双剣を求めて 11
「ウリエル。左前方からも来る」
「おう!まっかせろい!」
「わ、私が正面の二匹を…」
「なら、アタシとガブリエルで右の奴ね」
件の山に入ってすぐ。
魔獣の襲撃を受ける。狼型の魔獣で確か…サーベルウルフだ。襲って来た狼の数は五。
「凄いわねぇ。あっという間に終わっちゃったわ〜」
「ああ。流石はAランクの冒険者パーティー…と、言えるほどに本気を見れたわけじゃないが、腕利きなのは間違い無いな」
サーベルウルフはあんまり強くないし、数も少ないから私達だけでやる、と。ミカエルさん達が言うので私達は見学させてもらった。
王子や爺さんが言ったように、実力は確かみたい。
でも、称賛すべきは戦闘能力だけじゃなくて…
「凄いですね、ガブリエルさん。気配を殺して獲物に近づいて来る狼に…あんなに早く気が付くなんて」
「ん?…ふふん、まぁね」
ガブリエルさんは狼が襲って来るよりもかなり早く。
狼の接近に気付き、警告を出していた。
方向も数も正確に。
どうやって把握したのかはわからないけど…
「ターニャは解る?ガブリエルさんが何をしたのか」
「…ううん。でも魔法じゃない。紋章の力」
「うん。私もそう思う」
先頭を歩くガブリエルさんは時折立ち止まって、何かをしていた。
その時、ガブリエルさんの身体を青い光がぼんやりと包んでいただけで、他には何もしてなかったのだけど…多分、アレを見た人が『サファイアのガブリエル』と言ったのだろう。
「爺さんは解る?」
「いいやぁ。儂にもわからん。気になるなら直接聞いたらどうじゃ?」
うう〜ん…紋章に関する事なら聞いても秘密にされそうだけど…一応。
「ガブリエルさん。ガブリエルさんが青く光ってたのは紋章の力ですよね?良ければ何て紋章が教えて貰っていいですか?」
「…本当なら会ったばかりの人には話さないんだけど…まぁ良いわ。私がさっきから使ってる紋章は『蒼水の紋章』。蒼…深青色の物や水に関する力を持ってる。狼を見つけたのは山の中にある水場から狼を視る事が出来たのよ。これ以上は秘密」
『蒼水の紋章』…聞いた事も無い紋章ね。
水場から視た…つまりは水がある所ならガブリエルさんは何処からでも安全に探れるって事?
なるほど…それは確かに斥候には便利。
そして蒼…深青色に関する能力。
多分、それが装備を青色に統一してる理由ね。
「もったいぶらずに教えてやりゃ良いのに。別に知られたって問題無い紋章なのにさ」
「ウリエル…そういう問題じゃ……お喋りは終わり!次が来たわよ!」
「ガブリエル、何処から?」
「上!木の上から来る!」
上?…太い枝に居るアレは確か…翼のある狼。
ホワイトウルフ。飛行能力がある狼で、水と氷を操る能力もある。
フェンリルの劣化版とも言える強さを持った魔獣…ううん、幻獣だ。
「ヤバいな、アレは。爺さん」
「うむ。ケルベロスとやりあう前に幻獣とやり合いたくはないのぅ。出来れば見逃して欲しいものじゃが…」
幻獣は魔獣より知能が高いのが多い。
中でも狼は高い方だ。こちらに敵意が無いと示す事が出来れば…
「よっしゃあ!あたいに任せ…あいたぁ!?」
「ダメ。アレは幻獣…戦えば勝てるだろうけど、今後に影響が出る…戦わずに済むなら、それでいいから」
「ホワイトウルフは敵対者には容赦しないけど、無闇に人を襲ったりしない存在の筈よ。それにあの子…」
「怪我してる。多分、ケルベロスと戦って逃げて来たんじゃない?確かこの山の主でしょ?ホワイトウルフは」
「うん……あ、行ってくれたね」
「あー!逃げやがった!」
良かった、行ってくれた。
で、あのホワイトウルフがこの山の主?
そうだったんだ……って、それってヤバくない?
「それって…つまりはホワイトウルフにとって代わってケルベロスが主になったって事ですよね?」
「ですね…急いだ方が良いかもしれません」
「ど〜して?ケルベロスが主になったら何かあるの〜?良い事は無さそうだけどぉ」
「知らねーのか?魔獣の領域の危険度って、主に左右されんだよ」
「強くて凶暴な魔獣が主になれば、その領域に棲む魔獣も強くて凶暴な魔獣が多くなります。ホワイトウルフは強くても凶暴ではありませんでしたから…放っておけばこの山の危険度は跳ね上がりますね」
「ケルベロスが主になったら間違い無くそうなるなぁ」
「まだ襲って来た魔獣はサーベルウルフだけだから断定は出来ないけど…遭遇する魔獣の種類が犬やら狼ばかりなら…もう影響は出始めてると考えるべきね」
「それってぇ…この山がダンジョンになるって事〜?」
「それは無いわ」
ダンジョンは閉鎖的な空間…洞窟とか遺跡なんかに強力な魔獣が住み着いて魔素溜まりが出来て、魔獣が集まりだす事でダンジョン化する。
山がダンジョン化するなんて、今まで無かった筈。
「ですね。この山に棲む魔獣が犬や狼が多くなるでしょうけど…ダンジョンみたいに魔獣が溢れるほどに集まる事は無い筈です」
「何にせよ、急いだ方が良いのは確かよ。行きましょ」
「そうね。…でも山だとアタシの本領が発揮出来ないのよね。今更だけど」
「ハッハー!山での戦いならこのあたい!『エメラルドのウリエル』に任せとけ!」
「はいはい。頼りにしてるわ」
「…魔獣が居るんだから静かに」
山にの戦いなら?
何だろ?ウリエルさんも紋章を持ってるんだろうけど…思いつかないわね。
「って、早速来たわよ!ウリエル!一匹だけだから任せるわよ!」
「おっしゃあ!」
今度はウリエルさんが緑色に光って…もしかして四人とも光るの?
ガブリエルさんが青。ウリエルさんが緑。
ならラファエルさんは…赤?
ミカエルさんは白?
「…何?アタシに何か用?」
「あ、いえ…」
「なら戦いに集中して。ウリエルなら大丈夫だと思うけど、油断しちゃダメよ」
「はい」
そうだ、今は戦闘中。集中しなきゃ。
…でも、私ここまで何の役にもたってないなぁ。




