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勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
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3-27クリスマスパーティⅢ


安物の髪ゴム一つで照れたように笑う沼田さんの顔を見て、息がつまった。

じわじわと鼓動が速くなってくる。

俺は自然と熱を持ってくる顔を隠したくて、沼田さんから顔を背けた。

何だこれ…

最近目の前にいる沼田さんに対してよく感じる気持ちにモヤモヤする。

胸が苦しいけど、嫌じゃない感じ…

これはいったい何なのだろう…?


「私だけプレゼントもらっていいのかな?私…なんにも用意してないよ…。」


俺が沼田さんに目を戻すと、いつの間にか髪ゴムを外してして手首に戻していた。

俺は手首についているゴムを見ながら、ふと頭に過ったことを口に出した。


「……初詣…一緒に行ってくれるか?」


「え…?」


沼田さんの驚いた声が聞こえて、俺はハッと我に返った。


「あ…いやっ…その…、俺ら年明けたら東京に行くわけじゃん?新しい土地で上手くいくように願掛けに行かねーかなと思って。それだけだから!!」


言い訳を並べ立てて、余計に怪しまれたような気がしてくる。

何でこんな焦ってるんだ…?

友達なんだから一緒に出かけるぐらい普通だろ。

沼田さんは小さく吹き出すと笑って答えた。


「いいよ。私も東京の一人暮らし…不安だったんだ。神頼みしておけば少し気が楽になるかも。」

「だ…だよな?よし、決まりな!!」


沼田さんはいつも通り何も考えてないように普通だったので、安心した。


「じゃあ、翔君や浜口さんも誘っておくね。みんな東京組だし、一緒に行った方がいいよね?」

「…んぁ…?…あぁ。そうだな。地元も一緒なわけだし、みんなで行くか。」


翔平たちも一緒と聞いて、俺は少し落胆した自分が不思議だった。

その気持ちを打ち消すように、俺は沼田さんを先導してコンビニへ足を向けた。

沼田さんは俺の隣を並んで歩くと、前を向いて嬉しそうに笑っている。


今はその笑顔が見られるだけで嬉しくて、俺も彼女と同じように自然と笑顔になった。





***




コンビニでジュースやお茶を調達した俺たちが戻って来ると、メンバーが減っていて部屋が広く感じた。

それは沼田さんも同じように感じたようで、部屋を見渡して呆然としている。

そんな俺たちの所へ俺のダチの佑とトモがやって来た。

俺は佑達に訊きながら、靴を脱いだ。


「なぁ、人数減ってるけど…誰か帰ったのか?」

「あぁ。カップル二組が△△駅前のツリーを見に行くって言って帰ったよ。」

「涼華ちゃんたちが…?ずるいなぁ…私もツリー見に行きたかった…。」


沼田さんが持っていたコンビニの袋をがっかりして下げた。

肩が落ちていて、明らかに残念がっている。

ツリー…か…今から行ったら…うん…帰るのが夜中になりそうだな…

今こそ酔いが覚めているが、お酒の入った沼田さんを連れ歩くのはよくないとの結論に至る。


「あ、じゃあ見に行く?俺、一緒に行くよ?」

「えっ…ほんと?」


佑が下心丸出しの嬉しそうな顔で沼田さんに持ち掛けていて、俺は頭に血が上った。

沼田さんも満更じゃないようで、ツリーを見に行けると目を輝かしている。

俺は二人に怒鳴りたくなったが、またケンカになりたくなかったのでグッと言葉を飲み込んだ。


「紗英。ここ自分の家だろ?家人が客置いてツリー見に行くってどうなの?」


佑たちの後ろから翔平がぬっと顔を出した。

佑たちよりも背が高いので、首から上だけが覗いていて不気味な姿だった。

翔平は明らかに嫉妬で顔が不機嫌そのものだった。

そんな表情に出すぎな姿に笑いがこみ上げる。


「そっか…そうだよね…。浜口さんたちも寝ちゃってるみたいだし…。今日は諦めるよ。」

「えぇ~~。」


佑が抗議の声を上げたが、沼田さんは靴を脱いで部屋に入ると笑って佑たちを躱している。

俺もその後に続くと、笑いを堪えながら佑の肩を叩いて部屋に入った。

内心ホッとしたことは考えないようにする。


沼田さんはコンビニの袋をテーブルの上に置くと、自分の部屋から毛布をもってきて浜口さんたちにかけてあげている。

もう時間も遅いので泊めてあげるようだった。

俺は佑たちを連れて帰った方が良いだろうかと考える。


「翔君たちどうする?パーティはもうお開きだと思うけど、泊っていくの?」


さらっと泊っていくとか訊いてきた彼女の言葉に俺は思わず吹き出した。

気管に唾が入ったのか、激しくむせる。

バリアどうした!?

男に簡単にその言葉言っちゃダメだろ!!

案の定、佑やトモはよからぬことを考えて顔を真っ赤にしている。

ただ翔平一人だけが、「どーっすかな~。」とか何も考えてないように言っている。

ダメだろ!!

俺は自分も変な事を考えそうで、考えないように一人行動を開始した。


「翔平!何言ってんだ!!帰るぞ!!」

「へ?」

「おら!佑もトモも上着着ろよ!!」


沼田さんを見て固まっていた佑たちは、俺の言葉に時間が動き出したかのように慌て始めた。

翔平だけは不服そうな顔で文句を言っている。


「えー?俺は浜口たち置いて帰れねーけど。」

「浜口さんたちは泊るんだろ!!お前が残ったって意味ねぇよ!!」

「えー?でもさー…。」


俺はなかなか身支度しない翔平に我慢できずに、勝手に翔平の上着を手に持つと翔平の首根っこを引っ張った。


「いいから!!帰るぞ!」


俺は佑とトモを玄関に追いやると、翔平の背も押して一度沼田さんに振り返った。


「バタバタして悪いな。また明日、部屋片付けに来るよ。」

「ううん。いいよ。片付けは私がしておくから気にしないで?」

「来るから!!」


遠慮する彼女に語気を荒げて告げた。

彼女は少し驚いていたが、嬉しそうに笑うと頷いた。

俺はまた頬に熱が集まってきて、彼女から目を逸らすと言った。


「おやすみ。」


「おやすみ。気を付けてね。」


彼女の声を聞いてから、俺は三人を押し出して部屋を後にした。

翔平は「紗英、またなー!」と大声で言っていて、腹立ちまぎれに翔平の頭を叩いた。

沼田さんと翔平の距離間に苛立ったためだ。

何でイラついたのかは…分からないけど…


暗い住宅街の通りを男四人で歩いていると、佑が俺に話しかけてきた。


「なぁ、沼田さんってさ、すっげー可愛いよな?素直な反応がまたツボるっていうかさ。」

「あんだって!?」


佑の言葉を聞いて翔平が割り込んできた。

俺は険悪なムードが流れるのが分かって、巻き込まれないように少し離れて口を引き結んだ。


「えっと、あんた誰だっけ?」

「本郷翔平!!紗英と竜也とは中学からの同級生。それより、今なんつった?」

「あぁ、竜也の。へー…じゃあ、あんたも沼田さん狙ってるわけ?」

「ねらっ…!!狙ってねぇよ!!」

「どーだか。俺に食って掛かってくる時点で気があるのバレバレだろ。」

「なっ…!?」


余裕のある佑に対し、翔平はいっぱいいっぱいといった様子で戦況は翔平が不利なようだ。

まぁ、佑と翔平じゃキャラが違いすぎて相手にもならない気がするが…

翔平は真面目すぎるぐらいまっすぐで分かりやすい奴だ。

対する佑は経験も豊富で恋の駆け引きなんてお手の物。のらりくらりと相手を揺さぶるのを得意としている。

そんな佑に翔平が口喧嘩で勝てるはずもない。



「俺が気があるからなんだってんだよ!!紗英はお前のことなんかなんとも思ってねーんだから、今の内に諦めろ!!」

「何でなんとも思ってねーとかたった一日で言われなきゃなんねーの?中学から何年間も片思い続けてるお前が諦めろよ。」

「そっ…!!そんなのお前に関係ねーだろ!!」

「あっ…図星なんだ?すげー!!いったい何年一人の奴想い続けてんの!?バカみてー!!」


佑が翔平をからかって遊んでいる。

翔平は赤ら顔で肩を震わせている。

だんだん翔平が可哀想になってきた。


「うぅっるっせーな!!紗英は好きな奴以前に大事な友達なんだよ!!そんな大事な友達に手を出す奴がいたら口出すのは当然の権利だろーが!!俺はお前だけは絶対認めねぇからな!!」

「はははっ!!あんたに認められなくても構わねーよ。」


俺は翔平の口から友達という言葉が出たことに驚いた。

こいつ…沼田さんのこと…諦めかけてるんじゃねぇか…?

些細な変化だったが、今までの翔平を考えたら大きな進歩だと思った。

沼田さんも翔平も4年が過ぎて、少しずつ変わりつつあるようで嬉しい反面、少し寂しかった。

竜聖のことを忘れたわけじゃないのは分かってる。

ただ、二人の中で竜聖の存在が薄くなっているような気がして…竜聖のことを考えると切なくなった。

沼田さんが前に進むことを望んでいたはずなのに、おかしな話だ。

俺はこの複雑に絡まる気持ちが分からなくて、顔をしかめた。


「どうした?」


俺の変な様子に気づいたのかトモが気遣って話しかけてくれた。

俺は考えていたことを頭の隅に追いやると、笑顔で返した。


「いや、不毛な言いあいだなと思ってさ。それよか、トモは今日どうだった?パーティ楽しかったか?」

「あぁ。楽しかったよ。あの元気な子いただろ?名前が確か…浜口さん?…彼女と話すと明るくなれて、初めて出会うタイプの女の子だと思った。」

「へぇ…。浜口さんとは…お前にしては珍しいな。」

「はは、だよな?俺も驚いてる。」


トモはいつもお淑やかな女子と付き合ってきた。

そんなこいつがスポーツ系の女子に興味を抱くなんて初めてのことだった。

本気であるなら応援してやりたい。


「そうだ。今度沼田さんや浜口さんと初詣行くことになりそうなんだけど。お前も来るか?」

「初詣?」

「あぁ。俺の地元になるから、お前の家からは遠いかもしれねぇけど。もう一回浜口さんと話したいならどうだ?」


トモはまだ言い争っている二人をちらっと見てから、頷いた。


「あぁ。行くよ。この気持ちが本物か確かめたいしな。」

「了解。場所と時間が決まったら連絡するよ。」

「よろしく。」


トモはいつも通り固い表情で微笑むと二人の口喧嘩を止めるべく間に割り込んでいった。

俺は白い息を吐き出して空を見上げると、自分のモヤモヤした気持ちに意識を向けた。


『山本君は初恋もまだだってことだよね!!』


沼田さんのあの言葉にドキッとした。

自分が誰にも本気になれない気持ちを見透かされたと思った。


高校の時、あいつを見ているだけで恋というものが何か知ることができた。

あいつが沼田さんの事を考えている顔。

嬉しそうで幸せそうで、見ているだけでこっちも温かい気持ちなった。

自分もいつかあんな顔になるんだろうかと考えていた。

高校時代もそれを期待して告白された子と付き合ってみた。

でも、あんな顔になるどころかしんどいと思う事の方が多かった。

俺は見た目そんなに悪くないようで、別れても次から次に彼女ができた。

でも、いつまでたってもあいつみたいになれない。

俺は期待していただけに落胆も大きかった。

いつしか好きになることを諦めて、相手に合わせることだけに徹していると少し気が楽になった。

自分の中にある欲望にだけ忠実に動いていればいい。

その方が楽だし、しんどくなかった。


恋というものはあいつを見て知るだけでいいとさえ思っていた。


でも、あいつは俺の前からいなくなった。


理想だった。

相思相愛でお互いを想いあっている二人が…


その理想が目の前で崩れて、余計に恋というものが何か分からなくなった。

分からないまま、女の子と付き合う日々が続いた。

相手の要望に応える。

でもこっちが飽きたらおわり。

そういう関係を続けてきた。


そして、だんだんそういう毎日もつまらないなと思い始めたとき彼女に再会した。

彼女なら俺にあの気持ちを教えてくれる気がした。


でも、彼女はあのときのあいつと同じ顔をしていなかった。

あいつの存在が彼女の心を縛り付けていると思った。

だからあいつの影から解放して、あの顔を俺に見せてほしいと思った。


でも…解放された今…

彼女はあいつと同じ顔はしていない。

それが寂しいなんて、俺の勝手な気持ちだ。


そして恋というのも、俺の中では今でも分からないままだ。


俺は心の中で複雑に絡まり合う気持ちに胸が苦しくなった。


脳裏にはあの日のあいつの幸せそうな顔が浮かんで、思わず顔をしかめた。








竜也の気持ちにも変化が出てきました。


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