第60話 領主の子供達
「で、これ総数は?」
「なんと驚きの五千人ちょいだ。治癒魔法使いとして全国各地を巡った効果は凄ぇな」
目の前に有る書類の山。
これ全部に目を通さないといけないのか。
「しかもこれ、各領主が既にある程度は減らして送って来てるんでしょ?」
「そのまま送ってたら万単位だったかもね。凄いねお兄ちゃん」
国民に愛されていると言うのは王族としては喜ばしいのは間違いない。
だが今はその愛が重い。物理的に。
「仕方ない地道にやっていくしかない。ノエラ、リリーも手伝って」
「畏まりました」「はいですぅ」
ノエラとリリーには書類の整理を手伝って貰う。
書類を見ていって気がついた事が一つ。
「領主の子供が結構多いなあ。しかも女性が」
「皆、あわよくばって考えてるんでしょ」
何をあわよくばって狙っているのか考えるのは止めよ。
「あ、リディアさんだ」
「え、リディアさんが志願してるの?」
「うん、ほら」
ユウから受け取った書類には確かにリディアさんの名前が。
大事な一人娘を親衛隊に入れてもいいんだろうか、オルトロイさんは。
「まあ、親衛隊って言っても除隊が出来ないわけじゃないし。考えようによってはジュンの傍にいる親衛隊って安全な部隊だと言えなくもないし」
「でもリディアさんは向いてないんじゃないのか?」
以前に冒険者になるのは怖いと言っていた。
性格も戦闘的ではないと思う。
長年病を患っていた為、まともな訓練も受けていないはずだ。
紋章の力は惜しまれるけど。
「こうして志願してるんだしある程度の覚悟はあるんじゃない?戦闘技術は今から訓練すればいいでしょ。紋章は強力なんだし。下手な下位の紋章持ちよりよっぽど強いよ?アレ」
確かに。
怪力の紋章の能力はシンプルなだけに強力だ。
肉体の強度が上がるのもいい。
「う~ん。とりあえずキープかな」
領主の娘だし、知人でもある。
あまり無碍にもできないしね。
さ、続けるか。
「お?この人は元冒険者で精霊魔法使いか。キープかな」
「あ、この子ロリコンで有名な子よ。アウトね」
ロリコンは駄目だな。
ユウとアイが危ない。
しかしロリコンで有名って。どんだけだ。
「こいつらは、ツオーレのとこの秘蔵っ子じゃないか」
「秘蔵っ子?」
「ああ。三つ子の男三兄弟なんだがな。同調魔法が使えるんだ。かなり強力らしい」
「凄いじゃないですか」
父アスラッドの言う同調魔法とは複数人で魔力を同調し一つの魔法を使う技術だ。
普通に使うより威力は格段に上がり魔力の消費はさほどでもない。ただ魔力の同調は難しくあまり使える者はいない。
「だがこいつらはアウトだ」
「え。何故です?」
「こいつらの悪癖は有名でな。気に入った者なら相手が誰でもお構いなしだ。大人でも子供でも。女でも男でもな」
「文句なしのアウトですね」
本当に変態が多いな!
とゆうかよくそんなの志願させたな、そのツオーレって領主。
「あれ、この子はもしかしてクリステアの妹さん?」
名前はルチーナ・ルガー。
斧の紋章と水の紋章、力の紋章を持つ。
力の紋章とはリディアさんの持つ怪力の紋章の下位に当たる紋章だ。
姉妹揃って優秀そう。
ただ、クリステアの変態面が発覚した今、このルチーナにも不安を覚える。
「クリステアに聞いてみたら?姉妹なんだし」
「そうするか」
そこで書類選考を一時中断し昼食を採る。
昼食後、クリステアに来て貰った。
「クリステア、妹のルチーナさんが親衛隊に志願してるんだ。どんな子か教えて欲しい」
「ルチーナが?そうですか、あの子も・・・。わかりました。姉妹揃っての調教をお望みなのですね?」
わかってねぇ!
駄目だこの子。早くなんとかしないと。
「いいから、質問に答えてくれる?」
とりあえず今は話を進めよう。
まだまだ書類は山積みなのだ。
「はい。まず、そうですね、スタイルは悪くないかと。弱点は耳ですね。そこを攻めたらイチコロですよ」
「そういう事が聞きたいんじゃなくて!性格とか教えてくれる!?」
「性格、ですか。そうですね、強気で真面目な子ですね。それに小さい頃から私によく懐いていてどこに行くにも付いて来てました。家を出て王都に行く時も付いて行くか悩んでいましたし」
聞く限りいい子そうだけども。
「ルチーナさんの趣味は?」
「趣味?私と同じで読書ですね」
「そっか。有難う。下がっていいよ」
「はい。失礼します」
クリステアが退室した後、ため息を吐く。
趣味が読書か。
クリステアと同じようなの読んでないといいけど。
「う~ん。良さそうな子ではあるんだけど不安だ」
「クリステアも一見真面目そうだしね。実際、仕事は真面目にしてるみたいだけど」
しかし裏ではあんな願望を持っていた。
いや、あれだけオープンにしてたら表か。
「結局、不安は拭えなかったな」
「仕方ないから面接で判断しよ、お兄ちゃん」
そうするしかなさそうかな。
クリステアの時のような罠には掛からないようにしよ。
それから三日掛けて書類選考が終わり。
五千人から千人まで減らした。
それから次は本来なら実技試験と面接試験なのだが実技試験は省く事にした。
アイとカイエン師匠曰く。
「見ればある程度の実力は判るから」
らしい。
それに千人も実技試験を見るのは時間が掛かりすぎるからだ。
面接試験は王都に来て貰うのではなく各方面の領主の館行う事にした。
治癒魔法使いとして各地をまわってた時と同じでボクなら転位魔法ですぐだからだ。
千人もの志願者が集まるのを待っていたらそれこそ時間が掛かりすぎるし。
そして今日はダイランの街に来ている。
「ようこそおいで下さいました」
「久しぶりだなオルトロイ」
「お久しぶりですオルトロイさん」
出迎えてくれたのはオルトロイさんとソフィアさんの二人だ。
リディアさんは面接があるので部屋で待機してるのだろう。
「ソフィアさんもお久しぶりです」
「お久しぶりです、ジュン様、魔王様」
「うむ。久しぶりだなソフィア」
ソフィアさんの雰囲気がなんだか以前と違うような。
何となく柔らかくなったというか。
オルトロイさんもなんだか幸せそうだ。
「何かありましたか?お二人の雰囲気が以前とちょっと違うような」
質問すると二人は少し驚いた顔をする。
「判ってしまいますか。流石ジュン様ですな」
「ええ、流石です」
やっぱり何かあったのかな。
「実は妻が妊娠しまして」
「リディアの妹か弟が出来るんです」
おお、それは何とも目出度い。
「御目出度う御座います」
皆で祝いの言葉を送る。
二人共、少し照れくさそうだ。
「あ、もしかしてリディアさんの親衛隊志願ってそれが理由ですか?」
「はい、それも理由の一つです。姉になるのだから生まれて来る弟か妹に誇れる姉で在りたいと」
そうだったのか。
書類にはそんなこと書いてなかったが、何とも立派な理由だ。
ボクの親衛隊が誇れる立場なのか少し疑問に思っちゃうけど。
「もちろん志願書に書いたようにジュン様に恩返しがしたいというのも本当の事なのです」
「私の妊娠が分かってすぐにジュン様の親衛隊の話が来まして。それですぐに志願を決めました。私達にも反対する理由はありませんので」
「しかし、次に生まれるのが女の子だったらリディアさんが跡取りに変わりないでしょう?そこはいいんですか?」
「問題ありません。私はまだまだ現役です。私が退くまでにはあの子も子を産むことでしょう。何も問題ありません」
「それにあの子、姉になるって分かってからは武術や魔法を習い始めたんです。病が治ってからは体力トレーニングだけは続けていましたが、急に頑張り始めて」
「親として娘の頑張りを応援するのみです。ですのでジュン様、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします、ジュン様」
いい人達だな。
これはリディアさんの面接をするまでもなく決定かな。
ダイランの街の次はツオーレが面接試験の場だ。
ツオーレでは領主のゴルドー・ツオーレさんと後ろに同じ顔をした男性が三人並んでいる。
この三人が例の三つ子だろう。
「お久しぶりです、魔王様、そしてジュン様」
「お久しぶりです」
「久しぶりだなゴルドー」
この街にも以前来たことがある。
その時はゴルドーさんが自ら案内してくれた。
そういえばその時にあの三つ子には会わなかったな。
ゴルドーさんとの挨拶の後、三つ子の一人が話しかけて来た。
「お久しぶりです、ジュン様」
「え?お久しぶり?初対面では?」
どこかで会っていただろうか。
三人揃って会っていたなら忘れる事はないと思うのだけど。
「おお!これは失礼しました。私達はジュン様が我が街に来られる度ずっと見ていましたので既に顔見知りのように思ってしまいました」
うんうんと頷く残りの二人。
とゆうかずっと見てた?
話しかければいいじゃないか。
「えっと、何故話しかけて来なかったのです?」
「父に止められてしまいまして。お前達はまだ未熟だからジュン様に失礼があってはならない、だからお前達は会うな、と」
スッとゴルドーさんに視線を向けると片手で顔を覆って苦い顔をしている。
あ、苦労してるんですね。
わかりました。
「しかし、今日は私達が親衛隊の選考から落とされた理由をお聞きしたくて父に同行したのです」
「あ、あーそれは・・・」
ゴルドーさんはガツンと言ってやって下さいって顔してる。
パパ上は知らん顔してる。
ちょっとパパ上?
アウト判定したのはパパ上でしょう?
「いえ、仰らなくても大丈夫です。理由はもう分かりました」
え?今の短いやり取りのどこで?
「私達はまだジュン様の隣に立てる程美しくない。それが今日お会いしてよく分かりました」
「え?」
何言ってるんだこの人。
こう言っちゃ何だけど、君たち所謂普通の顔だと思うよ?
平均よりは上かもしんないけどさ。
「遠くから見ているだけでは分からない美しさと気品。それが今日、近くで見る事が出来てようやく分かりました」
褒められてるんだろうけど何だろう。
この三人に言われると気持ち悪さが先に出てくるな。嬉しさよりも。
「まさしく美の化身。女神と呼ぶに相応しい!」
ん?女神?
ちょっと待て。
まさかボクの事を女だと思ってないか?
「しかし御安心下さい!いつか必ずジュン様の夫に相応しい美しさを身につけて参ります!それでは!」
何一つ安心出来んわ!
あまりの気持ち悪さに絶句して何も言えなかった。
しかし、去って行く三人の後ろ姿を見ていると結構本気で殴りたくなってくる。
「申し訳ありません、ジュン様・・・」
「いえ・・・しかしどうして彼らの志願を認めたのです?」
謝るゴルドーさんを見る限り、とても本意だったとは思えない。
「最初は止めたのですが、諦めなかったのでジュン様の親衛隊に選ばれず、となれば目を覚ますかと思い・・・」
なるほど。
プライドをへし折ることで目を覚まそうと。
「ボクを女だと思い込んでいるのは?」
「それも何度も訂正したのですが『あんな美しい方が男性であるはずがない。何か理由があって隠しているのでしょう?私達にはわかります』と言って聞かないのです」
ああ、そうか。つまり彼らは・・・。
「バカなんですね」
「ええ、まごう事無き大バカです」
ゴルドーさんの白髪はきっと最初から白いんじゃなく、白くなったんだろうなと思う。
一番苦労してるであろうゴルドーさんに免じてこれ以上は言わないでおこう。
ツオーレでの面接も終わり。
各街で面接を終えて最後になったのはルガーの街だ。
「お待ちしておりました、魔王様、ジュン様」
「おう、ジュリアーノ」
「お久しぶりですジュリアーノさん」
出迎えてくれたのは領主のジュリアーノ・ルガーさん。
父アスラッドとジュリアーノさんは主従関係にあるが親しい友人でもあるらしい。
これまでとは違った対応を見せている。
「ジュリアーノ、お前のとこはどうだ?上手く行ってるか」
「ええ、大きな問題もなく順調ですよ。ジュン様が中心となって設立した学校と病院も順調ですよ。特に病院は非常に助かってます。これはどの領地でも同じだとは思いますが」
ルガーの街はそばに強い魔獣が多数生息する領域がある。
その分、冒険者の数も多く領軍の兵も精強なのだが治癒魔法使いは居なかった。
故に病院が出来た事で生存率が大幅に上がったのだ。
ボクも治療に来てた時は凄く感謝された。
まあそれはルガーの街に限らずどこでも感謝されたのだけども。
「では、参りましょう。妻と子供達も待っています」
「クラーラか。あいつとも久しぶりだな。元気にやっとるか」
「はい。元気ですよ。今だに騎士団を率いて魔獣討伐に出るくらいです」
奥さんのクラーラさんには会った事がないけど、ダイランのソフィアさんと似てるのかな。
「ジュン、ジュリアーノの妻、クラーラはなオルトロイの妻、ソフィアの従姉妹だ」
なんと。
とゆうことはリディアさんとクリステアは又従妹だったのか。
「ソフィアさんの一人娘、リディアさんをジュン様に救って頂いたと聞いております。その事もクラーラはジュン様に感謝してました。ずっと会って礼を言いたいと言っていたのですが、中々タイミングが合いませんで」
「そうでしたか」
そんな話をしながら歩いていると目的の部屋に着いた。
部屋の中ではルガー家の人々と大勢の使用人が迎えてくれる。
「ようこそルガー家へ」
「「「ようこそおいでくださいました」」」
クラーラさんと思しき女性が最初に歓迎の言葉を述べた後、一斉に歓迎の言葉を発する皆さん。
とても統一されてる感がある。
「お久しぶりでございます魔王様」
「久しぶりだなクラーラ」
「こちらがジュン様ですね?後ろの御二人がユウ様にアイ様」
「初めましてクラーラさん」
クリステアの母だけあって美人さんだ。
少しソフィアさんに似てる気がする。
「ジュン様、こちらが私の子供達です」
ジュリアーノさんの子供達を一人ずつ紹介される。
男三人女三人の計六人。
ここにはいないクリステアとルチーナさんを入れれば八人兄妹となるわけだ。
一家全員、美男美女揃いだ。
ルチーナさんにはまだ会っていないけど。
「あとは志願者の控室にいるルチーナとクリステアで全員です。クリステアはジュン様の親衛隊に配属が決まったとか?」
「あ、はい。クリステアさんは優秀でしたので、是非に、と」
採用を伝えた後に落とし穴にハマった感が否めないけども。
「あの子は昔から理想の主に仕える事を夢見て、その為の努力を惜しむ事なく情熱を注いでおりました。私達の自慢の娘なのです。よろしくお願い致します」
「はい。ご心配なく」
特に危険な事をさせるつもりもない。
クリステアに限った話ではないけど。
それから一通り挨拶を終えた後、面接試験に向かう。
そして今日の本命、ルチーナさんの面接が始まった。
「ルチーナ・ルガーです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。ルチーナさん」
ルチーナさんもやはり美人だ。
クリステアに勝るとも劣らない。
透き通るような水色の髪でセミロング。
クリステアに比べると少し小柄か。
「では、ルチーナさん。ボクの親衛隊に志願した理由を話してくれますか」
「はい。姉のクリステアが何か仕出かさないか不安だったからです」
ん?
それが理由?
書類にはそんな事は書いて無かったが。
「というと?」
「クリステア姉さんの、その、夢というか理想の話は聞いてますか?」
「あ~『魔王子様と女騎士』の話かな?」
「やっぱり・・・。何か失礼な事を言いませんでしたか?」
結構な事を言われた気がします。
「言ったんですね・・・申し訳ありません!」
「あ~いや、ルチーナさんは気にしなくて大丈夫ですよ。頭を上げてください」
どうやらルチーナさんはまともな感性の持ち主のようだ。
それがわかっただけで凄くホッとする。
「有難うございます・・・。姉は昔からおかしな事ばかり考えていて・・・ジュン様を理想の主だって決めてからは、もう何か仕出かさないか不安で不安で。よりにもよって本物の魔王子様にとんでもない事をしたらルガー家はお終いです。魔王様やジュン様が許しても他の領主が黙っていないでしょう」
おお・・・そこまで考えているなんて。
凄くまともないい子かも。
「それで、ジュン様の親衛隊の話が出た時、必ず姉は志願すると思いました。そして姉は表向きは真面目で優秀な美人に見える為、親衛隊に選ばれるはず、そうなったらと思うとますます不安で。実際、姉は既に親衛隊に配属が決定したようですし」
うん。
表向きの顔にすっかり騙されて採用しました。
「こうなったら私も親衛隊に入って姉が何か仕出かす前に止めるしかないと思い志願しました」
素晴らしい。
なんて素晴らしい子だろう。
「採用」
「え?」
「「「え?」」」
「ルチーナさんには是非、親衛隊に入ってもらいたい。そしてクリステアが暴走しないようによく見ててほしい」
この子がいれば大丈夫だ。
安心してクリステアを任せられる。
「は、はい!お任せ下さい!」
「うん。任せたよ!」
よかった。
これでクリステアの事は何も心配いらない。
親衛隊の設立が終われば日常に戻れるだろう。
そう思ってた時期がボクにもありました。




