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双剣を求めて 1

不定期ですが、数話ほど追加していきます。

先ずダーバ王子一行をマルレーネ視点で語ります。

 今日からダーバ王子の双剣を探す旅が始まる。 

国王陛下がダーバ王子とその妹オリビアとの結婚を認める条件として、ダーバ王子に自分で自分の剣を見つけるように言った為に。


 勇者であるダーバ王子が扱う武具は特別頑丈な物でなければならない。最低でアダマンタイト製。

出来ればオリハルコン。

つまりとてもお金が掛かる。


 ヤーマン王家なら出せなくはないと思うけど…陛下はダーバ王子の剣には一切援助しなかった。

だから王子は五人の従者と共に剣を探す旅に出る事にした。


 私、アインバッハ男爵家が次女マルレーネ・アインバッハもその一人って訳。


「じゃあな、オリビア…私が居なくて寂しくて寂しくて堪らないと思うが…出来るだけ早く帰るからな!」


「はい、お兄様…いつまでもお待ちしてますわ」


「イーノの馬鹿には近付くんじゃないぞ!」


 そして旅立ちの朝。

王都の門前には見送りで溢れてる。

どうやったのか知らないけど、王子は国民に人気なのよね。


「マルレーネ…気を付けてね」


「私は大丈夫よ、姉さん。姉さんこそ、身体を大事にね。赤ちゃんが生まれる前に帰る事は…出来ないと思うけど…」


「気にしないで」


 長女のメルセデス姉さんは去年ツェルフ準男爵家に嫁いだばかりの新婚。妊娠六ヶ月。


「貴女もそろそろ結婚を考えなきゃダメよ?旅先で良い人がいたら捕まえちゃいなさい」


「傍から見たら男連れだから無理よ…多分」


「…でもね?ダーバ様はオリビア様に御執心だし、ゴードン様は論外。後はブロイドさんだけど…その…」


「うん。言いたい事は解るわ」


 私以外の四人の従者の一人、ブロイド・ドライド。

ドライド準男爵家の次男で幼馴染。

戦士として確かな腕を持ち、ゴツい見た目にそぐわずガーデニングが趣味。

その腕は一流でドライド家の庭はちょっとした観光名所になってるほど。

貴族の男には珍しく料理上手。

無口だけど性格は温厚。

幼馴染だから気心も知れてるし、悪い相手じゃない。


 でも…


「どうしてあの人なのかしら?マルレーネの方がずっと美人なのに…」


「聞こえるわよ、姉さん…」


 ブロイドは先日、婚約した。

お相手はタウゼント侯爵家の跡取り娘、ゲルダ・タウゼント様。

つまり準男爵家の次男であるブロイドが次期タウゼント侯爵になる。

これだけ聞くと妬んだり羨ましく思う人がいるだろうけど…実際はそんな事は無く。むしろ皆、ゲルダ様と婚約したブロイドに同情…若しくは正気を疑っていた。


 そう…ゲルダ様は王都では有名人…不気味だから。

ソバカスが目立ち、黒いドレスで黒く長い髪を下ろしている為に見た目から受ける雰囲気が暗く。独り言してる姿を目撃されたり、笑った顔も不気味で友人もいない。

今もブロイドの見送りに来てるけど…ブロイドとタウゼント家の人以外誰も近付かない。


 でも二人の婚約は親同士が決めた政略結婚というわけじゃなく…恋愛による婚約だと言うから驚きだ。

幼馴染の私もびっくり仰天。寝耳に水な話だった。

何でもブロイドが造った庭に興味を持ったゲルダ様がドライド家を訪問したのが切欠で交際が始まったとか…


「ま、どっちにしてもブロイドも王子も私の好みじゃないもの。少なくとも王子より良い男じゃないとね!」


「そんな事言ってると行き遅れるわよ…」


「う…」


 そりゃあ自分でも贅沢な事言ってるなぁとは思うけど…


「あ…そろそろ出発するみたいね」


「うん。それじゃ姉さん、お父さんと兄さんによろしくね」


「ええ。行ってらっしゃい」


 王子がオリビアから離れようとしなかったけど…陛下が何とか引き離して漸く出発。東へ向かって。


「ああ〜…オリビアァ〜…会いたい…」


「今出発したばかりでしょうが!」


「そんなに寂しいならオリビアちゃんも一緒に連れて行けば良かったのに。どうしてそうしなかったの?」


「親父に止められた…オリビアを連れて行ったら婚約を認める話は無しだと脅して…クソ親父め!」


「ああ…まぁ仕方無いわよね」


「…そのまま駆け落ちしそうだし」


 確かに。オリビアも一緒だったらそのまま異国で暮らし始めそう…この王子ならやりかねない…


「ねぇ、マルちゃん。お姉さんとは何話てたの?」


「え?ああ…良い男が居たら捕まえて来なさいって。いつもの事よ」


「そっかー…でもマルちゃんは男を見る眼が無いから私が選んであげるわね」


「そんな事無いわよ!ちゃんと自分で良い男見つけるわよ!」


「…マルちゃんの初恋の相手は〜?はい、ターニャちゃん」


「…喫茶店のマスター。その正体は裏で闇賭博と違法薬物の売買を仕切る小マフィアのボス」


「う……あ、アレは優しそうな笑顔に騙されて…」


「告白の直前に逮捕されて良かったわねぇ。次が…誰だっけ、ターニャちゃん」


「新人騎士…騎士団に入ってすぐに複数の人妻に手を出した事が発覚。刃傷沙汰に発展し、騎士団を追放される」


「う、くっ……だ、だってイケメンだったし…」


「そうそう!凄かったわよねぇ。まだ十八歳なのに三十代後半から五十代後半の熟女にばっかり手を出してて。それも人族の」


「…だから年下のマルレーネは最初から眼中に無かった」


「だからマルちゃんは毒牙に掛からなかったのよねぇ。ほんと良かったわねぇ。三人目は冒険者だったわよね?」


「…アレはノーカン。だって男装した女性…オナベさんだったし」


「……」


「お前ら…そろそろ止めてやれ。マルレーネの眼が死んでるぞ」


 幼馴染ってこれだから…いや、カトリーヌとターニャが容赦無いだけかな…


 カトリーヌはフィーアレーナ男爵家の三女。

ヤーマン王国に二人しかいない治癒魔法の使い手。

おっとりした雰囲気と容姿に皆騙されがちだけど…私は知っている。

カトリーヌは実は腹黒だと。


 ターニャはツヴァイグリン子爵家の四女。

見た目通りに気弱な子で、もの静かで控え目な性格。

ツヴァイグリン子爵の後妻の子で他の兄妹と反りが合わず、家の中では孤立していたらしい。そして部屋に引き籠もるようになった。

それを知ったオリビアとカトリーヌがターニャを無理矢理連れ出し、私達と友人になった。


「ごめんなさい、マルちゃん。元気出して、ね?」


「…そう言えばブロイドが婚約したって聞いた」


「あ!そうそう!おめでとう、ブロちゃん」


「…ああ」


 露骨に話題を変えて来たわね…まぁいいわ。


「そうだったな。悪いなぁ、ブロイド。婚約が決まった矢先に長旅に付き合わせて」


「問題無い。気にするな」


「そうか……で、折角だから聞きたいんだが…ゲルダ殿の何処に惚れたんだ?不思議で仕方無いんだが…」


 直球で聞いたー!いや、私も聞きたいと思ってたけど!


「ちょ、ちょっと王子!あんた、もうちょっと言葉を選びなさいよ!」


「いや、いい…ゲルダが周りからどう言われているか知っている。だが俺はゲルダの全てを愛している。何も問題は無い」


「「「「お、おおう…」」」」


 そっかー…ブロイドの趣味ってそうなんだ…アレがねぇ…


「それに…」


「それに?何だ?」


「ゲルダは磨けば光る原石だ。磨けば、少なくともマルレーネよりは美人になるぞ」


「な、ななな…何をう!?」


 ま、まさかブロイドにそんな事言われるなんて…まさか姉さんとの会話聞かれてた?

で、でも!私だってそこそこかわいいし!ちょっとは女のプライドだってあるし!

流石にアレに負ける訳には!


「胸はゲルダの方がデカいしな」


「「「ああ、それはそう」」」


「胸の事は言うなー!」


 何なのよ、もう!何で私、さっきからイジメられてるの?


「ああ、ごめんなさい、マルちゃん。ほら私の胸で泣いていいから」


「カトリーヌ…それは逆効果」


「うぅ…ちっくしょうー!」


 くぅぅ…カトリーヌめ…ちょっと胸が大きいからって…羨ましくなかんか…羨ま…羨ましいー!


「騒がしいのぅ…故郷との別れを惜しむかと思うて御者をしてやっとるのに。ちゃんと別れを済ませとるんじゃろうな」


「あら、ごめんなさい」


「でも別れって。ちゃんと帰るつもりなんだから…もう二度と帰れないみたいな言い方しないでよ」


 馬車を操車してるのはゴードン爺さん。

フンフット子爵家の前当主でダーバ王子のお目付け役。

こう見えて槍に関しては最高の腕を持つ『槍聖の紋章』の持ち主。


「でもゴードンさんって馬車の操車なんて出来たんですね」


「儂は元子爵家の当主とは言っても儂の代で成り上がった元騎士じゃからの。若い頃は何でもやったもんじゃ。馬車の操車くらい出来るわい」


 意外に多芸なのよね…この爺さん。

野営地の設置とかも出来るし。子爵家の当主の経験もあるから交渉術もあるし。


「ところでダバちゃん。私達何処に向かってるの?」


「お前…今更そんな…」


「ううん、エルムバーンに向かうのは聞いてるわよ?でも今進んでる方向って北東でしょう?エルムバーンに向かうならもっと東向きに行かないと」


「…北東だと山脈を北に大周りする事になる」


「ああ…それには理由がある。マルレーネ」


「ええ。先ず東に直進だとレンド魔王国に入る事になる。それを避けたいのは解るわよね?」


「イーノ様よね」


「…そろそろ王子に勝負を挑む頃合い」


「鉢合わせする可能性が高いわねぇ」


 しかも旅に出る理由が王子とオリビアの結婚の為って知られたら…絶対に面倒臭い事になるわね。それに…


「よしんばイーノ様に見つからずにレンドを抜けたとしても、隣りのグンタークには入れないのよ」


「あら、どうして?またダバちゃんが何かしたの?」


「またってどういう事だ、カトリーヌ…」


「違うわ。まだ極秘だけどグンタークで内乱が起きたのよ」


「え…」


 第一王子が現国王夫妻…つまり自分の両親を謀殺。

他の王族も処刑し…唯一生き残った第一王女クローディア・ウル・グンタークと国を二つに分けての全面抗争になった。


「内乱が起きたのが二ヶ月前。そろそろ終結しそうだって話だけど…内乱が終結しても乱れた治安や人心が元に戻るには時間が掛かるわ。今はグンタークを通るのは避けた方が無難ね」


「そっか〜…それじゃエルムバーンに向かうのは何故?西に行かないのはわかるけど〜」


 西に行けば聖エルミネア教国がある。

ヤーマンとは敵対はしてないけど、あまり良い噂は聞かないしヤーマンには魔族が少なからず住んでる。絡まれたら面倒な事になる。


 それにバルーク帝国とポーンド王国は戦争中。

勇者であるダーバ王子が行けば利用しようするかもしれない。

ポーンド王国のバックにはエルミネア教国が付いてるって話だし、行かない方が良い。


「エルムバーンの王都には腕の良いドワーフの鍛冶屋が居るらしい。何でも全ドワーフの中で五本の指に入るって腕前のな。最悪その人に剣の制作を依頼する事になる」


「最悪って…最初からその人に頼めば良いじゃない?」


「無理だ。そんな金は無いからな!」


「じゃあ何で行くの…」


「金は無いが素材はある。これだ」


「何これ」


「宝物庫に有ったオリハルコン制のナイフと宝石だ。これで何とか依頼してみる」


「宝物庫って…よく陛下が許可してくれたわね」


「親父がくれる訳ないだろう。黙って持ち出したんだ」


「は!?あんた何してんのよ!?」


 いくらヤーマンの王子だからって…それは犯罪…


「大丈夫だ。バレない為の偽装は完璧だ。というか、だ。宝物庫から何か持ち出して来いって言ったのはお前だろ、マルレーネ」


「……え?」


「違うのか?カトリーヌがそんな事言ってたぞ?」


「カトリーヌ!!」


「だって〜…それくらいしないと無理そうなんだもの。私、またヤーマンに帰って来たいし〜」


 それは私も同じだけど…何故私のアイディアにするのよ…やっぱり腹黒…


「ま、まあ、アレだ。これを使うの最終手段だ。エルムバーンに着く迄に出来るだけ金を稼ぎつつ、私が使えそうな剣の情報を集める。持ち主と交渉して譲って貰えたら楽だしな」


「…そんな凄い剣、譲ってくれないと思う」


「ターニャちゃんに同意〜」


 私も同意。録な対価も用意せずに譲って貰えるなんて思えない。


「まぁまぁ。そこは当たって砕けろ、だ。それとな。エルムバーンに向かうに当たって一つ大きな問題がある」


「何よ」


「それはな…金が無い!」


「…それ、今聞いた」


「剣を造るお金が無いって話なら旅をする理由を聞いた時にも言ってたわねぇ」


「そうじゃない。旅の資金が無いって言ってるんだ」


「「「はい?」」」


「…」


 旅の資金…つまり旅費?

食糧を買うお金や宿に泊まるお金が無いって事?

え?まだ王都を出て一時間経ってないけどぉ!?


「正確には手持ちの資金じゃエルムバーン迄は絶対に保たないって事だ」


「どういう事よ」


「お前ら、この馬車の中を見てどう思う?」


「どうって…」


「狭いわよねぇ。大型の馬車なのに」


「…武器と食糧でいっぱい…」


 他には野営用のテントとか寝袋とか酒樽とか。

武器…安物の剣が沢山あるのは王子がすぐに壊してしまうから。

予備が沢山必要になる為。

食糧も王子が大食漢だから。


 つまり馬車内のスペースの殆どが王子の為に埋められてる事になるんだけど…


「これだけの量があっても精々五日分。エルムバーン迄は絶対に足りない」


「はぁ…だからアカード帝国に行くって言ったのね、あんた…」


「その通り!」


「アカード帝国?エルムバーンじゃなくてぇ?」


「アカード帝国には、ほら。闘技場があるから。そこで一山当てるつもりなのよ、このバカ王子」


「つまり〜…ギャンブルでお金を稼ぐって事かしら?」


「…無謀だと思う」


「そうよねぇ。そんな甘く無いと思うわよねぇ」


「大丈夫だ!私に任せろ!上手く行けばオリハルコン制の剣を作る資金だって稼げるぞ!」


「何するつもりよ、あんたは…」


 間違い無くくだらない企みだと思うけど…


「兎に角だ!先ずはアカード帝国を目指す!道中は狩りをしながら食費と旅の資金を稼ぎながら行くぞ!」


「「「はーい…」」」


 旅が始まったばかりなのにこの先行きの不安さ。

私達、無事に帰って来れるかな…

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