の向こうから不機嫌な女の子の声が響いてきた。


「何でずっとついてくるんですか!?」


その甲高い声の主は城田さんだった。

城田さんは竜也の腕にくっつきながら、堂上さんと沼田さんのお兄さんに囲まれている。

村井さんから城田さんは竜也と二人っきりになるために別行動したと聞いていただけに、そこにいる4人組の状況がよく分からない。


「だって城田さん!昨日は俺と回ってくれるって言ってくれてたじゃん!?」

「そんな事言いましたか~?私は竜也君と回るつもりだったんですけど?」

「男と二人っきりなんて危ないから!俺がボディガードしてやるよ!!」

「いらないですし、邪魔なんですけど!?」


堂上さんとお兄さんに言い寄られて、城田さんは不機嫌そのもだった。

竜也なんか部外者の装いであさっての方向を見ている。

俺と和花はそれを見つめてどうするか考えた。


「ねぇ、お兄ちゃん。もう集合かけなくてもいいんじゃない?」

「そういうわけにもいかねーだろ。村井さん一人でいるわけだし。」

「お兄ちゃん、やけに村井さんの事気にするね?」

「一人でいるの見たら、そりゃ気にするだろ。」


和花が怪しんで聞いてくるのを流しながら、俺は4人組をもう一度確認してからため息をついた。

とりあえず連絡とる手間省けるし、声かけるか…

俺は足を4人組に向けると、笑顔を作って声をかけた。


「おーい!4人でなんだか楽しそうだな?」


「あ、颯太。」


4人が俺に気づくと、口論をやめた。

竜也だけが好意的な笑顔を浮かべてくれて、他の3人は邪魔者とでも言いたげな鋭い目で見てくる。


「そろそろお昼だから集合かけようと思ってたんだ。一緒にフードコート行こうぜ?」

「もうそんな時間か。」

「えー!?もう集合するの!?」


竜也が腕時計で時間を見たとき、城田さんが文句を言い始めた。

竜也はそんな城田さんを気にも留めてないようで、「行くか!」と言って歩き始めてしまう。

そのときに、さりげなく城田さんから離れて俺の隣にやって来た。

それを堂上さんやお兄さんがチャンスとばかりに城田さんの両脇を囲み、城田さんの眉間の皺が深くなるのが見えた。

俺は隣にきた竜也を見上げて何も気づいていないのか、様子を伺った。

すると、竜也が少し俺に頭を近づけて小声で呟いた。


「来てくれて助かったよ。」


その言葉にすべて分かった上での行動だと読み取ることができた。

竜也は明らかに安堵していて、俺は興味本位で尋ねた。


「あんな可愛い子に言い寄られて、何でそんな疲れてるわけ?」


俺だったらあんな可愛い子が彼女だったら、絶対に自慢しまくる。

疲れるなんて、もっての他だ。

当の竜也は薄く笑いを浮かべると答えた。


「可愛いからって好きになれるわけじゃねぇだろ?」


俺は竜也の堂々とした言いっぷりにドキッとした。

数多の恋愛を経てきた玄人のようで、同い年かと疑いたくなった。

竜也は背が高くて、体格も程よく鍛えられてて男らしい。

そして、誰にでも誠実なこの発言。

モテる要素をすべてぶっ混んだような奴で羨ましくなる。

なので、弱味はないのかと探りたくなってくる。


「じゃあ、今好きな奴はいないわけ?」


男の弱味といえば女と相場が決まっている。竜也がどんな女の子にグラッとくるのか知りたい。

竜也は遠くを見るように微笑むと言った。


「いるよ。もう、フラれてるけど。」


「マジ!?」


少し切なそうに声のトーンを落とした竜也の発言に、俺は信じられなかった。

こんなモテ男を振るとはすごい女の子もいたものだ。


「それっていつの話?誰なのかって聞いても…俺には分からねぇか…」


俺は更に追及しようとしたけれど、竜也とはこの旅行で初めて会ったばかりだ。

聞いても分からないと自己解決した。

けれど、竜也はそんな俺を見てニッと意味深に笑うと言った。


「俺がフラれたのはごく最近の話だよ。その相手も颯太はよく知ってるはずだ。」


「へ?よく知ってるって…誰だよ?」


俺はその相手が気になってきて尋ねたのだが、竜也ははっきりと教えてくれる気はないようで「さて、誰でしょう?」と言って誤魔化されてしまった。


俺は竜也という人間の深まる謎に頭が混乱しそうだった。

俺の知ってる奴で竜也と知り合いの女子なんて、沼田さんしか思いつかない。

彼女には竜聖がいるのだから、それはあり得ないし…

竜也はいったい誰の事を言っているのだろうか?

俺は今もすれ違う女子の視線を集めている竜也を見て、ますます竜也が理解不能だった。



そんなとき、俺たちの一団に元気な声がかかった。


「あれ?竜也!颯太!!」


俺が考え込んでいる顔を上げると、翔平が彼女である浜口さんと一緒にやってきた。

この二人はよくケンカしているが、何だかんだ仲が良い。

でも、この二人は本当にカップルっぽくないというか…

今も友達みたいな距離間で手すら繋いでいない。


翔平は俺たちの集団を見渡すと訊いてきた。


「紗英と竜聖はいねーのか?」

「あぁ、俺たちもさっき合流したばっかりなんだ。」

「ふーん…、でもこれから皆で昼飯食べるんだろ?」

「おう。颯太。そのつもりなんだよな?」


俺は仲良く話をする二人から話かけられて、一瞬反応が遅れた。


「あぁ、ちょうど皆にメールするつもりだったんだけど、これだけ集まってるなら竜聖と沼田さんと村井さんには電話した方が早いかな。」

「竜聖は紗英と一緒にいるんだから、どっちかに連絡すれば大丈夫だろ?俺、電話しようか?」


翔平がケータイを取り出したのを見て、俺はさっき見た竜聖の事を言うべきか迷った。

すると和花が横から口を出してきた。


「竜聖さん、さっき見たとき一人でしたよ?だから、三人全員に連絡しなきゃダメだと思いますけど…ねぇ、お兄ちゃん?」


和花がサラッと言ってしまって、俺は返答に困った。

すると、竜也も翔平も驚いた表情を浮かべて動揺し出した。


「一人って…また、あいつ何かやらかしたのかな?」

「朝は二人共普通だったけど…ケンカかな?」

「つーか、紗英一人とかダメだろ!俺、紗英探してくる!!」


翔平がケータイ片手に走り出そうとして、竜也がそれを手を出して止めた。

俺は二人がここまで竜聖と沼田さんを心配する心情が理解できなくて、黙って見ているしかできない。


「翔平、落ち着けよ。沼田さんだって子供じゃねぇんだから、一人でいたって大丈夫だよ。」

「そりゃ…そうだけど。紗英の奴、いつもニコニコしてっから、変な奴に言い寄られててねぇかなって思ってさ…一人でいるわけだし…」


翔平の言葉にいたって冷静に振る舞っていた竜也の表情が変わった。

俺は、沼田さんが男に言い寄られている想像がつかないだけに、二人の心配は無用な物だと思うのだけど、二人はそうではないようだった。

俺はそれが不思議で仕方ない。


「そ…そうだな。探しに行くか。翔平、沼田さんに電話しろ!」

「おう!」


二人は同時に走り出すと俺たちの事なんか忘れているようで、声もかけずに行ってしまった。

俺はその後ろ姿を呆然と眺めていると、横からため息が聞こえてきて振り向いた。


「またか!あのバカ!!ほんっと!紗英の事になると行動力あるんだから!」


そこには腕を組んだ浜口さんがぼやいていて、俺はまたという言葉が気になって尋ねた。


「またってどういう事?」


浜口さんは話しかけた俺に顔を向けると、ふっと息を吐いてから言った。


「本郷君は紗英の事になると周り見えなくなるの。初恋の相手だし仕方ないのかもしれないけど、こっちの身にもなってほしいぐらい、紗英贔屓がひどいから。」


彼女はムスッとしながら翔平たちの行ってしまった方向を見つめた。

初恋の相手って…

それはそれでかなり複雑だな…

俺は浜口さんの心境に同情した。


それにしても翔平も竜也も沼田さんに構いすぎな気がする。

竜聖の彼女なんだから放っておけばいいものを、わざわざ探しに行くなんて…

自分の彼女でもねーのに…


ここで俺はハッとある可能性に気づいてしまった。


も、もしかして…竜也の好きな奴って…


俺は二人が行ってしまった方向に目を向けて、信じられない可能性を導いてしまった。

でも、それを信じることができずに、俺はただ呆然と立ち尽くすしかできなかった。






野上兄妹は書いてて楽しいです。

次はもう一人の同僚視点です。

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