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第79話 教育と調教は別物です

武闘会が終わって数日後。

いつものメンバーに親衛隊の二人を護衛に狐人族の青年ギンを加えてギンの故郷へ遊びに来ている。


本当は護衛なんていらなかったんだけど実施訓練を兼ねて出来るだけ誰か連れて行って欲しいと師匠に頼まれたので仕方ない。


「何だか変わった家ばかりですね、ジュン様」


「でもなんだか落ち着く雰囲気ですぅ」


王都暮らしのノエラとリリーには見慣れない景色だろう。

ボクとユウ、アイは見慣れたとまでは言わないが

懐かしさを感じる。

日本の古きよき田舎の村と言った感じだ。


「いい感じだね~」


「うん、何となく空気も美味しい~」


「気に入って貰えたなら何よりでござるが、都会の人から見れば何もない村でござろう?」


このござる口調はギンだ。

村の若者の多くは田舎暮らしをやめて都会に出て士官したり冒険者になるのだとか。

ギンも親衛隊に勧誘された事で念願の都会暮らしが出来るわけだ。

今日はその報告を家族にするため一度家に帰るという彼に便乗して付いて来たわけだ。


「あの家でござる」


「へぇ。大きな家だね」


庭付きの一軒家。部屋数は十以上は有りそうな家。日本の古民家のような。


「座敷童子とかいたりして」


「ほう。我が殿は博識でござるな。この辺りにのみ伝わる伝承、お伽話の類なのですが」


「ザシキワラシ、とは何なのですか?」


「古い家に住み着くか、或いは生まれる妖精の事でござる。子供の姿をしており住んでいる家を守ったり住人を災いから守ってくれる、良き存在でござる」


「ふ~ん。家妖精に似てるな」


「うむ。その認識で間違いないでござるよセバスト殿」


「そうか?なら城で働くのを楽しみにしてな。城には本物の家妖精が働いてるぜ」


「なんと。本当でござるか?」


「ああ。メリールゥって名前だ。城に戻ったら紹介するよ」


「よろしく頼むでござる」


そのメリールゥは城で働くメイド達の人気者になっている。

何せ家事は完璧。しかも怖ろしく速い。

仕事が楽になったと評判だ。

ノエラに余計な事を吹き込まれたらしく、たまにおかしな行動をとるのが唯一残念な所か。

ノエラにはおかしな事を新米メイドに吹き込むのは止めるように言ってるのだがまるで止めようとしない。困ったもんだ。


「ジュン様、何か?」


「いや、何も。さぁ、いつまでも家の前で話してないで入ろうよ」


「そうでござるな。では、どうぞ。父上!母上!今帰ったでござる!」


ギンの家に入るとギンの両親に迎えられる。

ひどく緊張しているようだ。


「よ、よよ、ようこそおいでくださいました!ギンの父です!」


「ギンの母です!」


「あ、初めまして。ジュン・エルムバーンです。こっちが妹のユウ。こっちは一応、婚約者のアイ・ダルムダットです」


「ちょっと、ジュン。一応は余計でしょ」


アイが文句を言うがそれに答える前にギンの両親が盛大に反応する。


「えええ!ジュン様だけでなく、ユウ様にアイ様まで!?」


「ちょっとギン!ジュン様が来るとしか聞いてないわよ!」


「む?先触れに出した手紙にちゃんと書いたであろう?」


「ジュン様一行が来るとしか聞いてない!」


「同じことでござろう?」


「「全然違う!」」


まあ、急に国の重要人物が一般家庭を訪ねるってなればこんな感じになるのかなぁ。

自分はそんな経験ないし自分の事をそんな大した存在だと思ってないので別に普通の客を迎える対応で構わないのだが。


「と、とにかくお上がりください。どうぞ、こちらです」


「はい、お邪魔します」


「「お邪魔しまーす」」


「ジュン様、ユウ様にアイ様も。どうして靴を脱ぐんだ?」


「そういえばギンさんのお父さんお母さんも靴を履いてないですぅ」


ああ、そうか。知らないのか。


「こういう作りの家では靴を玄関で脱いでから上がるんだよ」


「ジュン様は本当に博識でござるな。その通りでござる」


「そうなんですか?変わってますぅ」


まあ、予備知識無しだとリリーの反応が普通なんだろうな。


それから案内された部屋でもみんな驚く。


「これは?藁を編んだ敷物ですか?」


「ちょっと面白いですぅ」


そうか、畳も初めて見るんだな。

ボクも転生してから初めて見るし。


「本当に変わってるな」


「あの、椅子が無いのですがもしかして床に座るんですか?」


そうか、客人を床に座らせるというのもノエラ達にはおかしな事なんだろう。

同じエルムバーン魔王国内とは思えない文化の違いだな。


「これは畳って言ってね。畳の部屋では、ほら、そこに置いてある座布団ていうクッションの上に座るんだよ」


「しかし…私達はともかくジュン様、魔王子様と魔王女様を床に座らせるなど…」


そうか、ボク達を床に座らせるのが嫌だったか。


「ノエラ、こういう文化の違いを楽しむのも旅の醍醐味だと思うよ。ボク達は気にしてない、むしろ楽しんでるから。ノエラ達も座って」


「はい…わかりました」


ノエラもようやく納得してくれたようでみんな座り始める。

それを見てホッとした様子なのがギンの両親だ。


「済みません、皆様。都会の方々の持て成し方など私どもにはわかりませんので…」


「いえ、お気になさらず。ボクは楽しんでますよ」


「ありがとう御座います。しかし、随分この辺りの風習にお詳しいのですな」


前世が日本人ですから。

なんて言っても理解出来ないだろうなあ。

別の話に変えて誤魔化そう。


「ええ、まあ。ところでこの村に宿は有りますか?」


「はい、御座います。ですがどうぞ我が家にお泊まりください。部屋の用意は出来ております。それよりもギンを親衛隊に入れてくださるとか?」


「はい。彼は優秀な剣士でしたので勧誘させて貰いました」


そう、決してここに来たかったからではない。


「そうですか…ギン、よくやった!お前は我が家の誇りだ!」


「本当に、自慢の息子だわ」


そんな泣いて喜ばれると逆にこっちが申し訳なくなるな。

そんな大した人物じゃないんですよ?ボク。


「あなた、ジュン様にあの事を伝えないと」


「ああ、そうだったな。ジュン様に一つお願いしたい事が御座いまして」


「なんでしょうか?」


他の子供も雇ってくださいとかかな?

出来なくは無いけどそれをすると際限なく来るからなぁ。

出来ればお断りしたい。


「ジュン様は治癒魔法を使えると噂で聞いております。実はこの村は領主様の街から遠く通うのも難しいので病人や怪我人の治癒をお願いしたいのです。特に怪我人が多くて」


違った。

しかも結構深刻な話だった。


「わかりました。早速始めましょう。患者達を一カ所に集める事は出来ますか?外でも構いません」


「はい。実は既に村長の家に集まるよう伝えてあります。ご案内します」


ボクの治癒の仕方を知っているのか手際よく進めようとしただけなのか。

案内された村長の家の大広間には三十人近い怪我人や病人が集められていた。


「ジュン様ですね?この村の村長のゴンタと申します。急なお願いにも関わらず心よくお引き受け頂き有難う御座います」


「いえ、構いません。直ぐに済みますし」


ざっと患者達を見る。

患者達もギンの両親も村長も、皆狐人族だ。

どうやらこの村には狐人族しかいないらしい。

これはエルムバーンではかなり珍しい。

単一種族しかいない村なんて転生してから初めて見る。

とにかく治癒しよう。

普段なら病人と怪我人に別れて貰うんだけどこの人数にこの広さなら纏めて治しても大丈夫だろう。


「マスヒーリングオール!」続けて「マスディジーズキュア!」


「「「おぉ!」」」


問題なく患者達の治癒は終わり。

皆大げさなまでに御礼を述べていく。

病院が出来てからは治癒魔法使いとして働いてなかったからこの感じは久しぶりだな。


「有難う御座います、ジュン様。御代はいかほどお支払いすれば?」


「いりませんよ。今までも貰った事はありませんから。お気になさらず」


「ですが、何もしないわけには。そうだ、我が孫娘を嫁にするのはいかがです?妾でも構いません」


何ちゅうこと言い出すんだこのオッサン。

つうか孫がいる年齢なのか。

この世界の人は見た目で年齢が判断しにくいから困る。


「いえ、そういうのは不要です。間に合ってます」


チラッとノエラ達に目をやる。

それだけで意図は通じるだろう。

誰にも手を出した事はないけども!


「まぁそう仰らずに。我が孫ながらかなりの美人です。この村でも一番の美人です。今呼びますので、会ってやってください。おーい!タマモ!」


「いえ、ですから…」


人の話を聞かないな、このオッサン。

ていうか御礼代わりに孫を差し出すなんて、何考えてるんだ。

こういう爺さん、いや、こういう考えの人、嫌いだな。

ややあって件の孫がやって来た。


「初めまして、ジュン様。わたくし、タマモと申します。末永くお願いします」


いや、末永くって。

最初っから孫を差し出す気で話を通してたのか?

しかし、確かに美人だ。

そういえば日本の神話にも出て来た玉藻前という九尾の狐が化けた女は美女だった。名前も似てるし狐人族だ。偶然にしては出来すぎてる気がするな。

まぁ貰うつもりは無いけど。


「初めましてタマモさん。ジュン・エルムバーンです。貴方を貰い受けるつもりはありませんので御安心ください」


「あら、わたくしでは御不満?」


「は?いえ、そういうわけでは」


なんだ?祖父に言われたからじゃないのか?


「なら何故かしら?わたくし程の女を妻に出来るなんて幸運、そうそうありませんよ?」


「ボクには既に婚約者がいますし」


「存知てますわ。ですが貴方様なら一人や二人増えた所で問題無いでしょう?」


「いや、そんなことは」


確かに経済的には前世と比べるとかなりの稼ぎになってる。

お金は問題無いが気持ちの問題がある。

複数の妻を持つのは抵抗があるのだ。

既に二人婚約者がいるけど殆ど勝手に決められた事だし。


「それにわたくしの夫に相応しいのは貴方様くらいでしょう。強く賢く美しい魔王子。まさにわたくしの夫に相応しい!」


う~ん。

ボクが褒められてるのか自分を褒めてるのか。

どちらにせよ、あまり好きになれないタイプだな。


「さあ!わたくしを、妻にするとお言いになって!」


う~ん。どうしたものか。

断っても納得しなさそうだなぁ。

まぁ断るしかないんだけども。


「ですから、そのつもりはありません。御代も不要です。失礼します」


「お待ちになって!どうして素直にわたくしを欲しいと仰らないの?照れてますの?」


いや、とっても素直な気持ちを口にしてますが?

もちろん照れてません。


「それとも顔と同じで心も女々しいのかしら?男なら男らしくわたくしを強引に連れ去るくらい、ヒッ」


ボクを侮辱する言葉を発したタマモさんに複数の殺気が向けられる。ユウにアイ。ノエラとリリー。ハティもだ。

セバストとギン、親衛隊の二人も不快そうな顔をしてる。


「村長さん」


「は、はい」


ユウの底冷えするような声に押され擦れるような声で返事をする村長さん。

怖いよね。ボクも怖いよ。


「ちょっと女だけで話し合いたいのでどこか御部屋お借りできます?出来れば防音に優れた部屋がいいんですけど」


防音て。

ナニをする気なんだ。


「は、はい。でしたら庭の蔵が一番かと」


「じゃあ、そこを借ります。さ、行きましょうかタマモさん」


「あ、あの?な、なにを為さるおつもり?ていうか首を掴まないで」


文字通りアイに首根っこを摑まれて連行されるタマモさん。

気のせいかな、もう会えない気さえする。


「ふぅ。ギン、タマモさんとは知り合いだろ?以前からあんな感じ?」


「いえ、以前はもう少し控え目でお淑やかだったかと。拙者が武闘会に出る為に王都へ向かう前までは普通でした」


ならこの短期間に何かあって変わったか、何か事情があってああいう態度をとったか。

可能性として高いのは後者かな?


「では、村長さん。何か事情があるんですか?」


「その…ええと…」


言えない理由でもあるのか?

村長さんの目が泳いでる。


「まあ、話の続きはタマモさんが戻ってからにしましょうか」


「はい…」


それから約三十分後。

戻ってきたタマモさんは豹変していた。


「先ほどは大変失礼しました。どうかわたくしめを貴方様の下僕にしてください」


この短時間にこの変わり様。

一体ナニがあったのか。

因みに見事なまでの土下座である。


「みんな?一体ナニしたの?」


「教育よ、お兄ちゃん」「教育だね」「教育ですね」「教育ですぅ」「わっふ」


そっかー教育かー。

調教じゃないのかなー。


「ええと、タマモさん。何か事情があるなら言ってください。力になれるかはわかりませんが」


「はい。卑しいメス豚を気遣って頂き有難う御座います」


なんだこの衝撃Before・After。

驚きの変わり様。


「ギン。以前の彼女はこんな感じだった?」


「いいえ、もっと明るい前向きな性格だったかと」


デスヨネー。

村長さんもドン引きである。

無理もない。


「とにかく何かあるなら話して」


「はい。実は…」


要約すると。

この辺りを治める領主の息子に求婚されている。

ずっと断ってるがしつこく付きまとって来る。

遂には権力で命令して来たので今回の行動に至ったと。


「それなら最初っからそう言って助けてって言えばよかったじゃない。何であんな事言ったの?」


アイの言うことは尤もだと思う。

最初から言ってくれれば調教されずに済んだのに。


「教育だよ、お兄ちゃん」


「また心読んだ?」


最近よく心読まれるな。

とりあえずそれは置いておくとして。


「それで?」


「はい。わたくしが自分からジュン様の妻になったのではなく、出来るだけジュン様の意思で連れて行かれたという形が望ましかったのです」


あれで…?

あれじゃ仮に連れて帰ったとしても押売としか。


「すみません、とにかく連れて帰ってもらわないとって必死だったので」


それにしてもやり方が悪かったと思う。

まあいい、とりあえず話の信憑性を確認しないと。


「その領主の息子の名前は?」


「リンク・コタンです。領主様の三男で」


「セバスト、知ってる?」


「ああ。面識はないが末っ子で甘やかされて育ったらしいな。ワガママなガキらしい。現領主と兄二人はまともらしいが」


噂通りならタマモさん達の言う事が真実か。

或いは噂を利用して取り入ろうとしてるのか。

まぁそれは無いか。

散々調教…もとい教育されたらしいし。


「それで、何て言って脅して来たんです?」


「明後日に迎えに行くから嫁入りの準備をしておけ。拒んだらお前の一族は犯罪奴隷だ、と」


「そんな権限領主の三男坊にない。ないよね?」


「ないな。領主でも無茶な話だと思うぜ」


だよなあ。

我が国にもいたか、そういう問題児が。


「ならボク達は数日ここで過ごす予定でしたのでその三男坊が来た時にガツンと言ってやりましょう。さらに父にも報告しておくので御安心を。拒んでもなんの問題もありませんよ」


「ありがとうございます、ジュン様」


「申し訳ありません、最初から素直にお願いしておけば…」


それは全くだね。

まあ、権力者の息子に嫌な思いさせられてきたんだ。

ボクの事も頼りつつも信用しきれなかったんだろう。


「ちなみにそのリンクってどんな奴?」


「十二歳のガキでとりたてて大した能力もないガキだって聞いてるぜ。顔だけはまともらしいがデブで台無しにしてるとか」


十二歳で嫁を求めてるとか。

とんだマセガキだな。


「タマモさんはおいくつ?」


「今年十五です」


十五歳の女の子に十二歳の男の子が恋をする。

う~ん、普通といえば普通な気がする。

権力で無理やりじゃなければ。


「どこで出会ったんです?ここあんまり外から人がくる場所じゃないですよね?」


「はい。ですが初めて会ったのはこの村です。この村の温泉に入りに来た時に」


「温泉があるのおおお!?」


マジか!

この世界では温泉がある街や村は殆どない。

そりゃそうだ。地下深くの温泉を探し当てて掘る技術はこの世界にはない。

井戸だって苦労して作る世界なのだ。

温泉がある村なんて本当に希少なのだ。


「入りたい!温泉!どこに行けば入れる?宿?宿かな!?」


「ジュン様、拙者の家でも温泉には入れますのでご安心を」


「おお!じゃあすぐに戻ろう!それじゃ村長さん、タマモさん。その領主の息子が来たらボク達が立ち会いますので、それじゃ!」


「は、はい」


「よ、よろしくお願いします」


さぁ転生後初の温泉へレッツゴー!

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