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勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
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4-4会いたかったあいつ


恭輔さんから竜聖の居場所を聞いてから三日後。

俺は恭輔さんの助けも借りて会社で半休をもらうと、竜聖の働くスポーツ用品の店舗へ足を運んでいた。

ライバル会社の社員だとバレないようにしろとの事だったので、私服姿で店舗に足を踏み入れる。

自動ドアが開くと店員の「いらっしゃいませー」の声を聞いて、店内を見回した。

平日の午前だったので人の数も少なく、俺は怪しまれないように商品を探すフリをしながら竜聖の姿を探す。


どこだ…?


俺は商品を触りながら左右に視線を彷徨わす。

レジにはいない。商品出しにもいないようだ。

ってことは裏にいることもあるか…?

裏だったら、誰かに聞くしかないなと思い始めたとき、レジに見覚えのある男がやって来た。

スポーツ用品店なので服装はスポーティでラフな格好だったが、首から社員証を下げていて店員だという事が分かった。

手にファイルを持っていてレジの店員に何か指示している。

俺は近づいて顔を見ようと思い、じわじわと足を進める。

そのとき横から声をかけられ、俺は心臓が縮んだ。


「お客様。何かお探しですか?」

「おわぁっ!!?」


思わず大声を出してしまい、俺は手で口を押えて固まった。

話しかけた女性店員は目を見開いて俺と同じように固まっている。

俺に店中の視線が集まっているのを感じて、俺は途端に恥ずかしくなってきた。


「いや、その…っ!」

「お客様、何か不手際がございましたか?」


俺が慌てて言い訳を考えていると、レジにいたその男が駆け寄ってきた。

その顔を見て、俺は心臓がドクンと跳ねた。

目の前にいたそいつは竜聖だった。

髪は短くなっていて、ピアスなんて洒落たものをつけていたが、顔つきだけは昔と変わらない。

俺に向けられてくる人懐っこい笑顔もそのままだった。

俺が目の前の竜聖の姿を凝視して固まっていると、竜聖は女性店員に「ここはいいから。」と指示を出して彼女を仕事に戻らせていた。

そして竜聖は俺の顔を見て首を傾げた。


「お客様?大丈夫ですか?」


俺は話しかけられてハッと我に返ると、何て言おうか考えながら口を開いた。


「その、俺…客じゃなくて…。その…きっ…桐谷竜聖に会いに来ました。」

「はい…?…あの、桐谷は私ですが…?えっと…」


竜聖は本当に俺の事を覚えていないようで、困惑顔で俺を見つめてくる。

俺はその顔に少しショックを受けながらも用件を伝えた。


「俺…竜聖の中学の同級生だよ。本郷翔平。高校のときにいなくなったお前に会いに来たんだ。」


竜聖の目をまっすぐ見つめて告げる。

竜聖はみるみる表情を曇らせると、さっきの下手な態度から一変した。


「会いに来たって…どういう用件ですか?」


営業スマイルを失くした竜聖は冷たい目で言い放った。

俺はその冷たい態度に心が震える。

こいつは…誰だ…?

俺はそんな疑問が頭を過った。


「どういう用件って…分かるだろ!?急にいなくなったお前をやっと見つけたんだ!!何で帰って来なくなったのかとか…色々知りたい事があるんだよ!!」

「知りたい事…?あんたの知りたいことなんて、俺が話す義理があるのかよ?」

「なっ…!?仮にも中学を一緒に過ごした友人にその言い方は何だよ!!お前がいなくなって、どれだけ心配したか分かってんのか!?何かあったんじゃないかって…不安で…この5年、お前の存在がずっと頭に引っ掛かってたんだよ!!知りたいと思うのは当然だろ!?」


俺は声を張り上げて訴えた。

竜聖は迷惑そうに顔をしかめると、頭を掻いた。


「それはそっちの都合だろ?…俺は、何も覚えてないし。今更思い出すつもりもない。あんたとは無関係な人間だ。忘れてくれ。」


一方的な言い分に俺はカチンときた。


「ふっざけんなよ!!記憶喪失だか知らないけどな!!そっちは簡単に切り捨ててても、こっちにはお前の事を忘れられない奴がたくさんいるんだよ!!」

「……記憶喪失の話、知ってるんだ。」


竜聖の温度のない声に、俺はハッ口を閉じた。

竜聖は目を細めると、俺を上から下まで品定めするかのように見て笑った。


「なら、俺の気持ち分かるだろ?いまさら思い出せない人間に来られても迷惑なんだよ。俺は過去の人間と関わるつもりはないし、何も話す気はない。帰ってくれ。」

「ちょ…ちょっと待てよ!!」


俺に背を向けようとする竜聖を思わず引き留めた。


「過去の人間って…それ、お前の本心なのか?」


俺は竜聖の心にすがりつく思いだった。

竜聖は寂しい光を宿した目を細めると、口元を歪ませた。


「本心に決まってるだろ。…もう、来ないでくれ。」


俺は竜聖のそう言った表情が瞼にこべりついた。

竜聖は俺を気にすることもなく、店員に声をかけると店の裏へ戻っていってしまった。

俺はそのまま立ち尽くして、言われた言葉がグルグルと脳裏を駆け巡っていた。

あんな事を言われてショックだった。

悲しかったはずなのに、不思議と涙は出なかった。


俺は悔しい気持ちを歯を食いしばって堪えると、竜聖の店を後にした。





***





俺が会社に着いたのは、丁度昼休みの頃だった。

トイレでスーツに着替えてから、営業部に向かう。

俺は向かう足取りが重く、歩きながら何度もため息をついた。


昔のあいつだと期待するなと言われていた意味をやっと理解した。


確かにあいつは昔のあいつじゃなかった。

あいつのあんなに冷たくて鋭い目は初めて見た。

俺に向けられた敵意も初めての事だった。


俺はポケットから竜聖の名刺を取り出すと、これを竜也に伝えるべきか悩んだ。

竜也なら…あいつを何とかできるんじゃないか…?

高校の竜聖を一番近くで見てきたのは竜也だ。

竜也なら今の竜聖を変えてくれる…そんな期待を向けてしまう。

でも、紗英の姿がちらついて頭を振った。

俺は竜聖のことを抜きに二人には幸せになってもらいたかった。

でも…隠していた事が竜也にバレたら…

俺はボクシングで培った竜也の拳を思い出して、背筋が震えた。


「おい、翔平。考え事してるとぶつかるぞ。」


後ろから声をかけられて振り返ると、そこには恭輔さんがニヤッと笑って歩いていた。

恭輔さんは俺の隣に並ぶと、俺の肩に手を置いて言った。


「今日、行ってきたんだろ?どうだった?」


恭輔さんの真剣な目に気にしてくれていたのが分かった。

俺は前を向くと、正直に答えた。


「恭輔さんの言う通りでした。俺たちは過去の人間だそうです。思いっきり拒絶されました。」

「そうか…。やっぱり、ダメだったか…。」


恭輔さんは残念そうに目を伏せると俺から手を離した。

俺は恭輔さんと同じように肩を落とした。

やっぱり…か…

もう、竜也に頼むしかないのかもな…

俺はもう一度名刺を見ると、ため息をついた。


「恭輔さん。俺、竜聖の事…一番良く知ってる友人に頼んでみます。」

「おぉ…そんな奴がいんのか?」

「はい。中、高と一緒だった奴なんで…俺よりはあいつに言える事があるかもしれないです。まぁ、最後の賭けみたいな感じですけど…。」

「いいよ。最後の賭けでも。何か成果があったら教えてくれるか?紗英が東京にいるだけに、いつか会っちまうんじゃないかって不安でよ…。なるべく早く頼むな。」


恭輔さんが俺に情報を言ってきたのは、そういう理由があったからかと納得した。

確かに東京にいる以上、地元よりは竜聖に遭遇する可能性は高い。

恭輔さんは本当に紗英の事だけを考えていて、その過保護っぷりに胸が熱くなる。

俺はしっかり頷くと言った。


「一番に報告します。待っててください。」

「ありがとな。」


恭輔さんはお兄さんの顔で微笑むと先に歩いて行ってしまった。

俺はその背を見送ると、ケータイを取り出して竜也に電話をかけた。

ちょうど昼休みだったのもあってか、竜也はすぐに電話に出た。


『もしもし?翔平?』

「おう。久しぶりだな。」

『あぁ、卒業式以来だな。何か用か?』


俺はまだ言うのを躊躇ったが、とりあえず会う約束だけでもしようと息を吸いこんだ。


「今週の日曜。時間あるか?」

『ん?あぁ。大丈夫だと思うけど。どうした?』


竜也は俺の変な様子に気づいているのか、心配してくれているようだった。

俺は電話では説明しきれそうになかったので、用件はぼかした。


「うん。それは日曜に言うよ。じゃあ、日曜。お前の家に行くから、空けといてくれよな。」

『分かったよ。家の場所はまたメールしておくな。』

「おう。よろしく。それじゃあな。」

『あぁ。またな』


竜也は怪しんでいるようだったが、今は納得してくれたようだった。

俺はそんな竜也に今言えないことが心苦しかったが、電話を切るとこれで良かったと自分に言い聞かせた。

そして俺は日曜にどう竜也に伝えるか、頭の中で考えながら仕事場へと足を進めた。







久しぶりに竜聖が登場しました。

今後、彼は何度も登場してきます。見守ってあげてください。

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