第572話 神様の世直し 17
容器に入ってるクローンは…前回見た時より成長している。
前は五歳児くらいだったが…今は十五歳前後の少女に成長している。
彼女の成長を待っていたのか?
「ジュン様!クローンを奪取しましょう!」
「あの子を使って何をするつもりなのか知りませんが、今度こそ、確保してしまえば!」
「邪魔しないで欲しいなぁ。君達はこの世界から不幸が消えるのがそんなにイヤなのかい?」
「それは世界を作り変える事が成功したら、ですよね?」
「そして一度失敗して滅ぼしているんだろう?なら今回も失敗するかもしれない。そんな危ない賭けに乗れるか」
「セバスト殿の言う通りですな。この世界に生きる者の権利として、断固阻止させて戴く」
「だーいじょうぶだよう!今回は絶対に大丈夫!何せ世界の要である世界樹の化身には殆ど影響が出ないようにしてるからね!その為のクローンさ!」
世界樹の化身に影響が出ない?
…グリムモアにいるオリジナルの事だよな。
そして、その為のクローン…一体あの子をどうするつもりだ?
「…まだ聞いてなかったな。あんたはどういう方法で世界を作り変える気だ?」
「…いいよ、教えてあげる。聞けばきっと邪魔しなくなるからね」
「…そうだといいな」
本当に安全に世界から不幸という物が消え去るなら…それは良い事なのかもしれない。
少なくともこの世界の住人達の殆どはそれを喜んで受け入れるだろう。
でも…何故かな。とても受け入れられない気がする。
「前回の失敗から僕は学んだんだ。世界から完全に不幸を取り除く事は出来ない、とね」
「…なぁんだ。神様でも出来ないんじゃない」
「当たり前でしょ。不幸があるから幸福がある。不幸が消えたら幸福も消えてしまうわよ」
「そうじゃないんだよ。バランスが問題なんだ」
「…バランス?」
「確かに、不幸が消えたら幸福も消える。だけど結果としてはそれだけだ。だけど不幸だけを消して幸福を残そうとすると世界のバランスが崩れてしまうんだ。バランスが崩れるというのは世界の安定が崩れるという事。そうなれば結局は世界は滅びる」
「……それって不幸って言わない?」
「うん。だから完全に不幸を消すのは無理なんだ。だから僕は限りなくそれに近い状態…不幸が世界から消えた状態に限りなく近い状態にする事にした。この子を使ってね」
『…クローンはあくまでクローンじゃろう。そのクローンに一体何が出来るというのじゃ』
「身代わりになってもらうのさ」
「……何?」
「この子と世界の要である世界樹の化身とは魂の繋がりがある。僕が繋げたからね。その繋がりを利用して世界中の人間の不幸を一身に受けてもらう。そうすれば世界から不幸が消えたのに限りなく近い状態に持って行けるさ。どうだい?悪い話じゃないだろう?」
「………」
世界中の人間の不幸を…あの子に?
あの子を………身代わりに?全てを押し付ける?
「ふ……ふざけるな!それじゃあの子はどうなる!?あの子は不幸になる為に生まれて来たって言うのか!?」
「大丈夫さ。その点も考えてある。あの子には感情も痛みを感じる神経も無い。世界中の不幸を一身に受けたとしても、それを不幸だと認識する事も無い。まぁ長年不幸を受け続ければ、いずれは苦痛を感じ始めて存在が崩壊するかもしれないけど。そうなる前にスペアを用意し続けるから、心配いらないよ」
「…スペア…スペアだと?」
あの子と同じ…悲しい存在をこれからも作り出し続けると?
世界中の不幸を身代わりさせる為に…?
「…やっぱり、あんたはボクの敵だ。あんな女の子に世界の不幸全てを押し付ける事を良しとするなんて…怒りしか湧いて来ないよ」
「……あれぇ?ダメ?あの子が不幸を一身に引き受ければ世界から不幸が消えるんだよ?」
「だとしても!ボクはそれを幸せとは呼ばない!呼ばせない!」
「ウチもジュンに同意する!幾ら感情が無くて痛みを感じる事も無いからって…何も知らない子に全て押し付けていい筈がない!」
「誰かを身代わりにするんじゃなくて、あんたが不幸を引き受けなさいよ!」
「……ふむ。どうしたもんかなぁ」
…やはり神は人間とは思考が違い過ぎる。
少なくともボクには受け入れられる事じゃあない。
断固として阻止する!
「やはりアンタはボクの敵だ。此処で排除する!」
「…ま、いいか。親の心 子知らず。世界から不幸が消えればまた変わるでしょ」
「お前なんかボクの親じゃない!ボクの両親は――」
「エルムバーンの魔王夫婦。それも間違いじゃないよ。でも僕の子なのも確かさ。その証拠に…僕と君はよく似てると思わないかい?」
「何処がだ!」
「僕の見た目、どう思った?少年のような少女のような。女神だって名乗らなきゃ男女の判別は難しいと思わない?」
「…それがどうした」
「あれ?解らない?君も散々女の子に間違えられて―――うわっ!危ないなぁ!」
「アンタに言われると無性に腹が立つ!もう問答は終わりだ!止める気が無いなら力尽くで!」
『気を付けるんじゃぞ!まだエロースの眷族がまだ残ってる筈じゃ!それにエロース自身も相当に強いからの!』
…言われなくてもわかってる。
見た目は華奢な少女なのに存在感が半端無い。
感じる力の大きさも濃密…今まで対峙した相手の中では最高…神なだけはある。
「大丈夫。我が子を殺したりしないさ。それに最後の仕上げをしてもらわないといけないから」
「最後の仕上げ…?」
「うん。この世界から不幸を消した英雄に君はなるんだ。そうすれば、君は世界中から愛される存在足り得る。君が望んだ夢が全て叶うんだ。そして、それは君の手で成し遂げなければならない」
「…つまりはボクにアンタの手伝いをしろと?すると思うか?」
「…だろうね。ところでジュン。君は自分の名前をどう思う?」
「…いきなりなんだ」
「いいから。答えてよ」
「…正直、気に入ってる。ジュンと付けてくれた親には感謝してる」
「うん、僕もいい名前だと思うよ。神代 淳。とても良い名前だ」
「…カミシロ?」
「カミシロ・ジュン?誰の事を言ってるのですか?」
…何故、前世の名前を持ち出す?
一体何の意味が…
「名前ってさ、とても重要だよね。特にこの世界じゃ魂の名前を視る魔法なんて物まで存在するし」
「…何が言いたいんだ?」
「名は魂に刻まれる。魂に刻まれた名前は、その者に影響を与えずにはいられない。当然、名字…家名も」
『…まさか…まさかお主…』
何だ…?ボクが神代 淳という名前だったのが一体何なんだ?
何か重要な意味がある…のか?でも、それならユウも?
「名は体を表す。日本のことわざだったね。正にその通りだよね。フレイヤもそう思うだろ?」
『…!む、無駄じゃ!そういう時の為にジュン達には加護を与えてある!』
「甘いなぁ。僕はこの場に居るんだよ?遠く離れた場所から与えた加護なんかどうとでもなるに決まってるじゃないか」
『…ぐぬぅ!ジュン!逃げるんじゃ!』
「は?逃げろって…」
「神代…神の依代。ジュン、君は神の依代になる才能を刻まれているんだよ。名によってね」
「なっ…」
「ジュン!」
「お兄ちゃん!逃げて!」
「ジュン!その体、少しの間借りるよ!」
「ジュン様!」
「ジュンさん!」
皆がボクを呼ぶ声が…段々遠くなっていく。ボクは…




