第81話 山賊のアジトへ
「綺麗な山だね」
「人の手が余り入ってないんだろうな。タマモさん、この山にはどんな魔獣がいるんですか?」
「この辺りの山には魔獣はいません。危険なのは熊くらいです」
魔獣がいない?これだけ立派で自然豊かな山なら魔獣は居そうだが。
「この辺りの山は神獣白猿様が守っています。動物や私達は山を荒らさない限り襲われる事は有りませんが他所から魔獣がやって来たら白猿様がすぐ退治しますので」
なるほど、神獣に守られた山か。
なら道中、魔獣に襲われる心配はないか。
「山賊は退治してくれないの?」
「山を荒らさない限りは山賊も退治されません。白猿様から見て私達と山賊の違いは分からないそうですし」
そんなものかもしれないな。
神獣何て存在からしたら村人と山賊の違いなんて分からないのも無理ないのかもしれない。
「山を荒らすって言うのは具体的に言うと?」
「そうですね、木を切り過ぎたり動物を狩り過ぎたり。山に火を付けるなんてのは以ての外ですね」
なら今回は大丈夫だろう。
木を切るつもりも狩りをする気もない。
山に火を付ける気もない。
白猿に襲われる事はなさそうだ。
と、思っていたのだが。
そこでハティが目に入って気づく。
「タマモさん、山に入ったのが神獣だった場合はどうなる?」
「神獣、ですか?さぁ…わかりません。ですが神獣が入ったとしても白猿様は気が付いているでしょうから、何かするならすぐにするでしょうね。何故そんな事を?」
「ハティは神獣だから」
「「「あっ」」」
皆ハティが神獣フェンリルである事をようやく思い出したようで、ハティに視線が集まる。
ハティはどうしたの?と首を傾げてる。
その仕草が可愛くて思わず抱きつきたくなるがそれは後回しにするとして。
「え、その子、神獣なんですか?普通の狼じゃなくて?何でもっと早く言わないんですか!どうするんですか!」
「いや、むしろ貴方が先に気付きなよ!ウチらはこの山の事は今初めて聞いたんだから!」
「それにハティが普通の狼じゃない事ぐらい見てわかんないの!?」
「解るわけ無いじゃないですか!山には魔獣はいないし普通の狼だってここらじゃ滅多に見ないし!それに常識で考えても神獣の狼を連れてる何て思うわけないじゃないですか!田舎者舐めないで下さい!」
アイとユウの言い分は解るしタマモさんの言い分も解るな。田舎者は関係ないと思うが。
「とにかく一度戻ってハティには悪いけど留守番をーーー」
あ、やばい、何か来る。
以前、ハティのお母さんが突然現れた時の感覚に似てる。
「ジュン様、やばい!何か来る!」
「判ってる!皆ボクの周りに集合!いざって時は転位で逃げる!こちらから手出しはするな!アイはハティを抱えてて」
「うん。ハティおいで」
ハティが暴走したり、今向かって来てる存在が問答無用でハティを狙って攻撃して来てもアイなら対応出来る。
「来た!」
セバストの言葉とほぼ同時に。
目の前にドスンと木の上から落ちて来る。
それは見た目は猿その物。
ただ体は大きく毛は白い。
間違いなく目の前のそれは神獣白猿だろう。
『ふむ、魔獣とは別の気配を感じて来たのだが神獣フェンリルか?まだ子供のようだな。我が領域に何用か』
「私が代わりにお答えします、偉大なる山の王、白猿よ。我々は人を探して山に入りました。山を荒らすつもりはありません。お許し願います」
『人探し?人探しに何故フェンリルがいる?』
「この子の名前はハティ。私とは縁あって契約を交わしました。今では家族同然の付き合いをしています」
『ほう、神獣とか。そこな子よ、それは真か』
「わっふ」
『ふむ、ならば良い。山を荒らすのでなければ好きにせよ。そこな娘よ。怖がらせたようで済まなかったな。さらばだ』
そう言って白猿は去って行った。
話の分かる奴で助かった。
最後に誰に謝ったのかは分からないけど。
「ふう、ちょっとビックリしたけど何事もなくてよかった。じゃあ進もう」
「「「は~い」」」
親衛隊とタマモさん以外はもう大して驚かなくなったな。
ボクもだけど。
そして歩みを再開しようとしてタマモさんが動いていない事に気が付く。
「タマモさん?行きますよ。案内をお願いします」
動かないな。まるで反応がない。
白猿が言ってたのはタマモさんか。
「返事がない。ただの屍のようだ」
「え!タマモさん、死んじゃったんですか?」
ユウのジョークにリリーが本気で驚く。
そのネタはこの世界では通じないだろうなぁ。
「いやいや。生きてるよ。タマモさん、もう大丈夫だからしっかりして」
ポンッと肩を叩くとビクッとしたあとその場にへたり込むタマモさん。
どうやら腰が抜けたらしい。
「タマモさん、大丈夫?もう白猿はいませんよ。危険はもうありませんから」
「あ、あ…」
だんだん目に光が戻って来たがそれと同時にタマモさんの下半身に異常が。
どうやら失禁してしまったらしい。
それから約一時間。
泣きじゃくるタマモさんを女性陣に任せ。
ボクとセバストは離れた場所で待機する。
幸い近くに小川があったので、そこで濡れてしまった衣服を洗ってユウの魔法で乾かしているはずだ。
ようやく落ち着いたタマモさんを連れて皆が戻って来た。
「あ、あ~、じゃ何事も無かった事だし行こうか」
「いや、それは無理があるよ、お兄ちゃん」
ダメか。
何も無かった事にしようとする作戦は身内に却下されてしまった。
「あ~、タマモさん。もう大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです。最悪です。もうお嫁に行けません」
「誰にも言いませんから、大丈夫ですよ」
「ここにいる人には見られてるじゃないですかぁ!責任とってください!」
ボクに何の責任があると。
そりゃ失禁したとこは見ちゃったけども。
「それは、ほら。セバスト!セバストも見てるから!」
「いや、オレは見てないぞ、ジュン様」
シレッと言い放ち明後日の方を見るセバスト。
自分だけ逃げるつもりかっ!とセバストを見るが目を合わせようとしない。主を見捨てるとは何て執事だ。
「あ、お嫁さんにはなれるじゃないですか、例の三男が」
「あの男と結婚するくらいなら白猿様に食べられた方がマシです!」
ダメかー。
まぁそうだよね。
他に何かあるかな。
「じゃあ誰かいい男を探して紹介しますから、ね?」
「ジュン様が責任をとってください!」
これもダメか。
とりあえず先延ばしにして落ちつくのを待とう。
「とりあえず先を急ぎましょう。その話は全部終わってからで」
「絶対に責任をとってもらいますからね!忘れませんから!」
忘れて欲しいなぁ。
自分にとっても忘れた方がいい記憶だろうに。
それから捜索を続ける事、数時間。
夫婦は一向に見つからない。
魔法でも探してみたが成果なしだ。
「これは、やっぱり山賊のアジトに向かった方がいいかな」
「それがいいかもね。あ、インビジブルバードを呼んで探させたら?」
「それもちょっと考えてたんだけどね。白猿が怒ると思うから、無しで」
「あ、そっか」
「タマモさん、山賊のアジトは分かります?」
「いえ。でもこの辺りの山で山賊がアジトに出来る場所は限られてます。多分一番怪しいのは山の中腹にある洞窟です。案内します。しますけど…」
「しますけど、何です?」
「あの、今更ですけど山賊相手に勝てるんですよね?わたくしを
含めても九人しかいませんけど。ハティちゃんでしたか?その子を数に入れても十人。山賊は五十人はいるとの話ですが」
本当に今更だな。
まぁボク達の事はあまり知らないだろうし、四人は子供だしね。
あ、リリーはもう成人したんだったかな。
「大丈夫よ。私達はドラゴンだって倒した事があるんだから。ね、お兄ちゃん」
「まぁね。大丈夫ですよ、タマモさん。最悪逃げるだけなら何とでもなりますから」
「そうですか、安心しました。では、こちらです」
そうして更に一時間後。
問題の洞窟の前に到着する。
「見張りもいないようだけど、ここじゃないのかな?」
「ちょっと待って魔法で調べて見る」
探査魔法で調べた結果、洞窟内に人がいるのは確かだ。
二十人はいるようだ。ここで間違いないだろう。
「ここで間違いなさそうだ。見張りもいないのは何故か分からないけど」
それくらいの知恵はあると思うが。
「とにかく入ろう。山賊は出来るだけ生け捕りにする。無理なら手加減しなくていい。虫の息でも生きてれば治せるから」
「「「ハッ」」」
山賊退治は初めてだし、油断せず行こう。




