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A CRISIS (接触戦争)  作者: 松由実行
第九章 TACTICAL PROJECT 'BOLERO' (ボレロ)
226/405

7. 重力共鳴(Gv-Res)


 

■ 9.7.1

 

 

 09 April 2051, Central Administration Headquarters, United Nations of Terra Forces, Strasbourg, France

 2051年04月09日、フランス、ストラスブール、地球連邦軍参謀本部

 

 

 いつもの部屋にいつもの五名が集まっている。

 フェリシアン・デルヴァンクール地球連邦軍参謀総長、ロードリック・ムーアヘッド地球連邦軍参謀本部長、エドゥアルト・クルピチュカ地球連邦軍参謀本部作戦部長、フォルクマー・デーゼナー地球連邦軍情報部長、ヘンドリック・ケッセルリング地球連邦政府情報分析センター対ファラゾア情報局長、トゥオマス・コルテスマキ地球連邦政府情報分析センター対ファラゾア情報局技術顧問。

 

 国連軍が地球連邦軍へと組織を変えたにも関わらず、同じ人物が同様のポジションに居座り続けているのは奇異に感じられるかも知れない。

 事実、地球連邦参加国---即ち地球上のあらゆる国家---の内、有力な国家の多くがその様に主張し、旧担当者を引きずり下ろすことでポストを空けて、自国の代表を何とかして地球連邦軍の上層部に食い込ませようとする盛んな動きが確かに存在した。

 米国や中華連邦など、旧国連に対して一定の「引け目」を持つ立場の国々は比較的容易に引き下がったのであるが、旧欧州連合(Euro Union)中心国や、ロシア、日本などのファラゾア来襲以降国連と国連軍に対して協力的な姿勢を見せ、事実多くの貢献をしてきた国々は、かなりしつこく国家レベルでのポスト争いを繰り広げていた。

 

 しかし結局のところ、地球人類存亡の危機にあり、まさに今が正念場と云った状況にある中で、高い決定権を持つ重要ポストを新人に代えることで僅かにでも停滞が発生することは望ましくないという建前の元、それなりに強引な手段も多く使いながら彼等は自分達のポストを守り切った。

 それは何もいわゆる権力争いであったり、権力やポストに固執したりする欲望によって行われたわけではなく、事実その建前の額面通りの理由により、過去の経緯を詳しく正確に把握しており、対ファラゾア戦に関する情報を包括的に理解把握し、現状を正しく認識した上で的確な判断が出来る者が必要とされているというごく真っ当な人選を行った結果、結局現在の担当者が最も適任者であったという至極まともな人事的考査を反映した上で、彼等自身が地球防衛に対する強い使命感を持っていた為現在のポストを維持することを望んだ末の結果であった。

 

 勿論、例えそれが筋の通った真っ当なやり方での決着であったとしても、現職がそのまま居座り続ける事に対して激しく糾弾を行いごねる輩というのは存在するわけであるが、その様な人物や或いは組織に対しては、新たに最高統合作戦会議といういかにもそれらしい名前の「活躍の場」を設けてやり、軍のトップに近い場所にそれなりに見栄えのしそうな「地球連邦軍最高統合作戦会議何々方面担当主幹」などという厳めしい名前の席を設けてやることで批判を躱すという方法をとった。

 そのいかにもという名前の会議体が全くの役立たずというわけではなかったが、予想通り形成後早い段階で利権争いの半ば烏合の衆化してしまったのは事実であり、まるでファラゾア来襲前の国連安全保障理事会のように、騒いでいるだけで何も決められないほぼ無用の長物と化した。

 結局のところ決断が早く動きも機敏なごく小規模の検討会という意味でも、また各方面の最高責任者の間での根回しという意味においても、この五人による密談は変わりなく定期的に続けられていた。

 

「例の対地ミサイルの敷設状況はどうだ?」

 

 フェリシアンが冷め始めたコーヒーの入ったカップをテーブルの上に戻しながらロードリックに尋ねる。

 

「全体的には約40%と云ったところです。計画初期に作戦が行われる東アジア方面と北米方面には優先的に配備を進めており、その両エリアに限って云うならば約70%の達成度ですね。」

 

「70%は低くないか?」

 

 ロードリックの答えに対して今度はフォルクマーが問いを発する。

 

「いや、これで問題無いんだ。予備作戦で実使用して問題点の洗い出しを行い、変更を適用した改良型を配備しなければならないことを考えると、スタート時点で余り配備率が高過ぎるのはそれはそれで問題になる。勿論、低すぎると今度は後半の作戦実行時に弾数が足りなくなるから、今くらいの配備率が最適との報告を受けている。予備作戦を行うカリマンタン島上空に限って云えば、すでに100%を達成している。」

 

「成る程ね。ミサイルと云えば、例の新型AAMの試射は上手く行ったのか? 降下点駐留戦闘機に対する切り札だろう?」

 

「飛ばすこと自体は簡単な話だ。問題無い。確認できないのは、敵の大集団に突っ込ませたときの効果だよ。こればっかりは、本当に敵が沢山居るところに向けて撃ち込まなけりゃ検証が出来ん。」

 

 ファラゾア戦闘機に対する攻撃手段として、長く「効果無し」として全く顧みられる事の無かった空対空ミサイルであるが、対艦ミサイル桜花、対地ミサイル菊花を生み出した高島重工業のグループ企業である高島航空工業が、ここに来て新型の空対空ミサイル(AAM)を開発し実戦に投入しようとしている。

 

 同社が開発した対宇宙艦ミサイル桜花について、実戦での使用実績と効果が軍や製造元に何度も報告される中で、ミサイル母機である「桜護」搭乗員からの報告とは別に、客観的データとしてAWACSや基地防空システムのデータも解析の対象となった。

 桜花が発射される状況というのは即ち、ロストホライズンか或いはそれに類した大規模攻勢下であり、押し寄せる大量の敵戦闘機を前にして発射され、時には大量の敵戦闘機群の中をくぐり抜けるようにして、ミサイルは軌道上に存在する敵艦へと向かうことがしばしばであった。

 そこに奇妙なデータが含まれていた。

 

 桜花が母機から発射された後、最大加速で急上昇して宇宙空間の敵艦に突入するための最適位置に到達するまで、しばらく大気圏内を水平飛行してファラゾア戦闘機の集団の中に潜り込んでしまい、敵機による撃墜を免れ所定の位置にまで到達したミサイルが急上昇に転じると、その周囲からファラゾア戦闘機が居なくなる、という現象があちこちに散見された。

 現場のAWACSや基地防空システムのオペレータもその状況に気付いていない訳では無かったが、これまでロストホライズンの度に何度も「始末屋」達が敵集団に向けて反応弾を繰り返し叩き込んできた過去の経緯から、ファラゾア戦闘機集団に真正面から突っ込んでいく桜花を反応弾頭ミサイルであると判断し、その周囲から退避した当然の行動であろうと考えて特に深く追求しなかった。

 

 開発元である高島航空工業の技術者たちは、近いうちにファラゾアは、大気圏内をM10.0以下の低速で巡航する「対処し易い」状態にある桜花を集中的に狙って迎撃する形で対応してくるものと想定し、その対策を練るために桜花が突入した後の敵戦闘機の動きを個別に追跡して詳細に解析した。

  そこで彼等は気付いた。

 桜花の周囲から敵が消えるとき、瞬発的高加速をする敵機の重力推進器から発せられる筈の重力波の突発的な高まりが見られないことに。

 

 退避した敵戦闘機がどのように動いたのかを知るために、周囲に存在する他の大量の敵戦闘機が発する重力波による大量のノイズや、山脈などの地形によるノイズを丁寧に取り除いていった結果、彼等はその結論に到達した。

 急上昇を開始した桜花の周囲数kmから敵が居なくなる現象は、敵機が急加速した桜花を避けて退避したのではなく、ただ単に敵の重力波が消えてGDDに検知されなくなっただけである、と。

 それはつまり急加速した桜花の周囲数kmで敵の重力推進器が突然停止した、即ち敵機は推進器を破壊され撃墜された、という意味に他ならなかった。

 

 自分達で導き出しておきながらも余りに意味不明な推測であり、本来であれば無視される筈のこの解析結果であったが、同様の解析結果がそれぞれ別の複数の戦場から回収したデータの中でも観察されたため、彼等は当時の国連軍に対して、似た様な現象に心当たりがないかと半信半疑で問い合わせた。

 果たして彼等の元に届けられた国連軍からの回答は、「類似の現象に心当たりあり」であった。

 

 当時の国連軍の手元にも、最大加速をした桜花の周辺から敵機の反応が消失する現象に関するデータが蓄積されていた。

 参謀本部はその情報を入手していたが、同時に前線のオペレータ達から報告が上がった考察、即ち反応弾の爆発を避けるためにファラゾア戦闘機が退避した、をその解析結果としてそのまま採用していたため、高島航空工業からの問い合わせがあるまでそれ以上の深い解析が行われていなかったのだった。

 

 同時に国連軍参謀本部からもたらされたデータに、高島航空工業の技術陣は頭を抱えた。

 MONEC社開発のLDMS(Last Ditching Manoeuvre System)使用時にも、同様の現象が見られる、と。

 大混乱した高島航空工業の技術者は、いずれにしてもこれは重力推進機(GPU)、或いは人工重力発生器(AGG)の問題に違いないと結論し、彼等の研究所から車で数十分しか離れていない、国立重力研究所(NIG)の逆井の元を訪れた。

 

 人工重力発生器の理論を構築してその試作品を作り上げ、その後も事あるごとに重力を利用した兵器や装置の開発に携わってきた逆井は、今や重力学の権威であった。

 同じ関東平野北部に所在し、比較的行き来がし易いという立地条件の優位性もあり、また日本軍あるいは国連軍を通しての付き合いも多く、高島航空工業だけでなく北関東航空産業地帯の各軍需産業は逆井と良好な関係を結んでいた。

 

 しかしその逆井をして、この現象に明確な説明を与える事が出来なかった。

 だが理論的な解明は出来ずとも、現象はそこにある。

 彼等はこの現象に重力共鳴現象(Gravity Resonance)と名付け、その後何度かの桜花とLDMS使用による追試を経て、AGG(人工重力発生器)の出力によって差はあるものの、彼等地球人類が開発したAGGをほぼ全開で動作させるとき、その周囲に存在する他のAGGが影響を受けることを突き止めた。

 

 周囲に存在する地球産のAGGが受ける影響はそれ程大きくは無かった。

 せいぜい出力が最大数十%低下する、或いは出力上昇/低下の応答が鈍くなる、程度の影響であった。

 

 それに対してファラゾア戦闘機が搭載する重力推進機が受ける影響は顕著なものであった。

 最大出力の地球製AGGの出力に比例、距離に反比例して、出力を大きく低下する、あるいは一時的に制御不能となるものが発生している様だった。

 地球製AGGとの距離によっては機能停止にまで追い込めることも、実戦の中で桜花やLDMSを使用した試験の結果明らかとなった。

 

 そのような重大な情報を放置しておく高島航空工業開発陣ではなかった。

 彼等はすぐに桜花ミサイルをベースにした改造を行い、そして開発されたのが重力推進式対空ミサイル「蘭花」である。

 

 蘭花には所謂炸薬は積まれておらず、その本体内には制御回路と、熱核融合炉リアクタ、人工重力発生器(AGG)、重力推進機(GPU)しか搭載されていない。

 それらの内部機構を、極力長時間高熱に耐えられる様に、耐熱外装で覆っただけのミサイルである。

 ファラゾア来襲前に各国で使用されていた長距離空対空ミサイルよりも一回り大きいが、現在運用されている戦闘機に四~十二発、小型である艦載機であっても二~八発搭載できるだけのコンパクトさを持っている。

 

 この新開発の空対空ミサイルを含め、多くの新兵器が「ボレロ」に投入されようとしていた。

 

 なお、前述の重力共鳴(Gv-Res)現象はこの後数十年経過してからその原因と詳細が解明され、別の進化を遂げる技術の礎となるのだが、それはまた別の話である。

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 覚えておられないかも知れませんが、ずっと前に達也がLDMS初使用したときに、テレーザが文句を言っていた件です。

 もう一方の引きの方は・・・もうお判りかと思います。w

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― 新着の感想 ―
[一言] 全く覚えてない。何話でしょうか?
[一言] 何かに干渉してエンジンが使えなくなるって、戦艦に対してはどうなんだろう? 今まではミサイルが直撃して墜ちてたと思ってたけど、実はそれだけじゃ無い場合もあったりして?
感想一覧
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