第92話 女頭目の正体は
「で、結局は逃げられた、と」
「うむ…盗賊にしては統率が取れていてな。女頭目の指揮の下、見事に逃げ切られてしまった」
あの女頭目か。どこかで聞いた声してるんだけどなあ。
「で、手掛かりはまるでなしですか?」
「ああ。北の森付近で見失ったらしい」
「となると、また次の予想ポイントで待ち伏せですか」
「ああ、無駄だろうがな」
「無駄ですか?」
「騎士団が出て来たんだぞ?逃げ切れたとはいえ警戒するだろう。しばらくは大人しくなるんじゃないか?バカじゃなければ」
ここで調子に乗って活動を続けるような奴らなら、とっくに捕まえてるか。
父アスラッドの部屋から自分の部屋に戻って、みんなに盗賊に逃げられたと報告する。
「あちゃ~。逃げられちゃったか」
「となると、少しは頭が回るみたいだから、普通ならしばらく大人しくするかな?」
「お父さんもそう言ってたよ」
それから二週間。
盗賊が出たとゆう報告は無く。
予想通り大人しくしているようだ。
今日は冒険者の仕事も御休みモードだ。
いつものメンバーに加えて、もうすっかり元気になったルーとクー。
ティナとニィナを加えて王都を散策する。
「私達がデザインした服の真似した服、だいぶ増えたね」
「まあ、それはしょうがない」
「それに比べてお兄ちゃんの魔法の袋は真似のしようがないから、競争相手がいなくていいね」
とはいえ、あまり沢山売れないけどね。
高価ではあるが数が売れないし、売る相手も選ばなくてはならないので、服のデザインでの儲けとそんなに変わらない。下着の売り上げも加えたら圧倒的に負けだ。
オヤツ時に茶店に入り、御茶とケーキを楽しむ。
「ティナ達は学校は楽しんでる?」
「はいですの!」
「とっても楽しいです」
「あたいも楽しんでるぜ!」
「私もです」
四人から学校での話を聞く。
時折、生徒同士で喧嘩をしてるらしいけど、四人はそんな事なくみんなと仲良くやっているらしい。
時折、校長のピエールや教師達から話を聞くが学校の運営も大きな問題はないらしく、概ね順調のようだ。
「もうすぐ運動会があるんだ。ジュン様も応援に来てくれよな!」
そう言えば運動会は六月に設定したか。
秋に運動会と文化祭をやると間隔が短くて大変なんだよね。
まあ、こっちの学校では文化祭はやらないんだけども。
事前の話合いでいまいち理解されなかったのだ。
運動会は今まで鍛えた技術を競う場として理解されたのだが。
「わかった。必ず応援に行くよ」
「「「「やった~!」」」」
考えてみれば、この子達の保護者はボクという事になるのか。
いや、しかし、まだ十二歳の子供が保護者になれるのだろうか。中身はともかく。
茶店をでてからもしばし散策を続け、夕方になりそろそろ帰るか、となった頃に不意に声を掛けられる。
「あら、貴方は確か…」
「ああ、クラブのママさん」
ギルドマスターの元想い人。
以前、購入した屋敷の幽霊を浄化してくれと依頼してきた人だ。
「あの時の冒険者さんよね。お久しぶりです」
「お久しぶりです。噂で聞きましたがご結婚されたんですよね?」
「え?ええ、去年。そういえば前に会った時も思ったけど、貴方はどこかの商会の御子息か国のお偉いさんなのかしら?メイドさんや執事さんを連れたりして。いい服着てるし」
そう言えば自己紹介はしてなかったか。
「ええ。そう言えば自己紹介してなかったですね。ボクはジュン・エルムバーン。この国の魔王子です」
「あら!魔王子様だったんですか!やだわ、私ったら。失礼しました」
いやあ、普通じゃないかな?魔王子の顔を知らないくらい。
「もしかして、貴女は王都に住んでそれ程長くないのですか?」
ノエラがママさんにそんな質問をする。
今の会話でそんな疑問を抱く要素あったかな?
「ええ、そうなんです。まだ一年くらいなんですよ」
「そうですか」
まだ一年?
とゆうことは御店を出してまだ一年?
それであんな立派な屋敷を?
そして結婚までしたの?
「ジュン様、そろそろ戻りましょう」
「ああ、うん。それじゃ、失礼します」
「はい。今度御店に来てくださいねえ~」
ノエラが少し真剣な声で言ってくる。
それに今気が付いたけど、ティナとニィナの様子が少しおかしい。
一体どうした?
「ジュン様、あの人は怪しいです」
「うん?どこが?」
「王都に住んで一年。とゆう事は御店を出して一年。屋敷の購入は去年です。店を出して直ぐに屋敷を購入した事になります。それに、結婚してまだ一年も経っていないのに、指輪をしていません」
「屋敷の件はボクも思ったけど、指輪は偶々外していただけじゃないのか?」
「いえ、手には指輪の痕がありませんでしたし、それにあの手は、クラブのママの手というよりは武器を扱う者の手に思えました」
武器を扱う者の手、か。
そう言えばあの人の声、つい最近にも聞いたような?
「あの、ジュン様」
「なんだい、ニィナ」
クラブのママさんに会ってから様子のおかしかったティナとニィナが表情が暗いまま話しかけてくる。
「さっきの、女の人…私達が住んでた村を襲った盗賊団の人に似てる気がするんです…」
「顔を隠してたけど、声が似てるの…背格好も…」
あのママさんが盗賊?
言われてみればあの人の声…
「あ、わかった」
「何がわかったの、お兄ちゃん」
「こないだ商人を襲ってた盗賊団の女頭目の声、誰かに似てるってずっと思ってたんだ。あの人に似てるんだよ」
「それは、偶然にしては…」
「出来すぎだよね」
本当にね。
兎に角、これ以上は部屋に戻って相談しよう。
外じゃ誰かに聞かれるかもしれないし。
「じゃあ仮に、あのママさんが盗賊団の女頭目だとして、だ」
「そうなると、盗賊団の拠点は王都内にあるって事になっちゃわない?」
「とゆうか、あの屋敷が盗賊団の拠点なんだろうな」
考えてみれば結婚したって二人で住むには広すぎだよね、あの屋敷。
屋敷の使用人って事にして盗賊団の団員を住まわせれば、人目についても多少は言い訳できるだろう。
盗賊団は二十人くらいいたので少々多い気もするが。
「でも、それじゃどうやって王都から出入りしてるのか、わからないよ?」
王都の入口には兵士による検問がある。
平時はそこまで厳しくないが、流石に盗品を持った盗賊が簡単に出入りできるほど甘くない。
入口は一つしかないので、こっそり入るのも無理だ。
「確かに、その点が謎だけど…」
「ん~、もしかしたら、だけど屋敷に王都の外に繋がっている隠し通路みたいなのがあるんじゃ?」
そういう可能性もある、か?
しかし、そういう事なら。
「ノエラ、メリールゥを呼んで来て」
「はい、直ぐに」
あの屋敷で働いていたメリールゥなら何か知っているかもしれない。
そう思って聞いてみたらドンピシャだった。
「隠し通路ですか?ありますよ?」
「あるんだ…」
なんでそんなものがあるのか。
大きな屋敷だから金持ちが建てた屋敷なんだろうけども。
「あのお屋敷は、元々は魔王様の縁戚にあたる方が建てたお屋敷だそうで。何度か補修と立て直しをしたけど、代々の屋敷の主は潰さずに残しておいた、と前の御主人様が仰ってましたよ」
なるほど、そういう事か。
「その通路の事を何らかの形で知って、あの屋敷を購入したってわけね」
「で、そのまま使うには幽霊が邪魔だから浄化を依頼した、と」
知らぬ間に盗賊団の拠点確保の片棒を担がされていたとは。
「その通路って王都の外のどこに出るの?」
「王都の北にある森近くの小屋です」
全て繋がった。
ここまで状況証拠がそろえば間違いないだろう。
ていうか、よくそんな遠くまで隠し通路なんて作れたな。
魔法を使ったんだろうか。
「でも、馬はどうしてるんだろ?その隠し通路って馬が通れるくらい大きいの?」
「いえ、流石に馬まで通れるほどでは…」
そうか、馬の問題がある、か。
しかし、それは捕らえてみればわかるだろう。
今の話の内容を父アスラッドに話し、親衛隊を動かして捕らえる許可を貰う。
「北の森の小屋から突入する部隊はカイエンが指揮して。屋敷を包囲して正面から突入する部隊はボクが指揮する」
「ハッ」
突入するタイミングを合わせて行動を開始する。
物証が無いのでまずは普通に訪問する風で。
「あら、魔王子様?何か御用ですか?」
「ええ、それが少々危険な事になりまして。この屋敷には王都の外へ通じる隠し通路があるとか?」
「え?そ、そうなんですか?知りませんでしたわ」
「そうですか。それでですね、外の通路から魔獣が侵入したかもしれないんですよ。ですので、ちょっとその通路を調べさせてもらいたいんです」
「それは、その…」
「何か不都合な事でも?魔獣が侵入してるかもしれないんですよ?」
「くっ!」
誤魔化しきれないと判断したのだろう。
逃走を試みる女頭目。
だがこちらにはボク達だけではなく親衛隊もいるのだ。
逃げ道をふさいでいる以上、逃走は不可能。
拠点にいた盗賊は漏れなく捕縛出来た。
捕縛後、隠し通路を調べてみたら馬をどうしてるのか判明した。
盗賊達は隠し通路を拡張して馬小屋を作っていたのだ。
こんな地下通路に馬小屋を作るなんて相当な労力だったろうに。
そんなの出来るくらいなら真面目に働けと言いたい。
盗品の数々も屋敷の倉庫で見つかった。
これで事件は解決だ。
「ね、ねえ魔王子様?あたい達は殺しはやってないからそこまで重い罰にはならないよね?」
化けの皮がはがれた女頭目はクラブのママの時の口調ではなくなった。
こちらが素なのだろう。
名前はジュリアというらしい。
「それはこれからの取り調べ次第だが、まずは一つ聞きたい事がある」
「何かしら?」
「お前達は四、五年前に一つの村を襲ったか。この国ではない別の国の」
「…なんでだい?」
「盗賊団に襲われて家族を失った娘がボクのメイドにいる。その娘がその盗賊団にお前がいたと証言している」
本当は似てる気がするって言ってただけだが、ここは確信してるように言う。
「そうか、あの時の村の生き残りが城にいるのかい。そいつぁツイてなかったね」
「それで?事実なのか?」
「ああ。あたしらの事で間違いないだろうさ。だが殺しをやったのは後にも先にもあの時だけさ。あたしらは元は盗賊じゃなくて、傭兵団だったのさ」
「傭兵団?それが何で盗賊団に?」
「あの時、襲った村は盗賊の村だって聞いて依頼を受けて襲撃したのさ。だけど蓋を開けてみりゃ普通の農村だった。襲った後にわかった事だけどね。あたしらは依頼人に嵌められたのさ」
「…その依頼人とは?」
「エルミネア教の司祭様さ。おかしいと思ったんだ。あたしらの傭兵団の多くは獣人だ。なのにエルミネア教の司祭が依頼するなんてっさ」
「何故エルミネア教の司祭が村を襲わせる?」
「その村は獣人、いや魔族とも親しくする人族の集まりだったのさ。それがエルミネア教からしたら目障りだった。だから魔族の傭兵団のあたしらに襲わせ罪を被せてた。一石二鳥ってやつさ」
ここでエルミネア教が出て来るのか。
それが真実なら危険すぎるな、エルミネア教は。
暗殺者の件で十分にそう認識してたつもりだけど。
城に戻り、事の真相を知りたがったティナとニィナに本当の事をありのままに話すか迷ったが盗賊の話の裏付けをする為に正直に話た。
「あ、そう言えば…エルミネア教の人が何回も勧誘に来てましたけど、みんな相手にしてなかったです」
「だってあの人、魔族は敵だ、とか魔族を倒す為に人族は一つにならねばならないとか、そんな詰まんない事ばっかり言ってたの。お父さんとお母さんも相手にしてなかったの」
確定、かな。
信者を得る為に同じ人族を魔族に襲わせるとか、まるでテロリストだ。
「ティナ、ニィナ…大丈夫か?」
「大丈夫だよ、クーちゃん」
「本当に?無理してない?」
「うん、平気だよ。ありがとう、ルーちゃん」
自分達も大変な事があったばかりなのにティナとニィナを気遣うルーとクー。
そして笑顔で大丈夫だと答えるティナとニィナ。
強く優しい子達だな。
「今は私達幸せだよ」
「ジュン様もユウ様もアイ様も、ノエラさんもリリーさんもセバストさんも!みんな優しいから大好き!ルーちゃんとクーちゃんも大好き!だから平気なの!」
ええ子や。
ほんまにええ子やね。
「それにお城の人達もみんな優しいですから。だから心配しないで下さい、ジュン様」
「わかったよ、ニィナ」
この子達は見た目よりずっと強く、優しい子達らしい。
願わくばこの子達がずっと幸せで、変わらずいてくれますように。




