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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-29降り積もる


お化け屋敷で照明が落ちたとき、すぐ目の前にいたはずの吉田君の背中が見えなくなった。

そのときに高3のあの日がフラッシュバックした。

見送った背中、戻ってこなかったときの事を思い出して、急に不安になった。

そして背後で長い黒髪の女性がニッと笑ったとき、なぜか分からないけど宇佐美さんの姿が重なった。

そうしたらもう我慢ができなくなった。


あの日からずっと抱え込んでいた感情が戻ってきて、離してしまったらダメだと思った。

置いて行かれる。

また目の前からいなくなる。

そう思ったら、しがみついてでも引き留めないとと思ってしまった。


吉田君が時折見せる悲しげな暗い瞳。

その目を見るたび、いつか離れる日が来る事を想像してしまう。

今は一緒にいても、いつかきっとそんな日がくる…

きっと避けられない…そんな予感がしていて嫌だった。


行かないで…置いて行かないで!!

もう二度とあんな思いはしたくない!!


私は不安に胸が押しつぶされそうだった。


私は吉田君の背中に顔を押しつけて、彼の温もりを感じていた。

彼の少し早い鼓動が伝わってきて、吉田君はここにいると実感できた。

そうすると少しずつ気持ちが落ち着いてきた。


大丈夫…今はここにいる…

信じなくちゃ…


私は冷静になるにつれ、自分が恥ずかしい事をしている事に気づいて、今度は手を離すタイミングをなくしてしまった。

恥ずかしい…子供みたいに何やってるんだろ…

私は恥ずかしくて顔を吉田君に見せられないので、しばらく現状のままでいようと思っていたら、耳に思わぬ言葉が飛び込んできた。


「紗英。俺、紗英が好きだよ。」


私は耳を疑って、思わず顔を上げた。

吉田君は照れた顔で笑っていた。

それが胸に突き刺さって、グワッと気持ちが高ぶってきて鼻の奥がツンとしてきた。


うそ…うそ…今の夢じゃないよね…?


私は信じられなくて、声が出なかった。

吉田君の本音を聞く度に、私の中で『好き』が降り積もって大きくなっていった。


吉田君の全部がほしい。

でも、そんな欲張りな事口には出せない。

だから、精一杯の笑顔で吉田君に応えようと思った。


私はもう二度と彼の手を離さない。

何があっても絶対に…

私は吉田君の笑顔を瞼に焼き付けて、心にそう誓った。




***




お互いに告白し合った後は、気まずくて何だか少し距離を空けて歩いてしまった。

彼氏、彼女という看板が下がっただけで、妙に照れ臭い。

それに公衆の面前で二人の世界を作ってしまった事もすごく恥ずかしかった。

高校のときもだけど、私たちは人前で醜態をさらし過ぎだと思う。

私はなかなか引かない頬の熱を気にしながら、ちらっと隣の吉田君を見た。


吉田君の横顔も心なしか赤いような気もする。

それが分かっただけで、私は気持ちが軽くなった。

私だけじゃない…ちゃんと通じてる…

そう思うと自然と嬉しくなって、笑みが漏れた。


幸せだなぁ…



「紗英。どこか行きたいアトラクションある?」


私が一人でニヤついていると、いつの間にか吉田君がこっちを見ていて焦った。


「えっ!?わ…私は一緒にいられるならどこでも!!」


私は焦り過ぎて、恥ずかしい言葉を口に出してしまった。

吉田君が目をまん丸くさせていて、思わず顔を逸らす。

すると吉田君が吹きだして笑い出した。


「あはははっ!そうだな!どこでもいいか!!」


笑われると余計に恥ずかしくなってくる。

吉田君は眩しそうに目を細めると、前を指さした。


「じゃあ、ゴーカート乗りに行こう。いいねって言ってただろ?」


何気ない言葉を覚えていてくれたことに私は嬉しくなった。

さっきまでの恥ずかしさが吹っ飛んで、私は笑顔で頷いた。


「うん!!」


吉田君は満足そうに顔をクシャっとさせて笑うと、ゴーカートのアトラクションに足を進めた。

私はその横に追いつくと、さっきよりは近くに寄ることができて胸が弾んだ。



それから私たちは色々なアトラクションを回った後、昼食をとることにして売店の前のテーブルに腰を落ち着けた。

吉田君が買ってきてくれるというので、私は売店の列に並ぶ吉田君の背中を見つめながら、木の影になっているテーブルの椅子に座っていた。

木の影なのでまだ涼しかったが、もう真夏の気温で汗でベタベタする。

私は自分が臭くないかな…と気になりながら、鞄からタオルハンカチを取り出して汗を拭った。

そのとき隣のテーブルから女の子の話し声が聞こえてきて、なんとなく意識を向けた。


「ねぇ!あの人、すごくカッコよくない?」

「わ!!ホントだ!!」


私はちらっと彼女たちの視線の先に目を向けると、その先が吉田君だったので驚いた。

私は咄嗟に彼女たちを二度見してしまう。

彼女たちは吉田君を見つめたまま楽しそうに笑っている。


「話しかけてみよっか?」

「え~!でも彼女いるんじゃない?」

「どこにも見当たらないじゃん?大丈夫だって!」


彼女たちが腰を上げようとしたのを見て、私は慌てて席を立って鞄をほったらかしで吉田君の所に走った。

私は吉田君の傍に駆け寄ると、彼の腕を掴んで彼女たちの様子をちらっと見る。


「紗英?どうしたんだよ?」


上から吉田君の声が聞こえてきたけど、私は意識は彼女たちにあって返事しなかった。

すると女の子たちは私を見て諦めてくれたのか、こっちには来ないで違う所に向かって歩いて行ってしまった。

それを見送ってホッと胸を撫で下ろした。

そのとき目の前に吉田君の顔がヌッと出てきて、心臓が跳ねた。


「紗英?」

「わっ!!」


私は驚いて吉田君から手を離すと、彼から少し離れた。

吉田君は首を傾げながら、苦笑している。


「いったい何?さみしくなったとか?」

「え…?…あ…っと…その、何でもない…。戻るね。」


私は自分の独占欲に恥ずかしくなって、その場から逃げ出した。

早足でさっき座っていたテーブルに着くと、座ってテーブル肘をついて顔を手で覆った。


何やってんの…私…


彼女になったからって、独り占めしたいなんて…子供みたいだ…

高校のときも思ったけど、私は相当独占欲が強くて、ヤキモチ妬きみたいだ。

私は自分の中にある嫌な感情のコントロールに頭が痛くなった。


もうヤダ…


私は大きくため息をつくと、物音がして手を離して前を見た。

そこには吉田君がハンバーガーのトレイを持って立っていた。


「お待たせ。」

「あ…ありがとう。」


私はお礼を言ってトレイを受け取ると、吉田君が座りながら尋ねてきた。


「何か考え事?」

「あ、ううん。何でもないんだ。暑くて疲れたのかな?」


私が誤魔化して答えると、吉田君は飲み物にストローを挿して言った。


「そっか。じゃあ、早めに帰ろっか。」

「え!?」

「えって…。だって…疲れたんだよな?」

「違う!!疲れてない!!大丈夫!!」


私の言い訳に真面目に返されてしまって、私は焦った。

せっかくのデートなのに早く帰るとかない!!絶対ダメ!!

私は元気アピールで手を前で振って笑った。

すると、吉田君が眉をしかめてふっと息を吐き出して笑った。


「変なの。」


その顔が吉田君の素の笑顔に見えて、私は鞄からケータイを取り出すとカメラを起動して吉田君に構えた。

でもそのときにはその笑顔が消えていて、私は落胆してケータイを下げた。


「……何してんの?」


「え…?…その…写真を撮りたかったなぁ…なんて…。」


私はケータイをテーブルの上に置くと、吉田君は目の前でピースした。

その姿を見て私は目をパチクリさせた。

…何…してるんだろ…?


「あれ?写真撮るんじゃないの?こうしてるの恥ずかしいんだけど。」


吉田君は目を細めると、不服そうに言った。

それを聞いて私は慌ててケータイを手に持った。


「あ、そっか。ごめん!今!!今撮るからそのままでいて!!」


そして私はケータイの画面を見て、笑顔の吉田君の写真を撮った。

映し出された画像を保存すると、私は吉田君にお礼を言った。


「ありがとー!これで毎日竜聖に会えるね。」


私の言葉に吉田君は私の顔を驚いたように目を見開いて見たあと、気まずそうに俯いてしまった。

私はケータイを置くと、吉田君の顔を覗き込もうと姿勢を下げると彼がボソッと言った。


「紗英って…たまに恥ずかしいこと平気で言うよな…。」

「へ?」


私は恥ずかしいことのというのが分からなくて首を傾げた。

吉田君は少し頬の染まった顔を上げると、少しムスッとして言った。


「そんなもんなくても、毎日会えばいいじゃん?」

「え…?毎日って…。」


吉田君の言葉に仕事がある以上は毎日はしんどいんじゃ…と思った。

でも吉田君は平気そうな顔で続けた。


「俺は毎日会いに行くつもりだったよ。」

「え…えぇっ!?」


私は驚いて口を開けて吉田君を凝視した。


「5分でも10分でも時間があるなら、会いに行くよ。紗英は…イヤか?」

「い…嫌じゃないけど…。だって…少し距離もあるし…しんどいんじゃないかなって…。」

「それぐらい大丈夫だよ。俺は紗英に毎日会いたい。そうじゃなきゃイヤだ。」


まっすぐに気持ちを伝えられて、私は顔が上気していく。

自分に毎日会いたいなんて、こんなに嬉しい言葉があるだろうか…

私は吉田君のまっすぐな言葉に背を押されて、自分の気持ちを口に出した。


「わ…私も毎日会いたい。」


私の本音に吉田君が嬉しそうに笑った。

それを見て胸が熱くなる。


「んじゃ、決まり。明日もこうやって会おうな。」


私は『明日も』という何気ない言葉が嬉しかった。


これから来る毎日が輝いて見えてくる。

私は彼と一緒にいられる毎日にドキドキと胸が高鳴っていった。








紗英の嫉妬心の話でした。

なんだかんだ似てる二人です。

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