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第89話 キメラ

「結構しっかり残ってるんだな、廃棄された砦。ずっとほったらかしだったろうに。何年前に廃棄されたんだっけ」


「百年前だったか?」


「百五十二年前よ。戦争も終わって長いし無用の長物だからって」


お祖父ちゃんがまだ魔王に在位してた頃に廃棄された砦。

つまり廃棄はお祖父ちゃんが決めたはず。

お祖父ちゃんは覚えてなかったが、お祖母ちゃんは覚えてた。

前から思ってたけど、お祖母ちゃんのほうが記憶力がいいらしい。

まあ百五十年以上も前なんて覚えてないほうが普通か。


「でも、何でこんな魔獣がいる森の中に砦が?」


「さぁな。わしの親父、先々代魔王の時代に作られたんだ。まだ戦争してた時代だからな。戦争中に作られて今は廃棄された砦は、ここだけじゃない。国内にはまだ他にも残ってる」


戦争中の話か。

そういえば戦争が終わって三百年。

ボク達からすれば大昔の話なんだけど、お祖父ちゃん達は当事者なんだよな。

というか、お祖父ちゃんが戦争を終わらせた張本人になるのか。


「戦争ってお祖父ちゃんが終わらせたんですよね?」


「あ?ああ、まあな」


「何がきっかけで戦争を終わらせる事になったんです?どちらかが敗北したわけじゃないのに」


「ん?ん~。つまらなかったからだな」


「つまらなかった?」


え、そんな理由なの?


「ああ、つまらんな。わしの親父もダチも戦争で死んだ。戦争が続く間は自由に国内ですら移動できん。国民も、暗~い顔した奴らばかりだった。実につまらん。それにわしには世界中を見て周るって夢があった。戦争中じゃ、そんなのできんからな」


なるほど。それは確かにつまらないな。


「それに、アリーゼが生まれて初めて、自分の子供が戦争に行くって事を真剣に考えたのよね」


確かに、それは辛いよね。


「で、まあ、戦争が終わってアスラッドが生まれて。アスラッドが魔王の座を受け継いで国が安定するまで我慢してからミリアと旅に出たんだ」


「戦争が終わってすぐだと、人族の国には行けないしね」


今でこそ交流も進んでハーフも生まれてるけど、戦争終結直後じゃ難しかっただろう。


「ま、そんな事よりも、だ。砦内を調べるんだろ」


「そうですね。手分けして調べましょう」


廃棄された砦とはいえ、それなりに広い。

砦の見取り図等あれば楽だったのだけど。


「念の為お聞きしますけど、内部構造とか覚えてます?」


「覚えてるわけないだろう」


「流石に覚えてないわね。というか忘れたんじゃなくて、知らないわね」


ですよねー。

仕方ない、地道にやるしかないか。


「みんなで手分けして調べよう。ただ決して単独行動はしないように。四人一組になって調べよう。

ボク・ユウ・アイ・ハティが一組目。セバスト・ノエラ・ルー・クーが二組目。リリー・クリステア・ルチーナ・ユリアが三組目。お祖父ちゃん・お祖母ちゃん・カイエン・イグナスが四組目で」


「「「はい」」」


砦内に入り一階部分から手分けして調べる。


「所々崩れてるとこあるけど、流石に頑丈に出来てるんだね。思ったより荒れてないかも」


「簡単に崩れたりしないように、魔法による補強も入ってるみたいだね」


ルーン文字が刻まれた壁がある。

恐らくはそれが放棄されて百五十年以上も経っても無事な理由だ。

魔法って便利だなあ~。

地震が来ても大丈夫だな。


「で、まずはこの部屋からね」


「うん。手あたり次第に行こう」


手あたり次第に部屋を調べていく。

ただ部屋を見て周るのではなく、遺跡の時のように隠し通路とか隠し部屋が無いか壁や床を調べて周る。


「廃棄された砦だけあって、何にもないね」


「だね。その分、調べる箇所も少なくて済む」


そうして調べておよそ一時間後。

地下を調べていたセバスト達が隠し通路を発見したと呼びに来た。

直ぐに全員がそこに集まる。


「念のため確認しますけど。普通、砦を作る時にこんな隠し通路は?」


「作らんな」


ですよね。

だって、この隠し通路、幅が広く高さもある。

脱出用ならこんなに大きく作る必要もないし。


「じゃあ、行くよ。先頭はノエラ。殿はカイエンで」


「「「ハッ」」」


大きな通路なので全員で進む事が可能だ。

通路には魔法で灯りが点けられている。

埃が積もったりもしていない。


「この様子からして、この通路を作った奴は、まだここを利用してるな」


「そうみたいだね。この奥にいるといいんだけどね」


ここを作った奴と遺跡の研究室の主が同一人物なら、聞きたい事が山ほどある。

確実にろくでもない事をしてるし、ルーとクーの両親を殺した見た事もない魔獣の事もある。

今日、捕まえておきたい。


「大きな部屋に出たね」


「だね。そしてお出迎えが来たようだよ」


ボク達が入った入口から見て反対側の扉が開き、魔獣が出て来る。

そして、その魔獣は明らかに見た事もない魔獣だった。


「何て言うか、キメラ?」


「そうね、色んな魔獣を継ぎはぎにして作ったような。ハイブリッド?」


亀型の魔獣の首が狼の首だったり、スレイプニルにコウモリの羽のような物が付いてたり。

ボクが知る限り、あんな魔獣は存在しない。


それに、何と言うか目に意思がない。

ただ生きてるだけで命令に従って動いてるだけのような。


「ともかく、これでここに居る奴が遺跡の研究室の主と同一人物の可能性が高くなったね」


「ああ。とりあえず目の前の脅威を排除しようか」


数は二十から三十くらいか。

ここに作った研究室は相当大きいらしいな。


「大した事ないね、こいつら」


「ああ。動きは単調。スピードもパワーも強化されてるわけじゃないみたいだ」


それに今回はこちらも大人数だ。

あっと言う間に殲滅できた。


「終わったかな」


「うんにゃ、まだだな。おかわりが来たぞ」


おかわりはいらないんだけどな。

しかし、今度はさっきまでのとは少し違うな。


「これは、もしかして」


「魔族と、いや、人族も混じってる?」


「ああ、魔族と人族が魔獣と混ぜられてるな」


最悪の実験に手を出してるな。

いや、魔獣同志の組み合わせもかなりアレだが。


「実験体にされた人の意識はあると思うか?」


「無いね。目に意思を感じられない。そこはさっきまでの、あ~キメラって呼ぶけど、さっきまでのキメラと変わらないね」


なら、やっぱり倒すしかない、のかな。

元に戻す手段も今はない。

いや、元に戻せるとは到底思えない。


「あ、ああ!」


「そ、そんな、こんなのあんまりです!」


「ルー?クー?」


ルーとクーの二人が入って来たばかりの二体のキメラを見て酷く動揺している。


「あ、あの二人は、私達のお父さんとお母さんです!」


「父ちゃんと母ちゃんの冒険者仲間だった人もいる!間違いないよ!」


ルーとクーの両親?

見た事のない魔獣、恐らくはキメラに殺されたって話だったはず。

その二人があの二体のキメラ?


「父ちゃん!母ちゃん!」


「ルーとクーちゃんです!私達がわかりますか!?」


ルーとクーの呼びかけに何の反応もない。

むしろ戦闘開始の合図になったかのようなタイミングでキメラ達が襲い掛かってきた。


「ルーとクーは下がれ!セバストとノエラはルーとクーを守れ!」


「二人の両親はどうするの!?」


現時点では…救いようがない。

でも、二人の前で殺す事は、できない。


「なんとか動きを封じてみる!助けられるかはそれから試す!とにかく他も出来るだけ殺すな!」


何とかなるなら、何とかしてやりたい。

今は救う術がないが、それを確かめる為にも今は動きを封じるしかない。


だが、この人型キメラはさっきまでのとはわけが違うようだ。

人族や魔族の身体能力を魔獣の特徴を得て強化されてるようだ。

さっきまでのより断然強い。


「だけどボク達より弱い!何とかなるけど油断はするな!」


「でも、動きを封じるのは難しいよ!?」


「足を斬るくらいならボクの治癒魔法で何とでもなる!殺さなければいい!」


『いや、それは無駄じゃな。何せ、そやつらは皆、既に死んでおる。吾輩の施した施術と魔法により生きてるように見えるだけじゃ。アンデットというわけではないがな』


突然、部屋全体に老人の声が響く。

どうやらイカれた研究者のお出ましのようだ。


「この人達をこんな姿にした張本人か!彼らを元に戻せ!」


『不可能じゃよ。それは一度混ざった酒と水を再び元の酒と水に戻せと言うようなもの。時を戻す魔法でもない限り不可能じゃ。ましてや、先ほども言ったようにその者達は死んでおる。元の姿に戻せたとしても普通の死体になるだけじゃ』


つまり、彼らを救う手段はやはり……無い。


「そんなのあんたが勝手に言ってるだけじゃない!」


「そうよ!大丈夫よ、ルー、クー!きっと何とかなるわよ!」


『わしの言う事が信じられないというのはわかるがの。わしは嘘をついてはおらんよ。そっちの少年は理解しとるようじゃしな』


「お兄ちゃん?」「ジュン?」


そう、最初のキメラの時から気づいていた。

キメラ達の死体からは殆ど血が出ていないのだ。

人型キメラである彼らも、殆ど血が出ていない。

つまり…生きていない。

本当に魔法的な何かで動いてる。


「彼らからは、殆ど血が出ていない。つまり肉体は既に死んでいる。治癒魔法で治すことが出来ない」


「そんな……」


『ついでに言うと痛みを感じる事も無い。苦しみも無いから殺しても大丈夫じゃぞ。いや、既に死んでおるのじゃがな、フ、ホッホッ』


むかつく爺だ。

必ず捕まえてやる。


「父ちゃん!母ちゃん!」「目を覚ましてください!」


『ん~?なんと、そやつらはお主らの親なのか?そりゃ気の毒な事をしたのう。じゃがそやつらに心は無い。いくら呼び掛けても無駄じゃぞ。それよりは、ほれ。さっさと殺して楽にしてやるがええ。いや、痛みも苦しみも感じてないがな?ホッホッ』


「このっ……外道が!」


二人の両親以外の人型キメラの動きは封じた。

しかし、どうする。

このまま彼らを殺すしかないのか。


「とにかく動きを封じろ!」


『無駄な事はせん事じゃ。ほれほれ、早う殺さんか』


「父ちゃん!母ちゃん!」「お父さん!お母さん!」


『無駄じゃ無駄じゃ。いくら呼び掛けようと……ん?』


ルーとクーの両親のキメラが動きを止めた。

二人の呼びかけに反応したのか?


『どうした?何故止まる?戦わんか!』


「父ちゃん!母ちゃん!目を覚まして!」「お父さん!お母さん!私達です、ルーとクーですよ!」


『戦え!そんな行動をするようになってはおらんはずじゃぞ!』


ルーとクーの両親は腕を上げ、そして……


「あ!」「お父さん!お母さん!」


お互いの首を刎ねた。


『バ、バカな。こんな……』


ルーとクーの両親は首から上は普通だった。

首を刎ねた事で首だけは、普通と言えないかもしれないが、普通の死体になった。

もしかしたらそうすることが彼らにとって唯一の救いだったのかもしれない。

せめて元の姿で死ぬ。

それが本当に救いなのかは誰にもわからないけれど。


ルーとクーは泣き崩れてしまった。

二人の首を魔法の袋から出した布で包む。


「ルー、クー。御両親は後でお墓を作って埋めてあげよう。故郷に帰してあげよう」


「ジュンさまぁ」「父ちゃんと母ちゃんが……」


「うん……今は好きなだけ泣くといい。好きなだけ泣いていいから」


泣き続ける二人をセバストとノエラに任せる。

護衛に親衛隊を残し、イカれた研究の主を捕まえる為、先に進む事にする。

 

『いやいや、素晴らしい!実に興味深い!実に興味深い物を見せて貰った!その礼じゃ。お主らに会ってやろう。本当は姿を見せる事無く去るつもりじゃったのだがな』


キメラが出て来た扉の更に奥から、扉が開いたような音が聞こえる。

進んで来いということだろう。


「後悔させてやる」


誰かに対して、こんなに怒りを覚えたのはいつ以来だろう。

もしかしたら初めてかもしれない。

今のボクは殺意すら抱いているかもしれない。


紋章の力を限界まで引き上げる。いつでも全力を出せるように。

しかし、妙な感覚を覚える。とっくに限界まで引き上げてるのに、まだ何か先があるような、そんな感覚。

かつて無いほど怒ってるのに冷静に自分の状況を把握出来てもいる。

これも紋章の力なのだろうか?



奥に進み、一番奥にあった部屋に入る。

そこはかつて、あの遺跡にあった研究室とよく似ている。

部屋の広さは段違いだったが。


「ようこそ、吾輩の研究室へ。ここに誰かを招いたのは初めてじゃよ。悪いが客人に出せるようなお茶等は用意してないんでな。勘弁して欲しい」


こいつが元凶か。

見た目からすると六十代後半から七十代前半の人族の老人。

どこにでもいそうな白髪の老人に見える。


「自己紹介が遅れたの。吾輩はホセと言う。お主たちの名前を教えてもらえるかの?」


「お前なんかに名前を憶えて欲しくないね」


「おやおや、つれない事じゃ。でも何か聞きたいことがあるじゃろ?今なら答えてやるぞ?」


何だ、こいつのこの余裕の態度。

まだ何かあるのか?


「お前の目的は何だ。あんな趣味の悪いモノを作ってどうする」


「あれは吾輩の研究の通過点に過ぎん。吾輩の目的はもっと先にあるものじゃ」


「もっと先?」


「うむ。吾輩は何故、人族なのじゃろうな」


「はあ?」


「吾輩は知りたい事が山ほどある。やりたい事が山ほどある。そのためにはおよそ百年の寿命しかない人族ではとても足りん。じゃから始めたのじゃ。吾輩が人族ではない、別の種族に進化するための研究を」


つまり、あの人型キメラは……


「自分の寿命を延ばすために魔獣を取り込んで別の、人族以外の種族になる事で果たそうとした、という事か」


「その通りじゃ」


「イカれてるな、爺」


「ええ。世界中を旅して周って、色んな人を見て来たけど、その中でも最高にイカれてるわ」


そうだろうな。

こんな奴よりイカれてる奴なんて歴史上でもそうはいないだろう。


「外をうろついていたドラゴンゾンビもお前が作ったのか」


「その通り。あの球体、呪怨球というのじゃがな。以前研究して吾輩が作ったモノじゃ。そろそろここで研究するのも限界じゃったのでな。引っ越しの準備が整うまで誰も来ぬように守らせていたのじゃ。予想よりだいぶ早く見つかったがな。アレを倒したのじゃろう?やるもんじゃのう」


引っ越しの準備、か。

またどこかでこんな研究を続けて犠牲者を増やすつもりなんだな。


「引っ越しの準備は無駄に終わったな。お前はここで終わりだ」


皆が戦闘態勢に入る。

ホセとの距離は大してない。

一瞬で抑える事が出来るはずだ。

殺す事だって。


「いいや、無駄ではないぞ。引っ越しの準備はギリギリ終わったしの。まだ研究を続けねばならぬし、捕まるわけにはいかんのでな。では、さらばじゃ」


「あ!」


フッと姿を消すホセ。

その足元には、魔法陣がある。


「この魔法陣は、転移の魔法陣、か」


「逃がしちゃったの!?」


同じように魔法陣を使って転移しようとしたが、魔法陣が働かない。

対となる魔法陣を消して使えなくしたのだろう。

まんまと逃げられてしまった。


「落ち込んでんな。やる事はまだあるぞ」


「まずは何か手掛かりが無いか、この部屋を調べましょう。それにあいつは国内だけじゃなく、他の国にも知らせを出して賞金首にしなきゃ。流石に放置は出来ない、必ず捕まえなきゃいけないわ」


お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの言う通りだ。

まずはセバスト達と合流。

犯人を逃がしてしまった事を伝え、ルーとクーに詫び、二人は先に転移魔法で連れ帰る。

二人の事はセバストとノエラとリリーに任せて、手掛かりを探しに戻る。

しかし、何の手掛かりも無く終わり、助ける事が出来ないとわかった人型キメラの後始末も終えて城に戻り、その頃には何とか落ち着いたルーとクーに出迎えられる。


「ジュン様。父ちゃんと母ちゃんの仇はあたい達に討たせてくれ」


「その為に強くなります。だから、どうかお願いします」


こんな子供が復讐の為に生きるなんて真似、させたくはない。

させたくは無いが気持ちはわかる。

無理もないとも思う。

だけど……


「大丈夫だ、ジュン様。そんな顔しないでくれ」


「私達、ちゃんと話合ったんです。お父さんとお母さんの仇は討つ。だけどそれだけじゃなく、ちゃんと幸せになろうって。だってお父さんとお母さんが昔言ってたんです」


「「幸せになる為に生きなさいって」」


二人の両親がどういう思いでそう言ったのかはわからない。

だけどその言葉は、今の二人にとても大切で、必要な言葉だと強く思えた。


「だから、あたい達は大丈夫だ、ジュン様」


「私達、頑張ります」


「そうか……二人は偉いね」


ボクがこの二人と同じ状況になったとして。

果たして同じ事が言えただろうか?

それは同じ状況になってみないとわからないけれど、二人の敵討ちは果たさせてやりたい。

そう思った。

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