第571話 神様の世直し 16
『何じゃと…』
「ユウ様とアイ様が…」
「前世ではアイシスさんと同一人物…?」
「「「………」」」
ユウとアイが前世ではアイシスと同一人物…やはり、そうなのか…薄っすらとそうじゃないかと思ってはいたが…だが証拠は無い。信じる信じないは当人とボク達の自由…なのだが…
「…えっと…つまり聖女エルミネアと同じという事ですか?」
「ちょっと違う。似てはいるけどね。…いや、決定的に色々と違うから全くの別物とも言えるかな」
「…というと?」
「聖女エルミネアは…普通と言えば語弊があるかもしれないけど、普通の二重人格だ。誰かの手で造られたわけでは無く…誰かの干渉によってそうなったわけじゃない」
「?…どういう事ですかな?」
「前世のアイシス殿は誰かに造られた存在だとでも?」
「…さっき最初の筋書き通りに魔族を滅ぼす事に拘った神々がいたという話だけどね。その神々にとってジュン…初代魔王は邪魔な存在だった。だから初代魔王を排除したい。だけど初代魔王は強い。下級神では話にならない程に。そこで彼らは人族の少女アイシスを使い…一つの肉体に三つの魂を持つ人間を造った。強大な力を持つ魂が三つもある人間は初代魔王に匹敵する力を得た。だけど魂が三つあるという事は三つの人格があるのと同義。つまり勇者アイシスは神々によって多重人格にされた哀れな存在だったのさ」
「僕の前世は…神々に造られた存在…」
「ウチも…」
「………」
『ユウ…アイ…アイシス…』
その事実は三人にとって相当にショックだったようだ。
いつも明るい三人が暗い顔で俯いてしまった。
皆も掛ける言葉が見つからないらしい…ボクも同じだ。
だから…
「あ…」
「ジュン…」
「お兄ちゃん…」
こうして三人を抱きしめるくらいしか出来ない。
「…続けろ、エロース」
「……勇者アイシスは多重人格。そして互いを認知してない多重人格だった」
「互いを…認知していない?」
「つまり自分が多重人格だと認識していなかったと?」
「その通り。そして初代魔王は勇者アイシスが神々の勝手でそういう存在にされたと気付いた。だから彼女を殺したくなかった。戦う度に必死に説得もした。そしてそうこうするうちに初代魔王と勇者アイシスは愛し合う仲になった。そして…」
『初代魔王は三人のアイシスを愛したし、三人のアイシスも初代魔王を愛した。それは勇者アイシスを造った神々にとっても誤算だった。初代魔王を殺す為だけに造った存在が自分達の思惑を外れて行動する事に驚愕した神々は漸く魔族を滅ぼす為に動くのやめて手を引いた。…じゃったか』
「……思い出したの?フレイヤ」
『覚えていたわい。じゃが…ユウとアイが勇者アイシスの中に居た魂の生まれ変わりだとは気付かなんだ。まさか…ユウとアイがのう…』
…フレイヤ様が認めてしまったか。
いや、解ってる。理解している。エロースの話に嘘はない。
それは何故かわかる…わかってしまう。
「…何故、ユウとアイだけをボクと同じ世界に転生させた?」
「ん?」
「ユウとアイもお前が転生させたんだろう?何故アイシスはボクと同じ世界に転生させなかった?」
「それは違うよ。ユウとアイが君の妹として転生したのは僕の手によるものじゃないし、アイシスが同じ世界に転生しなかった理由は解らない。もしかしたら…アイシスの魂はこの世界で君を待ち続けた。ユウとアイの魂は追いかけた。それだけの違いなのかもね」
「そうだ…僕は待ってた。もう一度、君に会える日を…」
「ウチは追いかけた…また守ってあげたくて…」
「私も追いかけた…守って欲しくて、もう一度お兄ちゃんと呼びたくて…」
「……勇者アイシスは三つの魂を持ち、三つの独立した人格を持っていた。そして…それぞれの人格に肉体の主導権が移った時、容姿も変わった。初代魔王はそれぞれに名前を付けた。金髪の少女を元々の名前であるアイシス。黒髪の少女をアイシスからとってアイと名付け、黒髪と金髪の混じった少女を勇者からとってユウと名付けた。中でも幼い人格だったユウは初代魔王をお兄ちゃんと呼んでいたよ」
…ユウとアイの名付け親は初代魔王…もしかしたら、それが二人がボクと同じ世界に転生した一番の理由なのかもしれないな…
「以上が、僕が知る勇者アイシスの全てさ。初代魔王の妻になった彼女は色々やってくれたよ。魔族を滅ぼす事に拘った神々が諦める切っ掛けを造った事だけでなく、初代魔王を守ったり幸せにしたり。僕にとっては義理の娘のような存在さ。だけど邪魔もしてくれた。こっそり我が子を守るように命じた僕の眷属を神々の刺客だと勘違いして追い払っちゃうし。統治に役立つだろうと思って贈った品を壊しちゃうし。結婚式には僕の像を飾るように夢で神託を降したのに、夢の内容を忘れちゃうし。本当に色々やってくれたよ」
「…流石アイシスの前世。いい仕事してる」
『流石やでマスター…』
「………」
いつもなら此処でアイシスの反応で締め括られるんだけどな。流石にそんな気分にはなれないか、まだ…
「…アイシス。幸せそう」
「ユウ様とアイ様もな。思ったより余裕じゃないか」
「え?」
「でゅふ…でゅふふふ…だぁって~ジュンが今、僕を抱擁してるんだよ?僕を心配して!これ程ジュンの愛を感じる事があっただろうか!」
「ウチも幸せ…ジュンだってショッキングな事実を聞かされていっぱいいっぱいなのに。それでもウチらを心配してくれて…ジュンの優しさと愛をこれでもかってくらいに感じる!」
「これだから!これだからお兄ちゃんは最高なの!お兄ちゃんの抱擁から感じる熱い想い…これが愛じゃないなら、何を愛と呼ぶのか解らない!」
「…タフだねぇ、君達。そんな所も生まれ変わっても変わらないな」
…本当に、タフです事。
何だろう…この気持ち。ボクの心配は只の杞憂だったのだろうか?
「…言っておくけど、ショックだったのは確かだよ」
「でも…エルとミネアの一件もあったしね」
「前世は前世。記憶が残って無い以上、私達がかつて一つの肉体を共有してた存在だって言われてもね。ピンと来ないわ。重要なのは私がお兄ちゃんを愛してるという事!そしてお兄ちゃんも私達を愛してるという事!」
「だから…あんたの事なんて知ったこっちゃないの」
「あんたの事はさっさと終わらせて早く結婚式の準備に専念したいんだよね、ウチらは」
「…悪いけど、もう少し付き合ってもらいたいね。ジュンだけは絶対に付き合ってもらう必要があるんだ」
『この期に及んで何をする気じゃ!お主の計画に必要な世界樹のクローンは完璧に抑えた!もうあの者にお主は干渉できんぞ!』
「ふふ…アハハハ!本当に君は間抜けだよね、フレイヤ!」
『何じゃとおう!』
「これを見なよ!」
エロースが指差す方向…床から何か出て来た…これは…クローンが入ってた容器と同じ物?
そして中に居るのは…同じ世界樹の化身のクローンだ。
『ど、どういう事じゃ!?』
「君達が抑えたと思ってるソレは精巧に造られた偽者さ!君達が長々と話に付き合ってくれた御蔭でたった今!完全に調整は終わった!これで全ての準備は終ったよ!」
ぐっ…素直にこちらの質問に答えていたのは単に時間稼ぎの為か。
幾らボクやユウ達に関わる事だったとはいえ、なんて単純な策に引っ掛かってしまったのか…
「フフフ…さぁ!世直しの始まりだ!」




