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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
157/218

4-39兄妹喧嘩


ペンションに来て二日目――――


俺はいつの間にか眠っていたようで、目を開けると俺の腕の中に紗英がいて表情が緩んだ。

昨夜は眠るのがもったいなくて、紗英が寝てしまった後もずっと紗英の寝顔を覗き見ていた。

だから自分がいつ眠ったのか記憶にない。


今俺の腕の中にいる紗英の寝顔はそのときと変わらず幸せそうで、俺は嬉しくなって腕に力をこめた。

今だけは紗英は俺のものだ。

それが実感できて気分がいい。

俺が紗英の温かさを体で感じていると、ふと腕に紗英の胸が当たってる事に気づいて体が強張った。

この…感触は…もしかして、紗英下着つけてない…?

俺は服越しでも分かる柔らかさに変な想像をしてしまった。


ヤバい!!朝からこんなんとか、マジでヤバい!!


俺は昨日紗英に宣言しただけに煩悩を追い出そうと、目を瞑って今日の予定を羅列する。

起きたら朝ごはん食べて、今日明日の食材の買い出しに、午後からは川に遊びに行って…夜はバーベキューに花火だ。紗英と花火とかロマンチックだろうな…

紗英と過ごす一日を想像している内に、何とか煩悩は追い出す事に成功した。

でも、考える事がなくなるとまた復活しそうで、俺は体がムズムズしてくる。


紗英を起こすか…起こせば最悪の事態は避けられる…

でも…この俺だけの時間を手放すのは惜しい…

紗英を独り占めできるのは今だけだぞ…起こすなんてもったいない事できるか


俺はそういう結論に至り、現状維持を選択した。

そして紗英に目を戻すと、紗英が苦しそうにしていたので俺は腕の力を弱めた。

すると紗英が寝返りを打ってきて、俺と向かい合わせになって顔が見えるようになった。

俺は紗英の顔が見えるようになっただけで、いらぬ気持ちが湧きあがった。


ちょっとくらいなら…バレないよな…


紗英が目を覚まさないか見張りながら、俺は紗英の胸に手を触れかけて軌道修正して顔に手を触れた。

あっぶねぇ…それをしたらダメだろ!!

俺は紗英の頬に触れながら、ふっと息を吐いた。

すると紗英の口元が弧を描いて、急に肩を震わせて笑い出して驚いた。


「ふふっ…何するのかと思った。」


紗英の目がパチッと開いて、俺は頬に触れていた手を引っ込めた。

い…いつから起きてたんだ!?

俺は今まで自分の考えてた事が見透かされてそうで焦った。


「おはよ。竜聖。」


「お…おはよう。」


俺は新婚のようなやり取りに顔がにやけてくる。

紗英は俺の照れた顔を見て楽しそうに笑うと体を起こしてしまった。

俺は自分だけの時間が終わった事に落胆しながら、同じように体を起こす。

すると紗英は大きく伸びをしたあと、俺を見て言った。


「なんか髪がぺしゃんこになってるの新鮮だね。」

「ん…?あ、あぁ。ワックスつけてないしな。俺、すっげー直毛だからさ何もしてないと、こんなんなんだよ。」


俺が自分の髪を触りながら言うと、紗英が俺に手を伸ばしてきて俺の髪に触れた。

俺は触れられた瞬間、ビクッと体が強張った。


「ホントだ。羨ましいなぁ…髪の毛サラサラだ。」


俺は紗英に髪を弄ばれてくすぐったくて顔をしかめた。

女の子に髪触られるなんて初めての事でこれはこれでドキドキする。

楽しそうに笑ってる紗英を見て、俺は紗英の肩から落ちる長い髪を手にとった。


「紗英の髪もサラサラだよ。」


俺の言葉に紗英が俺の髪から手を離した。

紗英はみるみる頬を染めると「そうかな。」と言って焦り出した。

これは…さっきの俺と同じ反応だよな…?

俺はそう確信すると、自分だけの時間がまだ続いてると悟った。

そう思うといてもたってもいられなくなり、俺は紗英に身を寄せて言った。


「紗英。もうちょっと寝ようよ。」

「へ?寝るって…今何時?」


紗英が部屋を見回し出して、俺は紗英に抱き付くとベッドに押し倒した。

そしてそのまま紗英をギュッと抱きしめて言った。


「時間なんて気にしなくてもいいよ。」

「で…でも…。みんな起きてるんじゃ…。」

「いいんだって。紗英もギュッとしてくれよ。」


俺の要望に紗英はふうと息を吐くと、俺の体に腕を回してくれて、俺は胸がギュッとなるぐらい嬉しくなった。嬉しさで思わず力を強める。

すると紗英が笑い出して、俺の胸に顔を埋めた。


「ふふっ…そんなにギュッとしなくても逃げないよ。」

「そんなん分かんねぇだろ?こうしてたら一番安心するんだよ。」

「そっか…。じゃあ、私も。」


紗英は俺と同じように力を強めてきて、紗英の体の柔らかさが直に伝わってきてドキドキが加速する。

これ…誘ってんのかな?

俺は試しに紗英のお腹に服越しに触れてみると、紗英は何も反応を見せなくて疑問が過った。

あれ…?これ…もしかして…イケる?

俺は逸る気持ちを抑えながら、お腹を触っていた手を少しずつ上に移動させてみる。

もう少しで胸に触れるという所で廊下から怒声が聞こえてきた。


「何で竜聖の奴はお前の部屋にいねぇんだよ!!」


怒鳴り声だけで恭輔さんだと分かって、俺は慌てて紗英から手を離して起き上がった。

紗英も俺と同じように驚いたようで、ベッドから飛び起きている。


「お…お兄ちゃん…。」

「やっば…。見つかったら二度と紗英に近づけさせてもらえないかも…。」


俺はどうにかして部屋から抜け出そうと部屋を見回した。

紗英もオロオロしながら立ち上がって扉の前まで移動していった。

俺はとりあえず窓を開けるとどうにか伝って他の部屋にいけないか考えた。

そのときドアが激しくノックされて、扉の前にいた紗英が肩をビクッと震わせた。


「紗英!!起きてるのか!?開けろ!!」


廊下から恭輔さんの声が飛んできて、紗英は俺をじっと見つめて困っている。

俺は窓の外に目を戻すと大きく息を吸いこんでから、窓枠に手をかけて外のサッシに足をかけた。

そして外に出るときに紗英に「大丈夫だから」と声をかけると、勇気を出して足を踏み出した。

紗英は外に出た俺を見るように窓から顔を出して、心配そうな顔でこっちを見つめている。

俺はとりあえず隣の部屋の奴に入れてもらおうと、隣の部屋の窓を目指してサッシから足を踏み外さないようにじわじわと進む。

その間も開いた窓の向こうから「開けろーっ!!」と恭輔さんの声が聞こえてくる。

紗英はそっちを見兼ねて窓から引っ込むと、部屋のカーテンを閉めたのかシャッと音が聞こえた。

俺はその間に一歩でも進む。

そしてやっとたどり着いてホッとした瞬間、右手が汗で滑った。

げっ!!落ちるっ!!

俺は何とか左手に力を入れて堪えたが、足のバランスを崩してしまい体が傾いた。

すると、急に窓が開いてそこから出てきた手に傾いた体を支えられた。


「あっぶね~…。お前の事だからこんな事だろーと思ったよ。」


俺を助けてくれたのは竜也だった。

竜也はすべて見透かしていたのか、俺の体を支えて部屋の中に引っ張り入れてくれた。

俺は竜也の部屋でふーっと息を吐くと、安心してドッと汗が噴き出してきた。


「ありがとな。竜也。それにしても、よく俺が外にいるって気づいたな?」


竜也は俺を見下ろしてニヤッと笑うと言った。


「沼田さんのお兄さんの怒鳴り声と、すぐに部屋の扉を開けなかった沼田さんの行動を見ての想像だったんだけど…ドンピシャだったな。昨日もあんだけお兄さんにひでー事されてんのに、変なとこで勇気あるよなー、お前。」

「うるせーよ!半分は翔平のせいだからな!!」

「何で翔平が出てくんだよ?お前が沼田さん夜這いしに行ったんだろ?」

「ちっげーよ!!!俺は何もしてねーっつーの!!」


夜這いという発言に俺はグワッと体温が上がって、誤解を解きたくて声を荒げた。

こいつ失礼過ぎるだろ!?人を何だと思ってんだ!!

竜也は否定した俺を見て、ポカンとすると口を開いた。


「…マジで?一晩一緒にいて何もねぇとか、臆病にもほどがあるだろ…。」

「お前に臆病とか言われる筋合いねーよ!!だいたい昨日は翔平に部屋追い出されたから、仕方なく紗英の部屋で寝てただけだ!!」


俺は信じられないという顔の竜也から目を逸らしてそっぽを向いた。

すると竜也は鼻で笑うと言った。


「仕方ねぇなぁ…そういう事にしておいてやるよ。精々今晩は頑張れよ。」

「大きなお世話だ!!」


上から目線でバカにしてくる竜也に腹が立って、俺は立ち上がると「ありがとな!」と言い残して部屋を飛び出した。

廊下に出るとちょうど紗英の部屋から出てきた恭輔さんが見えて、俺は慌てて自分の部屋に駆け込んだ。





***





それから簡単に朝ごはんをとった俺たちは、下町まで降りて食材の買い出しに行く事になった。

下町には大きなショッピングモールもあるとの事で、全員参加となる。

また、それぞれ車に乗り込んだのだが、俺は朝に紗英と話してから一度も紗英と言葉を交わせないでいた。

というのも恭輔さんが朝の事を疑っているようで、ずっと睨みをきかせているせいだ。

俺は恭輔さんに認めてもらうためだと言い聞かせて、話せなくてもグッと堪える。

紗英はというと何かを考え込んでいるようで、俺の方には見向きもしないでいる。

俺的にそれが少し寂しい。


そして俺たちは下町までやってくると、食材の買い出しを後回しにして買い物を楽しむことになった。

そのとき紗英がスッと俺の横に来てくれて、その自然な姿に胸が弾んだ。


「一緒に回ろう?」


紗英が俺を見上げて笑ったので、俺はそれに応えるように笑顔を作る。


「おう!」


「へー…それ、俺も同行させてもらおうか。」


後ろから低い声が聞こえてきて、俺は恭輔さんだと分かって焦って振り返った。

恭輔さんはじとっと俺を見て、「いいよな?」と聞いてきたので頷くしか選択肢がない。


でも紗英は違ったようで恭輔さんの前に進み出ると、恭輔さんを睨んで言った。


「お兄ちゃんは来ないで!!」

「イヤだね。」

「イヤでも何でも来ないで!!来たらお兄ちゃんの弱みバラすから!!」

「はぁ!?弱みなんかねぇよ!!」


兄妹喧嘩が勃発していて、俺は口を挟めない。

紗英はそっぽを向いた恭輔さんを見て意味深に笑うと言った。


「いいのかな?言っても。お兄ちゃん、ここに来る前からずっと城田さんの事イヤらしい目で見てるよね?」

「わーっ!!!何言ってんだお前っ!!」


紗英の口から出た言葉に驚いた。

恭輔さんはさっきまでの偉そうな態度から一変して、少し赤くなって声を上げた。

紗英はしてやったり顔で笑いながら、尚も続ける。


「これ城田さんに言ってもいいかな?」

「バッ!!やめろ!!そんな事したら、二度とこいつと会わせねぇからな!!」


恭輔さんは俺を指さして紗英に言い切った。

紗英はというとその手を叩き落とすと、ムスッとして言った。


「なら交換条件のんでよ。私は城田さんにお兄ちゃんの事は言わない。お兄ちゃんは私が竜聖と何をしてても邪魔しない。口出ししない。どう?」


これには恭輔さんも言葉につまって、頭を抱えて悩みだした。

紗英は堂々とした様子で腕を組みながら恭輔さんの返答を待っている。

恭輔さんはしばらく悩んだあと、パンっと膝を叩くと俺をまっすぐ見た。

その鋭い視線に俺は体が強張った。


「いいだろ…のんでやるよ。…ただ、ここにいる間だけだからな!!」

「うん。いいよ。じゃ、そういう事で邪魔しないでね。」


ギリ…と歯を食いしばりながら言った恭輔さんに紗英はさらっと返すと、俺の腕を掴んで引っ張った。

そして恭輔さんから離れようと歩き出したのに倣って俺も続く。

しばらく無言で歩いた後、紗英が急に立ち止まって大きくため息をついた。


「はぁ…良かった…。何とかなった…。」


紗英のほっとしている様子に、俺は紗英の顔を覗き込むと尋ねた。


「紗英、もしかして恭輔さん引き離す方法ずっと考えてたのか?」

「うん。ずっとお兄ちゃんを観察して弱みを探してたの。それで、城田さんがお兄ちゃんのタイプど真ん中だって事に気づいて…、お兄ちゃんの視線の先だけ見てたらビンゴってわけ。お兄ちゃんドスケベだからさ。これでもう何も言ってこないよね。」


紗英は嬉しそうに笑って言ったが、兄の弱みを探す紗英が少し怖く見えた。

俺も視線の先には気をつけようと肝に銘じた。

すると紗英は開放感からか大きく伸びをすると、歩き出して言った。


「じゃ、買い物行こ!!」


俺は笑顔の紗英に駆け寄ると、自然と手を繋いでから「おう!」と返事をして並んで歩き始めた。




それからは紗英が服を買うのを見たり、紗英が俺に服を選んできたりしながら買い物を楽しんだ。

そしてその後、紗英は雑貨屋で足を止めると、中に入っていってしまったので俺もそれに続いた。

そのときレジ付近にあるアクセサリーに目が止まって、俺は紗英に気づかれないようにそこに近づいた。

俺はネックレスやピアスなどが並んでいるのを見渡して、あるものに目が止まった。

それは指輪だった。


俺はたくさん並ぶそれを見て、顔をしかめた。

紗英は男受けがいい。

それだけに俺が傍にいない間に変な奴に言い寄られそうで怖い。

だから恋人いるぞって証として、指輪を贈りたい。

でも、指輪だと自分が紗英を独り占めしたいみたいでがっついてそうじゃないか…?

俺はデザインの可愛い物を手にとって悩んだ。

すると女性店員が近づいてきて、「プレゼントですか?」と訊いてきたので俺は頷いた。


「はい。彼女に贈るのにこういうのってアリですか?」


俺は同じ女性目線を知りたくて尋ねると、店員は目を丸くさせて言った。


「とても素敵だと思いますよ。女性は指輪を贈られると特別に思われていると知って、相手への愛が深まるんですよ。特に結婚を意識されてるなら、予約のような感じで渡されるのもいいんじゃないでしょうか?」

「へぇ…。」


俺は良い事を聞いたと思った。

結婚の予約とか最高だ。

俺はいてもたってもいられなくなってきて、店員さんに「ありがとうございます」と告げて別れると、何かを熱心に選んでいる紗英に声をかけた。


「紗英!ちょっと、一人で行きたいとこあるから行ってきてもいいか?」

「へ…?うん。いいけど…どこ行くの?」


俺はきょとんとした顔で首を傾げている紗英に「すぐ戻るから、ここら辺で待ってて!」と言い残して店を後にした。

後ろから紗英の戸惑った声が聞こえたが、行先を知られる訳にはいかなかった。


そして俺はショッピングモールにある有名ジュエリーショップまで来ると、緊張する鼓動を抑えて自動ドアをくぐった。







次からは紗英の同僚目線でお届けします。

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