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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
124/218

4ー6デート


さっきのは何だったのだろう?


微妙に気まずい空気が流れて、体の体温が2、3度上昇したような感じになった。

私は手に汗が滲んできたのが恥ずかしくて、思わず彼から逃げるように部屋に駆け込んだけど…

着替えを終えた今も、心臓は落ち着きを取り戻さない。

私は何度か深呼吸をしながら、またさっきの状況を思い出してしまい赤面する。


私ばっかり意識してバカみたいだ…


きっと女の子に慣れてる山本君にとったら何でもない事だろう。


私は表情をいつも通りに戻そうと頬を軽く叩いてから、山本君のいるリビングへの扉を開けた。


「ごめん、山本君。お待たせしましたー…って、あれ?」


私がリビングに目を向けると、山本君は床に横になって眠っていた。

余程疲れていたのか、少し鼻にかかった寝息が聞こえる。

私は彼に近寄ってしゃがむと、彼の顔の前で手を揺らしてみた。

何の反応もないので、熟睡しているのが分かる。

私は山本君の幸せそうな寝顔を見て、起こすのが躊躇われた。

仕方なくそのままにしておく事にして、私の部屋から毛布を持ってきて被せた。


「おやすみ。山本君。」


私は彼に小さく声をかけると、自分も寝るために洗面所へと向かった。





***





次の日の朝



私は部屋に差し込む朝日が眩しくて、目を覚ました。

鳥のさえずりが聞こえて、ゆっくり体を起こして目を擦った。

何時なのか確認すると、朝の七時過ぎだった。

休みなのでもう一眠りしようかと考えたが、とりあえず朝ごはんだけは食べようと思ってベッドから立ち上がった。

髪がぼさぼさに跳ねていて顔にかかってうっとおしかったが、手で払いのけながらリビングに続く扉を開けた。

すると目の前に山本君が寝転がっていて、思わず後ずさった。


そ…そうだ…。昨日、そのままにしてたんだ…


私は初めて自分から男の子と一晩過ごしたということに、少し赤面した。

以前不可抗力で山本君と一晩過ごしたことはあったが、自分から泊めたのは初めての事で何だか恥ずかしい。

何もなかったとはいえ…私にしては大胆な事をしたと思う。

よほど寝ていなかったのか、山本君は起きる気配がない。

昨日と同じ態勢に一度も起きていないのが分かる。


起こすべきか悩んだがこのまま寝ていられても邪魔なので、とりあえず起こすことに決める。


「山本君。朝だよ。山本君。」


私は山本君の頬をペシペシと叩いて起こしにかかる。

何度かそうして声をかけていると、熟睡していた山本君の顔が歪んだ。

「う~…」と唸り声が聞こえる。


「山本君!朝だってば!!」


少し声を大きくすると、山本君の体が動いた。

やっと起きたようだ。


「んむぅ…あと…ちょっとだけ…。」


彼の眠たそうなその呟きに、私は彼の方へ身をのりだすと肩を揺すった。


「ちょっとじゃないよ!起きてってば!!」


起きて欲しいそれだけで必死に声をかけたのだが、山本君は私の声を遮るように動くと、私の腰のあたりに手を伸ばしてきた。

急にお腹に手を回されて抱き枕のように引き寄せられて、私は彼の上に倒れた。


「うっわ!!えっ!?」


私はなんとか肘をついて床に顔をぶつけるのを免れたが、私のちょうど胸の辺りに山本君の顔があって、触れないように必死に逃れようと試みる。

すっごい力…

山本君は私の腰に手を回したまま眠っているのだが、私が離れようと力を入れてもビクとも動かない。

だんだん肘がプルプルと震えてくる。

このまま倒れるなんて絶対ダメ!!

私寝起きでノーブラなんだからぁ~…!!

心の中で悲鳴を上げながら、私は山本君を起こすために声を張り上げた。


「山本君っ!!朝だよ!離してってばっ!!」


さすがに山本君の耳に届いたのか、腰に回っていた腕の力が緩んだ。

起きたと思ってホッとしたとき、今度は思いっきり突き飛ばされた。


「おわぁっ!?」


「ぅえっ!?――――あつっ!!」


私は突き飛ばされて後ろにあったタンスに頭をぶつけた。

頭に衝撃が走って痛みに目を瞑った。

じわと涙が出そうになるのを堪える。

この痛みで眠気吹っ飛んだよ…

ぶつけた所を手でさすって目を開けると、山本君が顔面蒼白でこっちに近づいてきた。


「わっ!悪い!!大丈夫か!?」

「いったいよ…。山本君、寝ぼけすぎ…。」


私が半笑いで言うと、山本君は余程自分のしたことに後悔しているのか、青い顔のまま土下座した。


「寝ぼけてたとはいえ、とんでもない事を…っ…本当に悪い!!俺の事…気の済むまで殴ってくれ!!」


私は彼の必死な姿に笑いが漏れた。

お腹を押さえて笑い声を上げる。


「あははっ!…そんな必死に…っふふ!…殴るなんてできないよ…あははっ!」

「っで…でも、そうしてくれないと俺の気が済まない!!何発でも受け止めるから、殴ってくれ!!」


山本君が真剣な顔で懇願するので、私は笑いを収めると、彼の目の前に近づいた。

そしてじっと彼の目を見てから、「じゃあ、遠慮なく。」と言って手を振り上げた。

それを見た山本君が目を瞑ったのを見て、私は振り上げた手で彼の頬をつねった。

もう片方の手でも同じようにつねる。


「っふふっ…!」


彼の面白い顔に笑うと、山本君は目を開けてから何度も瞬いた。

殴られなかったのが不思議なようだった。

私は彼の頬から手を離すと告げた。


「これでチャラね。っさ!朝ごはんにしよう。」


膝を一度叩いてから立ち上がると、山本君が焦ったように口を開いた。


「お…怒ってないのか…!?」


見下ろした彼の顔が不安そうに歪められていて、私は安心させるように笑顔を作った。


「怒ってないよ。だって、寝ぼけてたんでしょ?そんなの責めたって仕方ないしね。」


山本君は私の答えを聞いても納得できていないのか、不安そうな顔のままその顔を下げた。

私はそんな風に落ち込まないでほしかったので、彼の腕をとると立ち上がらせた。


「いいんだってば。気にしない、気にしない!!ほら、笑って?」


私が彼の腕をトンと叩くと、山本君はやっと遠慮がちに笑った。

やっぱり山本君には笑っててほしいよ。

心の中でそう思うと、私は彼に背を向けて洗面所に向かった。

すると後ろから声がかかった。


「今日っ!時間あるよな!?」

「え…?」


山本君が手を握りしめてまっすぐ私を見つめていた。

私はその姿を見て、思わず頷く。

すると彼は嬉しそうに笑って言った。


「じゃあ、一緒に東京見物しよう!今日一日、二人で!」

「……それって…。」


デート…ってこと…?

心の中でそう思うと、ドクンと心臓が跳ねた。


「いいよな!?」

「…う…うん。」


私は何とか返事絞り出すと、顔を前に戻した。

その途端顔が熱くなってきて息が止まる。

私は自然とにやけそうになるのを抑え込みながら、洗面所に行くと止まっていた息を吐き出した。

ど…どうしよう…嬉しいけど…いつもの自分でいられるだろうか…?

私は鏡に映る赤い顔の自分を見て、気持ちを落ち着けようと顔を洗った。





***




そして朝ごはんと身支度を整えた私たちは、街へと繰り出した。

山本君はスーツ姿のままだったので、途中メンズ服のお店で私服を調達した。

私は入ったことのない男の人のお店にドキドキしっぱなしだった。

お店を見回すと、私のような女の子が彼氏と一緒にいる姿が目にはいった。

その幸せそうなカップルを見て、少し羨ましくなる。

私は椅子に座って足をぶらつかせながら山本君が試着室から出てくるのを待っていると、女性店員さんに話しかけられた。


「彼氏さん、カッコよくて羨ましいですね。」

「へっ!?」


ニコニコと営業スマイルを浮かべた女性店員さんは、それだけ言うとレジの方へ行ってしまった。

私はカップルと間違えられた事に恥ずかしくなりながらも、そういう風に見える事に嬉しくなった。

思わず蒸気した顔を冷やすために手で顔を仰ぐ。

すると着替えを終えたのか山本君が試着室から出てきた。


「お待たせ。」


山本君はジーンズに長袖シャツとラフな格好だったが、スーツとはまた違ったカッコよさが漂っていた。

さっきの店員さんの言葉を思い出して、自然と視線を逸らす。


「じゃあ、行こっか。」


山本君は私のそんな様子にも気づいてないのか、先導して歩き出したので、私は慌てて後を追いかけて並んだ。


何だか昨日から自分だけ意識しまくってる…

ダメダメ!!考えるな!!

山本君は友達!!そう友達だから!!


私は緩みそうになる顔に気合を入れるため、眉間に皺を寄せた。

すると急に横で笑い声が聞こえた。


「っぶふっ!!何、百面相してんの?」

「へっ!?…あーあはは…ちょっと考え事してて…。」


全部見られてたのかと思うと恥ずかしい。

山本君は私の心までは見透かしてないようだったけど、このままだとバレるのも時間の問題な気がする。

いつも通りを今日の合言葉にすると、逸る鼓動を抑えるために細く息を吐いた。



それから私たちは人通りの多い通りを歩きながら、ウィンドウショッピングを楽しんで、お昼過ぎに傍にあったカフェに入った。

パンケーキが美味しいらしくて、周りの人も皆食べていたので、私たちはそれを注文した。

水の入ったグラスを手に持つと、山本君の視線を感じて手を止めた。


「何?」

「いや…。なんかこういうのいいな…と思ってさ。」


山本君は私から視線を外すと水を一口飲んだ。

私もそれに倣って一口飲む。


「すごく普通なんだけどさ、和むっていうか…。そういう何気ない日ってのが一番幸せなのかもなと…思って…。」


普通が一番幸せ…か…

私は確かにそうかもしれないと感じた。

こうして山本君がいて、隣で笑ってられるっていうのが一番穏やかな時間だ。

その時間を手放してはいけないような…そんな気になった私は、鞄からケータイを取り出した。

カメラを立ち上げて、山本君に向ける。


「幸せの瞬間。収めとかないとね。」


そう告げて笑うと、山本君はしょうがないなぁみたいな笑顔になって逃さずシャッターを押した。

画面に自然な笑顔で映っていて、嬉しくなった。

すると『カシャ』と音がして、自分も撮られた事に気づいて顔を上げた。

山本君がケータイを私に向けて、したり顔でニヤッと笑っている。


「撮るなら撮るって言ってよ!変な顔してない?」

「お互い様だろ?文句言いっこなしだって。」


確かにそうなので言い返せない。

私はムスッと膨れると、また『カシャ』と音がして目を向けた。


「また撮った!!」

「いいじゃん。減るもんじゃねぇし。」


そう言われると対抗したくなるのが私だ。

私もケータイを構えると、山本君に向けて写真を撮りまくった。

山本君も撮り返してくる。

そうして遊んでいると、店員さんがパンケーキを運んできて私たちの写真戦争は幕を閉じた。


運ばれてきたパンケーキは私の物がベリー系でホイップクリームの白色とのコントラストが可愛い。

山本君はバナナとチョコレートシロップにホイップクリームで、すごく美味しそうだった。

私はフォークを手に持つと、いただきますと言ってから一口食べた。


「うぅんん…おいしーい!!」


ベリーの酸っぱさとクリームの甘さがベストマッチだった。

山本君は大きな口で食べながら「うまい」と言っている。

ペースが速いのであっという間になくなりそうだ。

私は口の中のものを食べ終えると、山本君にお願いした。


「ねぇ、一口くれない?」

「うん…?いいけど。じゃあ…そっちくれよ。」

「うん。いいよ。」


私は山本君のお皿から一口いただくと、バナナが落ちそうになって慌てて口に入れた。


「うぅ~ん!こっちも美味しいっ!ありがとー!」


私が両方の味を楽しめた事に満足していると、また『カシャ』と音がして写真を撮られた。

私はじとっと山本君を見つめると、山本君は悪戯っ子のように笑っている。

腹立つ…もう終わったと思ってたのに…

まともに相手にすると疲れそうなので、腹いせに山本君のお皿からもう一口奪った。


「あっ!一口だって言っただろー!?」

「っふふ!写真撮ったお返しだよ。」


山本君は顔をしかめて抗議しているが、知った事じゃない。

私は山本君に一泡吹かせた事に達成感を感じた。


「ったく…しょうがねぇなぁ…。」


山本君は諦めたのか私のお皿から一口食べたあと、「うまっ!」と言ってから自分のお皿を平らげた。

私はそんな山本君を見ながら自分の分を食べ進めていると、誰かが私たちのテーブルにやってきた。


「あ!やっぱり、竜也じゃねえか!」

「うわ!先輩!!」


ハンチングを被ってメガネをかけた男の人を見ると、山本君は焦って立ち上がった。

私はその様子を見つめながら、男の人の隣にいた女の子に気づいた。

白い肌に血色の良い頬にプルンとした唇、女の私でもドキッとするぐらいの綺麗な女の子だった。

ふわふわの茶色の巻き髪が少し涼華ちゃんみたいだった。

その子は私をちらっと見た後、すぐに山本君に視線を戻した。


「奇遇だね。山本君。」

「あ、城田さん。先輩と一緒だったんだ。」

「うん。」

「ははっ!!昨日勝手に帰りやがって!ざまーみろ!!」


私は三人の関係が良く分からなくて、パンケーキを食べているしかできなかった。

そうしていると『先輩』と呼ばれた人が私に気づいた。

私をじっと見たあと、山本君を見て私を指さしてくる。


「お前…彼女いたのか?」

「えーっと…まぁ、そのようなもんです。」


てっきり違うと言うと思っていた私は、山本君の返答に食べていたパンケーキが喉につまった。

息苦しさの中、水を手に取って喉に流し込む。

なんとか落ち着いた私は、山本君を凝視した。

彼は飄々とした態度で先輩に尋ね返している。


「そっちはデートですか?」

「うん?はははっ!まぁな!!嫉妬すんじゃねぇぞ~?」

「しませんよ。」

「相変わらずハッキリした奴だな~。それじゃ、邪魔して悪かったな。彼女さんもごめんね。」


先輩に誤解を与えたまま、二人は並んで行ってしまった。

私はふうとため息をついて座った山本君を見て、追及した。


「ねぇ…彼女のようなもんって何?」


山本君は視線だけ私に向けると、頭を掻いて言った。


「先輩の前だからそう言っただけだよ。合コンとか誘ってきてさ…迷惑してたんだよ。だから彼女がいるって思わせとけば、何も言われなくなるかなって思ってさ。悪いな。」

「…そ…そっか。…分かった。」


「ん。」と言って俯いた山本君を見て、私は少しがっかりしていた。

こんな事、思う資格もないんだけど…でも…

ただの仮の彼女役だという事が…悲しかった。


私は自分が思っているよりも、山本君の彼女になりたいと思っていた事実に複雑な気持ちだった。







ほっこりする話でした。

次からまた竜聖が出てきます。

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