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勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
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3-28恋バナ


私は山本君たちを見送ったあと、ぐっすりと熟睡している浜口さん達を横目に片づけを始めようと気合を入れた。

テーブルの上には食べ残しの料理に飲み終わったお酒の缶が散らばっていて、顔をしかめたくなるぐらい汚かった。

テーブルに手を伸ばしたとき手首についているシュシュが目に入った。

私はそれをじっと見つめて、胸が温かくなった。

さっきの嬉しかった気持ちを思い出して、気持ちが前向きになる。

私はそれで髪をまとめると、早速作業にとりかかった。

空っぽの缶はごみ袋にまとめて、食べ残しの料理とは袋を分ける。

そして洗い物は全部流し台に持っていく。

そうしてテーブルの上を片付けたあとは、床に散らばったゴミをかき集める。

空き缶やお菓子やおつまみの袋を回収して、やっと部屋の中が綺麗になった。

ふうと一息つくと、今度は流し台の洗い物にとりかかった。

水を流しながら洗っていると、後ろでうめき声が聞こえて誰かが起きたのが分かった。


「う~ん…むぁ…。あ…あれぇ?」


私は手を止めて振り返ると、浜口さんがぼーっとして起き上がっていた。

目が半分しか開いていなかったので、まだしっかりと目は覚めていないのだろう。

何度も瞬きをして部屋を見回している。


「浜口さん。起きた?男の子たちはみんな帰っちゃったよ。」

「うぇ?――――あっ!!いつの間にか寝てた!!」


浜口さんは目が覚めたようで、はっきりした口調で言うと立ちあがった。


「わっ!!片付けしてくれてるし!!私、手伝うよ!!」


浜口さんは袖を捲り挙げながら、慌ててこっちにやってきた。

私は彼女のお言葉に甘えて、洗い物をお願いすることにした。

私は少し横にずれて洗い終わった食器を拭いて片付ける。


「ねぇ、本郷君たち…いつ帰った?」

「うーんと…30分くらい前かな。翔君は最後まで帰るのしぶってたけど。」


私は山本君に猫のように引っ張られていく翔君を思い出して笑った。

浜口さんは「ふ~ん…」と言うと、ちらっと私を横目で見て言った。


「沼田さんはさ、本郷君のことどう思ってる?」


私は最近色んな人からこの手の話題をふられる。

もしかして…翔君との関係を疑われてる?

私は浜口さんの気持ちを知っていただけに、きっぱりと言い切った。


「友達!!好きとかじゃないから!!絶対!!」

「あははっ!否定しすぎでしょ。」


浜口さんは口を大きく開けて笑った。

信じてくれた様子にホッとする。


「沼田さんにはバレてるだろうから言っておくけど…。私は本郷君が好き。それはきっとこれからも変わらない。沼田さんなら諦められない気持ち分かるでしょ?」


訊かれて私は迷った。

私は吉田君を思い出に変えて、心のどこかで山本君を好きになりかけてる自分がいる。

吉田君の事が好きじゃなくなったわけじゃない。

諦めたわけでもない…

でも、この気持ちの変化を説明する言葉が見つからなくて悩んだ。


「…沼田さん?」


浜口さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

私は笑顔を取り繕うと、彼女に気持ちの一部を打ち明けることにした。


「あ…あのね。私…ちょこっとだけ、山本君のこと好きになりかけてる気がして…。」

「えぇっ!?やっ…山本君!?」


浜口さんはよっぽど驚いたのか、激しくむせた後洗い物する手を止めて私の顔を凝視した。

私は初めて言った気持ちに少し恥ずかしい。


「な…なんで、山本君なの?」

「なんで…と言われると…分からない…けど。……初めて、自分の本音でぶつかれた人…だからかな…?」


私は夏に吉田君に対する心の内を山本君にぶつけた事を思い出した。

彼は表面上の言葉じゃなくて、辛い現実をはっきり口に出して諭してくれた。

私に前を向くきっかけをくれた。

あのときから私の気持ちの変化が始まってたように思う。


「そっか。私は沼田さんはずっと竜聖君の事を想い続けるもんだと思ってた。でも、違ったんだね。」

「それは…。違わないわけでもないっていうか…」

「違わないって、どういうこと?」

「その…吉田君の事は…今でも好きだから…。なんて言えばいいのかな…。」


吉田君も山本君も好き。

でもその二つの好きは種類が違う気がする。

吉田君が目の前にいないだけに、はっきりした違いが自分でも分からないけど…

吉田君はそばにいると自然にドキドキして、胸がギュウっと苦しくなる感じの好き。

でも山本君は…笑顔が見られると胸が温かくなって、ずっと傍で見ていたいような…そんな好き。

どっちの方が好きかと言われたら、きっと今は答えられない。

だから、結論が出るまでは心の中に秘めておきたい。


「私、まだ自分の気持ちが分からないんだ。だから…、今はそうかもってだけだから、内緒にしてくれる?」


浜口さんは面食らったような顔をしていたけど、表情を緩めると頷いてくれた。


「わかった。今の話は聞かなかったことにするよ。気持ち分かったら教えてね?」

「うん。ありがとう。」


浜口さんは満足したようで、一度私を見て微笑むと洗い物の作業に戻った。

私は彼女に話したことで、少し気持ちがスッキリしていた。

自分の中で何かが変わりつつある。

それをきちんと受け入れていこうと、心に決めた。





***





洗い物を終えた私たちは、目が冴えていたのでコンビニで買ってきた飲み物を飲みながら話をした。

山口さんと岡山さんは相変わらず寝入っている。


「私が本郷君を好きになったのは、高校一年に初めて日直になったときだったんだ。」

「へぇ…。」


私は浜口さんから初めて聞く恋バナに興味をそそられた。

相手が翔君ってところが少し複雑ではあるけど。


「私、こんななりでしょ?背も高いし、男勝りな性格だし…女子として扱われたことなんてなかったの。」


言われてみて彼女のコンプレックスが見えた。

浜口さんはバレー部なので身長も170cm以上あって、手足も長くて女の私からすれば羨ましいスタイルを持ってると思うのだけど…こと恋愛に関してはマイナスの要素になるようだった。


「でも本郷君は違った。日直の仕事で棚の上の備品を取らされるときとか…荷物を運ぶときとか…さりげなく手を貸してくれて…、女の子扱いしてくれた。それが、すごく嬉しくて。いつの間にか好きになってた。」


話している頃のことを思い出したのか、浜口さんは恋する乙女の顔をしていた。

頬が赤く染まっていてすごく可愛い。


「高校のときは…沼田さんの事が好きなんだって知って…ショックだったし、悲しかったけど。でも、それで諦められる気持ちじゃなかったんだよねぇ…。」

「なんか…ごめんなさい。」


私は翔君に告白されたときの事を思い出して、罪悪感が胸をかすめた。

浜口さんは「今更っ!」と言って明るく笑い飛ばしてくれた。

そんな姿に心苦しさが救われるようだった。


「いいの。ちゃんと振ってくれてるわけだし。ここからは私の勝負だから。応援してくれるんでしょ?」

「うん。すごく応援してる。」

「だよね。だから、こんなパーティー開いてくれたんでしょ?そこは嬉しかった。ありがとう。」


彼女のまっすぐで素直な姿に自然と笑顔になる。


「ううん。仲直りできたみたいで良かったよ。」

「あははっ!ご心配おかけしました。」


「ねぇ、何話してるの?」


いつ目を覚ましたのか山口さんが起き上がって、寝起きの声で問いかけた。

その横で岡山さんも目を覚ましたようだった。

私はどう返そうかと思っていたら、浜口さんが恥ずかしげもなくさらっと答えた。


「恋バナだよ。沼田さんとするのって初めてだから盛り上がっちゃって。」


「え~!!いいなぁ、私もしたい!!瑞樹!ほら、話に加わろうよ!」


山口さんは完全に目を覚ますと、横で眠そうにしている岡山さんの服を引っ張っている。

その姿が仲良しの姉妹のようで見ていてほのぼのする。

浜口さんはそんな二人のやり取りがいつも通りなのか、笑って見守っているだけだった。


「理沙!沼田さんに本郷君の事言ったの?」

「うん。まぁ、無関係ではないしね。」

「うっそ!!じゃあ、私も打ち明けます!!」


山口さんは寝起きとは思えないぐらい元気な声で挙手した。

宴会ノリのような雰囲気に思わず浜口さんと一緒に拍手する。

山口さんは一度コホンと咳払いすると堂々と胸を張った。


「私、山口七瀬。山本君の事が好きになりましたー!!」


「えっ…。」

「へ!?」


私は予想外の告白に思考回路がストップした。

目の前で浜口さんも戸惑っているのが見える。

岡山さんだけが眠そうな目をこすって「おー」と言いながら拍手している。

言い切った山口さんは「恥ずかしー!」と言いながら赤くなった頬を手で隠している。


「ちょ…七瀬?山本君って、今日会ったばかりだよね?どこが良かったの?」


浜口さんが私に変わって尋ねた。

山口さんは私たちをまっすぐ見つめると即答した。


「見た瞬間にこの人だって思ったの。どことかじゃなくて、直感だよ!これって運命ってことでしょ?」


運命…

私は高校のときに吉田君に対してそんな気持ちになってたことを思い出した。

山本君に対して運命だなんて思った事はない。

これって…やっぱり好きとは違うのかもしれない…

私は手を握りしめると、山口さんから視線を落とした。


「七瀬…あんたって面食いだったんだね。」


浜口さんの言葉に私はずっこけそうになった。

シリアスに考え込んでいたものがどこかに吹っ飛んでいく。


「面食いで何が悪いの!?イケメン大好き!世の中の女子はだいたいそうでしょ!?」


イ…イケメン…

山本君がイケメンに分類されていることが妙に可笑しかった。


「世の中の女子を敵に回したわよ。あんた。」

「理沙に言われたくないんだけど!!本郷君だってイケメンじゃん!!本郷君があの顔じゃなかったら、あんた絶対好きになってないでしょ!?」

「そ…それはっ…。」


翔君もイケメン分類なの!?

私は二人のやり取りに目が回りそうだった。

浜口さんは山口さんに言い負かされて、口をもごつかせている。


「ねぇ、沼田さんの竜聖さんだっけ?あの人もかっこよかったよねぇ~。沼田さんだって、あの人があの顔じゃなかったら好きになってなかったでしょ!?」


急に話をふられて私は心臓が跳ねた。

確かに吉田君は誰もが認めるイケメンだと思うけど…でも、顔で好きになったわけじゃないと思いたい…。

でも山口さんは目を輝かせて同意を求めてくる。

私は山口さんの気迫に押されてしぶしぶ頷いた。


「やっぱりー!!」


喜ぶ山口さんを横目に私は顔を覆って俯いた。

ごめんなさい!吉田君!!

決して顔で好きになったわけじゃないんだけど!!

私は想像上の吉田君に向かって必死に心の中で謝った。

頷いてからなんてことに同意してしまったんだと後悔した。


「まぁ、そういう事なんで!応援よろしくね!特に沼田さん?」

「へ?」


私は思わず情けない声を上げて、山口さんを見た。

彼女は口から白い歯を見せて笑いながら、私の肩に手を置いた。


「だって山本君と同じ中学の出身なんでしょ?彼のこと色々教えてほしいな?」


私はこれからくるであろう質問攻めに背筋が凍った。

助けを求めるように浜口さんを見たが、浜口さんは何か知っているのかサッと顔を逸らしてしまった。

私は今夜寝れないかもしれないと覚悟をすると、諦めて彼女に付き合う事にした。

山口さんは夜中のテンションとは思えない勢いで私に抱き付くと、早速山本君のことを質問し始めた。

私はため息をつくと一つずつ丁寧に答えていった。


そしてその日は私の予想通り明け方近くまで話に付き合わされて、死んだように眠ったのは朝日が差し込んでからの事だった。




珍しく女子メンツだけの話になりました。

次は男子メンツの話になります。

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