4-25独り言
日曜日――――
俺は竜也と一緒に竜聖の家にお邪魔していた。
というのも、竜聖の奴が紗英にデートをドタキャンされたらしいからだった。
暇なら来ないかとの事だったので、お言葉に甘えたというわけだ。
まぁ、今日は浜口との約束もなかったので安心してここに来ることができた。
竜聖の家は竜聖の店からすぐ傍の高層マンションだった。
高そうな外観だったが、竜聖曰くそんなに高くないそうだ。
嘘のような気もするが…
「なぁ、デートドタキャンって言ってたけどさ、沼田さん今日どこ行ってるんだ?」
竜也が差し出されたお茶を口にしながら尋ねた。
俺は傍に落ちていた雑誌を眺めながら、耳だけ二人の方へ向ける。
「なんか生徒の野球の試合を応援に行くとかで…。」
「へぇ?沼田さんが?珍しいな。なぁ、翔平。お前の試合んときって、沼田さん応援に来たのか?」
急に話を振られて俺は雑誌から視線を二人に移すと、高校の頃を思い出して首を傾げた。
「う~ん…全校応援のとき以外だったら…、一回ぐらいじゃないかな?」
「少なっ!!お前、全然意識されてねーじゃん!!」
竜也に貶されて俺は見ていた雑誌を投げ捨てた。
「そんなんじゃねぇよ!!俺が見に来るなって言ってたんだ!!」
「はぁ?何それ?」
竜也にバカにされたように見られて、俺はそっぽを向いて答えた。
「…紗英の私服姿…誰にも見せたくなくて…。」
あの頃は、紗英の事が好きだった。
だからこその嫉妬だったのだが、竜也は思いっきり吹きだすとゲラゲラ笑い転げた。
竜聖なんか事情が分からないのでポカンとしている。
俺は仲間外れもアレだったので竜聖に説明した。
「俺、高校のとき紗英が好きだったんだよ。だから、独り占めしたくての嫉妬だよ。」
「そ…そうなのか?」
「高校のときだけじゃねぇだろ?なっげー片思い拗らせてたクセによぉ!!」
「うるせーなぁ!人のこと言えねーだろ!!」
「俺は違うから!長い片思いなんてしてねーし。」
もう吹っ切れたのか、竜也の余裕の返しに俺は腹が立った。
少し寂しげな表情をした竜聖が気になって、俺は竜聖の背を叩くと励ました。
「安心しろよ。俺たちの片思いで分かるだろ。紗英はずーっとお前だけって証拠だよ。」
「ずーっとって…どういう事だ?」
竜聖は何も知らないのか真剣な顔で尋ねてきた。
俺はその顔を見て、しまったと思った。
ちらっと竜也を見て、助けを求める。
それに気づいた竜也は、知らんふりして顔を逸らした。
あいつっ…!!
俺は竜聖に視線を戻すと、どうしようか考えた。
紗英が自分から言っていない事を俺たちが伝えるべきではない気がする。
俺は誤魔化そうと部屋に視線を走らせた。
そのとき昔の竜聖からは考えられないアクセサリーの山が目に入って、そっちに視線を向けて口を開いた。
「あーっ!お前、ピアスとか、他にも色々アクセ持ってんだな~!見せてくれよー!!」
「翔平!!」
話を逸らしたが、竜聖はそれに聞く耳を持たずに俺の肩を掴んだ。
真剣な竜聖を見て、俺は口を噤んだあと、はぁと一息吐いた。
「…俺からは言えねーよ。」
「翔平!!頼む!紗英に聞いたけど、何も教えてくれなかったんだ!!」
紗英が教えてくれなかったと聞いて、俺は尚更自分から言うわけにはいかないと思った。
竜聖の手を肩から離すようにすると、首を横に振った。
「紗英がそう決めたなら。俺からは言わねぇ。」
「……っ!!竜也!!」
竜聖は竜也にも懇願しようとしたが、竜也も「右に同じ」と言って口を閉じた。
それを見て竜聖はその場に力が抜けたように項垂れた。
少しの罪悪感が胸をかすめたとき、竜也がため息をつくのが聞こえてきた。
「ここからは俺の独り言だから、気にすんな。」
「は?」「へ?」
俺と竜聖は揃って変な声を上げた。
竜也は視線を下に向けた状態で坦々と話し始めた。
「俺さ、高校の時に憧れてたカップルがいたんだ。お互い想いあってて、俺もそういう恋がしたいと思ってた。でもさ、その二人は壊れちまったんだよな。相手の男がいなくなっちまって。でも、女の子は諦めずに待ち続けてて、俺はその健気な姿に惚れちまったわけだけど。でも、今は幸せそうに元に戻った二人を、心から応援してるんだ。そんで俺も新しい恋を探してる所だ。」
俺は名前を伏せながら話をした竜也に驚いた。
竜聖と紗英の関係をこんな風に思ってたなんて、俺は初めて知った。
竜也はちらっと竜聖を見るとニヤッと笑った。
それを見て、俺も竜聖を覗き込んだ。
竜聖は今の話を頭の中で結びつけようとしているのか、一点を見つめたまま動かない。
そして何か思い当たったのか、目を見開くと立ち上がった。
「さ…紗英に会わないと…。」
竜聖は急に慌てだすと財布を部屋から持ち出して、ズボンの後ろのポケットに突っ込み玄関に走った。
俺はそれを目で追うことしかできないでいると、竜也が竜聖のケータイを見つけて声を上げた。
「竜聖、ケータイ忘れてるぞ。」
竜聖はその声に反応して振り返ると、竜也が投げたケータイをキャッチした。
そして「サンキュ。」とだけ言うと、部屋を飛び出して行った。
俺と竜也はそれを見送って、しばらく沈黙が流れた。
「……竜也。…あいつ、行っちまったけど…。俺らどうすんの?」
竜也は傍にあった雑誌を手に取ると、それを開いて欠伸した。
「別に、待ってたらいいんじゃねぇ?きっと沼田さんと一緒に帰ってくるだろ?」
「え…。それってさ…俺ら邪魔じゃねぇ?」
「バーカ。邪魔するためにいるんだろ?大体、呼んだのは向こうなんだしさ。帰る義理はねぇよ。」
竜也は明らかに面白がっており、俺は渇いた笑いを返すしかできなかった。
竜也…紗英の事、吹っ切れたと思ってたけど…
結構、根に持ってるのかもしれないと…
俺はこのときそう思った。
まだ少しぎこちない三人の関係です。




