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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-11辛い道


俺たちが竜聖に拒絶されてから二週間以上経った。


俺は今だに出ない答えに頭が痛くなりそうだった。


なぜ…竜聖はあそこまで俺たちを拒絶する?

俺たちがあいつに何をしたっていうんだ…


俺はあいつの冷たい目を思い出して背筋が震えた。


あんなあいつの目…初めて見た。


この五年…あいつに一体何があったんだ…?


俺は考えても結論の出ない事を悶々と考えて堂々巡りだった。



「おい、本郷!下に客が来てるって!お前に!!」


会社のデスクでパソコンを前に俯いていた俺に、先輩から声がかかった。

俺は客が誰か分からなかったが、開いていたパソコンの画面を閉めると立ち上がった。

先輩が早くと急かすので、俺は駆け足で玄関へと向かった。



会社の入り口に着くと、竜也が来客ソファに座っているのが見えた。

俺は竜也を見て一瞬足を止めた後、急いで駆け寄った。


「竜也!珍しいな。会社に来るなんてさ。」


竜也は顔だけ上げると、思いつめた表情で口の端だけ持ち上げた。


「あぁ。外回りで近くまで来たからさ。ついでに。」

「そっか。…で、何か用があったんだろ?」


俺は竜也の前のソファに腰かけると、元気のない竜也の表情を伺った。

竜也は手を組んで俯くと、遠慮がちに口を開いた。


「……竜聖のこと…お前、どうする?」


名前が出ただけでドキッとした。

俺もそのことを悶々と考えていたからだ。


「分からねぇ…。俺は…あいつと昔みたいに話がしたい…。でも、その方法が見つからねぇ…。」

「…そうだよな…。俺も、同じだ。」


そのとき俯いた竜也の顔がきつく歪むのが見えた。


「俺…正直、沼田さんのこと抜きにしても…俺の事、何とも思ってないあいつに…絶望したよ。」


『絶望』

その言葉が妙にしっくり胸にストンと入った。

そうか…この気持ちは絶望だったんだ。

俺は竜聖の姿を思い出すだけで苦しくなる気持ちを理解した。


「俺は…高校のときからずっと…ずっと…俺たち三人で話できるのを楽しみにしてたんだ…。それなのにっ…!!こんな再会を…望んでいたわけじゃねぇっ…!」


竜也の組んだ手が震えている。

俺は竜也の苦しさが痛いほど分かる。


「竜也…紗英に…あの日以降、会ったか…?」


俺の問いに竜也は少し顔を上げた。


「会ってない…。それどころか連絡もとってないよ。…こんな気持ちのままじゃ、無理だ。」

「そうか…。」


俺の恐れていた事が起きてしまった。

順調だと思ってた二人の間に竜聖が現れた。

俺は自分で頼んだだけに、二人の間に溝が生まれたのではないかと不安になった。


あの日、紗英には何とか話さずに済んだけど…

紗英は絶対に気にしているに決まっている。

いつ追及が飛んでくるかと身構えていたが、今の所何も連絡はない。


ここで俺はハッとした。


連絡が…ない…?



「た…竜也。…紗英からは連絡ないのか?」

「あるわけないだろ…。」


竜也はさっきと変わらない生気のない表情で言った。

俺はそこで嫌な予感が頭をかすめた。


紗英が俺たちの様子を気にしてないはずはない。

何でも自分のことのように抱え込む性格だから、今までの紗英なら聞き出そうと家に突撃でもかけてきそうだ。

それなのに、この二週間何も連絡がないなんておかしい。


「た…竜也…。紗英、もしかしたら、竜聖に会ったんじゃねぇのかな…?」

「は…?」


導き出した一つの可能性だった。

どこかで俺たちの取り乱した理由を知ったんだとしたら…、そう考えると連絡がないのも理解できた。

俺たちは同じ痛みを抱えてる。

もし紗英も同じように、竜聖に会って傷ついたなら、俺たちに連絡するはずはない。

そう考えて、俺は思わず立ち上がった。


「おい、翔平。お前、何言ってんだ?」


竜也は分からないようで、俺を不思議そうに見上げている。


「紗英の所に行かねぇと。」

「おいっ!何、考えてる!!言えよ!」


俺が歩き出そうとすると、竜也は俺の服を掴んで引き留めてきた。

俺は分かってない竜也に声を張り上げた。


「あの日、紗英は俺たちの事をあんなに気にしてた。なのに、一度も連絡ねぇなんておかしいだろ!?きっと一人で何かしてる!!何で、分からねぇんだよ!?」


俺は不安から竜也に怒鳴ってしまった。

竜也は本当に何も気づいてなかったようで、見開いた瞳が震えていた。

俺の服を掴んでいる手も震えている。


こいつ…本当に気づかなかったのか…?


俺はショックを受けている竜也の腕を掴むと立ち上がらせた。


「行くぞ。」


そうして俺は仕事中なのも忘れて、竜也と一緒に紗英の高校へ向かって走り出した。

この予感が外れているようにと願いながら…




***




俺たちが紗英の働く高校に着いたとき、ちょうど懐かしいチャイムの音が鳴った。

校門から学校を眺めていると、高校のときの事を思い出した。


グラウンドの横で紗英と笑いながら話した事…

野球に打ち込んで仲間と友情を深めたこと…

今も昨日の事のように身近に感じた。


竜也も同じなのか、じっと学校を見つめたまま黙っている。


俺はそんな竜也を先導するように校舎へ向かって歩き始めた。




校舎の入り口の横にあった事務室で紗英の名前を告げて、呼び出してもらうことにした。

授業中だったようで、放送は鳴らせないので事務の人が職員室まで呼びにいってくれるようだった。

紗英を待つ間、俺は竜也の様子を伺った。

竜也は少し俯いたまま顔をしかめて黙っている。


俺はさっき言いすぎただろうかと思った。


何で分からねぇなんて…

こいつに当たることなかったよな…


俺は真っ先に紗英の事を考えたから出てきた予感だったが、こいつは紗英のことを考える余裕もなかったって事だよな…?


そう思ってこれ以上気にしない事にした。



すると事務の人が戻ってきて、その後ろから紗英が姿を見せた。

紗英は一瞬驚いたように足を止めたが、笑顔を浮かべると俺たちに駆け寄ってきた。


「二人とも、どうしたの?」


俺はいつもと変わらない紗英に安心した。

紗英は俺と竜也を見た後、竜也を見て動きを止めた。

そしてふっと微笑むと、「こっち」と言って歩き出した。

俺たちはその背に続いて校舎を出る。


紗英が連れてきたのは中庭だった。

ベンチが並んでいて紗英はそこで立ち止まると、俺たちに振り返った。


「何か用があったんだよね?」

「あ…と、その…。」


俺はちらっと竜也を見てから、どう言おうか考えた。

紗英はじっと俺の顔を見つめてくる。


「俺たち…紗英の前で、変に取り乱したからさ…。心配してるんじゃないかと思って…その…。」

「うん。心配した。…でも、私のためにしてくれたんでしょ?」

「へ…?」


俺は紗英の言ってる意味がくみ取れなかった。

紗英は優しい笑顔のまま言った。


「吉田君に会ったんでしょ?」


これには俺は息が止まるかと思った。

予想があたったと思った。


すると、今まで黙っていた竜也が声を出した。


「な…何で、知ってるんだ…?」


竜也の震える声から竜也も相当驚いたことが分かった。

紗英は眉をひそめるともっと驚くことを告げた。


「私も会ったから。」


「なっ…!?紗英っ!?」


俺は紗英が会ったということに眩暈がしそうだった。

会っても普通にしている紗英が信じられない。

それは竜也も同じようで、目を見開いたまま固まっている。


「ごめん。お兄ちゃんに教えてもらったんだ。」

「恭輔さんに…?」


俺には散々話すなと言ってた本人が話した事に少し苛立った。

あの人…とんだシスコンだな…。


「二人が…私のために黙っててくれたのが分かって…。私も心配かけたくなくて黙ってた。ごめんね。」


紗英はへらっと俺たちを気遣うような笑顔を浮かべた。

俺は言葉が出てこなくて、ただ手を握りしめた。


「…でも、待ってて。いつか三人が中学のときみたいに話せるように…何とかするから。」


紗英は決意のこもった目で言った。

何とかする…?

紗英は何を言ってるんだ…?

俺が困惑していると、竜也が一歩前に出た。


「沼田さん。何とかするって…今、何をしてるんだ?」

「別に、友達になっただけだよ。」


「とっ…友達…!?」


俺は紗英が何の感情も示さずにそう答えた事が信じられなくて、足の力が抜けそうだった。

紗英が…竜聖と友達…?

昔の紗英から考えると信じられない。

紗英に何があったのか気になった。


「友達って…紗英はそれ…大丈夫なのか!?紗英が…紗英が一番あいつの帰りを待ってたのに…、あいつは…何か覚えてたのか!?」

「何も覚えてないよ。だから、過去を忘れて友達になることにしたの。」

「な…そんなの無理に決まってる!!」


俺が反論しようとしたら、竜也が先に食って掛かった。

紗英の肩を掴んで竜也は訴えた。


「あいつの事、一番待ってたのは沼田さんだろ!?その、今までの時間忘れて、あいつと新しい関係を作るなんて辛いだけだ!!いつか我慢できない日がくる!!」

「できるよ!!」

「できるわけない!!あいつを見ただろ!?あいつは昔のあいつじゃない!!傷つくことも平気でやる奴なんだ!!」

「でも吉田君だよ!!何も変わらない!」


竜也の訴えにも紗英は一歩も引く様子はない。

俺は二人の様子を見ながら、竜也の顔が苦しそうに歪んでいくのが見えた。


「あいつはもう吉田じゃない!!桐谷竜聖だ!!俺たちの知ってるあいつじゃない!!」


これにはさすがの紗英も口を噤んだ。

竜也を見る目が揺らいで、目に涙が溜まっていくのが見えた。

紗英は言いきって項垂れた竜也の腕を引き離すと、竜也から距離をとった。


「でも…好きなんだもん…。」


潤んでる紗英の目から涙が零れ落ちた。

竜也が驚いて顔を上げるのが見えた。

俺は紗英の気持ちに複雑な気分だった。


「会ったら…全部…巻き戻った…。好きだって気持ちだけが…胸に残った。今までの待ってた時間とか…全部どうでもよくなった。できることがあるなら…したいって…そう思った。」


紗英は手で涙を拭うと、まっすぐ気持ちを打ち明けてきた。


「昔と違ってもいい。私は、今の吉田君にできることがあると思ってる…だから友達になったの。」

「…っ…そんなん…好きだったら、尚更辛いだけじゃねぇのかよ…」


竜也が肩を震わせながら言った。

俺は竜也の気持ちを知ってるだけに胸が痛かった。


「いいの。辛くても…それは、吉田君が好きだって気持ちの裏返しの気持ちだから。受け入れるって決めたの。」


紗英の目には強い決意が漲っていた。

俺はその目に希望の光を見たような気になる。


「友達として傍にいて、吉田君を少しでも支えるよ。そして、いつか二人に…望んでた吉田君と会えるように…頑張ってみる。だから、今は待ってて。」


俺は紗英の決意を受け入れることにした。

紗英が自分で決めたことだ。

俺が口出ししたところで、きっと紗英は信念を曲げたりしないだろう。


「分かった。じゃあ、俺は紗英を支えるよ。辛くなったら、いつでも頼れよな。」

「…翔君。…ありがとう。」


紗英はもう涙の止まった目を細めて笑った。

すると竜也は諦めたように肩の力を抜くと、空を見上げて言った。


「あー…仕方ねぇなぁ。…そんなん言われたら、納得するしかねぇじゃん。」


竜也は俺にも顔が見えるように振り向くと、その顔は辛そうに歪んでいたが口元には笑顔を浮かべていた。


「俺は正直…今のあいつとは会いたくねぇ。でも、沼田さんを支えることはできる。だから、しんどくなったらいつでも頼れよな。その片思い…応援するからさ。」

「うん。ありがとう。頑張るよ。」


紗英は嬉しそうに微笑んだ。

竜也も笑っていたが、俺にはどうしても竜也の心の内を考えてしまって上手く笑えなかった。




それから紗英と別れて、俺たちは校門へ向かって歩いていた。

歩きながら竜也の心情が気になっていると、竜也がおもむろに切り出した。


「翔平。…俺、初めてお前の言ってた気持ちが分かったよ。」

「へ?」


俺が竜也の顔を覗き見ると、竜也は寂しげな顔で言った。


「…傍にいるだけでいいって話。俺も今そんな感じだ。」

「竜也…。」


俺は紗英を好きだった頃の気持ちを思い出して、顔をしかめた。


「情けない話、沼田さんから竜聖が好きだって言われる前は、俺のこと好きかもしれないとさえ思ってた。ホント、勘違いもいいとこだよな。」


俺だってそう思ってた。

紗英は心のどこかで竜也を好きだって…

でも、やっぱり竜聖の存在は紗英からは切って離せないのかもしれない…


「…でも、あいつがまた沼田さんを好きになるかは話が別だもんな。」


竜也の少し力のこもった言葉に俺は竜也の意志を読み取った。


「沼田さんがあいつの友達でいる間は、俺も沼田さんの友達であり続けるよ。」

「竜也…。お前…それでいいのか?」


俺はその苦しさが分かるだけに、竜也にはその道を選んでほしくなかった。

竜也は自嘲気味に笑うと俺を見た。


「お前が言うか。いいんだよ。今までと何も変わらないわけだしな。」

「そ…そっか。」


紗英も竜也も辛い道を選んでいく。

なら自分にできることは応援することだけだ。


「なら、俺はお前を応援するよ。辛くなったら、いつでも来い。」

「ははっ!急にえらそーだな!!」


竜也はいつもと同じ笑顔を浮かべて、俺の背を叩いた。


辛いはずなのに紗英も竜也も笑っていた。


自分にできることが何かないだろうか…?


俺はそれを考えながら、二人が笑顔を失くさないように願った。





それぞれの想いが入り混じってきました。

竜也の葛藤と決断にご注目いただければと思います。

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