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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-27バッティングセンター


俺と翔平が竜聖の家で寛いでいると、竜聖が沼田さんを連れて帰ってきた。

沼田さんは俺たちを見ると、嬉しそうに笑って駆け寄ってきた。


「やっぱり二人ともまだいたんだね!」

「まだいた?ってどういう事?」


翔平が読んでいた雑誌を置くと、首を傾げた。

俺もその言い方が気になったので、沼田さんに目を向けた。

すると彼女は目を瞬いたあと、言った。


「え?だって、竜聖が二人がいるかどうか知らないみたいだったから。」

「へ?」


沼田さんの言葉を聞いて、俺は竜聖に目を向けるとあいつは俺たちを見ていた目を逸らした。

その横顔からでも分かる口をもごつかせた表情に、俺はあいつの心の中が読めた。

あの顔、俺たちは帰ったと思ってやがったな…

そこに沼田さんを連れ込むとは…ここにいて正解だった。

俺は沼田さんに笑いかけると、彼女の手を掴んで隣に座らせた。


「沼田さん、今日の試合はどうだったんだ?」

「あ、うん!勝ったよ!!うちの高校初めて三回戦進出なんだ!!」

「へぇ…?今年は野球部強いんだ?」

「うん!!一人すごい男の子がいて、川島君って言うんだけど…。ホームラン二本も打ったんだよ!!すごいよね!」


沼田さんはまるで自分のことのように目を輝かせていて、その後ろで竜聖の眉間に皺が増えていくのが見えた。

でも竜聖は態度に出さないようにしているのか、ちらっとこっちを見るだけで話に加わろうとはしない。


「ホームラン二本はすげぇな!俺も一試合で二本も打ったことなんかねぇなぁ…。」


翔平が感心しながら頷いた。

沼田さんはその反応にご機嫌で翔平の肩を叩いた。


「でしょ!?甲子園出場してる翔君に言われると、素直に嬉しいよ!」

「あ、そっか。お前、甲子園行ってるんだっけ?」

「おう。高3のときな。」


高3と言われて、俺は竜聖がいなくなった時期でもあったので翔平の甲子園なんかすっ飛んでいた。

翔平も同じ思いをしているので、今まであまり甲子園の話はしようとしてこなかった。

沼田さんはかぶっていた帽子を外すと翔平に見せた。


「ほら!きっとコレのご利益だよ!」

「あ、これ…俺があげた…。」

「うん!!翔君にもらって、翔君が甲子園に行ったときの試合でかぶってたから…

今日の試合のゲン担ぎになると思ってかぶっていったら、本当にご利益あったよ!!」


沼田さんは嬉しそうに笑っていて、翔平はその言葉が素直に嬉しいのか頬を染めてニヤけている。

その顔が沼田さんの事が好きだった頃の翔平の顔に見えて、俺は翔平の頭を叩いた。


「いって!何すんだよ!」

「うっせ!気持ち悪い顔してるからだよ!」


浜口さんに悪いと思わねーのか!

と俺は心の中で突っ込むと、黙ったままの竜聖が気になり奴に目を向けた。

するとあいつは明らかに不機嫌そうにしており、さすがにこれ以上は可哀想なので声をかけた。


「竜聖。なに突っ立ってんだよ。こっち座れって。」


竜聖はちらっとこっちを見てから一瞬動きを止めたが、沼田さんの顔を見て少し俯くと翔平と彼女の間に割り込むように腰を下ろした。


「なんかお前大人しくねぇ?」


翔平が黙ったままの竜聖を見て問いかけた。

竜聖はちらっと横目で沼田さんを見てから「別に」と不服そうに言った。

沼田さんはその様子が気になっているのか、寂しげに目を細めて竜聖を見ている。

俺は沼田さんのこんな顔が見たくて、身を引いたわけじゃない。

ハッキリしない竜聖にイラついて、俺はある提案を持ちかけた。


「なぁ、今からバッティングセンターに行かねぇか?」

「え…?バッティングセンター?」

「お!!いいな、それ!!久々に腕が鳴るよ!!」


沼田さんは目をパチクリさせて俺を見た。

翔平は腕を出して乗り気なようだ。


「野球の試合の話してたら、久しぶりにやりたくなってさ。沼田さんもやりたくない?」

「うん。やってみたい。打てるかは分からないけど…。」


彼女は自信なさげに言っていたが、表情は明るさが戻ってきた。


「じゃ、決まり。ほら、竜聖行くぞ!」


ぼーっと成り行きを見守っていた竜聖に声をかけると、俺は先導して立ち上がった。

そして4人で連れ立って駅前のバッティングセンターに足を運ぶことになった。




***




バッティングセンターに着くと、俺は翔平に沼田さんを任せて竜聖と並んでベンチに腰掛けた。

竜聖は何も言わずに翔平に打ち方を教わっている沼田さんを見つめている。

そんな横顔に俺はいたって普通に話しかけた。


「なあ、今は何を考えてるわけ?」

「え…?何って…?」


竜聖は沼田さんから俺に目を移すと、首を傾げた。


「自分で気づいてねーの?お前、沼田さんばっか見てるぞ?」


俺が竜聖を見て感じた事をそのまま伝えると、竜聖は気まずそうに目を伏せた。

また黙るつもりかよ…?

俺はふぅと息を吐くと、へっぴり腰の沼田さんを見て言った。


「沼田さんに好きだって言われたんだろ?何遠慮してんだよ。」

「…遠慮してるわけじゃ…ねーよ。」

「嘘つけ!付き合ってるくせに変に距離とりやがって、気になるんだよ!!」

「…付き合ってねーし。」

「はあ!?」


ムスッと答えた竜聖に俺は意味が分からなくて追及した。


「付き合ってねーってお前、好きだって言われたんだろ?」

「…言われた。でも…今日…付き合ってない…って言ってた。」

「は?誰が?」

「…紗英。」


俺は二人の不思議な関係に目が回りそうだった。

好きだって言われて付き合ってない状況ってどんなんだ?

沼田さんは竜聖の事好きだって言ったんだよな?

じゃあ、彼女が付き合ってないなんて言う理由はこいつにあるとしか思えない。


「おい。お前、沼田さんの事どう思ってるんだよ?」

「え…?…そりゃ…、傍にいたいし。ずっと笑顔が見られたら…」

「アホか!好きかどうか聞いてんだよ!!」


俺のストレートな問いかけに竜聖は言葉につまると頬を赤らめて顔を背けた。

そんな中学生男子のような反応に、俺は顔がひきつった。

こいつ…誰だ…?

俺が見てきた竜聖は自信満々で、何でも一本筋の通った男の俺から見てもカッコいい奴だ。

でも目の前のこいつは、たった一人の女の子に気持ちも伝えられねーヘタレ男子だ。

俺は竜聖に何があったと訊きたくなったが、それを胸に押し込むと言った。


「好きなんだろ?竜聖。」

「……言わねぇ。」

「はぁ!?この期に及んでしらばっくれるとかねぇだろ!?」


俺が声を張り上げると、竜聖はスッと一筋の光の入った瞳で俺を見た。


「…俺は、そういう事は紗英に一番に言いたい。」


言ってることはカッコいいが、行動が伴っていないのでカッコよさが半減している。

俺は竜聖を見つめ返すとため息をついた。


「…もう、勝手にしろ。ズルズル気持ち伝えるのを先延ばししてる内に、沼田さんの気が変わっても知らねぇからな。」


竜聖は考えになかったのか、目を見開いている。

そのときキィンと気持ちの良い音が聞こえて、沼田さんに目を戻すと、初めて打てたのか沼田さんが手を上げて喜んでいる。

その横で翔平も同じように喜んでいて、その勢い余って両手を合わせると抱き合っている。

毎度仲の良い姿に俺はだんだん見慣れてきていた。

でも隣の竜聖はそうではなかったようで、明らかに焦っているのが伝わってくる。

ベンチから腰が浮いていて、さっさと割り込んで行けばいいのにと思った。


すると沼田さんが目を輝かせて戻ってきた。


「ねぇ!見てた!?私、初めてなのに打てたよ!!すごい気持ちいいね~!!」


それを見て俺は立ち上がると、沼田さんを俺の座ってたところに促した。


「見てたよ。俺、やってくるからそこ座ってて。」

「うん。頑張って~!」


沼田さんは言われるがまま竜聖の隣に座っていて、俺はひとまず胸を撫で下ろした。

世話のかかる奴だよ。

お前はいっつもな。

俺は高校時代もウダウダしてた事を思い返して、竜聖に向かって笑みを向けた。

竜聖はまた口をもごつかせていて、隣の沼田さんを見て照れたように頭を掻いた。


そして俺は翔平の所に行くと、翔平が俺に話しかけてきた。


「なぁ、二人にして大丈夫なわけ?」

「んー…どうだろ?」

「どうだろってお前…そのためにココ来たんだろ?」


翔平はすべて分かっていた事に俺は驚いた。

いつも鈍感なのに変なところで鋭い。


「まぁ…そうだけど。竜聖の事は沼田さん自身がどうにかするんじゃないかな?」

「そうか?竜聖の奴見てたらイライラすんだけど。」

「まぁな。でも、あいつ…気持ちは分かってるみたいだし、あとはきっかけだけだと思うぜ?」


確信はなかったが、二人は上手くいくような気がしていた。

何だかんだ想いあってるんだ。

竜聖が何を抱えてるのかは分からないが、気持ちさえハッキリしていれば大丈夫だろう。

二度もすれ違ってるのに、こうして一緒にいるんだ。

俺はその運命のような導きに賭けようと思った。



翔平は二人を見つめて「なら、いーんだけど。」と不服そうに言った。







バッティングセンターの雰囲気が好きです。

次からデート編に入ります。

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