第63話 四人組
各地の武闘会予選も終わり。
本戦は一ヵ月後の開催だ。
その間は師匠とクリステアにルチーナも交えて特訓する。
ユウとアイも訓練中だ。
ルチーナは小柄な女性に似つかわしくない大きな戦斧を使うパワーファイターだ。
リディアさんの怪力の紋章には及ばないが力の紋章を持ってるだけある。
あの大きさの戦斧を片手で扱い、小盾も装備している。
攻撃に重きを置いたスタイルではあるが防御も疎かにしてるわけではない。
クリステアとは似てないようで似てる。そんな姉妹に思える。
「ルチーナさんも強いね。その戦斧を剣でまともに受けたら普通の剣だと簡単に折られちゃいそうだよ」
「ありがとうございます。ジュン様、私の事は呼び捨てでお願いします」
「分かったよ。ルチーナ」
こういうとこはやっぱり似てるんだよね。
「少し休憩にしよう。ノエラ、人数分の飲み物の用意を頼むよ」
「畏まりました」
ノエラに飲み物を用意してもらい休憩する。
「師匠とルチーナは優勝してボクに勝ったら何を望むつもりなんです?」
「ジュン様、私の望みは聞かないんですか?」
「クリステアのは聞かなくても分かるから」
「そんな、既にそこまで私の心を把握してるなんて、流石です」
「私でも分かるよ、姉さん。えっと私はルガー家を今後ともよろしくお願いしますってだけです」
それぐらいなら何も問題はない。
勝っても負けてもそのぐらいのお願いなら叶えてあげられる。
「師匠は?」
「そうですね、私の望みは将来、私の娘を城で働かせてやってください。できればジュン様のメイドとして」
「ああ、それくらいなら。勝利の褒美とかじゃなくても叶えてあげられますよ」
「ありがとうございます。ジュン様」
師匠には御世話になってるしね。
ノエラにセバスト、リリーにもその内なにかあげないといけないな。
「さ、そろそろ訓練を再開しよう」
「「「はい」」」
こうして訓練を重ねてはいるが本戦開催までに何かこう成長したと実感できる何かが欲しいな。
それが欲しくて今は冒険者の活動も休止し一日の殆どを訓練に費やしている。
双剣の訓練に体術の訓練に魔法の訓練と。
武闘会の本戦の優勝者と戦って負けたら望みを叶えるという条件が無ければここまで焦りはしなかったと思うけど。
師匠やルチーナが確実に勝てるとは限らないのだ。
魔法部門ではそうそう負けない自信があるけど武術のみでの戦闘には不安がある。
少なくとも師匠には確実に勝てるなんて自信はない。
そうして訓練を重ねてるある日、父アスラッドに呼び出される。
「何かありましたか?お父さん」
「ああ、ジュン。すまないが転移魔法でお迎えを頼みたい」
「お迎え?ですか」
「ああ。ヴェルリア王国に最も近い街、ボロスから向かってた武闘会の出場者が乗った馬車が事故にあってな。馬車が駄目になってしまった。幸い死者は出ていないがこのままでは本戦に間に合わないらしい。いまはドレンの宿に居る。迎えを頼む」
「わかりました。今からでいいですか?」
「ああ。既に魔法通信でお前が行くことは話してある」
「では、行ってきます」
転移でドレンまで転移する。
この街には領主はいない。
代わりに領主の部下が代官をしてるはずだ。
武闘会の出場者達は街の宿屋にいるらしいので聞いた宿に向かう。
「お待ちしておりました、ジュン様。お手を煩わせて申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。フェリークさん」
武闘会出場者と同行していたボロスの領主、フェリーク・ボロスさんだ。
フェリークさんは領主を継いだばかりの新婚さんだ。
奥さんも一緒に来ている。
それから護衛の騎士十名。
武闘会出場者が十六名だから合計二十八名だ。
いやもうちょっと多い?
三往復くらいしないとダメかな。
「一度に全員の転移は出来ませんので三回に分けてお連れします。まずはフェリークさんと奥さん、護衛の方々から数人をお連れします」
「はい。よろしくお願いしますジュン様」
「それでは行きましょう。残る人達は二つに分かれて待っててください」
フェリーク夫妻と護衛の人達をまず送り、二回目も問題なく転移で送る。
そして三回目に気になる人達がいた。
フードを深くかぶった三人の男女に仮面を着けて身の丈ほどの大剣を背負った金髪の少女。
武闘会の出場者だろうか。雰囲気が只者じゃない。かなり強そうだ。
「貴方方も武闘会の出場者ですか?」
「私とこっちの男は違う。同行者だ。こっちの仮面の剣士と杖をもった子は出場者だ。私達二人は出場者ではないが一緒に連れて行って欲しい。頼めないだろうか」
代表で話しているこの壮年の男性を思わせる声をしてる男、かなり強い。
いまのとこ危険は感じないがフードで顔を隠しているのが気になる。
それに仮面の少女がめっちゃ見てくるのも気になる。
「貴方方の同行はボロスも認めていたのですか?」
「無論。無料で護衛もするかわりに同行を認めて貰っている」
「そうですか。わかりました、連れて行きましょう。ですが王都でおかしな真似はしないでくださいね。貴方方を止めるのは苦労しそうだ」
「心得ている。エルムバーンの民に迷惑をかけるつもりなどない。警戒するのは理解できるが信用してほしい」
確かに敵意は感じない。
でも、だとしたら顔を隠してる理由が気になるけど。
「いいでしょう。では行きますよ」
三組目も転移で王都まで連れていってすぐにその場で解散となる。
みんなボクに礼を述べて散って行く。
「ありがとう少年。礼を言う」
「いいえ、それでは」
「ああ、済まない。ついでと言ってはなんだが宿の場所を教えてもらえないだろうか」
「ええ、宿ならここから西に行った先のパン屋の隣の宿がいいかと」
「そうか。感謝する。では」
「ええ、それでは」
他の三人も頭を下げて宿へと向かっていく。
敵意は感じない。
でもあの男性以外喋らなかったし顔がよく見えないようにしてるのも気になる。
何かありそうだ。
城に戻りセバストとノエラ、それからカイエン師匠にも来てもらう。
「西の宿にボロスから来た武闘会の出場者の二人と同行者の男二人が泊っている。敵意や危険は感じなかったが顔を隠してるし何か気になる。遠くから監視するだけでいいから何名か付けておいて。正体を探ろうとはするな。近づきすぎると感づかれる。親衛隊には武闘会の出場者が王都に集まりだしてるから騒ぎが起きたら止めるようにとだけ命令を。その四人組の事はカイエン隊長のみ覚えておいて」
「「「ハッ」」」
ただでさえ優勝者との戦いっていう厄介ごとが待ってるというのに。
これ以上気になる事は増えて欲しくないなあ。
だけどあの四人組は気にはなるけど敵意は感じなかった。
でもあの仮面の少女と壮年の男はかなり強い。それだけはわかった。
用心だけはしておこう。
あの四人組についてはフェリークさんにも話を聞いておく。
「ああ、あの四人ですか。確かに無料で護衛をしてもらう代わりに同行を許可しました。実際彼らの腕は大した物でしたよ」
「腕を見る機会があったのですか?」
「実は道中、一度、盗賊団に襲われたのですが五十人以上の盗賊団を殆ど彼ら四人で始末してしまいました。しかも無傷です」
「なるほど、それは凄いですね」
五十人以上の盗賊を相手に無傷で勝利か。
相当な腕のようだ。
フェリークさんとの話を終え、訓練を続ける事にする。
とにかく、敵に回したらヤバそうなのが増えたし、さらに特訓を重ねないと。




