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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-8初めて知る事実


山本君と出かけた次の日―――


私は山本君が昨日忘れていったネクタイを届けに、山本君のマンションにやって来た。

昨日家に帰ってきたら、洗濯機にネクタイが入っていて驚いた。

たぶん顔を洗うときに外したネクタイが、誤って洗濯機の中に入ってしまったのだろう。


何本も持っているとは思ったが、早く返した方がいいにこしたことはない。

私は山本君の家の前に立つとインターホンを押した。

でも出かけているようで、反応がない。

念のためもう一度インターホンを押して、出てこないのを確認すると、私はケータイを取り出した。

私からかけるのは久しぶりだったので少し緊張するが、呼び出し音を聞きながら出るのを待つ。

しばらく待っていたが、留守番電話サービスにつながってしまい、私は電話を切った。

ふぅと一息つくと、ポストが目に入って、私はここに入れておくことにした。

ネクタイを入れた袋をポストに入れようと試みる。

でも、入れてきた袋が大きかったためか中々入らない。


「う~…!!」


力を入れて押し込もうとするが、このままではポストが壊れそうだ。

私は仕方なく諦めることにすると、ネクタイの入った袋を抱えて体の向きを変えた。

そのとき、こっちに向かって歩いてくる山本君と翔君を見つけた。


「あ、山本君。翔君。」


二人は私の声に反応すると、ビクッと体を揺らして立ち止まった。

山本君は私を見つめた目を見開いた後、気まずそうに顔を逸らしてしまった。

翔君はその後ろで俯いている。

私は二人の様子が変なのに気づいて、ゆっくり駆け寄った。


そして近づくと、二人の目が赤くて顔には涙の痕があることに気づいた。

それに山本君は誰かに殴られたのか口の端を切っているようだった。


「ど…どうしたの…?」


私は自分が首を突っ込んでもいいのかと思いながらも、何とかそれだけを声に出した。

山本君はちらっと目だけで私を見ると、ぼそっと口に出した。


「別に…何でもないよ。…沼田さんこそ、何か用?」

「あ…うん。…昨日ネクタイ忘れていったみたいだから…届けにきたの…。」


私がネクタイの入った袋を差し出すと、山本君はそれを受け取って視線を落とした。


「悪いな。」

「ううん…。いいんだけど…。」


私は何があったのか知りたかった。

でも、二人の様子を見ていると私に知られたくない事がだというのは分かった。

私は今まで二人に心配ばかりかけてきた。

こういうときこそ、私が二人の役に立てるんじゃないかと思った。

私は嫌がられるのを覚悟して、二人に尋ねた。


「ねぇ、本当の事言って?何があったの?」

「何もないよ。」


山本君は目を逸らしたまま、私の声に重なるように言った。

私は隠されていることが嫌で、何とか聞き出したかった。


「何もないなんて、嘘でしょ?私、今まで心配ばっかりかけてきたから、こういうときこそ二人の力になりたい。」

「だから沼田さんには関係ない!!気に…しないでくれっ…。」


山本君は最後に泣きそうな声で告げると、私を押しのけて自分の部屋へ入っていってしまった。

私は残された翔君を見て、俯いたままの翔君に問いかけた。


「ねぇっ!翔君、隠さないで教えてよ!!」


翔君は一度潤んだ目で私を見たが、きつく目を閉じて顔をそらすと肩を震わせた。


「……っごめん!」


翔君は辛そうに顔を歪めたまま、山本君と同じように私を押しのけて山本君の家に入っていってしまった。

私はその背を見つめて、疑問ばかりが浮かんできた。

どうして何も打ち明けてくれないのか…その事がとても悲しかった。





***




私は二人から何も打ち明けてもらえずに、一週間が過ぎた。

高校で真面目に授業はしながらも、休み時間になる度に二人が隠す理由を考えていた。


私に知られたくない事って何だろう…?

それも二人があんなに取り乱すほどの事だ。

きっと、二人は何か大きなことを抱えている…

そんな気がしてならない。


それに、この一週間山本君からのメールが途絶えた。

前までは三日に一度くらいは送られてきていた。

どう考えてもこの間のことが尾をひいている気がする。


私が職員室で頭を抱えて悩んでいると、急に隣から平和な声が聞こえた。


「まーた、和花からかよ~。ったく、自分で何とかしろっつーの。」


私がちらっと横目で見ると、野上君がケータイを見ながら悪態をついていた。

私は体を起こすと、気分転換に声をかけた。


「彼女ですか?」


野上君はケータイを机の上に置くと、へらっと笑った。


「違う、違う。妹。一緒に住んでるんだけど、何でも相談してくんだよ。もういい大人なんだから、自分で何とかしろっつー話だよなぁ?」

「へぇ…妹さんいたんですね。てっきり弟タイプだと思ってました。」

「えぇ!?俺、どう見ても兄貴タイプでしょ!!頼りがいありますよねぇ、村井さん。」


急に話題をふられた村井さんが驚いている。

村井さんは私と野上君を交互に見てから、無難に「そうですね。」と言った。

いつも思うが、村井さんてなんか固い。


「っだろー?ほら、見ろ!!」

「はいはい。勝手に言っててください。」


私は野上君に絡まれそうになるのを回避すると、さっきの言葉が引っかかった。

お兄ちゃんに相談…?

私はこのときお兄ちゃんの顔がパッと浮かんだ。


そういえば何かあったら相談しろとか言ってたな…


私はケータイを取り出すと、早速お兄ちゃんにメールした。


「今夜、家に行くねっと…。」


私は短い文面で送ると、ほっと一息ついた。

お兄ちゃんにメールなんかいつぶりか分からなかったが、すぐに返事が来た。

まぁ…返事は素っ気ないもので『了解』だけだったけど…

後輩である翔君のことだから、お兄ちゃんなら何か会社で聞いているかもしれないもんね…

私には言えない事でも、意外と他人には話せてしまうものだ。

私はその希望にかけて、その日はもう悩むのはやめることにして授業の準備に集中した。





***




そして学校が終わって、お兄ちゃんのマンションの前でお兄ちゃんの帰りを待っていると、お兄ちゃんは走って帰ってきた。


「紗英!悪いな。遅くなった。」

「いいよ。急に来るって言ったの私だから。」


お兄ちゃんは大股でズンズンマンションの中に入ると、セキュリティ万全な自動ドアで鍵を差し込んでドアを開けるとエレベーターに乗り込んだ。

私は後に続きながらエレベーターに乗る。

そして5階に着くと、目の前の扉を開けて私を中へ促した。

私はお兄ちゃんの家に来るのは初めてだったので、お邪魔しまーすと一声かけて中に入った。

お兄ちゃんは実家と同じように部屋に入ると、歩きながら服を脱ぎ始めた。

我が兄ながら行儀が良くない。


「紗英、適当に座ってろ。」

「はいはい。」


私は座る前にキッチンに行くと、冷蔵庫を開けた。

中には缶ビールが備蓄されていて、私は顔をしかめた。

どういう生活してんの…?

冷蔵庫の中は缶ビールとおつまみしかない。

私は唯一あったお茶を取り出すと、コップに注いだ。


それを持ってソファに座ると、テーブルの上に散乱している雑誌を束ねた。

いかがわしい系の本はなくて、ホッとした。

するとお兄ちゃんがいつの間にかスウェットに着替えて、私の前に腰かけた。


「あれ?俺のお茶は?」

「自分で持ってきなよ。」


私がお茶に口を付けながら言うと、お兄ちゃんは「冷てー奴」と文句を言って立ち上がった。

長年離れて暮らしている妹に何を期待してるんだか…

私はじとっとお兄ちゃんの背を眺めた。

すると、冷蔵庫を開けたお兄ちゃんが口を開いた。


「それで?わざわざ来るってことは何か用があんだろ?」

「う…うーん…そうなんだけど…。」


いざ話すとなると勇気がいる。

これは翔君の傷にも触れることになるのだろうか…?

会社での翔君の立場が悪くなったりしないだろうか…?

兄に限ってないとは思いたいが、一応前置きしておくことにした。


「あのね、今から話すことは翔君は一切関係ないからね?私の問題だからね?」

「ん…んぁ?よく分かんねぇけど、要は翔平に追及すんなってことか?」

「そう。約束してね?」

「はいはい。で?何?」


お兄ちゃんはお茶を注ぐとまた私の前に腰かけた。

私はあの日の事を思い返して、言った。


「…翔君が私に隠し事してるんだけど…それが何か分からなくて…。泣く程のことだよ?お兄ちゃん…会社で翔君から何か聞いてない…?」


ストレートに尋ねるとお兄ちゃんの表情が変わった。

私はその様子を見逃さなかった。

お兄ちゃんはまずいという顔になると、視線を逸らして「何も知らねぇ。」と嘘をついた。

兄妹舐めないでよね!!隠しても、すぐ分かるんだから!!

私はお茶の入ったコップを置くと、お兄ちゃんの隣に座ってお兄ちゃんに掴みかかった。


「知ってるよね?」

「し…知らねぇ。」

「嘘ばっかり!!」


私はお兄ちゃんの服を持ったまま揺すった。

お兄ちゃんの体は重いので全然揺れなかったが、私はそのままお兄ちゃんにのしかかると声を張り上げた。


「お兄ちゃんの知ってる事、全部話して!!でないと絶交する!!」

「ぜっ…ちょ…紗英。それは大げさじゃないか?」

「それぐらいの一大事な気がするの!!私の大事な友達が…二人も…辛そうだった!!そんなの放っておけるわけないっ!!」

「二人?翔平以外にもいたのか…。あ、…あいつか。仲の良かったとか…。」


お兄ちゃんの山本君を知ってそうな口ぶりに確信した。

お兄ちゃんは二人のあの表情に何か関係してる。


「山本君の事も知ってるんだね!?話して!!今すぐ!!」

「いや…紗英。一回落ち着こう。な?」

「落ち着いてる場合じゃないの!!話して!!でないと、絶交だよ!?」


お兄ちゃんは何度も私を諭したが、私は折れる気はなかった。

気持ちが高ぶってきて、私は目が潤んだ。

それを見てか、お兄ちゃんは諦めたように大きくため息をついた。


「分かった。…俺も、最近の翔平の様子に責任感じてたからな…。話すよ。」


私はやっと聞けると安心してお兄ちゃんから離れた。


「でも、一つ約束しろ。我慢しないって…。泣きたかったら泣く。怒りたかったら怒れ。分かったか?」

「うん…?…分かった。」


お兄ちゃんの約束の意味は分からなかったけど、とりあえず同意した。

お兄ちゃんは話すことに緊張しているのか、ふっと息を吐くと真剣な目になった。


「まず、翔平が隠している事だが…それは、お前にも関係がある。」

「私?」

「あぁ。翔平は…お前に関係がある奴のところへ会いに行った。そして…要は拒絶されたわけだが…。」

「ちょ…ちょっと、ぼかさないでよ!私に関係のある奴って誰?」


お兄ちゃんは余程その名前を言いたくないのか、何度も瞬きしては口の渇きを抑えるためかお茶を飲んだ。


「そい…あぁ…。くそ…。いいか。聞いても驚くなって言っても無理か…。」

「もう!何なの!?はっきり言ってよ!」


煮え切らないお兄ちゃんにイライラしてきた。

お兄ちゃんは何度か咳払いすると「あーあー」とわざとらしく発声練習している。

そして、やっと覚悟が決まったのかまっすぐ私に目を合わせてきた。


「そいつは…吉田竜聖だ。」


お兄ちゃんから出た名前に、私は目を見張った。

吉田…って…

ど…どういう事…?

お兄ちゃんは私の反応を予想していたのか、辛そうに眉間に皺を寄せた。


「翔平は…そいつに会いに行ったんだ。でも、拒絶された。だから、落ち込んでるんだよ。」

「ちょ…ちょっと…待って…何で、吉田君が翔君を拒絶するの…?意味が分からない…。」


二人は友達だ。

会えて喜ぶのが普通じゃないだろうか…?

私は胸がズクンズクンと痛む。

お兄ちゃんはまた少し言いよどむと、衝撃の言葉を放った。


「拒絶したのには理由がある…。あいつは…記憶喪失になってたんだ。」



記憶喪失。


私は現実味のない言葉に目の前が真っ白になるようだった。







紗英がとうとう真実を知りました。

ここから紗英がどう動くのか見守ってあげてください。

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