第59話 実技試験と面接試験
実技試験の日がやって来た。
元は騎士団や兵団に所属してた者達。
腕に自信のある者達だけあってその試合は白熱する。
見てるだけでも結構楽しい。
これが実戦、殺し合いだったら楽しいなんて感じないのだろうけど。
試合は一人三試合ずつ行う。
三試合も行うのはあまりに実力が離れた者と当たったり相性が悪い相手と当たったりだと正当な評価が下せないかもしれないからだ。
一週間掛けて試合を消化していく。
一日の試合が終わったら面接も消化する。
一週間は冒険者の仕事はできそうにないな。
いや、その後は各領地からの志願者がいるからもっと出来ないか・・・。
「さて、それでは面接を始めさせてもらいます」
「「「はい」」」
面接は一度に三人ずつ行う。
「これから一人ずつ、意気込みや志願した理由等を話してもらうのですが、その前に一つ」
志願者の三人の周りの床に魔法陣を発生させる。
「それはボクが作ったオリジナルの精神魔法で、『トゥルー』という魔法です。効果を説明すると嘘を言った場合はその魔法陣が赤く光ります。つまり嘘か本当か見分ける事が出来る魔法です」
ザワザワとしはじめたのは志願者達だけでなく試験官でもあるユウやアイ、父アスラッド、カイエン師匠もだ。
「ジュン、いつの間にそんな魔法を」
「この前、嘘発見器があったらなーって話しただろ?それから作れないか暇を見てはやってたんだ。で、最近できた」
「流石お兄ちゃん!」
「お前、凄いな。普通オリジナル魔法なんてそう簡単に作れないんだがな」
「流石です。ジュン様」
それはさておき。
置いてけぼりになってる志願者達にも一応説明しなきゃ。
「何故、この魔法を使ったかわかりますか?」
「はい。スパイや暗殺者を傍に置く事を避けるためですね」
志願者三人の内右端に座ってる男性が答える。
親衛隊に志願するだけあってちゃんとわかってるようだ。
「そうです。騎士団や兵団に所属していたなら御存知だとは思いますがボクには以前、暗殺者に襲われた事があります。首謀者はまだ捕まってません。その為に警戒が必要です。不愉快かも知れませんが理解してください」
「構いません」「問題ありません」「当然の判断かと思います」
三人とも納得してくれたようで何より。
「有難うございます。では面接を始めます」
という流れで面接をこなしていく。
なんだかこうやって面接の試験官なんてして偉そうにしてると自分が偉くなったと勘違いしそうだ。
いや、実際に魔王子で上に立つ事になる立場ではあるんだけども。
前世が一般市民だったのでどうも人の上に立って偉そうにする自分に馴染めそうにない。
そして試験が始まって三日目。
実技試験の会場で一人の女性に話かけられる。
「ジュン様、少しよろしいでしょうか」
「あ、はい。貴方は確か、クリステアさん?」
「はい。クリステア・ルガーです。今はまだ近衛騎士団に所属しています。よろしくお願いします」
今はまだ、ね。
自分は選ばれる自信満々って事かな。
中々の自信家のようだ。
クリステアさんは桃色の髪で前髪を下したショートカット。
背は高くないがスタイルは抜群。
騎士団で一番の美女と呼ばれるのも納得だ。
「はい、よろしくお願いします。それで何か御用ですか?」
「はい。もしよろしければ稽古をつけてもらえませんか?」
「稽古、ですか」
「はい。是非」
稽古とは言うが目が真剣そのもの。
稽古にかこつけてボクの実力がみたいって事かな。
自分が仕える、守るべき対象がどの程度の実力が見ておきたいってのもあるのだろう。
既に親衛隊に選ばれた後の事を考えているって事か。
「いいですよ。御相手しましょう」
「ありがとうございます。ではあちらで」
二人で実技試験が終わって空いた場所へ向かう。
実技試験の会場は練兵場だ。
今は志願者達しかいないが彼らも見学するつもりのようだ。
なんだかガウル様と戦った時を想いだすな。
「では、始め!」
審判を務めてくれるカイエン師匠の掛け声で模擬戦が始まる。
「行きます!ハァァァ!」
「どうぞ!ハッ!」
剣と剣、剣と盾が激しくぶつかり合う。
彼女はボクより年上だが体格はボクのほうが上だ。
それでも上手く受け流したり避けたり弾いたり、こちらの攻撃を全て躱してる。
そして的確に隙をついて攻撃してくる。
ボクも攻撃はもらわないが実に避けにくい狙ってくる。
急所をいきなり狙うのではなく手首や足等を狙って弱らせようとしてくる。
しかし時には首を狙ったりと結構厭らしい攻撃だ。
とゆうか、完全に本気だろう。殺しに来てないか?
「ハッ!ハァ!」
盾もただ防具としてではなく武器としても使ってくる。
所謂、シールドバッシュと言われる攻撃もしてくるのだ。
装備はロングソードに盾、重鎧。
鎧はちょっと変わったタイプの女性用の鎧だ。
守りを固め隙をつく。
こちらが守りに入ればすかさず攻めに転じる。
さっきは厭らしい攻撃と思ったが違う。
堅実な戦い方なのだ。
実に参考になる。
「流石ですね、ジュン様。ここまで完璧に躱されるとは」
「貴方も凄いですよ」
身体能力的にはボクのほうが上なはずだ。
だけど技術で負けている。
いや経験の差で負けているのだろうか。
武術では互角。
ならば後は魔法だが―――
「そこまで!」
絶妙なタイミングでカイエン師匠が止めてくれる。
流石だ。
「引き分け、ですね」
「はい。ですがあのまま続けていれば私が負けていたでしょう。魔法を使われたら私に勝ち目は有りませんから」
そう、魔法戦では恐らく彼女には負けない。
彼女の持つ火の紋章は火属性の魔法や攻撃に対しての耐性。
そして火属性魔法の適正を与えてくれる。
故に得意な魔法は火属性魔法なはずだ。
しかしボクはそれらを魔法で完封する自信はある。
「有難うございました、クリステアさん」
「有難うございました、ジュン様。やはり私の眼に狂いは無かった」
「はい?何の事です?」
「いえ、何でもありません」
「クリステアさん、次はウチとも訓練しよ?」
「はい。よろしくお願いします」
妙に訓練を強調した言い方だったけどアイとクリステアさんは模擬戦を開始した。
アイはうずうずしながらボクとクリステアさんの模擬戦を見てたし
我慢できなくなるだろうと予測してた。
「せい!」「ハァッ!」
アイとクリステアさんの戦いは互角だ。
武器を持ったクリステアさんに素手で―――ガントレットは着けているが拳で渡り合えるアイが凄いのか。
アイと互角のクリステアさんが凄いのか、どっちだろうな。
しばらく観戦してると気づいた。
アイは恐らく手加減してる。
いや本気ではないと言うべきか。
少なくとも先見の紋章は使ってないようだ。
そして盾を持って防御を固めた相手にはどう戦えばいいのかもわかった。
盾を切り付けるような攻撃ではなく盾を押すような、衝撃が残るような攻撃が有効なのだ。
盾を持った腕に衝撃が伝わっているのだろう。
だんだんクリステアさんの盾捌きが鈍ってきている。
もう少しで盾をまともに扱えなくなるだろう。
そしてそこで模擬戦終了。
いいタイミングでカイエン師匠は止めてくれる。
「御強い、ですねアイ様」
「貴方はジュンとやってすぐだったからね。息が切れるのが早かったわ。そのせいよ。また今度やりましょ」
「はい。是非」
そう言って二人は別れる。
確かにクリステアさんはボクとの模擬戦のあとすぐの連戦だ。
疲労はあったと思うけど。
「それでも結果は変わらなかったんじゃないか?」
「まあね。負けない自信はあるよ。でもあの子が強いのは確かだね。結構逸材かも」
アイ先生のお墨付きがでたか。
クリステアさんは合格決定かな。
「まあ、一応面接しないとね。じゃ、行こうアイ」
「うん。よいしょっと」
アイはジャンプしてボクの肩を掴んで更に飛び上がり、肩車をしてくる。
「何だ?自分で歩きなさい」
「いいじゃない。偶には。ちょっと疲れたしー」
「ボクも同じ事して疲れてるんだけどな。仕方ないなあ」
「やったー。へへへー」
まあ、たまーにならいいだろう。
と、思っていたらユウがやきもちを妬いて次は自分もするようにと約束させられた。
中身はいい大人なのに、二人は見た目の年相応の行動をよくする。
外見に中身が引っ張られてるのかな。
それから試験最終日の最終面接。
クリステアさんのみ一人だけで行った。
「結果を先に伝えておくとクリステアさんは合格です。ボクの親衛隊に配属決定です。よろしくお願いしますね」
「はい。有難うございます」
「ですが、一応面接はしますね。気楽に答えてください。ではまず志願の動機を。書類にはボクに仕えたいと書いてありますが」
「はい。実は私、『魔王子様と女騎士』という物語が大好きなのです」
「はあ、物語」
聞いた事のないタイトルだな。
「アイとユウは知ってる?」
「ううん、ウチは知らない」
「私も知らない」
あまり有名なタイトルじゃないのかな。
子供向けの絵本とかだろうか。
「私はその物語に出て来る魔王子様と女騎士のような主従関係に憧れておりまして。以前から理想の主を探しておりました。そして理想の主を見つけ王都の騎士団に入ったのです」
「え?じゃあ、その理想の主ってもしかして」
「はい。ジュン様です」
ええ~?
理想の主だなんて言われると照れてしまうな。
でもその言い方だと王都に来る前からボクの事知ってた風だけど。
「覚えておられませんか?ジュン様がルガーの街に治癒魔法使いとして訪れた時、案内役を務めたのが私なのです」
あ~あの時の女の子がクリステアさんだったのか。
でもアレって確か三年ほど前。
あれからすぐに王都の騎士団に入ったとしても三年足らずで近衛騎士にまでなったのか。
凄いな。
「あの時、思ったのです。この方なら私の理想の主になってくれる、と。前回の模擬戦で確信に変わりました。ジュン様は私の理想の主になってくれると」
「そ、そうですか」
いや~そこまで持ち上げられると照れてしまうなあ。
こんな美人に言われると余計に。
「ま、まあ理想の主になれるようボクも頑張ります。よろしくお願いしますね、クリステアさん」
「はい、よろしくお願いします、ジュン様。私の事はどうか呼び捨てになさってください。丁寧な言葉も不要です」
「わかったよ、クリステア。よろしくね」
「はい。どうか私の主として私を調教してください」
ん?
今何かおかしな単語が。
「今、何て?」
「私を調教してください、と」
「調教?」
「はい。『魔王子様と女騎士』では魔王子様と女騎士はただの主従関係でしか無かったのですがだんだん魔王子様が女騎士に抱き始めた劣情を抑えきれなくなり遂には主従関係を楯に女騎士を無理やり手籠めにし、それからも自分の欲望に忠実になった魔王子様が女騎士を調教していき最後には女騎士の身も心も全て魔王子様に捧げる事になるというハッピーエンドで終わる物語なのです!」
「その結末のどこが!?」
拳を握りしめ力説するクリステアにツッコミを入れずにはいられない。
てゆうかそれ、官能小説の類だろ。
「てゆうか、その物語の魔王子様が理想の主で?ボクがその理想の主になれると?」
「はい!そのとーりです!」
「いやいやいや!ナンデヤネン!」
その評価には著しく文句しかないぞ!
そんな評価をつけられるような事をした覚えはない!
「物語の魔王子様も民に人気で表向きは優しい、優秀な美しき魔王子様で通っています。ジュン様にも優しく美しい素顔の裏にはちきれんばかりの劣情を隠し持ってると私は感じたのです!」
「いやいやいや!やめてくんない!?人聞きの悪い!一体何を根拠に!?」
「だってジュン様。模擬戦の時、ずっと私の胸に視線が釘付けだったじゃないですか」
「え?」
「私、今回はわざと胸が揺れるタイプの鎧を着て来ました。模擬戦とはいえ戦いの最中に女性の胸に夢中になる。まさしく素顔の裏に劣情を抱えている証拠!」
なんという孔明の罠。
まさかあの模擬戦にそんな罠が仕掛けられていたなんて。
周りの視線がきつい気がする。
「しょうがないなあジュンは。あとでウチのおっぱい触らせてあげる」
「私でよければ我慢しなくていいんだよ?お兄ちゃん」
「まあ、おっぱいならしょうがない」
「ええ、ジュン様はまだ子供ですし」
気のせいだった。
むしろ理解されてた。
アイとユウは間違っているが。
「さぁ!ジュン様!私はいつでもOKです!寝室でもトイレでも屋上でも!何なら今ここで始めても!」
「始めないよ!」
ああ、クリステアの高評価が音を立てて崩れていく。
なんでボクの周りの女の子はどこか残念な子ばかりなんだ。
まともなのはリリーくらいじゃなかろうか。
リリーには変わらないでいてほしい。
いや本当に。




