第78話 お酒は大人になってから
「え?あれってコケ脅しなんですか?」
「うん、実はそうなんだ」
今はボク達は武闘会終了後のパーティーに参加している。
決勝トーナメント出場者である師匠、クリステア、ルチーナはパーティーに出ている。
他のボクの親衛隊はパーティー会場の警護に当たってる。
ボクの親衛隊は出来たばかりなのでこういう機会を逃さず経験を積ませようという事だ。
エルムバーンの領主達だけでなくフレムリーラやダルムダットの魔王も参加しているので新米親衛隊だけでなく父アスラッドの親衛隊も警護中だ。会場の外を近衛騎士で警備している。
そしてボクは今、フレデリカに試合の時のフェニックスとブルードラゴンを出した魔法について説明していた。
「あれは、実は見た目より強くない。せいぜい中位精霊よりはちょっと強いかな程度。魔法の威力はそれぞれ中位魔法以上上位魔法未満の威力の魔法を連発できるくらいかな」
「それ、充分強いじゃないですか」
「そう?見た目ほどじゃないと思うけど」
この世界にはフェニックスもブルードラゴンも存在する。
その姿に似せて作ったし精霊を宿らせて生きてるようにも見せた。
見た目とその動作から受ける迫力はかなりものだと自負してる。
無駄に精巧に作ったしね。
「何故そんな魔法を作ったんですか?ジュン様ならまともにやっても勝てたのでは?」
一緒に話を聞いていたベリンダが質問してくる。
この子は訓練生時代から疑問に思った事はすぐに質問してくるね。
「ボクは魔法の威力が高すぎるんだ。手加減しても相手が避けるか防ぐかしないと大怪我させてしまいかねない。だから怪我させずに勝つ方法を考えた結果だよ」
他にもいくつか思いついたけど怪我をさせずに勝つには降参してもらうのが一番楽だと思った。
だから今回はあの魔法を使ったわけだ。
「転移魔法で場外に落とせばよかったのに」
「え?」
「簡単に出来たでしょ?転移魔法で場外の地面から少し高いとこへ転移して落とせば。自分はもう一度転移するか飛行魔法で戻ればいいし」
それは考えて無かったー。
確かに武闘会ではその方法が一番楽だったかもしれない。
アイ、もっと早く言って欲しかったよ。
「そこは、ほら、アレだ。観客を少しは楽しませないと。派手な魔法で」
「そういった意味ならあの魔法は余計ダメだったんじゃない?泣き出してる子供もいたし大人もビビってたよ」
泣いてる子供もいたのですか。
誠に申し訳ございませんでした!
「さ、ボクはちょっと他の人とも話をしてくるよ」
ここは一旦離れるに限る。
「逃げた」「逃げたね」「逃げましたね」
逃げたのではない。
ちょっとやるべき事があるのを思い出しただけだ。
ほんとだよ?
「楽しんでる?クリステア、ルチーナ」
「ジュン様。はい、楽しませていただいてます」
「私もです。姉さんの監視はちゃんとしてますからご安心ください」
うんうん、ルチーナは偉いなあ。
こんな時でもちゃんと監視してくれて。
そしてこの場にいるのはもう一人。
「初めまして、ユリア・ランドルトさん。ジュン・エルムバーンです」
「御初に御目にかかります、ジュン様。以後お見知りおきを」
優雅な所作で挨拶をするユリアさん。
クリステアと張り合うだけあって美人だし様になってる。
「それにしても、ルチーナはともかくクリステアとも仲良さそうだね。試合の時の様子だと普段から仲悪いのかと思ったけど」
まあ、それは表向きで実はユリアさんはクリステアが大好きなのだと思うけど。
「あれは、その、勝負事になると熱くなるので、普段は普通の友人ですのよ?」
「ユリアさんは普段はあんなんじゃないんですよ?私とも親しくしてくれてます」
そうか。じゃあ安心かな?
「じゃあ、ユリアさん。試合の時、ボクの親衛隊に入りたいって言ってたけど、本当に入る?」
「え、よろしいんですか?」
「ユリアさんさえよければ」
「は、はい!是非!」
「じゃあ、決まり。これからよろしくね」
「はい!よろしくお願いします!私の事はユリアと呼び捨てになさってください!」
ユリアさんを親衛隊に勧誘する事は皆と事前に相談の上で決めてあった。
他に勧誘する予定の人物も既に調査は終えてあり問題ない事も確認済みだ。
それにしても、喜ぶのはいいがそのドレスであんまり動くとポロリと行きそうだ。
パーティーには女性がドレス、男性も礼服で参加している。
ユリアとクリステアは胸を強調したドレスを着ていてその動きに視線が誘導されてしまう。
「ジュン様?見すぎですよ?」
この中では唯一普通サイズのルチーナに怒られてしまった。
見ちゃダメならあんなドレス着て欲しくない。
つい見ちゃうんだもの。
「ユリア、せっかくですから貴方も勝負に参加しますか?」
「勝負?なんの勝負ですの?」
突然なんの話ですの?
「親衛隊女性メンバーで一つ勝負をしているのです。貴方も親衛隊になるのならどうかと思いまして」
「貴方も参加しているのね?なら参加しますわ。そして今度こそ貴方に勝ってみせます!」
「よろしい。では勝負の内容ですが、誰が最初にジュン様に抱かれるか、です」
「ええ、わかりましたわ、って?何ですって?」
何ですって?
「ジュン様に誰が一番最初に抱かれるか、です。ジュン様にとって誰が一番魅力的か。それが解るわけです」
「でしたら最初っからジュン様に誰が一番か聞けばいいじゃないですの!」
全くですの。
ユリアの言う通りですの。
「それではつまらないじゃないですか。ちなみに親衛隊女性メンバーは全員参加してます」
「全員って‥‥‥ルチーナさんもですの?」
「はい‥‥‥私も参加してます。成り行きで‥‥‥」
成り行きでって。
君は本来そういうのを止める側でいてもらうはずなんだが?
「すみません、ジュン様。数百人の眼力には勝てませんでした‥‥‥」
成程。
それはボクも勝てそうにないからルチーナを責める気にはなれない。
「嘘はよくないですよ、ルチーナ。貴方も内心ではドキドキしながらノリノリで参加したのでしょう」
「してないわよ!姉さんが参加を決めたんじゃない!」
頑張れ、ルチーナ。
それから気になる事があったの聞いてみた。
「どうしてそんな勝負をする事になったんだ?」
「はい。ジュン様の親衛隊の騎士である以上、ジュン様の命令は絶対。ならば身体を求められたら差し出さねばならない!と、私が熱く親衛隊の女性騎士達に心構えを説いた結果、勝負する事になりました」
クリステアに騎士の心構えとか説かせるの一番ダメじゃね?
誰だクリステアにそんな仕事させたの。
「あの、ジュン様。ジュン様が以前姉さんに近衛騎士だった経験を活かして新米騎士に色々教えてやってくれっておっしゃって、その流れで‥‥‥」
ボクだったかー。
そんなつもりで言ったんじゃないんだけどなー。
「あ、あ~その勝負女性は全員参加って?本当に?」
「はい。漏れなく全員参加です。私と同じく『魔王子様と女騎士』の愛読者が多く。読んだ事がない者も話を聞いて興味をもち今ではほぼ全員が愛読しております」
なんて危険な本なんだ。
セバストとノエラに本の作者を探らせているけど未だ判明していない。
なんかもう魔王子様シリーズに国が侵食されてる気さえする。
早くなんとかしないと。
「全員て、リディアも?彼女も勝負するの?」
「はい。リディアは『魔王子様と病弱な少女』の愛読者です」
どんだけ幅広いんだ魔王子様シリーズ。
他国で販売されてないだろうな。
当の本人リディアさんは慣れない鎧姿で警備に当たってる。
まだ子供だから目の前のパーティーに参加したいだろうに。
あとで差し入れでも持って行かせよう。
ユリアの勧誘は終ったので次の人を勧誘に向かう。
勧誘はボクと師匠の二人でする事になってる。
師匠は今、ルチーナといい勝負をした大男イグナスと話をしている。
どうやら感触は良さそうだ。
しかし、筋肉でパンパンな礼服が似合ってないなイグナス君。
武闘会を見て勧誘を決めたのは四人だけ。
ユリア・イグナス・ギン・フィーリアだ。
他はオカマさんだったり婚活女子だったりで選べなかった。
魔法部門に至っては全滅だ。
イグナスとギンは師匠が勧誘すると言ってた。
奥さんの前で女性に話かけれないとの事だ。
今日のパーティーに奥さんと娘さんを連れてきていてさっき紹介された。
美人の奥さんに美人になる事間違いナシな娘さん。
だれもが羨むリア充家族だった。
もちろんボクも羨ましい。
あるテーブルに皿が山積みになってるのを発見する。
そこにはシルヴィさんとフィーリアさん母娘がいた。
「こんばんは。シルヴィさん、フィーリアさん」
「あらぁ~ジュン様。もしかして母娘まとめてナンパにきたの~?ダメよ~私は亡き夫に操を立ててるんだから~」
「違いますよ」
いや、全く違うわけでもないか。
少なくともフィーリアさんを勧誘に来たのだから。
「フィーリアさんに少し御話しが。今いいですか?」
「あら~私じゃなく娘狙い~?やっぱり若い子がいいのね~」
そういう事じゃないんだけどね。
ていうかフィーリアさん食べるのに夢中でこっちに気が付いてない?
「ごめんなさいね~ジュン様。この子、一度食事を始めたら中々満足しなくって~」
既にテーブルの上には三桁にせまろうかという皿が積まれている。
これ明らかに、フィーリアさんの体積を超える量が有ったと思うんだけどな。
「ぷぅっ。とりあえず落ち着いた~。私に何か御用ですか~?」
流石親子。
喋り方はソックリだな。
「単刀直入に言いますね。フィーリアさん、ボクの親衛隊の騎士になりませんか?」
「ならない~」
即答だった。
「理由を聞いても?」
「御飯を好きな時に食べれないでしょ~?」
なるほどぉ~。
実に納得の答えだ。確かに親衛隊になると自分の好きな時に好きなだけ食べる事は出来ない。
「それに私~お母さんと一緒に暮らす為にこの国に来たから~冒険者を辞めて騎士になったらあまり一緒に居られなさそうだし~」
それも納得だ。
メイド等の使用人なら通いで働く事もできるが騎士は遠出する事もあるし城に泊まりこみが続く事もあるだろう。親衛隊はその点まだマシだと思うけど、それでも自由が利く冒険者よりは拘束される。
「そうですか。わかりました」
残念だが仕方ない。
無理強いをするつもりもないし親衛隊は充分いるのだ。
「ごめんなさいねジュン様~。この子はグリムモアで冒険者をして暮らしてたんだけど、私と暮らすためにこっちにきたから~」
「グリムモアでは一人暮らしを?」
「ううん。お爺ちゃんお婆ちゃんと一緒。伯父ちゃんもいた」
シルヴィさんの両親と御兄さんか。
これ以上は詮索しないでおこう。
「お食事の邪魔をしてすみません。それでは」
「ジュン様~、この子王都でも冒険者をやるから偶にパーティー組んであげて~。ね、フィーリア」
「うん。よろしく~」
「はい、その時はよろしく」
話を終えてアイとユウのとこに戻るとシャンゼ様が酒を用意して待っていた。
「お帰りなさい、ジュン君」
「ただいま、シャンゼ様。そのお酒は?」
「ジュン君の分よ。ささ、飲んで飲んで」
「ボクは未成年ですよ」
この世界では十五歳で成人だが別に成人するまでお酒を飲んではいけないという法律も決まりもない。
ただ子供はお酒を飲むのはよろしくないという風潮があるだけだ。
「堅い事言わないで。偶にはいいじゃない。これなんて甘くて飲みやすいわよ?」
まあボクは別に酒に弱くはない。
むしろザルだ。
なんというかボクはお酒に酔う事がない。酔ってテンションが上がるとか気持ち悪くなって吐くとかそういう事はない。
記憶を失くす事もないし人格が豹変するなんて事もない。
故に別に美味しいとも感じないお酒を飲む事も無かった。
付き合いで飲むくらいだった。
前世では、という注釈がつくが。
「はいはい、わかりましたよ」
「ささ、グーっといって」
殆どアルコールを感じない。
確かに甘くて飲みやすい。殆どジュース、カクテルだな。
「結構イケるじゃない。ささ、どんどん行きましょう!」
それから二杯三杯と飲んだけどやっぱり全然酔わないな。
今世でもお酒は平気なようだ。
「ジュン君、お酒、強いのね‥‥‥」
「シャンゼ様は弱いですね」
ボクが酔わないのでムキになったのかボクに飲ませるため自分も飲んでたシャンゼ様が先に潰れた。
てゆうかボクを酔わせてどうするつもりなのやら。
「う‥‥‥ダメ、コルネリア、あとお願い」
「はい、お姉さま。ジュン!次は私と勝負よ!」
いつの間に勝負になったのか。
コルネリアさんも早々に潰れて次はユーファさん。
その次はクオンさん、フレデリカと続き。
最終的にはガウル様にアリーゼお姉ちゃんまで勝負し。
ステファニアさんが潰れたとこでお開きになった。
やっぱりどんだけ飲んでも酔わないなーボク。
ユウとアイはボクがザルなのを知ってるので終始我関せずだった。
そういえば前世では二人にもやたら酒を飲まされた事があったな。
ちなみに勧誘は四人中三人が成功だった。
あと翌日は二日酔いの人が多すぎて大変だった。
みんな、お酒は飲んでも呑まれるな、の精神を忘れずに。




