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勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
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3-35結婚式


三月―――――


春の陽気に包まれた和やかな雰囲気の中、麻友の結婚式が執り行われた。

私はウエディングドレス姿の麻友を見て何度もウルウルしていた。

幸せそうに笑っている麻友は本当に綺麗だった。

服部先生もそんな麻友に見とれているようだった。


本当にお似合いな二人を心から祝福した。


私は挙式が終わって、披露宴が近づくにつれ心臓が嫌な音を立ててきた。

スピーチの時間が近づいてるからだ。

私は緊張で喉が渇いてきて、待っている間にシャンパンを何杯も飲んでしまった。

体や頬が熱をもち始めて、さすがに飲むのをやめたが緊張は全くなくなってくれない。

そんな私の横に同じように緊張した翔君が寄ってきた。


「紗英。飲み過ぎじゃないのか?」

「分かってるよ。…でも、緊張で止まらなくって…。」

「ま、気持ちは分かるけどさ。」


翔君はそわそわと体を動かしながら、テーブルにあったシャンパンに口をつけた。

二人揃ってこんな有様じゃ、スピーチがどうなるか怖いものだ…。

私は持っていたバッグからスピーチ用の封筒に入った便箋を取り出すと目を通した。


「……麻友とは小学校からの付き合いで………辛いときも楽しいときも………」


噛まないように気を付けながら、最終確認でぶつぶつと唱える。

それを見ていた翔君が急に噴出した。


「ちょっ!急に横でぶつぶつ言うのやめてくれよ!!すごい緊張してきた!」

「うるさいな!!自分が勝手に寄ってきたんでしょ!

もうっ!今のでどこまで読んだか分からなくなった!!」


私は翔君を怒ってから、便箋に目を戻してどこまで読んだか確認する。

すると今度は横から誰かがやってきて話しかけてきた。


「いつも仲がいいな~お二人さん。」


私が顔を上げると、そこには翔君のチームメイトである圭祐君と小野君が並んで立っていた。


「大地!久しぶりだなー!!」


翔君は小野君に近寄ると肩を叩いた。

小野君は照れ臭そうに後ろ頭を掻くと言った。


「挙式には間に合わなかったけど、披露宴に間に合ってよかったよ。」

「お前何で遅れたんだよ?」

「俺、四月から大阪で仕事するんだ。だから、もう大阪に住んでるんだけど駅で迷ってさ。遅れたってわけ。」


小野君は大学は私たちと違うところに通っていた。

何でも専攻したい学部が違う大学にあるらしく受験したらしい。

私は翔君に聞いただけなので詳しくは知らないが、

この様子だと翔君たちは小野君に会うのは高校卒業以来のようだ。

小野君が呼ばれているということは、高校のときのチームメイトは皆呼ばれているのかもしれない。

私は周りを見回して体格の良い男の子たちが多いのに気付いた。


さすが…野球やってた人が多いだけあるな…


私はスーツを着ていても分かるガッシリとした体格の人達を見て、感心した。

私…前に山本君の体を見たときも思ったけど、筋肉のついてる人って結構好きかも。

自然と山本君の姿を思い出していて、途端に恥ずかしくなってきた。


最近では吉田君より山本君の姿を思い返す事の方が多くなっていた。


これって…もう結構…山本君の事、好きってことだよね…?


自分の気持ちに自信がない間は気持ちを胸に押し隠してきた。

でも、今なら少し自信が出てきていた。

目の前に吉田君が現れたら分からないけど…

山本君の隣で彼の笑顔をずっと見ていたい。


また恥ずかしくなってきて、一人で赤面していると肩を叩かれた。

振り向くと翔君がにや~っと意味深に笑っていた。


「やらし~顔してたぞ~?何考えてたんだ?」


やらし~顔と言われて両手で顔を隠した。

そんなに顔に出てた!?


「いや~皆、幸せそうで羨ましいなぁ~。」

「そっちこそ、幸せいっぱいのくせに!!どうせ、浜口さんの家の近くに住むんでしょ?」

「あっはっは!!そりゃ、当然でしょ。紗英なんか呼んでやんねーよ?」

「呼ばれなくて結構です!私は、一人でも生きていけるキャリアウーマンになるんだから!!」

「っぶは!!キャリアウーマン!!」


翔君のからかう言い方に腹が立ってくる。

むか~っとして肩を怒らせていると、私のケータイが鳴ってメールの受信を知らせた。

私はお腹を抱えて笑っている翔君を放っておくと、メールを確認した。

メールは山本君からだった。


『今日、安藤の結婚式だろ?スピーチ頑張れよ。

もしも緊張して忘れたら、いつも思ってること言えば大丈夫。

安藤に伝えたい事はいつも心の中にあるはずだからな。』


山本君の優しさに胸が熱くなる。

私は心の中でありがとうと感謝の気持ちを呟いた。

画面を閉じようとしたら、スクロールがまだあることを示していて、私はメールの画面を下にスクロールした。

すると、下に一文がついていた。


『それでも失敗したら、ヤケ酒につきあってやるよ(笑)』


「っぶふっ!!」


私は山本君らしい一文に吹きだした。

緊張が解けて自然に笑顔になる。

私は彼にメールを返したくなって、近くにいた翔君を引っ張った。


「翔君。今日の記念に写真撮って!!」

「へぁ?写真?」


私は翔君にケータイを渡すとテーブルに置いていたワイングラスを手に持った。

そしてワイングラスを頬の傍に添えて、ニッと笑う。

翔君は「いくぞー」と言って、私のケータイで写真を撮ってくれた。

私はグラスを置くと「ありがとー」と言って、ケータイを受け取って写真を確認する。

結構お酒を飲んでいるので、赤ら顔なのが気になるが、まぁこんなもんだろう。


私はそれをメールに添付すると山本君のメールに返信する。

『緊張で飲み過ぎてるので、ヤケ酒はしません。頑張ってくるね。』

と一文を添えておいた。

ふぅと息を吐いて満足すると、ちょうど披露宴の準備ができたようで、みんながゾロゾロと会場に入って行く。

私はいよいよだと気合を入れると、会場へ足を進めた。






***






新郎、新婦が入場してきて、会場は大盛り上がりだった。

私は麻友の写真を撮り過ぎるぐらい、ずっとカメラを構えていた。

麻友…本当に綺麗…

私はまた涙ぐんで、隣に座る夏凛からハンカチを差し出された。

私は有難く受け取ると、お化粧が崩れないようにそっと拭う。

そして二人が壇上に落ち着くと、司会の人が新郎新婦の紹介ムービーを流すと案内した。

会場が暗くなって、白く大きな画面に映像が投影された。

服部先生の紹介はどれも新鮮で、昔から野球が好きだったと紹介されていて新郎側の席が大盛り上がりだった。

次は新婦の麻友の紹介で、私は懐かしい小学校の写真が出て驚いた。

どの写真も私と夏凛が一緒に写っていたからだ。

幼い自分は大人しそうで、元気いっぱいな麻友の影に隠れている。

夏凛は昔からシャンとしていて、笑顔こそ少ないものの麻友と対等に映っている。

その写真を見て、そういえば昔は人見知りの激しい方だったなと振り返った。

いつから男の子とも目を逸らさずに話せるようになったんだっけ。

そう思っていたら中学の写真に切り替わった。

制服に着られた感のある写真が続いて、ある一枚に吉田君の姿が映っているのに気付いた。

写真の中の吉田君と目が合って、心の中に押し込めたはずの思い出が溢れた。

画面から目を離さずに、脳裏には中学の思い出が次々に流れていく。

隣の席だった休み時間、何気ない話をした。

吉田君はいつも顔をクシャっとさせて笑っていた。


ダメだ…やっぱり…忘れるなんて…できないっ…


私は高校時代に切り替わった画面を見つめたまま、目から涙が流れ落ちた。

画面には陸上を頑張っている麻友の姿が映っている。

私は涙が止まらないので画面から目を離すとハンカチで顔を押さえた。


吉田君っ……会いたいよ…


頭の中で色んな思い出が早送りで流れていく。

そして最後はいつも同じところで終わる。


『必ず一番に会いに行く!』


彼の笑顔と力強い言葉。


私は顔を押さえて俯いていると、映像が終わったのか会場が明るくなったのが分かった。

涙が流れるのを我慢するため、一度しっかり目を瞑るとハンカチをずらして顔を上げた。

すると私の様子に気づいていたのか、夏凛が不安そうな顔でこっちを見ていた。

私は「嬉し涙だよ。」と言って笑顔を浮かべる。

夏凛は私の強がりに気づいているのか、眉をひそめて微笑むと私の頭をポンポンと撫でてくれた。

私はその優しさにまた涙が出そうになったが、気持ちをしっかり持つとハンカチから顔を離した。


「もう、大丈夫だよ。」


私がいつも通りの笑顔を浮かべると、夏凛はやっと安心してくれたのか麻友へと視線を戻した。

私はまだ吉田君の事を思い出してしまって心が揺れ動いていたが、小さく息を吐き出すと気持ちを落ち着けた。


そこからの流れはすごく早く感じた。

主賓挨拶が終わり、ケーキ入刀と進んでいき、

あっという間にお色直しまで突入して、とうとう次が私の出番だった。


私はトイレで化粧直しすると、鏡を見て気合を入れた。

一度山本君のメールを見て、お守り代わりにする。


「よしっ!!」


私は戦場へ赴くような心境で会場へ足を向けた。




そして自分の席でドキドキしながら待っていると、司会の人に呼ばれ、私は拍手の中マイクの前に立った。

封筒に入った手紙を取り出して、定型文通りのお祝いを述べたあと、度々手紙に目を落としながら読み上げる。

過去の思い出話、麻友と過ごした日々のこと…

でも、ここで麻友の顔がしっかりと目に映り、さっきの思い出の映像とかぶった。

私は順調に読んでいた言葉を切って固まった。


山本君のメールの文面が頭を過った。


『安藤に伝えたい事はいつも心の中にあるはずだからな。』


ザワついてきた会場に目を向けると、私は手紙を閉じた。

そして心の中にあった言葉をマイクに向かって話す。


「麻友には…本当に感謝しても感謝しきれません。私が大好きな人に…振られたとき、その彼と上手くいったとき…そして、大好きな彼がいなくなったとき…。弱い私は何度も麻友の前で泣きました。麻友はその度に一緒に泣いて…笑って、話をまっすぐに聞いてくれました。」


私は会場から麻友に視線を移す。

麻友は涙ぐんでいて、私をじっと見つめていた。

私は高校のときの事を思い出して続けた。


「弱い私にとったら、麻友は憧れの対象でした。高校のとき、誠一郎さんにまっすぐ告白した麻友は本当にかっこよかった。私はそんな麻友に勇気をもらいました。だから、今の私があると言ってもいいぐらいです。麻友、私は幸せになれなかったけど…麻友には、私の分も幸せになってほしい。」


私は一度唇を噛むと涙を堪えた。

麻友は私の目の前で泣きじゃくっている。

誠一郎さんに背中を叩かれている姿が本当に幸せそうで胸が温かくなった。


「麻友、誠一郎さんを離しちゃダメだよ。絶対に手を離さないで。そして…ずっと、これから一生…幸せでいてください。これが弱い私からの…お願いです。」


とうとう私の目からも我慢していた涙が流れて、私はそれを拭うと笑顔を浮かべた。


「麻友、本当におめでとう!!大好き!!」


そう言い切ると、私は会場に頭を下げた。

麻友は我慢できなかったのか、壇上から立ち上がってこっちに向かってくる。

私は向かってくる麻友と抱き合うと麻友の耳元で言った。


「おめでとう…おめでとう、麻友。絶対幸せになって。」

「うん…うん。ありがとう、紗英。でも、紗英も幸せにならなきゃダメだからね。」


麻友は私を力強く私を抱きしめたまま言った。

私は頷くと腕に力をこめた。

盛大に鳴り響く拍手の中、私たちは服部先生に引き離されるまで抱き合っていた。

これじゃあ誰と誰の結婚式だか分からない。

私は恥ずかしくて席に戻ってから後悔したが、次の翔君のスピーチがグダグダ過ぎて自分の失態なんか屁でもなかったと思い直した。

まぁ、会場的には笑いをとってたから結果オーライだと思うが…


そして、披露宴も無事に終わりになり、二次会までしっかりと参加した私は、幸せな気持ちで家に帰りつくことができた。


麻友の幸せそうな姿に幸せをおすそ分けしてもらえたが、それと同時に押し込めていた気持ちが溢れていて、私はまた自分の気持ちが分からなくなりそうだった。


そのときケータイが光っているのが目に入り、家のソファにもたれかかりながら画面を開いた。

メールが来ていて、山本君からだった。

私はメールを開けると、目を通した。


『スピーチお疲れ。こっちは研修終わりで晩酌中。

ヤケ酒はなし?(笑)』


この文面と一緒に、缶ビールを片手に赤ら顔をしている山本君の写真が添付されていた。

私の好きな笑顔で映っていて、私は胸が温かくなった。

そして私はケータイを握りしめて目を瞑ると願った。


山本君の事が吉田君以上に好きになれますように…


彼の隣にずっといられますように…と…







一番幸せな恋愛をしたのは麻友ですね。

始めた当初はこうなるとは思ってませんでした…

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