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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-33後押しした奴


俺は浜口と二人で紗英の家にお邪魔していた。


竜也はまだ来ていないようで、紗英は先に話すねと言って今日呼び出した用件を説明し出した。

話を要約すると七月中に同僚の友達の持つペンションに遊びに行かないかという事だった。

タダだというので、俺も浜口も快諾した。

紗英は嬉しそうに日取りを決めようと、手帳を取り出したので来週末なら大丈夫だと告げた。

浜口も同じだったようで、来週末の金曜日に出発しようという事になった。


「そういえば紗英。竜聖君とどうなってるの?」


浜口が興味津々な顔で紗英に詰め寄った。

紗英は少し照れくさそうに頬を掻くと笑って言った。


「一応、付き合ってる…かな?」

「えー!!そうなんだ!!おめでとー!!良かったね!今まで頑張って支えてきた甲斐あったねぇ!!」


浜口がきゃいきゃいと騒ぎながら紗英の肩を叩いて喜んでいる。

付き合ってるという事実に驚いたものの、あの竜聖の顔なら当然だと思う気持ちが勝った。


「紗英。幸せか?」


俺が我慢してないのかなと気になって聞いたら、紗英は少し考えた後「幸せだよ。」と嬉しそうに笑った。その顔が高校の時と同じに見えて、俺はひとまず安心した。

このまま上手くいけばいい。

俺は浜口に色々追及されて焦ってる紗英を見て、そう思った。


そのときインターホンが鳴ったので、俺は話の盛り上がってる紗英の代わりに扉を開けた。


「はいはーい。」

「よ!待たせたな!」


扉を開けると竜也とその後ろに竜聖もいて驚いた。


「竜聖!お前も呼ばれてたのか!?」

「あ…いや…。その…。」


竜聖が気まずそうに目を逸らして煮え切らない返事を返すので、俺は紗英に振り返って訊いた。


「紗英!竜聖来てるぞ!!入れてもいいんだよな?」


紗英は俺越しに竜聖を見て、目を見開いた。

その後ちらっと浜口を見て、眉間に皺を寄せて少し考えると立ち上がって俺の方に駆け寄ってきた。


「翔君。理沙って竜聖の事情知ってるんだよね?」

「え?…あぁ、うん。話したから知ってるけど…」


俺の返答を聞いて紗英が何かを心配してるのか、顔をしかめて浜口のところに戻って行った。

そして浜口に対して何か言っているようだった。

俺が玄関で立ち尽くす竜也と竜聖を見ると、竜聖が紗英と同じ顔をして俯いていた。

付き合ってる割には全然幸せオーラ出てねぇよな…二人とも…

俺は紗英と竜聖の距離間が不思議で、竜也をちらっと見ると竜也は何か知ってるのか笑って肩をすくめた。


「翔平。沼田さんから何の用件か聞いたのか?」

「あ…あぁ。うん。来週末、紗英の同僚の友達が持つペンションに遊びに行かないかだってさ。」

「ふーん。来週末だったら別に大丈夫だけど…。何か話長引いてんな?」


竜也が話し込んでる紗英を見て言った。

俺も同じように振り返ると、浜口が笑って頷いてるのが見えた。

一体何を話してるのだろうか?


すると竜也がふーっと息を吐くと、声を上げた。


「沼田さん!!俺らそこのコンビニまで行ってくるな!!」

「え?」


紗英が浜口と話を終えてこっちに顔を向けた。

竜也は俺に靴履けと指示すると、俺と竜聖の場所を入れ替えた。


「竜聖だけ置いていくから。」

「は!?」


竜也の言葉に竜聖自身が驚いて声を上げた。

そのときこれは何かの作戦だと気づいて、俺は浜口に声をかけた。


「浜口!何か欲しいものねぇか?」


浜口は俺を見つめてしばらく固まっていたけど、紗英と竜聖を交互に見て察したようだった。


「あ、私自分で見て買いたい!!一緒に行くよ!」


ナイス!!浜口!

俺はこっちに駆け寄ってくる浜口を見て、ほくそ笑んだ。

浜口もどう?と言わんばかりの笑顔だ。


「じゃあ、すぐ帰って来るから!」


竜也がそう言って出ていくのについて、俺と浜口も外に出て扉を閉めた。

そしてふーっと息を吐いてから、前を歩く竜也に尋ねた。


「竜也!これ、何か作戦なんだろ?」

「作戦?そんなんじゃねぇよ。」


竜也は鼻で笑って言った。

だったら何で竜聖を置いてコンビニに行くんだ…?

俺は竜也の考えてる事が分からなくて、首を傾げた。


「あいつさ、高校のときみたいにウジウジしてやがったんだよ。だから、強制的にでも話させた方がいいと思ってさ。ホント記憶なくたって変わらず手のかかる奴で参るよ。」


竜也は文句を言いながらも、どこか嬉しそうな表情だった。

高校のときと聞いて、俺はふと疑問が過った。


「高校のときってどういう事だ?あいつ、高校のときウジウジなんてしてなかっただろ?」

「あぁ、お前は知らねぇのか。あいつ、沼田さんと仲直りする前、沼田さんに拒絶されたっつって相談してきた事があんだよ。」

「え?」


紗英が竜聖を拒絶したとは初耳だった。

俺は紗英から竜聖と話せるようになったと報告を受けただけなので、そこに至る経緯は知らなかった。

竜也はそのときの事を思い出しているのか嬉しそうに笑いながら言った。


「いつもは自信満々なあいつだけどさ。沼田さん絡むとホントただのヘタレになるんだよ。だから、沼田さんと仲直りしたいって言ってたあいつの背中を押してやったのは俺なわけ。」


そういうことか…

俺は急に仲直りした二人が不思議だったが、そういう経緯があったのかと納得した。

でもそこで何かが胸に引っ掛かった。


「あれ?それじゃあ…お前が竜聖の背中押さなきゃ、紗英と仲直りすることもなくて…竜聖は紗英と付き合う事もなかったってわけだよな?」

「…まぁ、突き詰めればそうなるかな?」


竜也のあっけからんとした言葉に俺は高校のときの事を思い出して、食って掛かった。


「じゃあ!お前が竜聖と紗英を仲直りさせなきゃ、俺が紗英にフラれることもなかったんじゃねぇのか!?」

「はぁ!?」


俺はこの事実を放ってはおけなかった。

中学のときから紗英と対等に並びたくて何年も努力し続けてきた。

でも、竜聖はその時間を飛び越えて紗英とグッと距離を縮めてきた。

あいつが仲直りしたりしなければ、俺と紗英が付き合う未来があったかもしれない。

そう思うと竜也が憎たらしかった。


竜也は俺の言葉に何度かむせると、呆れたように言った。


「お前、今更何言ってんだよ?そんなん沼田さんの気持ち次第なんだから、変わらねぇよ。」

「変わるんだよ!!あのとき竜聖と仲直りする前までは、紗英の中では俺の株が急上昇中だったんだ!!その最中にあいつが…!!俺は考え過ぎて保健室のお世話になったんだからな!!」

「バカみてぇ…。」


竜也が俺を軽蔑するように見てきて、カチンときた俺は声を荒げた。


「そんだけ本気だったんだよ!!過去の俺に謝れよ!!土下座しろ!!」


力をこめて言い放った言葉に竜也がげんなりした様子で口を開いた。


「お前…後ろ見ろ。」

「は?」


竜也が俺の後ろを指さしたのを見て、振り返ると肩を怒らせて俺を睨んでいる浜口が見えた。

あ…忘れてた…

さっきまで頭に上っていた血がサーっと一気に冷えていく。


「いっつも…いつもいつも!!紗英、紗英って!!本郷君の彼女は私だよ!?分かってる!?」


浜口が怒りを爆発させて詰め寄ってきて、俺は思わず後ずさる。


「わ…分かってるよ。」

「分かってない!!今だって私の事忘れてたでしょ!?」

「…う…それは…。」


浜口に見透かされて俺は言葉につまった。

いつもの事だが、浜口には二手も三手も先にいかれていて口喧嘩で勝てた試しがない。


「本郷君が紗英に振られたから私と付き合えてるんだよ!!そこちゃんと分かってる!?」

「わ…分かってるって…。」

「じゃあ何で紗英のことばっかり気にしてるの!?いつもだよ!!いっつも!!」


そんなに紗英の事ばかり口にしてただろうか?

俺は助けを求めようと竜也に振り返るが、竜也は知らん顔してそっぽを向いている。

とりあえず言い訳しなければと、俺は仕方なく思った事を並べ立てる事にした。


「さ…紗英は…なんていうか…大事な友達だし。心配したりするのは当然っていうか…。」

「友達の度合いを超えてるよ!!」

「え…?そうか?」

「そうだよ!!私といるときまで紗英の名前出して心配することないじゃん!?紗英の奴元気にしてっかな~とか!!たった二、三週間会わなかっただけでおかしいでしょ!?」


「お前…そんな事言ってんの?」


浜口の発言に竜也が加わってきて、冷めた目で俺を見てくる。

二人から責められて、俺は何とか名誉を挽回しようと試みる。


「だ…だって、紗英の奴、すぐ溜め込むっていうか…我慢ばっかするから…なんか気になるんだよ。中学のときからずっとその姿見てきてるから…余計に…。」

「あー…。」

「気になるって…もうそれ好きだってことじゃん!?浮気だよ!!」


浮気と言われて、俺は焦った。


「ち…違うって!!好きだけど…いや…昔は好きだったけど…今は友達的な好きだから…。」


上手く説明できなくて自分が混乱してきた。

浜口は真っ赤な顔で肩を震わせている。

このままだと変な誤解を植え付けたままになる。

どうしようかと思ったとき、竜也の顔が目に入って口を開いた。


「俺は竜也も好きなんだ!!紗英の好きもそういう好きだよ。分かるよな!?」

「はぁ!?」

「お前何言ってんの!?」


竜也は数歩下がると、俺を軽蔑するような目で見てきた。

浜口は眉を歪めて怒りが増幅したのが見て取れた。


どうやら上手く伝わらなかったようだ。


だんだんイライラしてきて、俺は一番やりたくなかった方法に出る事にした。

大きく息を吸いこむと、熱くなる頬を気にしないように声を張り上げた。


「俺が好きなのは浜口だよ!!お前は俺の彼女だろ!?信じろよ!!」


視界の端で竜也が驚いているのが見える。

浜口も口をポカンと開けて立ち尽くしている。


俺は慣れない事をしたせいで体中に嫌な汗をかいて、耳まで熱くなってるのが分かって腕で顔を隠した。

浜口の顔が見れなくなって顔を背ける。


すると前からふっと息の漏れる音か聞こえて、浜口にちらっと目を戻すと浜口が笑っていた。


「あははっ!好きだなんて、初めて言われた。」


そう言われてから、一度も口に出した事のない事に気づいた。

浜口は俺と同じように頬を赤く染めると、俺の腕を掴んで言った。


「嬉しい言葉聞けたから、今日は許してあげるよ。」

「……そりゃ、どーも。」


俺は照れ臭くなって、竜也の方へ歩き出すと竜也がニヤーっと笑ってこっちを見ていて、竜也から目を逸らした。

浜口は俺の腕を掴んだままご機嫌でついてくる。


その嬉しそうな姿を見て、何とか丸く収まったことにほっと安堵した。





なんだかんだ翔平と理沙のカップルは平穏ですね。

次で紗英と竜聖のゴタゴタも片付きます。

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