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第69話 武術部門決勝トーナメント 2

 決勝トーナメント、第四試合。

ルチーナの出番だ。

対戦相手は身長2メートルを超える大男。

武器は長い鎖の両端に鉄球を付けた物。

あんな鉄球を鎖でぶん回しぶつけてくるのだ。

よく今まで死人が出なかったな。


 対するルチーナの武器は戦斧。

射程距離でかなり負けている。

ルチーナはどうやって相手の懐に入るかが勝利のポイントになりそうだ。


『さぁ第四試合です!イグナスvsルチーナ!試合開始です!』


「ぬぅん!」


 開始直後にイグナスの先制攻撃。

ドズン、と重そうな音が鳴る。

一撃目を躱したルチーナは次が来る前に距離を詰めようとするが直ぐに次が来て足を止められてしまう。左の鉄球を投げたら直ぐに右が、右の鉄球を投げたら直ぐに左が来る。意外と隙のない戦い方だ。


「いやあ、意外と隙の無い戦いです。アイさんならどう攻めますか」


「そうですねぇ私なら関係なく突っ込んで距離を詰めます。二発目が来る前に距離を詰める自信があります」


 なるほど。アイなら出来るだろう。

しかしルチーナにはアイと同じ真似は出来ない。

ならどうするか。

ルチーナはその答えを出したようだ。

ルチーナは足を止めてその場で戦斧を構える。

そして向かって来た鉄球を戦斧で迎撃する。

飛んでくる鉄球を全て迎撃するつもりらしい。

そして少しずつ距離を詰めている。

一歩ずつゆっくりと確実に。

一気に行けないなら少しずつ着実に。

こういう所はクリステアとよく似てる。

気になるのは時折鎖にも斬り付けている事か。

やがて後数歩の距離まで来るとルチーナが仕掛ける。


「もらったぁ!」


 ルチーナが戦斧を振るう。

しかし攻撃を受けて倒れたのはルチーナだ。


「え?あれ、今何があったの?」


「殴られたんだ腹を。鎖を持ったままの手で」


 そしていま仰向けに倒れている。

そこへ容赦なく鉄球が襲う。


「ぐっ、くぅぅぅ!」


 間一髪で転がって躱すルチーナ。

距離を取り何とか立ち上がり体制を整える。


「あの大男の手、見える?」


「あ、あれ見た事ある」


「拳士の紋章だ」


 そう拳士の紋章だ。

つまりイグナスの本来の武器は己の拳だったというわけだ。


「やるね、あの大男」


「だなあ。遠距離だと鉄球で攻撃。近づけば拳で攻撃。しかも手足も長いから接近戦の射程距離も長い。小柄なルチーナとの差が大きい。これはきついな」


 今、必死でどうするかルチーナは考えているはず。

答えが出たのか覚悟を決めた顔をするルチーナ。

決断が早いのと切り替えが早いのは彼女の長所だな。


「自分の不利を悟ったと思うけど」


「そこからルチーナはどうするのか」


 ルチーナは戦斧を地面に刺し飛んできた鉄球を避け鎖を右腕に巻き付ける。更に飛んできた鉄球をよけ左腕に鎖を巻き付ける。

そしてイグナスと鎖を引っ張り合っている。


「もしかして」


「力勝負する気か」


 いくら力の紋章を持ってるからって、あの体格差だ。

ましてや男と女。素の力が違うはず。

リディアさんの怪力の紋章なら勝って鎖を奪えるのだろうけど。


「凄いな、拮抗してるよ」


「ううん、少しずつルチーナが引き寄せられてる」


 少しずつ、二人の距離が縮まっていく。

鎖を腕に巻いたままの接近戦はルチーナが圧倒的に不利だ。


「ふうう、ふんぬぅぅぅぅぅ!」


 最後の力を振り絞るかのように踏ん張るルチーナ。

そこでルチーナの狙いが解る。


「あ、鎖が!」


「千切れた!」


 ルチーナの狙いはこれだった。

鉄球を迎撃する時に鎖に斬りつけていたのも、これを狙ってたのか。

鎖が千切れた事に驚愕の眼をするイグナス。

そしてその隙を逃さず腕の鎖を捨て戦斧を拾い距離を詰めるルチーナ。

武器を失ったイグナスの攻撃手段はもう己の拳だけ。

先ほどは隠し玉だったからくらったが来るとわかってれば対処のしようはある。

ましてや今はもう鉄球の攻撃はないのだ。

接近戦の末、ルチーナはイグナスの腕を斬り飛ばす。

ルチーナの逆転勝利だ。


『ルチーナさんの勝利です!小柄な体に似合わぬパワー!あのパワーはどこからきてるのでしょう!」


 イグナスは腕を斬られたが治癒魔法使いがすぐに繋げてくれるだろう。

彼も強かった。

親衛隊に勧誘してもいいかもしれない。

彼はハーフ熊人族のイグナス。覚えておこう。


『次はカイエンvsグラード!第五試合 開始です!』


 続く第五試合。

師匠の出番だ。

師匠の対戦相手は槍使いだ。

流石にここまで勝ち残って来ただけあってグラードも並ではない。

乱れ突き、足払い、石突き、様々な技を多用してくる。

そして距離の優位を崩さず攻め立てる。

一見すると師匠の防戦一方。グラードの優勢に見える。

しかし師匠は冷静に観察しているだけだ。

やがて観察を終えた師匠は相手が突いた槍を引き戻す瞬間に踏み込み相手の懐に飛び込む。

左の剣で槍を抑え、右の剣を首筋に当てる。

そこで試合終了、師匠の勝利だ。


『カイエンさんの勝利です!流石イケメン!勝ち方も華麗!ちなみに既婚者一児のパパとの情報が挙がってます!狙ってる女性はその変に留意してくださいね!』


 司会の立場を利用して言いたい放題だな、ウーシュさん。

そんな個人情報漏らしていいのかな。


「カイエンさん、やっぱり強いね」


「ああ、流石は師匠だ」


「強くなったよなあ、あいつ。お前の師匠になった頃はあそこまで強くなかったのにな」


「え?そうなんですか?」


 師匠は出会った頃から強かったように思うけど。


「あいつな、お前の師匠になってからずっとお前との訓練の時間以外でもできるだけ時間を訓練に費やしてた。このままだとお前にすぐ追い抜かれるから、それじゃ師匠としてあまりに情けないってな。今じゃ全騎士団の中でもトップクラスだ。だからこそお前の親衛隊隊長に選んだ」


「師匠・・・」


 やべ、ちょっとジーンと来ちゃった。

今度何かの形でお返ししなきゃ。


 続く第六試合はオカマさんVSオカマさんだ。

武器は大剣と三節棍。

力量もほぼ互角の戦いだったが体格のいい三節棍のオカマさんが勝利した。

ステファニアさんを除いて最強のオカマさんが決まったわけだ。


 第七試合は婚活女子vs婚活女子。

武器は槍斧と長剣。

激闘の末、槍斧の婚活女子が勝利する。

しかし、二人とも気合いの掛け声が


「私は優勝して、御嫁さんになる!」


 なのはどうなのだろう。

いや、それだけ真剣なのはわかるのだけども。

そして負けた方の絶望の顔を見てるとお見合いパーティーは本当に開いてあげようって気になって来る。本当に考えようかな。


 そして第八試合。

この試合が終わればベスト8が決まる。


『さぁ一回戦最後の試合です! フィーリアvsゲラルディー!』


 ハーフエルフの女性、フィーリアさんと槍使いの男だ。

戦場のメインウェポンだけあって槍使いは多いらしい。

師匠の対戦相手の男と同じくこのゲラルディーも槍の優位性を活かして

近づけないで攻撃し続ける作戦のようだ。


 ゲラルディーもここまで勝ち進んだだけあって練度が高く、強い。

近づくのが用意でないと判断したのかフィーリアさんは相手の周りをぐるぐる回り始めた。

死角から急襲するつもりだろうか。

しかし、相手の攻撃を躱し続けるだけで、攻撃をしない。

ずっと回ってるだけだ。

でも何かおかしい。

その違和感に気づいたのはアイだ。


「どんどん最高速度が上がってる?」


「最高速度が?単純にスピードが上がってるってだけじゃないのか?」


「そうじゃなくて例えば最高時速100kmだったのが今じゃ時速150になってるって感じ。出せる最高速度がどんどん上がってる」


 時速100kmで走ってたのを最高時速の150kmにあげたのではなく最高時速100kmが最高時速150kmに変わったって事か。しかもまだ上がっていってると。


「わかったぞ。ありゃ加速の紋章だ」


「加速の紋章?」


「加速の紋章は紋章を使い続けるほど自身が出せる最高速度が上がっていくんだ。使う時間が長いほど加速されて行く。ただ燃費が悪いからな、あまり使いすぎるとバテてしまう。必要だと思う速度に達したら直ぐに仕掛けるだろう」


 父アスラッドの言う通り。

充分な速度を得たフィーリアさんはゲラルディーにヒット&アウェイを繰り返す。

その速度は風の如しだ。両手の短剣でどんどん斬り付けていく。

ゲラルディーはすぐに槍を持っていられなくなり決着はつく。

フィーリアさんの勝利だ。


『フィーリアさんの勝利です!あれだけ速いと揺れる胸も堪能できません!男性陣はがっかりしたことでしょう!』


 ウーシュさん、本当に言いたい放題だな。

もしやこっちが素なんじゃないだろうか。


「強いね、フィーリアさんも」


「準決勝でカイエンさんと当たるのは彼女ね」


 恐らくそうなるだろう。

注目の試合になる。

だがその前にも注目の試合はある。


「次の試合も楽しみだ。ステファニアさんと仮面少女の試合だよ」

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