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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
154/218

4-36タダの理由


旅行に行く当日―――――


私は集合場所である駅前にやって来て唖然とした。

なぜなら、そこにはニヤニヤ笑ったお兄ちゃんがいたからだ。


「よう、紗英!久しぶりだな?」

「な…何で!?」


私がそこにいるメンバーを見回すと、翔君が手を合わせて頭を下げていた。

それを見て翔君経由でお兄ちゃんに旅行の事がバレたと悟った。

でも何でお兄ちゃんまで行くことになってんの!?

私は誰が行く事を斡旋したのか気になっていると、横に野上君がやってきて言った。


「昨日、竜聖から電話があってさ~。もう一人追加できるかって言われてOKしたんだけど、沼田さんの知り合いだったんだ?」


それを聞いて翔君の隣にいる吉田君を見ると、事情を何も分かってないのか私を見て嬉しそうに笑っている。

その笑顔にやられてしまって、私は吉田君を責める事もできない。

惚れた弱みだ…お兄ちゃんも考えたな…

私はお兄ちゃんの企みにイラッとして、お兄ちゃんを睨んだけどドヤ顔で返されてしまって何も言えなくなる。


腹立つ~!!


「で、あれって誰なの?」


野上君が呑気に聞いてきて、私は腹立ち紛れに「お兄ちゃんだよ!」と吐き捨てた。

すると野上君は興味を持ったのか「マジ!?」と言って目を輝かすとお兄ちゃんに駆け寄っていった。

二人が仲良く話す姿を見ながら、私は余計な事を言わないよう願った。


「沼田さん不機嫌だね?どうしたの?」


村井さんが私の傍に来て優しく訊いてくれた。

村井さんはいつもと違うパンツスタイルで新鮮な姿だった。

動きやすい服装でと言われたからかもしれない。


「だって兄が旅行に来るとか、恥ずかしいし嫌じゃない?」

「そういうものなの?」


村井さんが分からないといった表情で言うので、私は尋ねた。


「村井さんって…もしかして兄弟いない?」

「うん。私一人っ子なんだ。」

「あー…なるほど。男兄弟ほど一緒にいたくないと私は思うけど…。」


「そうですか~?」


村井さんと話している所に能天気な高い声が聞こえて、そっちを見ると、見たことのない小柄な女の子がこっちを見ていた。

つなぎのショートパンツにTシャツで短い髪をツインテールでくくっている。

年は大学生くらいで今日のメンバーの中で一番若そうだった。

その子はぴょんと可愛らしく私たちに近づいてくると、ニコッと笑った。


「あたしはお兄ちゃんと一緒にいたいですよ?だから一緒に住んでるぐらいなんで。」

「あ…えーっと、ごめんなさい。どちら様ですか?」


私はお兄ちゃん大好き宣言の女の子に尋ねた。

彼女は大きなくりっとした目を瞬かせると、大げさなリアクションで言った。


「すいませーん!あたし、うっかりしてました!!あたしは野上和花です!!野上颯太の妹で大学3年です!!『のがみのどか』で『のの』ってよく呼ばれてます!!よろしくお願いします!」


若さ溢れる自己紹介に目がやられそうで、私は少し目を細めた。

こんな可愛い子が野上君の妹…隔世遺伝かな…

私は失礼な事を思ってたのだけど、村井さんはなぜかショックを受けたようで表情が固まっていた。


「お兄ちゃんからお二人の話はよく聞いてます。沼田さんに村井さんですよね?」

「あ、うん。私が沼田紗英で、こちらが村井理恵子さん。」


私は固まってる村井さんの代わりに代弁した。

野上君の妹はくすっと意味深に笑うと、挑戦的な目で私たちを見て言った。


「お兄ちゃんの同僚さんがどんな人か、この3日間色々見させてもらいますね!それじゃ!!」


彼女はそれだけ言うと不穏な空気だけを残して、野上君の傍にかけよってくっついていた。

す…すごい妹もいたもんだな…

私はののちゃんを見て、空いた口が塞がらなかった。

村井さんは何か考え込んでいるのか、ずっと黙ったまま俯いていて私はそれが少し気になった。



それから遅れていた山本君と同僚のお二人が車で到着すると、それぞれ車に乗って出発することになった。

山本君の先輩である堂上雅史さんが運転する車には山本君と翔君、それに理沙と山本君の同僚ですごく綺麗な女の子の城田美空さん。

そして吉田君の運転する車には野上兄妹に村井さん、お兄ちゃんに私という様に分かれた。


私は吉田君が自然に助手席を勧めてくれたので、嬉しくてそこに乗り込もうとすると首根っこをお兄ちゃんに掴まれた。


「お前は後ろ!!」

「えーっ!?やだ!!」


私はお兄ちゃんに指示されて歯向かった。

こんな所に来てまで何でお兄ちゃんに指図されなきゃいけないのか分からない。


「俺が助手席座りたいんだから、兄に譲れ!!」

「意味わかんない!!横暴っ!!」


お兄ちゃんは私の言葉なんか屁でもないようで、べーっと舌を出すとさっさと助手席に乗り込んでしまった。私はそんな兄の姿にイライラしながらも、少しでも吉田君の近くにいようと運転席の後ろに座ることにした。物に当たるわけじゃないけど、いつも以上に力をこめて扉を閉めると助手席のお兄ちゃんを睨んだ。

お兄ちゃんはご機嫌な様子で口笛なんか吹いてるし、余計に腹が立ってくる。

何とか苛立ちを収めようと、私が腕を組んでもたれかかっているとふと視線を感じて前に目を向けた。

するとバックミラー越しに吉田君と目が合って、ドクンと心臓が跳ねて苛立ちが吹っ飛んだ。

ミラーに映る吉田君は嬉しそうに笑って、口パクで「また後で」と言ったように見えて、私は自分にだけ分かる合図に嬉しくなった。


単純だけど、たったそれだけで機嫌が直るなんて、私は本当に吉田君には敵わない。



それから車内では後ろで野上兄妹が騒ぎ続け、村井さんは黙ったままの状態で昼前にペンションに着いた。

着いてから、私たちはペンションの状態に唖然とした。

チラシではピカピカと光り輝いて見えたペンションだったのだが、今目の前のペンションは雑草が伸び放題で窓も曇っていて、壊れたりはしていないもののしばらく誰も使っていないのが目に見えていた。


「うそ…。」


みんな車から降りると、その状態に言葉を失なった。

そんな中、一際ハイテンションの人間が声を上げた。


「さぁ!!着いたから、みんなでお掃除しよっかー!!」

「はーい!!」


野上兄妹は事情を知っていたのか、ニコニコしながらペンションに向かっていく。

訳ありってこういう理由!?

私は動きやすい服装と言った意味をやっと理解した。


「颯太!!お前、知ってたな!?」


吉田君が一番に声を上げた。

野上君は振り返ると、へらっと笑って言った。


「ごめんっ!タダってこういう事なんだよね?俺の友達、しばらく管理してなかったらしくて、八月に使いたいから、七月中にここ掃除してくれる奴探してたみたいなんだ。」

「はぁっ!?」


野上君の言葉に体のいい掃除屋にされた事に頭が痛くなった。

みんな同じようで、文句を言ったりため息をついたり、諦めていたりと様々な反応を見せている。

張本人の野上君は腰に手を当てて仁王立ちすると言った。


「タダでおいしい思いできるわけないだろ!?文句言う暇あるなら、さっさと掃除して遊びに行こうぜ!?今日中に綺麗にして明日からは普通に旅行楽しむ予定なんだからさ!!」


ものすごく前向きな野上君の言葉に、みんなしぶしぶ納得したのか荷物を持って動き始めた。

私もそれに倣って荷物を持とうとしたら、横から荷物を持たれてしまって顔を上げた。

するとそこには吉田君がニッと笑って立っていた。


「持つよ。」

「あ…ありがとう…。」


私は彼のさり気ない彼女扱いに照れる。

こういうとこ…参るなぁ…

私は熱を持つ頬を隠したくて俯くと、野上君から叱咤が飛んできた。


「そこ!!イチャつく暇あるなら、早く働け!!」


「うっせ!お前こそ働けよ!!」


私はイチャつくという言葉に恥ずかしくなったが、吉田君はそうでもないようで笑って返していた。

何だか前より逞しくなった気がする。

頼りになる姿に胸が温かくなった。


それから私たちはとりあえずペンションの中を綺麗にする班と、外の雑草むしりの班に分かれる事になった。女性陣は外はイヤだという事で、強制的に男子が外、女子が中という事に落ち着いた。

私はポニーテールにしていた髪をまとめてお団子にすると、半袖をめくりあげて窓ふきを始めた。

掃除は上からというので、女子全員で黙々とペンション中の窓ふきと壁を綺麗に拭いて回る。

天井のほこりはののちゃんが自慢のジャンプ力を使って、モップで払い落としている。

会ったときから思ったけど、ののちゃんてすごく元気でパワフルだ。

彼女と同じ20歳のときの私はあんな感じではなかった。

さすが野上君の妹だけある。


私はそんなののちゃんを横目に二階に向かった。

二階は主にたくさんの部屋が並んでいて、左右に3部屋ずつ6部屋あった。

一部屋一部屋は狭くて、本当に寝るだけのようなスペースしかなかったけれど、遊ぶことを考えるとこれぐらいでちょうどいいのかもしれないと思った。

疲れたらきっと部屋に帰って寝ちゃうだけだもんね…

私は仕事後の自分を思い出して、そう思った。


そして一部屋、一部屋窓を拭いていると、下から笑い声が聞こえてきて窓を開けた。

下には水の出ているホースを持った翔君が山本君や吉田君に向かって水をかけまくっていた。

二人はギャーギャー言いながら逃げ回っている。

その姿が中学のときみたいで、自然と笑いが漏れる。

吉田君と再会したときは、こんな日がくるなんて思わなかった。

こうなればいいって思ってたけど、まさかこんなに早くこの日がくるなんて想像もできなかった。

心から良かったと思う。


そんな事を思いながら三人を見つめていると、翔君が私に気づいたのか手を振った。


「紗英~!!」


私は翔君に手を振り返すと自分の手が埃で真っ黒になっているのに気付いた。

雑巾で拭ってみるが、雑巾も黒くなっていて余計に汚れただけだった。

すると吉田君たちも私の方を見上げて声をかけてきた。


「紗英!降りて来いよ!!」

「沼田さん!水冷たくて気持ちいいよ!!」


水と聞いて、手を洗えるかもと思い「今行く!」と返事して部屋を飛び出して、階段を駆け下りた。

そのとき下で理沙に会ったので「手洗ってくる。」と言い残して外に出た。

外は中に比べるとジリッとした暑さが充満していて、私は一瞬顔をしかめた。

太陽の眩しさに目が慣れたとき、吉田君たちが手招きしていて私はそこに駆け寄った。

すると、翔君が思いっきり私に水をかけてきて、私は思わず水を避けようとして湿った地面に足を滑らせた。尻餅をついて倒れた所に、翔君が容赦なく水をかけてきて全身びしょ濡れになった。

その卑劣な手段に私は腹が立って、立ち上がると翔君に汚い雑巾を投げつけた。


「おわっ!!何すんだ紗英!!」


翔君はそれを軽やかに躱してしまい、さらに苛立ちが募る。


「何すんのはこっちのセリフ!!最っ悪!!びっちょびちょだし!!責任とってよ!!」


私はもう濡れるのも構わずに翔君に詰め寄った。

でも、途中で吉田君が立ちはだかって、私はしかめっ面のまま吉田君を見上げた。

すると吉田君は急に自分の着ていたTシャツを脱いで上半身裸になってしまった。


「えっ!?」


公衆の面前で何をする気だろうと目をパチクリさせていると、吉田君が着ていたTシャツを首だけ通す形で着せられてしまった。

大きいTシャツを着せられ、私は意味が分からなくて吉田君を見つめていると、彼は少し赤い顔で私の肩を掴むと告げた。


「…下着…透けてた…。」

「えぇっ!?」


その言葉に私は顔に熱が集まって、一気にオーバーヒートした。

どうしようか地団太を踏んで、着替えなきゃと結論に至り踵を返そうとするが、吉田君が私の肩を押さえこんでいて動けない。

すると彼が私の肩に項垂れるように頭をのせると、私にだけ聞こえるように言った。


「…俺以外に…そんな姿見せないでくれよ…。」


この言葉に体まで熱くなってきて、体中から汗が噴き出す。


「ご、ごめん。わ…分かった…から、手離して?着替えに行ってくる…。」


私は気持ちがソワソワし出して、早く吉田君から離れたくなった。

吉田君はふっと息を吐くと、ゆっくり顔を上げて顔をむずつかせていた。

その表情の意味が読み取れないでいると、手を離してくれたので私はペンションに向かって走って帰った。


そしてペンションに帰ると、私は自分の荷物の置いてある二階の一室に駆け込んだ。

まだ埃っぽい室内で私は自分のドッドッと速い鼓動を落ち着けようと、何度も深呼吸した。

先週…吉田君に本音を打ち明けてから、吉田君は何でもストレートに言うようになった。

以前は何か言おうとすると躊躇っていたのだけど、それがなくなった感じだ。

それが嬉しくもあり、複雑だった。

なぜならストレートすぎて心臓に悪い。

どう反応すればいいのかも分からないし困る。


私は吉田君に着せられたシャツを脱ぐと、自分の姿を見て確かに下着が透けているのが分かった。

きっと水に濡れたせいだなと思うと、鞄から代わりの服を取り出して着替える。

川で遊ぶと言っていたので多めに服を持ってきて正解だった。

私は着替え終えると、吉田君の少し濡れたシャツを見て、吉田君にも着替えを持っていってあげようと思い立った。

皆の鞄の山から吉田君の鞄を探しだすと勝手だと思ったが、鞄を開けてシャツを探した。

シャツは目の前に入っていて意外とすぐ見つかってほっとした。

そしてシャツを取り出すと、何かが一緒に落ちた。

私は落ちたそれに目を向けて、固まった。


落ちたのはアレをするときに使う…ものだった。

私は慌てて拾うと鞄の奥に押し込んでチャックを閉めた。

落ち着けたはずの心臓がまた速くなってくる。

実際に見たのは初めてだったけど、知識として知ってただけに動揺が大きかった。

さっきまですぐ寝るとか考えてた自分がバカに見えてくる。


持ってきてるって事は…そ…そういう気持ちが…あるって事だよね…?


私は想像してしまって、頭がパンクした。


無理、無理、無理!!

ま…まだ、心構えができてない!!


私は頭を抱えて身悶えた。

この間、流されそうになった事はあったけど、こんな皆が近くにいる状況ではそんな事考えられない。

それに吉田君は心構えができるまで待つと言ってくれた。

なら、大丈夫な…はず!!


私は信じようと思うものの、さっきの光景が頭に貼りついて中々平常心に戻らなかった。





一応R指定しておきましたが、表現はオブラートに包みました。

皆様のご想像にお任せします…

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