第99話 扉
昼に海を満喫した日の夜。
昼のバーベキューの材料がまだ残っているので晩御飯も館の庭でバーベキューをする事になった。
「せっかくの海でのバーベキューなのにシーフードがない」
「シーフード?」
「ホタテとかサザエとか」
「貝類ね。自力で捕ってくるしかないんじゃない?」
この世界でも漁業はあるのだが魔獣がいるため現代地球ほど発展していない。
養殖もないし貝類はあまり店にも並ばない。
今日のところはアイにはあきらめてもらうしかない。
「じゃあ明日捕るかな。獲れたてのホタテの醤油バター焼きとか絶品だよ、きっと」
「止めないけど、気をつけてな」
「うん。ところでこの辺りの海にホタテはいるのかな」
「さあ?その辺りの知識は全く無い」
前世でも詳しくなかったし、仮に詳しかったとしても、現代地球の知識がそのままここでも使えるとは限らないし。
「まあ、ホタテにこだわらなければ、何かしら貝類は獲れるんじゃない?ユウに鑑定してもらってから食べるように」
「は~い」
そして夜のバーベキューも終わり。
今日は男性陣と女性陣で分かれてお風呂に入る。
館のお風呂は広いので十人くらい一度に入っても問題ない。
というか、そうしないとボクの入浴中に入ってくる人がいるので、そうしてもらわないと困る。
「ぐおお!滲みる!」
「日焼けですか、お父さん」
「違う!エリザ達から受けた拷問のせいだ!お前がけしかけたんだろ!」
「自業自得だろ、バカ息子」
お祖父ちゃんの言う通り自業自得だと思う。
拷問の結果、余罪無しと判断されたみたいだけど。
「魔王子の結婚を酔った勢いで決めて良いわけないだろうに」
全く以てその通り。
本当に勘弁して欲しい。
「ジーク君はどうなんです?既に婚約者がいたりするんですか?」
「まさか。ジークにはまだ早い。アスラッドと違って俺は酔った勢いで許嫁なんて作ってないしな」
まだ早いか。
ガウル様は、アイが五歳でボクの婚約者になってエルムバーンで暮らす時も猛反対だったし、ジーク君にも過保護なのかな。
いや、普通だな。
普通、五歳や六歳で婚約者なんて作らない。
「お父さん、もう上がっていいですか?眠いです…」
「ん?そうか。じゃあ、上がるか。お先に」
そのジーク君は遊び疲れたのか、眠かったようでガウル様と一緒に上がってしまった。
もう少しコミュニケーションを取りたかったのだけど。
「カリンちゃんはジーク君と歳が近いですけど、どうです?師匠としては」
「カリンをジーク様の婚約者に、ですか?もしそうなったら光栄な話ですが、私としてはジュン様に仕えさせたいですね。当人同士が望むなら認めますが」
「そうですか?次期ダルムダットの魔王ですよ?ジーク君は」
結婚相手としては、最高だと思うんだけど。
「そうなると、カリンはダルムダットに行ってしまいますから。結婚して家を出るのは仕方ないですけど、せめて同じ国に居て欲しいですね」
なるほど。
そりゃそうかもね。
ボクだってユウが結婚して外国で暮らすなんて言い出したら反対しそうだ。この世界ではともかく、前世では絶対に反対したと思う。
「お前はどうなんだ?」
「何がです?」
「シャンゼの事だ。アイとは仲良くやってるが、シャンゼとはそうでも無いだろ?誘惑しても乗って来ないって嘆いてたぞ」
「乗るわけ無いでしょ…」
子供に何言ってるんだか…。
「何故だ?シャンゼは好みじゃないのか?」
「結婚前にそんなことして、子供がデキたらどうするんです」
「何だ、知らんのか。サキュバスは自分の意思で妊娠するかしないかをコントロール出来る。その点は何も心配ない」
なん…だと…。
いや、でもそれ、シャンゼ様の意思次第って事になるし。
やっはダメでしょ。
「仮にデキても問題はないがな。その時は結婚を前倒しにすればいいだけだ」
嫌だよ、まだ子供なのに。
中身はともかく。
「まあ、シャンゼが嫌いって訳でもないんだな」
「ええ、そりゃまあ。美人ですし」
「ま、お前はノエラやクリステアにも手を出してないしな。じゃあ無駄だとは思うが一応聞いておくぞ。お前に幾つか縁談の話が来てるがどうする?相手は小国の王女やその国で一番の美女だとか、だ。ま、政略結婚だな。どうする?」
「全てお断りして下さい」
知らない人と結婚とか勘弁。
しかし、ボクが政略結婚の対象になるとは…。
前世じゃ想像もつかないな。
「わかった。断っておく」
「いいんですか?そんなあっさり」
「うちにメリットなんて殆どないしな。断ってもデメリットはないし。お前が欲しく無いなら断るだけだ」
「相手のメリットは何です?」
「うちとの関係を強くしたいんだろう。申し込みがあったのは、うちから見て西、ヴェルリア王国から見て南にある小国群だ。大国に挟まれてる国からしたら、うちとの縁談は是が非でもってとこだろう」
向こうには向こうの事情があるだろうけど、それで愛の無い結婚なんてしたくない。
只でさえ現状で二人も婚約者がいるんだから。
いや、今日三人になったか…。
「ま、お前は好きにしろ。ハーレムを作ってもいいしな。だがアイだけじゃなく、シャンゼとシャクティは頼む」
「えー…」
結局そうなるんですか、パパ上。
「いや、ほら、悪い子じゃないだろ?会ったばかりだけど。お前なら嫁が何人いても大丈夫だろ?多分」
「何を根拠に…」
経済的にはともかく、複数の嫁さんを相手に夫婦円満でいられる自信なんてない。
前世でも独身だったのだし。
「ま、まぁとにかくだ。シャクティは連れ帰って、お前のメイドになる。悪いがそれは認めてくれ」
「はあ、分かりましたよ…」
それは仕方ない。
シャクティさんからもすぐじゃなくていいと言われてるし。
そこで話は終わり。
風呂上りにボクの魔法で出した氷を使ったかき氷を食べる。
「「「んまぁ~い!」」」
館の使用人達を含む全員に作ったが、大好評だった。
特にフェンリル一家の忠誠心がうなぎ上りだ。
食べ物で釣れ過ぎではなかろうか。
翌日。
結局、アイに付き合って素潜りで貝を捕る。
流石に殆ど人の手が入ってない自然の海。
魚介類は豊富だし、魚が逃げて行かない。
ただ、時折シードラゴンのシードラちゃんが悠然と通り過ぎるんだが、海中で見るとちょっと怖い。
襲って来ないと分かってても、あれは怖い。
慣れるには時間が掛かりそうだ。
それなりに貝が獲れたので陸に戻る。
アイは先に戻っていた。
「どう?獲れた?」
「それなりにね。そっちは?」
「ウチも中々。かなり沢山居たね。ところでシードラちゃん、海中で見ると怖くない?」
「うん。かなり怖い」
やっぱりアイでも怖いか。
地上と海中じゃかなり違うよね。
最後にユウが帰って来た。
ユウの成果も中々で、やっぱりシードラちゃんが怖かったらしい。
「あ、いた!お~い!ジュン様ー!」
三人でシードラちゃんの怖さを語っているとクーが来た。
「ちょっと困った事になっちゃったんだ。助けてくれ」
「何があったの?」
「ティナの帽子が飛んじゃって、崖の下に落ちちゃったんだ。それを拾おうとして下に降りたはいいんだけど、ティナの奴、戻れなくなっちゃって」
「そっか、わかった。案内して、クー」
「うん、こっち」
クーの案内でティナ達がいる場所まで案内してもらう。
ティナは崖の下の出っ張り部分にいた。
よくこんな場所に降りたな。
「ジュン様、ごめんなさいなの…」
「次から、こういう時は大人に任せるんだよ。危ないからね」
「はい、なの。それとジュン様、アレみて、なの」
「アレ?」
ティナの指さした方向にあるのは…洞窟だ。
今いる場所と同じく、崖に出っ張りがあってそこから洞窟内部に入れるみたいだ。
なんだろう?ただの洞窟にしか見えないのに、何か気になるな。
「お兄ちゃん、どうしたの~?」
「崖に洞窟があるんだ。ちょっと行ってみる~」
「あ、ウチも行くー!」
アイだけでなくユウもティナ達も行きたがったので全員で行く事にする。
見える範囲なので転移で直ぐついた。
「なんだろう、この洞窟…」
「何かおかしいの?」
「いや…何か、こう…何かがあるって感じるんだけど…」
奥に何かある、のはわかる。
でも、何があるのか分からないし、何故分かるのか、解らない。
「危険なの?」
「いや…危険な感覚は…ない」
そのまま奥に進み。一番奥にあったのは扉だった。
「扉…誰かがここに来て造ったって事だよね」
「そうだけど…一体誰が?だってここはエルムバーン魔王家の私有地なんでしょ?」
「とにかく、調べよう」
扉にはノブは無く鍵穴もない。
でも、押しても引いても横にも上にも動かなかった。
「ダメ、開かない」
「ビクともしないの」
「魔法か何かで封印?されてるのかな」
「そんな感じだな」
「となると、気になるのは…」
扉に描かれた三つの紋章。
その内の二つはよく知っている。
「これ、魔王の紋章と魔神の紋章だよね。ジュンが持ってるのと同じ」
「うん、間違いないな。ボクが持ってるのと同じだ」
「となると、最後の紋章は?」
「ユウ、判る?賢者の紋章で」
「うん…これ勇者の紋章みたい…」
なんとなく予想してたけど…やっぱり勇者の紋章か。
どうしてこんな所にこんな物が…。
とにかく試してみるか。
魔神の紋章と魔王の紋章を使用して扉に描かれた紋章に触れてみる。
「光った…」
「でも、何にも起きないね」
「やっぱり、勇者の紋章もないとダメみたいだね」
つまり紋章が扉を開ける鍵になっていて三つ揃わないと開かない、と。
そして現状ではどうしようもない、か。
「とりあえず、戻ろう。皆、ここで見た事は一切他言しない事。お父さん…ここの事はボクから魔王に報告する」
「「「はい」」」
アイとユウはともかく、ティナ達が周りにペラペラ話すのは不味いかもしれないので口止めしておく。
転移で洞窟の外、崖の上まで出る。
一気に館まで戻ると、何事かと思われるかもしれないので止めておいた。
「あ、シードラちゃん?」
「ん…?」
洞窟を出るとシードラちゃんが海から頭を出してジッとこちらを見ている。
あ、もしかして、シードラちゃんが本当に守るように言われたのは、あの場所?
シードラちゃんの眼を見ると、そんな気がしてならなかった。




