第77話 仮面少女の名は
『それではこの後は優勝者とジュン様との特別戦でしたがジュン様の希望により優勝者が消耗してるので数時間の休憩と二人に魔力と体力が回復する魔法薬が送られます!』
毒を盛るとか疑う人がいそうだけどそんな事をする気はもちろんない。
対等の条件でやらないと意味がないよね。
「だがしかし、対策を考えるくらいいいよね」
「誰に言い訳してるの?」
それはまあ置いといて。
「とにかく、何か対策を考えないと。あの仮面少女は相当強い。しかも試合中に成長する。今のままだと勝算は薄い」
「あ、今でも勝算はあるにはあるの?」
「魔神の紋章をフルで使えばスピードでは負けない。強脚の紋章もあるしね。動きにはついて行ける。だから逃げ続ければいずれ向こうは力尽きるだろうけど、こっちの攻撃が通じそうにない。対してこっちは一撃貰えば終わりそうだ。分が悪過ぎる。剣が耐えれないってのも問題だな」
せめて剣がまともに打ち合えるなら勝算はグっと上がるんだけど。
「あの娘の力が目立ってるから目が行きにくいがあの大剣も結構な業物みたいだな」
「わかるんですか?ガウル様」
「おう。武器の目利きにはちっとは自信あるぜ。で、お前の武器は?」
「騎士団が使ってる物と同じです」
「つまりは普通の剣だろ?じゃあ話にならねえな。おいアスラッド、もう少しまともなのあんだろ。出してやれよ」
「ああ。セバスン」
「畏まりました」
そしてセバスンが持って来たのは長剣と小剣の二本。
ちゃんとボクが使う剣の長さを分かってる。流石セバスン。
「私の目利きではこの二本があの少女の大剣と対等の剣かと」
それに武器に差がつかないようにちゃんと対等の物を持ってくる。
何も言わずともそうする辺り流石執事の鑑。
「よし、ジュン。この剣はお前にやる。だけど武器が同等になっただけじゃ駄目だろ。カイエンがやってた剣気の収束が出来ないとな。お前出来るのか?」
「わかりません。試したことも無いので」
「じゃあ、とりあえずやってみろ。出来なきゃ対等の剣持ってても意味がないんだからよ。壊されるなら安物の剣もっていったほうがマシだ」
その通りだ。
とにかくやってみよう。
「あ、出来た」
「あっさり出来るのか。お前、双剣豪の紋章得たの最近なんだろ」
「お前も普通じゃねえな、やっぱり」
これで一応、最低限の準備は整ったけど。
もう少し何か対策を考えよう。
「ねえ、フレデリカの方は対策を考えなくていいの?」
「ああ。フレデリカには負けない自信がある」
「うわ、珍しい。凄い自信」
一応、用意はしてあるしね。
それからあーでもないこーでもないと議論を重ね、試合の時間がやってくる。
『大変長らくお待たせしました!これよりジュン様と優勝者による特別戦の開始です!ジュン様に勝てばどんな願いも叶えてくれるそうですよ!頑張ってください!』
「どんな願いもじゃないぞーできる範囲でだぞー」
他にも同じ事言ってる人いたけどどんな願いも叶えられるわけないでしょ。
七つのボールを集めたら出て来るアレじゃないんだボクは。
『細かい事は置いといて!ジュン様が勝ったら相手に何か要求とかしないんですかー?オレのモノになれ!とかオレの女になれ!とかオレの嫁になれ!とか』
「だいたい意味同じじゃない?それ。言わないよ!」
『言わないんですか?つまんないですねー。まあジュン様なら試合に勝とうが負けようが関係ナシに言えばいいだけですもんね!それじゃまずはジュン様vs美少女!始めてくださいー』
ウーシュさんとはいずれ話をつけなくてはならないようだ。
司会なら何言っても許されるわけじゃないぞ!
しかし、相手の動揺を誘うネタにするのはアリかな?
「まあ、君はボクに勝ったらすんごい要求をするらしいし、ボクも勝ったら何か要求してみようかな?」
「!」
咄嗟に胸を庇うように手で隠す仮面少女。
あれ、結構本気にしてる?
というか、そういう要求をする人物だと思われてる?
とにかく、攻撃だ!
「い、行くよ!」
「!」
まずはお互い紋章の力を使わずに戦う。
流石にこの段階では剣を壊されたりしない。
紋章ナシなら予想通り互角のようだ。
いや、体術はボクのほうが上だ。
体捌きでボクが上を行ける。
「!」
「あ」
拳が胸に当たってしまった。
ワザとじゃないんだが。
「あ、いやワザとじゃないんだよ?ほんと」
『流石ジュン様!おっぱい好きの噂は本当だった!試合中に女の子のおっぱいに触るとは!』
「人聞きの悪いこと言うな!てゆうかそんな噂あるの!?そんな噂流されるような事した覚えないぞ!」
誰だ、そんな噂流したの!
「まあ、嘘じゃないね」
「うん、間違っちゃいないね」
アイ!?ユウ!?君達じゃないよね!?
「!!!」
「あ、結構怒ってらっしゃる?」
紋章の力を使いだした仮面少女。
ここからが本番だ。
ボクも魔神の紋章を使用する。
それから剣を鞘に納めて帯紐で固定してから剣気を使用する。
『おや?ジュン様が剣を鞘に納めて固定したぞ?ハンデですか?』
そんなつもりは無い。
刀身だけを剣気で強化するより鞘ごと強化したほうが仮面少女の攻撃に耐えれるかと考えただけだ。
殆ど気休めだろうと考えてたけど
「いける!」
「!」
師匠でも受ければ剣に皹が入った。でも今、剣を痛める事なく防ぎきれた。
これなら戦える。
「よし!師匠の敵はとる!」
「?」
ボクから距離を取り「師匠?」って感じに首を掲げる仮面少女。
そうか、知ってるはずもないか。
「君が決勝戦で倒したのはボクの剣の師匠なんだ。弟子としては師匠の敵討ちしないとね」
師匠達も観客席で見てるはず。
無様な姿を見せるわけにはいかない。
「というわけで、行くよ!」
「!」
師匠が使ってた飛ぶ斬撃、ボクにも使えた。
仮面少女も飛ぶ斬撃を使い迎撃する。
これの威力も互角のようだ。
なら、あとは時間切れまで戦うだけだ。
燃費はボクのほうがいい、向こうが先に力尽きるはずだ。
『何という激しい高速戦闘!女の子みたいな可愛い顔してジュン様は意外に強かった!てゆうかそんなに強いなら普通に武闘会に出ればいいのに!』
「やかましいわ!」
こういう事になった今、そう思わなくもないけども!
女の子みたいは余計だし!
「お互い、息が上がって来たね、いや、そっちはもうすぐ限界かな?」
「‥‥‥」
フルフルと首を振る仮面少女。
そして仮面少女の光が輝きを増す。
「まだ力を増す事が出来るのか、本当に凄いなその紋章。流石は上位紋章の一つだね」
「!」
「うん。君が何の紋章を持ってるのか予想は出来てる。予想通りなら正体を隠すのもわかる。変な奴に絡まれかねないしね。まあエルムバーンは君をどうこうする事はないだろうし友好国でもあるんだ。信用して欲しいな」
「‥‥‥」
「ああ、別に今ここで正体を明かせ、何て言うつもりは無い。逆だ、正体をばらすつもりは無いって話だよ」
コクリと頷く仮面少女。
わかってもらえたようで何より。
「じゃあ続きをしよう」
「!」
再び互角の戦いを始める。
と、思いきや、さっきまでよりやはり強い。
動きにはまだついていけるが攻撃力が違う。
このままじゃ剣が持たない。
ん?動きにはついて行ける?
動きは、身体能力は上がってない?
「もしかして、身体能力のほうはそれ以上強化出来ない?身体に掛かる負担が限界を超えたら体が壊れる?今が限界なんだね?」
「!」
図星か。
消耗が激しいし、無条件にいくらでも強化できるわけではないらしい。
そして身体に負担が掛かるという事は、もしかして。
ジっと仮面少女の大剣を観察してみる。
「よく見ると、その剣。大分痛んでるね。剣のほうも限界が近いんじゃない?」
「‥‥‥」
それも図星のようだ。
ならボクも剣気と魔神の紋章の力を限界まで上げて対応する!
限界は仮面少女の方が近い、このまま戦えば勝てる!
「せえええい!」
「!」
高速で動きながら剣と剣がぶつかる。
既にボクも剣気で限界で強化してるが鞘はもう吹き飛んでしまった。
でも、仮面少女の大剣にも皹が入っている。
「そっちの限界のほうが先にきそうだね!やっぱり!」
「!」
更に輝きが増した。
ここで更に上げるのか!勝負に出る気か!
「でぇぇぇぇい!」
「!」
仮面少女の大剣とボクの双剣がぶつかる。
そしてどちらの剣も砕けてしまった。
「引き分け、かな」
「‥‥‥」
コクリと頷く仮面少女。
限界が来たのだろう、光を消してペタンと座り込む。
『試合終了!結果は引き分け!引き分けです!』
ウーシュさんの宣言で観客から歓声と拍手をもらう。
終ったんだなぁ。
「立てる?」
仮面少女に手を差し出す。
コクリと頷いてから手を取り立ち上がる仮面少女。
ちょっとフラついてるけど大丈夫かな。
そして仮面少女は仮面を少しズラして口元だけ出す。
何か言いたい事があるのかな?
「あのさ、君に勝ったらお願いを聞いてもらえるって話だったから引き分けでお願いするのは駄目なのはわかってるんだけど、聞いてもらえないかな」
「ん?ん~内容次第かな。言ってみて」
「えっとね。いつかどこかでもう一度会ったら一緒に旅をしよう?」
いつか、どこかでもう一度会ったら、ね。
多分どこかで必ず会う気がする。
その時の状況次第だけど、まあいいか。
「わかった。その時の状況にもよるけど、いつか一緒に旅をしよう」
「うん。きっと僕達はいつかきっともう一度あって、旅をするよ。じゃあね」
そう言って舞台から去ろうとする仮面少女。
あ、そうだ。
「ちょっと待って!僕のお願いも聞いてもらえるかな」
「え、エッチなのはダメだからね!」
胸を隠してそういう仮面少女。
ウーシュさんが言ってたのは間違いですからね?
いや間違いではないけども。
「名前を教えてくれないかな。予想通りなら知ってるんだけどね。君ももう一度会った時、美少女とか仮面少女とか謎の仮面美少女剣士とか呼ばれたくないでしょ?」
君の連れの無口っ子も同じような名前で呼ぶことになっちゃうしね。
「う、うん。そ、そうだね。でも、あの偽名は、そう!その場のノリって言うか悪ノリで決めただけだから、忘れてね?」
今になって恥ずかしくなったのか?
もう終わったのに。
「多分、君の予想通りの名前だけどね。僕はアイシス。アイシス・ノーヴァ。よろしくね」
名前の部分はボクにだけ聞こえるような声で話す彼女。
やっぱり予想通りの名前だった。
あの紋章を持つが故にヴェルリア王国の有名人だ。
「そう、やっぱりね。ボクはジュン・エルムバーン。よろしくね」
「うん」
握手をしてから今度こそ舞台から去っていくアイシス。
それにしても結局引き分けだったか。
師匠の敵討ちはイマイチな形で終わってしまったな。
『あの~ジュン様?もう全部終わった~みたいな空気出してますけど、次はフレデリカさんとの試合ですよ?いけますか~?』
「あ」
そうだった。
まだフレデリカとの試合があった。
『随分お疲れのようですけど、休憩挟みますか~?』
「あ、いや、いけます!観客の人達にも随分待ってもらったし!閉会式と賞金の授与を早くやんないとね!」
魔力は使ってないから問題ない。
それに上手くいけばすぐに終わる。多分。
『それじゃあフレデリカさん!舞台へどうぞ!』
「あの、ジュン様?休憩をとったほうがいいのでは?」
「大丈夫だよ、フレデリカ。魔力は使ってないから。始めよう」
「そうですか?後で文句言わないでくださいね?」
「大丈夫、言わないよ」
負けないから。
フレデリカには悪いけど負ける気がしない。
安全に終わらせよう。
『それでは!ジュン様vsフレデリカ!試合開始です!おっぱい揉まれないように気を付けてくださいね、フレデリカさん!』
「揉むかーい!」
やはり今度きっちり話つけよう!
「じゃあ、始めましょう、ジュン様」
「いいよ、おいでフレデリカ」
最初から全力で行く気なのだろう。
ロレンタ戦と同じように精霊や魔獣、ゴーレムを出して炎の鞭を出すフレデリカ。
まともにやりあってもいいんだけど
やはりケガさせたくないし心を折って早く終わらせる方向で行こう。
「じゃあボクのオリジナル魔法を見せてあげるよ」
「オリジナル魔法?」
ボクが考えた相手に手加減して勝つ方法の一つ。
相手の戦意をくじいて降参させる事。
その為に作ったオリジナル魔法。
まず火属性魔法で大きな火で出来た鳥を出す。
その鳥に火の精霊を宿らせ生物のように動かす。
名付けて。
「フェニックス・スピリッツ!」
「キュィイイイイ!」
「ヒッ」
まるで本物のフェニックスのように見える。
生きた魔法のように見える。
これの威圧感は結構半端ない。
フレデリカは明らかに怯んでる。
そこへ更に新魔法を出す。
「ブルードラゴン・スピリッツ!」
今度は氷で出来たドラゴンに氷の精霊を宿らせたモノ。
これも我ながらよく出来ている。
本当に生物のように見える。
「あ、ああああ‥‥‥」
フレデリカは言葉も出ないくらい驚いている。
上手くいきそうだ。
ダメ押しにフェニックスにストーンゴーレムを攻撃させ、ドロドロの溶岩に変えさせる。
これでもう完全にフレデリカは怯え切ってる。
「フレデリカ、降参してくれないかな?君を怪我させたくないんだ」
「は、はい。降参します‥‥‥」
『試合終了!なんという魔法でしょう!いやあれはもう魔法とは呼べない気すらします!それにしても散々怯えさせといて優しい言葉で落とすなんてまるでジゴロ!計算せずにやってるなら大したモノです!』
ウーシュさんとは本当に一度きっちり話をつけよう。
本当に人聞きの悪い。
それからは賞金の授与も閉会式も終わり。
決勝トーナメント出場者や領主達も招いたパーティーが開かれる。
それで全て終わり、武闘会の幕が下りる。
なお仮面少女、アイシス一行はパーティーには参加せず翌日には国を出たらしい。




