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第97話 許嫁

「で?事実なんですか?パパ上」


「パ、パパ上?今までそんな呼び方…あ、もしかして怒ってるか?」


「皆、怒ってると思うわよ~あなた」


「み、皆?いやいや、なんで?」


「と・に・か・く!説明してください!」


「あ、はい…」


事の始まりは旅先の館の管理人ホフマンの孫娘のシャクティとボクが許嫁であると判明した事だ。

今の今まで全く知らなかった。

とりあえず部屋に案内してくれと、その場を誤魔化し今は全員が一つの部屋に集まって会議中だ。

因みにパパ上は正座である。


「で?あからさまに動揺してましたけど、事実なんですよね?」


「はい…え~と実はですね…」


要約すると。

以前、ここを訪れた際に、一緒に酒を飲んでいたホフマンと酔った勢いで交わした約束で、しばらくは覚えていたけど、今日の今日まで忘れてた、と。


「で?約束の証にあのペンダントを渡した、と」


「はい…その通りです」


いい加減な約束のくせに証拠品はあるとか。

ペンダントは魔法道具になっていて短いメッセージを込める事が出来るのだ。

そのメッセージの内容はこうだ。

『わし、アスラッドに息子が生まれてホフマンに孫娘が生まれたら~二人を結婚させる事を約束します~。ウィッ』


明らかに酔っ払いのセリフだがホフマンさんは喜び、本気だと受け取った。

そして本当に孫娘が生まれ、今日まで許嫁として育てていたのだという。


「でも、それなら孫娘が生まれてすぐ連絡を寄越しそうなもんじゃない?今まで会わせようとしなかったのはなんで?」


「あ~、それは多分だけどな…」


要約すると。

孫娘が生まれてすぐ手紙で連絡は来てたらしい。

で、その時はボクも生まれたばかりで。

初めて出来た子供に夢中で、あまり深く考えずに返事の手紙を書いたのだと。

内容は


『おう、孫娘が生まれたか、おめでとさん!わしにも息子が出来たぞ!こいつは将来大物になるぞ!しばらくは息子の面倒で忙しくなるが、お前も孫娘の教育を頑張れよ!』


という感じの内容だったらしい。

で、その返事の内容が


『畏まりました。御子息の隣に立つに相応しい教育をして御覧にいれます。教育が終わった暁には迎えに来てやってください』


だったとか。

完璧に誤解してるね。


「でな、さっき思い出したんだが、最近手紙で『孫娘の教育は完璧です。いつでも迎えにいらしてください』なんて手紙が来てたんだよ。最初その手紙を見た時は何の事かわからなかったが、いや~、そういう事だったか。いや、参った。ハッハッハッ」


「笑って誤魔化そうなんて、無理ですよ、パパ上」


「あ、はい。すみません…」


全く、酔った勢いで許嫁を作るとか、勘弁して。

他に何か余計な約束してないだろうな。


「パパ上、他に何か余計な約束してないでしょうね」


「し、してない!してないぞ」


「本当でしょうね。ホフマンさん以外の人とも許嫁の約束とかしてません?ボクだけじゃなくユウの許嫁とか作ってないでしょうね」


「あ、それやだ。すっごい困る。どうなの?お父さん!」


うんうん。困るよね。嫌だよね。分るよユウ。


「し、してない!他の奴と約束なんてしてないぞ!…タブン」


ボソッと呟いた最後のセリフが不安だ。

信憑性が無さすぎる。


「お母さん」


「なあに?」


「ちょっとパパ上を締め上げて、余罪が無いか吐かせてください」


「わかったわ~。お母さん、そういうの得意なの。任せて~」


でしょうね。聞かなくてもわかってました。


「そういう事なら、親としてわしらも」


「そうね、母親として息子を説教しないとね」


「なら、姉として私も」


「おおおおおい!ジュン!悪かった!お父さんが悪かったから、こいつら止めてくれ!」


「命がある内に洗いざらい吐いたほうがいいですよ~」


「何も無いって!だからこいつら止めて!加減を知らない奴しかいないから!ァッー!」


お母さんとアリーゼお姉ちゃんに別室に連れて行かれるパパ上。

今後こういう事が無いように洗いざらい吐いてもらわねば。


「で、シャクティさんの件はどうするべきか…」


「嫌なら破談にすればいいじゃない」


シャンゼ様がえらくあっさり言ってのける。

でもシャンゼ様との婚約も、ボクが知らないとこで決まってたってのは同じですからね?


「現状で考えられる選択肢は…1・破談にする。2・許嫁として認める。3・問題を先送りにする。かな?ウチはジュンは魔王子なんだし権力をかさに破談にしてもいいと思うけどねー」


中々酷い事を。

そんな事したらシャクティさんはわからないがホフマンさんは酷く落ち込むだろう。


「パパ~、つまんない~。お外にいこ~」


「カリン、もう少しまってくれ。今大事な話をしてるんだ」


師匠の娘さんのカリンちゃんが駄々をこね始めた。

子供にはつまらない話だったろう。せっかく遊びに来たのだし、一度解散しよう。


「構いませんよ、師匠。皆、一旦この話は終わりにしましょう。ごめんね、カリンちゃん。もう遊びに行って大丈夫だよ」


「わ~い!パパ、海に行こー!」


「ああ、わかったよ。すみません、ジュン様」


「いえ、奥さんと娘さんに家族サービスしてあげてください」


そこで話は終わり、解散となる。

せっかく遊びに来たんだ。とりあえず遊ぼう。

子供もいるんだし、つまらない話に巻き込む事もないだろう。


「ジュン様、ティナ達も海に行っていいの?」


「いいよ。でもあんまり遠くまで行かないように。一人になるのも禁止。この辺りには魔獣はいないらしいけど注意はしないとだめだよ」


「はいなのー!」「わかりました」「あたいがいれば大丈夫!」「行ってきます」


チビッ子メイド達が元気よく海に向かう。

小さい頃から苦労してたせいか、年の割にしっかりしてるけど、子供達だけじゃちょっと不安だな。


「マリア、悪いけど子供達についててくれる?」


「はい、ジュン様」


「そういう事でしたら、私も参りましょう」


快く引き受けてくれたマリアと、セバスンも申し出てくれたので子供達は大丈夫だろう。


「ジュンはどうするの?海に行かないの?」


「ん~、ちょっとシャクティさんと話をしようかと思って。もしかしたらシャクティさんが内心では許嫁なんて嫌がってるかもしれないし。それなら話は簡単だしね」


その時はホフマンさんに言って無かった事にすればいい。

ぜひ、そうであって欲しいなあ。


「それは無さそうだけどね。選択肢4を選ぶのね」


選択肢4・シャクティさんの意思確認だ。さっき上がってなかったけども。

というか、それは無さそう?


「アイ、それは無さそうってどういう事?」


「多分あの子、ジュンの許嫁になれて心底喜んでるよ。顔見ればわかるもん」


「そうね。少なくとも何の不満も持ってない。そういう教育をされたのかもしれないけど」


教育って、魔王子の許嫁として疑問を持つことすらないようにしたって事?

それは洗脳って言うんじゃ…


「とにかく会って話をしてみよう」


シャクティさんを探して館を歩き周る。

ユウとアイだけでなく、なんかゾロゾロといっぱい付いて来てるけど。


「皆、せっかく遊びに来たんだから自由にしていいんだよ?護衛って言っても半分休暇なんだし」


「「「いえ、ジュン様に付いて行きます」」」


あ、そう?

別に面白い物は見れないと思うけど。


「私はジュン君の婚約者として許嫁とやらを見極めないとね」


「私はお姉さまに付いていくだけよ」


「私もです」


シャンゼ様にコルネリアさんにユーファさんも付いてくる。

付いて来てないのは遊びに行った子供達と保護者達。

ガウル様はパパ上の骨を拾ってやるそうだ。

フェンリル一家は最初からマイペースに行動してて今は何してるのかわからない。


「シャクティさん、今、ちょっといいですか?」


「あ、ジュン様!はい、大丈夫です」


中庭で掃除中のシャクティさんを見つけて声を掛ける。

立って話をするのも何なので食堂で話をする。


「シャクティさんは、ずっとこの館で暮らしてるんですか?」


「はい。生まれてからずっと。島から出た事もありません。だから王都やお城がどんなとこなのか、今から楽しみなんです!」


あ~、これは確かにアイの言う通りかも。

許嫁という立場に何の不満も無さそう。


「シャクティさんは、その、勝手に決められた許嫁に不満は無いんですか?ボクの事なんて何にも知らなかったんでしょう?」


「ジュン様は、シャクティと結婚するの、お嫌ですか?」


「え?あ~、えっと、嫌ってわけじゃなく、何にも知らないから答えようがないって言うか…」


「私は嫌じゃないですよ?お祖父ちゃんも嫌なら断ってもいいって、魔王子様との縁談を断るなんて、ただでは済まないだろうけど、お前の幸せが一番だから、もし嫌なら断ってもいいって言ってくれました。だけど、私には何の不満もありませんでした」


「それは…何故です?ボクの事なんて何も知らないでしょう?せいぜい名前と噂くらいで。顔も知らない相手だったでしょうに」


「そうですね、確かに名前とお祖父ちゃんが聞いてきた噂くらいでしたけど、もう一つ知ってる事があるんです。私達誕生日が同じなんですよ。知ってました?」


「え?」


それは知らなかった。

パパ上の話の内容から同い年で誕生日が近い事は予想してたけど。


「生まれる前から婚約が決まってて、生まれた年も誕生日も同じなんて、凄く運命的ですよね。それに噂の内容もいい物ばかり。あと私、読書が趣味なんですけど『魔王子様とメイド』って本、知ってますか?」


またしても来たか、魔王子様シリーズ!

こんなエルムバーン最南端の島にまで侵食されてるとは!


「私、その本が凄く好きで。使用人のメイドと魔王子様が恋に堕ちるんですけど…どうかしました?」


「イエ、ナンデモアリマセン。ツヅケテクダサイ」


ちょっと本気でどうにかしたいと思ってるだけだから。

未だ見つからないんだよな、作者…。


「はぁ。えっと、それでですね、その本の影響もあるんですけど、自分が魔王子様と本当に結婚できるんだって思うと嬉しくって。だから私は許嫁の話に、何の不満も無いんです」


そうかー。

こりゃあシャクティさんからこの件を破談にさせるのは無理っぽいな。


「でも、ジュン様は納得してないんですよね?この話に」


「え?」


「いいんです。だって私はジュン様の事は噂で聞いてある程度は知ってましたけど、ジュン様は私の事何にも知らなかったんですよね?なのに許嫁って言われても困っちゃいますよね」


あっれ、この子。

薄々思ってたけど、すっごいまともでいい子かも。


「だから、まず私の事を知ってくれませんか?結婚するかはそれから判断してください」


ええ子や~。

実に話のわかるええ子やないですか。

ホフマンさんの教育は間違ってなかった。


「なんだ、話のわかるいい子じゃない。シャクティさん?私はシャンゼ・フレムリーラ。ジュン君の婚約者の一人よ」


「本当ね~。ウチはアイ・ダルムダット。ジュンの従妹にして婚約者だよ。よろしくね」


シャクティさんをいい子だと認めつつも婚約者の部分を強調する二人。

仲良くするんだよね?


「あ、はい!私の他に婚約者がいる事は噂で聞いてます!二号さんと三号さんですね!よろしくお願いします!」


「「あ?」」


あ、やばい。

アイとシャンゼ様が怖い。

てゆうか、二号と三号って。


「「今なんて言った」」


「え?よろしくお願いしますって…」


「「その前!」」


「二号さんと三号さん?」


「誰が二号よ!」「誰が三号よ!」


「ええ?すみません、どちらが二番目に婚約されたのかまでは知らなくって…」


「「そうじゃない!」」


うん、そういう問題じゃないね。


「貴女、自分がジュン君の正妻、一番だって言うつもり!?」


「ジュンの一番はウチだから!」


「えええ?だって私とジュン様は生まれる前からの許嫁ですよ?御二人は生まれてからですよね?どう考えても私が先なんじゃ…」


「「ぐっ…」」


あ~…。

まあ、その理論でいけばそうなんだろうけども。


「とゆうか貴女、さっき結婚は私を知ってから判断してくださいって言ってたじゃない!」


「はい。でもそれは、許嫁を辞めるって意味じゃないですよ?許嫁の関係のまま私を知ってくださいって意味です」


まあ、確かに?

許嫁を辞めるとは言ってないね。


「皆さん、落ち着いてください」


「クリステア?」


珍しい。ここでクリステアがブレーキ役になるのか?

珍しいというか初?


「ジュン様の一番のメス奴隷は私です」


「話をややこしくするんじゃない!」


ボクはクリステアに何を期待していたのか。

クリステアにブレーキなんて無かった。


「皆、いい加減にして!」


「おお?ユウ?」


ここで立ち上がるのかユウ。

流石ボクの自慢の妹。


「お兄ちゃんの一番は私だから!」


「そんな気がしてたよ!」


ダメだったー。

場はどんどん混沌としてきた。

しばらくはこのまま放っておくしかなさそうだ。




パパ上が勝手に決めてた許嫁のシャクティさんは、ちょっと天然で、ちょっと毒のある娘だった。

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