表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違い系○○  作者: 流音
第四章:社会人
119/218

4-1先生スタート


私は東京に越してきて、一週間が過ぎた。

私は、今日初めて職場に登校する。


なるべく落ち着いた先生っぽい服を着て、私は緊張した面持ちで家を出た。

満員電車に揺られながら、新美浜高等学校へと向かう。

私は駅についたときにはすでに疲れ果てていた。

こんな毎日が続くのかと思うと少し憂鬱になる。


私は時間を確認しようとケータイを取り出すと、メールが届いていた。

確認すると差出人は山本君だった。

内容は『今日初日だろ?頑張れよ。』とだけ打たれていた。

私はその短い文面に力を分けてもらうようだった。

『頑張るよ。そっちも頑張って。』と返信すると、鞄にケータイをしまった。



そして時間を見ると、集合時間が近づいていて慌てて早足で駅を出た。



朝練する生徒たちを横目に校門をくぐると、懐かしい雰囲気に感動した。

懐かしい…高校時代に戻ったみたい…

私は胸を弾ませながら、校舎に向かって足を進めた。


そして私は高校の職員室の前で緊張した息を整えて、扉をノックした。

「失礼します」と震える声を抑えながら、扉を開けた。

中にはたくさんの先生方にたくさんの机、そして来客用のソファーには私と同年代ぐらいの女の子が座っていた。

白髪交じりの年輩の男の先生が近づいてきて、かけているメガネを押し上げて訊いてきた。


「新しい先生ですか?」

「あ、はい!今日からお世話になります。音楽科担当の沼田紗英です!!よろしくお願いします!!」


私は職員室の先生方に聞こえるように大きめの声で挨拶した。

目の前にいた白髪交じりの先生は驚いたように目を見開くと、柔和な笑顔で言った。


「三年の学年主任で数学教師の早房潔といいます。沼田先生はこちらでお待ちください。」


私はしっかり頭を下げた後、手で示されたソファーまで歩いて行き、先に座っていた女の子の斜め向かいに腰かけた。

私は顔だけでその子に会釈すると、ちらっと職員室内の様子を伺った。

学年主任の先生と同年代ぐらいの先生方が大半で、中堅ぐらいの先生がと若い先生が半々といった感じだった。

みなさん机に向かって書き物をしていたり、本を広げていたりと様々だった。


私は目の前の女の子に視線を戻すと、微妙な沈黙に息がつまってきた。

目の前の女の子は私と同じで緊張しているのか、少し俯いたままピクリとも動かない。

話でもして仲良くなろうかと思ったとき、スピーカーからチャイムの音が鳴り響いた。

それを合図に職員室の扉が開くと、ずんぐりむっくりの背の低いメガネの先生が入ってきた。

年齢は50代ぐらいで髪が不自然なほどにふさふさしており、カツラだと分かった。

その先生は私たちを一瞥すると、にやっと気持ちの悪い笑顔を見せた。


「新しい先生たちですね。私は教頭の袴田治三郎といいます。」


教頭先生と聞き、私はすぐに席を立って頭を下げた。


「初めまして!沼田紗英と申します!!よろしくお願いいたします!」

「村井理恵子です。よろしくお願いします。」


私の後にあの女の子も自己紹介していた。

教頭先生は満足そうに頷くと、私たちを手招きしてから部屋の中の先生たちに向かって口を開いた。


「今日から一緒に働いてくれる若い先生達です。皆さん、色々と助言をしてあげてください。」


教頭先生の言葉に先生たちが頷いているのが見える。

私と村井さんは教頭先生の横に並んで立っていると、教頭先生から自己紹介を促されたので、私から一歩前に出ると一度咳払いしてから言った。


「音楽科を担当させていただきます。沼田紗英です。西城大学の音楽科に在籍していました。

今日は初出勤ですごく緊張していますが、先輩の先生方を見習って少しずつ慣れていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします!!」


私が頭を下げるとたくさんの拍手が贈られて、私は受け入れてもらえた事が嬉しくなって顔が緩んだ。

私が緩む顔を抑えて一歩下がると、隣にいた村井さんが大きく息を吸い込んで自己紹介し始めた。


「国語科を担当させていただきます。村井理恵子といいます。私は小さい頃から教師になるのが夢で、こうして今日、教師としてスタートできて感激しています。まだ右も左も分からない新人ですが、どうぞご指導よろしくお願いいたします。」


しっかりとした挨拶に私は思わず手が勝手に拍手した。

さっきまで緊張していた姿が嘘のようだ。

頭を上げた村井さんは言葉通り感激しているようで、目がキラキラと輝いて見えた。

拍手が鳴りやんだあと、教頭先生が大きく咳払いをして私たちを見て首を傾げた。


「えっと…確かもう一人新しい先生が来るはずですが…おられませんえねぇ…」


教頭先生の言葉に職員室がザワッと騒がしくなる。

私は村井さんと顔を見合わせると、初日から遅刻なんてすごい度胸の持ち主がいたもんだと感心した。


「まぁ…いいでしょう。それじゃあ、朝の会議を始めますね。沼田先生、村井先生の机はあそこになります。」


私は手で示された職員室の端の方の机に移動した。

村井さんは私の机の向かいだった。

机に座ってみると、机の並びが年功序列っぽく並んでいるのに気付いた。

教頭先生の机から一番遠い机が私たちの机。

そして若い先生から順に年齢が上になっていく。

私は隣の机が空いているのを見て、遅刻の人は私の隣なのかと思った。

そしてマシな人でありますようにと祈る。


そして、会議も終わり始業式に向かうという頃、職員室の扉が豪快に開け放たれた。

私を含め先生方の目が扉に注目する。

そこには大きく息を吐いている男の人が立っていた。


「すみません!!緊張しすぎて眠れなくて、寝坊しました!!」


長めの黒髪を後ろでまとめており、ずり下がったメガネをかけている真面目そうなその人は九十度に頭を下げた。

突然の登場に面食らった教頭先生は「こ…これから始業式だ。準備しなさい。」とだけ言うと、その人の肩を叩いて職員室を出ていった。

その人はその言葉に安心したのか、弾かれた様に頭を上げると職員室の中に入ってきてまた頭を下げた。


「野上颯太です!!よろしくお願いしまっす!!」


野上君の必死な様子に先生方から渇いた笑いとパラパラとした拍手が起こる。

その反応を見て、野上君は子供みたいに笑ってペコペコと頭を下げながらこっちに向かって歩いてきた。

私はその様子を唖然として見つめるしかなかった。

なんか…すごい人だな…

その人は私の視線に気づくと目を輝かせながら私に近寄ると、私の手をとってブンブンと振り回して握手してきた。


「君、もしかして俺と同じ新人!?俺、野上颯太!!よろしく!!」

「……沼田紗英です…。よろしくお願いします。」


迫力に押されて思わず名乗る。

野上君はやっと手を放してくれると、今度は村井さんに向かって手を差し出した。


「君もだよね!!よろしく!」


村井さんは驚いた表情のまま手を差し出すと「村井理恵子です。」と名前だけ言っていた。

そして野上君は満足そうに笑った後、私の横の机に荷物を置いて身だしなみを整え始めた。


「もう寝坊するなんて最悪だよ!最初はきっちり決めようと思ってたのに台無し!

あー…生徒からバカにされませんように…。」


独り言のようにブツブツ唱える野上君を見て、私は何か答えた方がいいのだろうかと思ったが、先輩の先生たちが次々と職員室を出ていってしまうので、慌ててそのあとを追いかけることにした。

私と同じように村井さんも慌てて職員室を出る。

私は村井さんに並んで歩くと、思い切って話しかけてみた。


「村井さん。今日からよろしく。」


村井さんは最初と違って緊張も解けたようで、私を見ると嬉しそうに笑った。


「こちらこそ。これから仲良くしてね。」


村井さんは髪をかき上げると、私に手を差し出してきた。

私はその手を握ると頷いて笑った。

するとそこへ割り込むように野上君がやってきた。


「俺も仲間に入れてよ!!男は俺だけで寂しいんだからさ!」


握手している手に野上君も手を重ねてきた。

私は村井さんと目を合わせると、プッと噴出した。

野上君てすごく自分勝手な人みたいだけど、憎めないっていうか人を丸くさせる力があるような気がする。

教頭先生が怒らなかったのも、そういう力な気がした。


私は体育館へ向かいながら、同期三人で仲良くなれそうだと安心した。






社会人編スタートです。

新しい登場人物もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ