第91話 盗賊団
実に穏やかな時間が流れた。
一番心配だったルーとクーも大丈夫そうだ。
ティナとニィナと楽しそうにしている。
イグナスもそこに混じって草笛を吹いたりしている。
釣りの成果も中々で暫くは魚料理が楽しめそうだ。
アイ達はこういう場所に来た時の定番。
石を投げての水切りを始めた。
この世界では石を投げて水切りをする遊びは広まっていなかったらしく、すぐに皆が夢中になった。
「こういう平べったい石を選ぶのがコツなの」
アイが手本として石を投げて見せる。
5…10…25…32か。
中々の記録ではないだろうか。
「アイ様、凄いですぅ」
「フフン、まぁまぁの記録ね。誰が一番跳ねるか、競争しましょ。ビリの人は罰ゲームね」
アイの奴、自分が負ける気しないからって。
今のところ、ビリは二回のクリステアだ。
「姉さんって、意外な弱点があったのね」
「投げるのは苦手です…」
「初めて貴女に勝てましたね」
自称クリステアのライバルであるユリアはクリステアに勝ててご満悦だ。
ユリアの記録は3回だが…。
現時点のトップはアイの32回
残るはボクとリディア。
「私の番ですね。ん~…えいや!」
ゴッ、と水切りで投げた石とは思えない音を出して飛んでいく石。
「おー…」
「3回は跳ねたのわかったけど、アッとゆう間に見えなくなったね」
「あ、水柱」
なぜ、手の平サイズの石を投げただけで遠目でもわかる水柱が上がるのか。
「対岸まで飛んで破壊とかしなくて良かったね」
本当にね。
それにしても恐るべきパワー。
親衛隊に入って訓練を重ねてますます強くなってないか。
「すみません、まだ力のコントロールが……」
「うん。早急に身に着けてね」
うっかり人死にが出る前に。
てゆうか、こっそり出てないだろうな。
「ジュンで最後ね」
「フッフッフ。真打はいつも遅れてやってくる」
「そうなんですか?」
「まあ最初っから真打が登場しては、真打と呼べない気はしますね」
うん、普通に返されるとつらいね。
ツッコミが欲しい。
「では、やりますか」
「あ、魔神の紋章」
「全力?真剣過ぎない?」
ふ、遊びは全力で真剣にやるから面白いのだよ。
では、投げますか。
「ふん!」
「おー」
中々いい感じに跳んでる。
20…25…30…ん?
「ん?」
「ん?何かに当たった?」
何か水面を動いて…あ。
「あれは~レイクドラゴンだな」
「大物だな。この湖の主だな」
「いや、随分落ち着いてますけどぉ!?大丈夫なの!?」
あれ、ドラゴンでしょ!並の魔獣じゃないよね!?
「ん~大丈夫だろ。レイクドラゴンは穏やかな種だ。石がぶつかったくらいで…」
「でも、なんかこっちをジっと見てますけど?」
敵意は感じないが、なんかジっと見られてる。
結構デカいし、敵意は無くとも迫力はあるな。
「あ、潜った」
「と、思ったら出て来た」
水面から跳んで思いっきりジャンプした。
まるでクジラの…ブリーチング?だっけ。
「デカいねぇ」
「あの巨体であの高さまで跳んで、着水すると…」
ちょっとした津波が発生するんじゃ…
「退避ー!」
石をぶつけられた仕返しか!?
全員、びしょ濡れだが無事…だよね?
「全員いるかー」
「「「は~い」」」
よし、無事ならいい。
「みんなびしょ濡れだし、もう帰ろっか」
「そうね」
帰りは転移魔法で帰ろうかと思ったのだけど、
「家に帰るまでがピクニックです!」
と、アイの発言により行きと同じく馬車で帰る事に。
「ま、帰り道もこうやって移動したほうが出掛けたって気にはなるかな」
「そうね。転移魔法は便利だけど、その点は味気ないよね」
帰り道も行きと同じく順調…とはいかず。
途中で盗賊に襲われている馬車を発見する。
「如何しますか、ジュン様」
この場で一番上なのは魔王である父アスラッドなのだが、この場にいる親衛隊はボクの部隊なので隊長のカイエンはボクに指示を仰いでくる。
「見捨てるわけに行かないだろう。救出する。ボクとアイも行く。ユウとリリーは馬車から援護射撃。
リディアは無理するな」
「「「ハッ」」」
こういう偉そうに命令するの、いまだに慣れないな。
おっと、今はそんな事より盗賊を何とかしなきゃ。
「!チッ、騎士が来るぞ!撤収だ!」
こちらに気が付いた盗賊の頭と思しき人物が撤収命令を出す。
随分とあっさりと引いたな。
それにあの声は女だった。それにどこかで聞いた声だった気がする。
気のせいかな?
「大丈夫ですか?」
「はい、何とか…ありがとうございます…て、もしや、ジュン様?」
「ええ、まあ。我々は城に戻る途中ですが、そちらは?」
「我々は王都の商人です。御一緒させてください」
商人の馬車と一緒に王都まで戻り。
ピクニックは終了する。
「で、あの盗賊って以前、王都の東西南北で神出鬼没の盗賊団ですよね?まだ捕まえてなかったんですね」
「う……そういうな。やつらが何処から来て何処へ消えてるのか、さっぱり検討がつかんのだ」
まあ、この世界では各所に監視カメラがあるわけでもないし、科学的な捜査も出来ないだろうし。
「ねえ、お父さん。その盗賊団がどこに出たか出来るだけ正確に日付も含めて地図に印をつけれます?」
「ん?ああ。セバスン」
「はっ。お任せを」
盗賊が出たとされる場所は全てセバスンが把握してるらしい。
次々と✖印が点けられていく。
「これで何か、わかるの?ユウ」
「ん~、わかるとは限らないけど他に情報もないし、次に出て来そうな場所くらいは絞れるかもって」
「なるほど」
そうしてセバスンの書き込みが終わり。
こうして見ると一つの事実に気が付く。
「王都の東西南北に神出鬼没に活動してると言うより」
「王都を中心に活動してるんじゃない?これ」
王都を中心点に、王都周辺では活動せず、王都からある程度離れた場所で活動しているようだ。
活動範囲を線で書くとドーナツ状になる。
「で、今日出たのが王都の北方」
「これまでのパターンから次に出そうなのは、王都の南方かな?」
日本で言えば滋賀県に出たと思えば次は奈良県に出たって感じか。
移動手段に乏しいこの世界で、盗賊団にしてはかなりの広範囲での活動と言える。
「こうして地図に記すだけでもわかる事があるもんだな」
「流石です、ユウ様」
ユウの御手柄により、次の盗賊団の出没場所の予測がついたので、待ち伏せをする事になった。
ボク達ではなく、騎士団が。
「いや、だから魔王子のお前が盗賊団如きに出張ってどうする。騎士団に任せておけ」
それもそうだと思うので大人しく引き下がる。
しかし、あの盗賊団の女頭目の声、どこかで聞いた気がする。
そしてそれは勘違いではなかったと、後に判明する事になる。




