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勘違い系○○  作者: 流音
第三章:大学生
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3-24恩返し


インターホンが鳴って外に出ると、そこには暗い顔をした翔君が立っていた。


「ど…どうしたの?」


私は昨日の今日だったので、私の話した事が彼の重みになったのかと思った。

とりあえず中で落ち着いてもらおうと、部屋の中に促した。

でも翔君は入り口で立ったまま俯いて動こうとしない。

私は心配になって翔君の顔を覗き込んだ。

そのとき翔君が私の肩に頭をのせて、体重を預けてきた。


「えっ!?翔君!!」


私は重みでその場に倒れそうだったが、何とか彼を体を押さえて堪える。

そして肩から伝わる体温と震える肩を見て、泣いているのが分かった。

私は驚いて彼の体を支える事しかできなかった。


何があったんだろう…?

私の言ったことかな…

そんなに重荷だった…?


自分のしてきた行いの数々を思い返すが、まったく見当がつかない。

私は今まで自分のことばかりで、周りに目を向けてなかったので心当たりが多すぎた。

とりあえず謝っておこうと思って口を開く。


「何か…ごめんね…?きっと…私の――――」


謝っている途中で翔君の腕に体を抱きしめられ、体重がのしかかって玄関に尻餅をついた。

翔君が私の方に倒れ込むように玄関に入ってきて、扉が閉まる。


「……うすれば…よかった…?」


翔君が小さな声で何か言ったのが聞こえる。

私は聞き返す。


「―――え?」

「……浜口に……なんて言えば…良かったんだ…?」


浜口さん?

私は彼が何を言っているのか分からない。

とりあえず自分のせいで泣いているわけじゃないと思うと、少しほっとした。

私は翔君に泣き止んでもらいたくて、彼の背中に手を回すとポンポンと叩いた。


「何があったの?」


子供をあやすように、優しく訊いてみた。

翔君は一度鼻をすすると、答えた。


「……浜口に…クリスマス一緒に過ごさないかって…言われたんだ…。」

「うん。」

「……俺は…みんなでクリスマスパーティしようって言った。」

「…………うん?」


私は言葉のつながりに首を傾げた。

一緒にと言われて何でみんなでクリスマスパーティ…?

二人は付き合ってるんだから二人でクリスマスすればいいのに…

と思ったが、今は言わずに次の言葉を待った。


「……俺は…浜口の気持ちを気づかないふりしたんだ…。

今の関係を壊したくなくて……浜口の気持ちを…無視した…。」

「………。」

「……浜口を…傷つけた…。でも…こうするしかなかった…。」


あれ?

私はここまで聞いて、自分が大きな勘違いをしているのではないかと思い始めた。


「……翔君…浜口さんと付き合ってるんじゃないの…?」


翔君は私の問いにビクッと肩を震わすと私から手を放して、顔を拭った。

私は目の前で泣き止んでいる翔君を見て、彼が何を抱えているのか見定めようとじっと様子を観察する。

翔君は顔の半分を手で隠したまま言った。


「…付き合ってない。……でも…浜口の気持ちに…さっき気づいた…。」


それを聞いて、やっと状況が見えてきた。

浜口さんは翔君と二人でクリスマスがしたくて誘った。

でも、翔君は浜口さんの気持ちに気づいて話を逸らして拒絶したと…


私は分からないのは翔君の気持ちだけだったので、ストレートに尋ねた。


「何で二人でクリスマスしようって言わなかったの?

浜口さんの事きらいじゃないんでしょ?」


翔君は私の目を一瞬見た後、逸らしてから答えた。


「……友達だから…。それに…浜口の事は…そんな風に見れないのが分かってるし…期待させるよりは…と思った。」


翔君は正直だからなぁ~…と思ってため息をつく。

きっと浜口さんのことは友達としてすごく大事なんだろう。

だから、気持ちに応えられなくて苦しいんだ。


私は高校のときに翔君に告白されたときのことを思い出して、

状況が似ていることに複雑だった。

私も翔君の気持ちに応えられないことが辛かったし…苦しかった。

きっと今の翔君はあのときの私と同じなんだと思って、何と言ってあげれば良いか悩む。


あのときは翔君が私の気持ちを優先させてくれて、私は安心したし嬉しかった。

関係が壊れなかったのは翔君のおかげといっていい。

そう…私は何もしていない。

だからこそ、翔君と浜口さんの関係を維持するには浜口さんの気持ち次第だという結論に至る。


「…クリスマスパーティはすることになったの?」


私は翔君に尋ねた。


「あ、うん。浜口が友達誘うって言ってた。」


それを聞いてまだ大丈夫だと思った。

私は二人の関係を戻すため、自分のできる道を見つけた。


「じゃあ、みんなでやろう!!私、浜口さんと相談する!」

「へっ?―――――さ…紗英、…それってどういう…?」


驚いている翔君を置いて、私の頭の中には良いプランが浮かんでいた。


「私の家でクリスマスパーティしよう!みんなで!!

私は浜口さんや他の女子を集めて、当日に向けて準備する!そのときに上手く浜口さんから話聞くから!大丈夫!!私に任せて!」


私は翔君に恩返しがしたかった。

大丈夫。浜口さんだって翔君との関係を壊したくないはず。

そう思って自分に気合を入れる。

翔君は私の提案に戸惑っているようだったが、私は彼の肩を力強く叩くと元気づけるように笑った。





***





クリスマスまであと二週間という日、私は浜口さんと大学の食堂で向かい合っていた。

キャンパスは翔君や浜口さんの方だ。

私は大学の講義もなかったので、こっちに足を運んで浜口さんを待ち伏せした…というところだ。

彼女は不思議そうな顔で私を見ている。

私はコホンと咳払いすると、本題を切り出した。


「あのね、翔君からクリスマスパーティのこと聞いたんだ。

それで私たち女性陣で協力してパーティに向けて取り組まないかな~と思って…お誘いに来ました。」


彼女は状況を分かってくれたようで、顔を緩めると言った。


「あぁ…その話か…。うん。いいよ。メンバーって決まってるの?」


「男性陣は翔君に圭祐君、木下君に山本君。もしかしたら山本君が友達連れてくるかも…

で、女性陣は私に涼華ちゃん、美優ちゃん、浜口さんにそのお友達かな。」


「そっか…結構大人数だね。」


「そうなの!だから私のアパートに入れるか心配で…」


私は努めて明るく説明したが、浜口さんは元気がないようだった。

その様子が気になり過ぎて、彼女の翔君に対する気持ちを確かめたくなるが、そこまで首をつっこんではいけないと自分に言い聞かせる。


「大人数だから手伝ってくれると助かるんだけど…ダメかな?」

「……わかった。いいよ。24日に買い物とか手伝えばいい感じだよね?」


浜口さんが笑顔で了承してくれた。

私はそれが嬉しくて胸が弾んだ。


「うん!!部屋の飾りつけとか、ケーキや料理の買い出ししようと思ってて!」

「じゃあ、当日に沼田さんの家の最寄駅前に集合にしよっか。」

「ありがとう!お願いします!!」


私は笑顔で頭を下げたあと、スケジュール帳を取り出して今の事をメモした。

浜口さんは一瞬驚いたように私を見ていたけど、何か諦めたように笑ったあと呟いた。


「…こういうところが良いのかな…。」


そう聞こえて、私は顔を上げて浜口さんを見た。

それに気づいた浜口さんは切なそうに笑って「何でもないよ」と言った。

私は何でもないようには見えなかったので、書く手を止めて彼女に翔君のことを伝えた。


「この間…翔君、泣いてたんだ。浜口さんのことで…。」

「えっ?」


彼女は驚いて私の顔を見つめてきた。

私は二人の関係の修復に役立つと信じて、少し事実を隠して続ける。


「何があったかは知らないけど…浜口さんにひどい事したって後悔してた。

それだけ…知っていてほしくて…。」


私は彼女の様子を伺った。

彼女は驚いた表情で固まって、何か考えているようだった。


私は彼女に翔君の気持ちに気づいてほしかった。

浜口さんの気持ちを考えるとただの私の自己満足なのは分かっている。

でも、二人には良い関係でいてほしかった。


翔君はあんなこと言っていたけど、きっと心のどこかで浜口さんの事が好きなはずなんだ。

だからそれに気づくまで、離れずに翔君のそばにいてほしい。


浜口さんはふっと息を吐き出して、表情を崩した。

そして悲しそうに眉間に皺を寄せると言った。


「……やだなぁ……。そんな態度とられたら諦められないよ…。」


浜口さんは手で顔を隠すと何か諦めたように続けた。


「私も大人になったなぁ…。」


その言葉の意味が分からなくて、私は顔を隠す浜口さんを見つめて様子を伺った。

浜口さんは顔を覆っていた手をとると、少し潤んだ瞳で私を見て言った。


「高校時代だったら、きっとあなたに噛みついてたかも。」

「へ?」


急に怖い事を言われた気がして、今度は私が固まって浜口さんから目が離せなかった。

彼女は不敵に笑うと私を指さした。


「あなたには負けないから。」


負けないってどういう事…?

私は意味が分からなくて目を瞬かせた。


「…ほんと、何でこんなのが良いのか分かんない。

でも…私と本郷君のこと心配してくれたんでしょ?そこはお礼言っとく、ありがとう。」


すごく挑戦的に笑われたが、最後は優しい言葉だった。

私は彼女の真意がつかめずに歯痒かったが、

浜口さんが元気になったようだったのでひとまず安心した。



それから浜口さんとはパーティの企画の話をして盛り上がった。







二人の関係が変わってきました。


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