3-25クリスマスパーティⅠ
12月24日クリスマス・イブ――――――
俺が紗英の家に圭祐たちとやって来た時、部屋の中の装飾に驚いた。
キラキラ光るモールがあちこちに飾られていて、サンタやトナカイのイラストが壁に貼られている。
その本気具合に唖然としていると、紗英含め女性陣が笑顔で出迎えてくれた。
「どうぞ!入って入って!!」
いつも通りの浜口に手を引かれ、俺は部屋の中に入った。
あの日から一度も話していないだけに少し気まずかった。
浜口はそんな俺に気づいていたのか、俺を部屋の窓際まで引っ張ってくると笑って言った。
「…この間は変な誘い方してごめんね?本郷君がパーティやろうって言ってくれたの嬉しかったよ。
だから…あまり気にしないで、今日は楽しもうね!私たち友達なんだから!」
本当に平気そうな彼女を見て、俺は少し安心した。
俺との関係が壊れたと思ってただけに素直に嬉しかった。
彼女の強さと気遣いに心から感謝した。
「…ありがとう。浜口。」
「…なんのこと?今、お礼言うなんて変なの~。」
しらばっくれて笑う彼女に俺は笑顔を返した。
俺は浜口のこういう所が好きだ。
何でもないように、いつも俺に元気を分けてくれる。
気持ちに応えられない後ろめたさはあったが、変わらない関係に胸が熱くなった。
それに浜口は満足したのか、いつものように俺に色々指示するとキッチンに戻って行った。
俺はコートを脱ぎながら部屋を見ると、圭祐や哲史はすでに座って皿を並べたりしていた。
竜也だけはまだ到着していないようで、キッチンでは紗英と浜口にその友達二人が料理を作って吉岡さんと山森さんがそれをテーブルに運んでいた。
俺はそれを確認してキッチンにいても迷惑になるので、圭祐たちの向かいに座って皿や箸を並べることにした。
***
「山本君たち遅れてくるって。」
準備を終えて座っていた紗英がケータイを見て言った。
それを聞いて俺もケータイを確認すると、竜也から同じようにメールが届いていた。
「じゃあ先に始めちゃおっか。」
山森さんが言うと、女性陣からクラッカーが回ってきた。
これで何をするのかと思って様子を伺っていると、浜口がクラッカーを構えて言った。
「それじゃあ、パーティ始めよう!メリークリスマース!!」
「メリークリスマース!!」
その声をきっかけにクラッカーが女性陣から打ち鳴らされた。
俺は反射的に紐を引っ張って鳴らす。
女性陣は拍手して大盛り上がりだったが、俺たちは突然のことに呆然としている状態だった。
何だろう…この疎外感…
女性陣だけ打ち合わせばっちりじゃないか…?
圭祐や哲史も俺と同じようで、愛想笑いを浮かべて首を傾げている。
俺は楽しそうに料理を取り分ける紗英たちを見て、自然に笑顔が漏れた。
そして料理も進み、お酒もだいぶ入ってテンションがおかしくなり始めた頃
やっと竜也たちが到着した。
「うわ!もう出来上がってる。」
竜也は顔をしかめて部屋を見回している。
竜也の後ろから友達二人が顔を覗かせてひきつった笑顔を見せていた。
「あ、やっと到着したんだー。座って、座って。」
少しテンションの上がった紗英が竜也を手招きしている。
竜也は呆れた顔で紗英の隣に座ると、友人二人もその隣に腰を落ち着けた。
「ねぇ、みんな揃ったし自己紹介しようよ。」
「だな!!誰からいく?」
自己紹介の流れになり、悪酔いしている浜口が挙手して始まった。
「私は浜口理沙で~す。西城大学4年です!バレーボール部に所属してまっす!
就職先でもバレーボールを続けるつもりです!はっきり言う性格ですが、よろしくお願いしまーす!」
赤ら顔で笑う浜口の自己紹介は何だか気持ち悪かった。
いつも見ている俺が言うんだから、きっと周りもドン引きだっただろう…
まだ酒の入ってない竜也たちがひきつった笑顔を崩せないでいるのが見える。
そして、それを皮切りに次々に自己紹介が進んでいく。
「山口七瀬です!理沙と同じバレー部です。就職先も理沙と同じでバレーを続けます!
人見知りする方ですが、よろしくお願いします。」
高校からの同級生の山口が赤ら顔で意外とはっきり言った。
「岡山瑞樹です!理沙と七瀬とは大学からの親友です!!特にスポーツはしてませんが、体を動かすのは好きです。就職先は普通の商社です。東京なので一緒の人はよろしくお願いします。」
派手めな浜口や山口と正反対の真面目そうな女の子だ。
浜口にこんな友達がいたことを初めて知った。
そしてどんどん自己紹介は進み、
哲史と山森さんは二人でベタベタしながらカップルならではの発表をして目を塞ぎたくなった。
圭祐は酔ってしまって話せない吉岡さんの分も自己紹介して男を上げていた。
次は俺の番になり無難に普通の事を言って終えた。
ふうと一息ついて隣を見て、紗英の番だと視線を送ると
紗英は食べていた料理を置いて姿勢を正した。
「沼田紗英です。大学4年です。春から東京の高校で先生をやります。
……今日、こうやって…みんなでクリスマスを過ごせて本当に…嬉しいです。」
おっとりとした自己紹介に子供のようにへらっと笑ったのを見て、紗英が酔っているのが一目瞭然だった。
少し潤んだ瞳に赤く染まった頬が俺の心を久しぶりに締め付けた。
手が出そうになるのを堪えて、次の自己紹介である竜也たちを見て何か違う事に気づいた。
竜也はいつものように紗英を見て笑っていたが、その友達二人の視線が紗英に向いている。
お酒が入ってないはずなのに若干顔が赤いし、表情もほころんでいる気がする。
嫌な予感がした。
「山本竜也です。翔平と沼田さんとは中学の同級生です。大学で再会して、ここに呼ばれる運びになりました。今日はよろしくお願いします。」
自己紹介を終えた竜也が隣の友達を小突いた。
その友達はかけていたメガネを指で押し上げると、慌てたように言った。
「初めましてっ…えっと、竜也の友人の倉持佑といいます。理系人間なので機械系に強いです。
よろしくお願いします。」
「西川智之といいます。竜也と佑とは大学からの友人です。服飾関係に就職します。よろしくお願いします。」
倉持君に続いて、ばっちり髪型を決めた逞しそうな西川君が照れたように言った。
これで全員の自己紹介が終わり、みんなの名前が把握できた。
竜也たちは浜口とその友達に勧められて料理やお酒を口に運び始めた。
その様子を見ているとキャバクラみたいで笑いがこみあげてきた。
俺は横でまた黙々と料理を食べている紗英を見て、少し心配になってきた。
会話にあまり参加せず時々微笑んでいて反応を見せるが、明らかにいつも通りではない。
「紗英。大丈夫か?酔ってるなら水持ってくるぞ?」
俺の声に紗英は反応すると首を振った。
「大丈夫。」
意外とはっきりした口調と嬉しそうな横顔を見て、訊いた。
「なんか楽しそうだな?」
「うん。騒いでる皆見てると面白いよね。こんなクリスマス初めてだなぁ…。」
「そっか…。」
言われてみればそうだなと思った。
紗英は少し前まであまり人と関わろうとしていなかった。
こんなパーティを自分から進んでやるなんて考えられないことだ。
これも竜聖のことを過去にすると決めた気持ちの変化なのだろうか?
紗英の様子を伺って考えた。
そんな俺の紗英に対する視線を気づかれたのか、竜也が浜口たちから逃れてにやにやしながら近寄ってきた。
「やらしー顔してんなぁ~…何考えてんだよ?」
「はっ?んなこと考えてねぇよ!!」
俺は気恥ずかしくて顔をそむけた。
竜也は意味深な笑みを浮かべると俺と紗英の間に割り込んで、紗英の顔を覗き込んで声をかけた。
「沼田さん。久しぶり。」
「山本君。久しぶり、元気そうだね。」
「うん。それよか沼田さん酔ってない?」
「酔ってないよ?」
竜也が俺の方を向いて目で「酔ってるだろ?」という風に伝えてきた。
俺はその通りだと思ったので、笑って返した。
竜也は少し考えたあと、紗英の手から料理を奪って机の上に置くと彼女の手を自分の首にかけてお姫様抱っこで持ち上げてしまった。
「へ!?」
俺はそれを見上げて固まった。
竜也は俺を見下ろすと、「このまま酔いつぶしたらダメだろ。」と言って紗英を隣の部屋の窓際に連れていった。
俺は目を瞬かせて二人を見て状況を理解した後、咄嗟に立ち上がって駆け寄ろうとしたら竜也に「お前はあっち何とかしろ。」と言われて振り返った。
そこには浜口とその友達が酔いつぶれて竜也の友達に迷惑をかけているのが見えた。
俺は竜也と浜口を交互に見て、仕方なく浜口たちを快方するのに向かった。
俺が紗英を快方したかった…という気持ちを隠して。
季節はずれですが、パーティ突入です。




