第570話 神様の世直し 15
「ジュン様が…」
「女神エロース様の眷族の生まれ変わり…」
ボクが…女神エロースの眷族…子供?
その生まれ変わり?いや…いいや!そんな事あるか!
「そんな事は無い!だって、ボクの――」
「君を世界Cに転生させたのも僕さ。平和な世界を体験して欲しくてね。他にも理由があるけどね」
「なっ…」
…ボクが日本に生まれたのは女神エロースに転生させられたから?そんな…
「…平和な世界?他の理由?」
「この世界に転生してもう結構生きてるんだ。何となく察しが付いてるんだろう?」
『…ジュン、お主がエロースの眷属…子供の生まれ変わりなのは真実じゃ。そして…その子供というのがお主らの言う初代魔王じゃ』
「…それがお兄ちゃんに伝えてない真実?」
『ジュンには初代魔王の記憶は残って無い。記憶が無ければ前世など他人同然じゃろう?伝えても前世は変わらないし何も変わらないのなら、伝えて困惑させる事もあるまい?』
「…じゃあ、本当に…ジュン様は初代魔王様の生まれ変わりなんですね」
「今までの事でそうじゃないかとは思っていましたけど…神様の御墨付が出ちゃいましたかー…アスラッド様やエリザ様が聞いたら大喜びですねー…ま、また大喜びで世界各国に告知だしたりして大騒ぎになったり…そ、そうなったら大変ですねーまたジュン様の人気が上がって婚約希望の女性が…その…」
「…いいんだ、シャクティ。…気にしてないから」
…そうだ、気にしてない。気になんかしてない。
元々、初代魔王がボクの前世かもしれないとは思っていたんだ。
そこに初代魔王は女神エロースの眷属だった。そんなオマケが付いて来ただけ…ただ、それだけだ。
「…ハァ~…フゥ…それで?初代魔王が魔族を滅ぼすのに反対したから、予定を変えたと?」
「神々が決めた事って、神族が反対したからって簡単に変更出来るものなの?」
「勿論、普通は出来ないよ。いや、それ以前に…神が決めた事に眷属たる子が反発するなんて有り得ない。だから君は特別なんだよ、ジュン」
「特別?」
「そうだよ。さっき聞いた僕の子供達の印象、君が言った人形のようだという感想。あれは間違いじゃない。そして君も最初はそうだったんだ」
「…ボクと初代魔王は別人だ。それで?つまりは初代魔王は感情の無い人だったと言いたいのか?」
「そんな筈は…初代魔王は多くの人に愛された人です。それなのに感情が無いなんて…」
「それにファフニール様も言ってたじゃないですか。聖女エルミネアが殺されたと知った初代魔王様は激怒したって。感情が無い人が激怒なんてしませんよ」
「最初は、と言ったよ?ジュ…初代魔王は初めは確かに人形のような存在だった。だけどある日突然、感情が芽生えた。何が切っ掛けで目覚めたのかは解らない。そして感情が芽生えた初代魔王は魔族の滅びを避ける為、魔族の側に付いた。そして僕だけじゃなく、突然感情が芽生えた神族に興味を持った神々は初代魔王のやりたいようにさせる事にしたのさ。ま、一部の神は最初の筋書きに拘ってエルミネア教国の建国に力を貸したりしたけどね」
それが…この世界の歴史、初代魔王の生い立ち…誰も知らない真実。
「……初代魔王についての情報や記録が残っていないのは何故だ?彼の直系の子孫であるエルムバーン魔王国にすら名前も伝わってない。一体何故だ?」
「彼…初代魔王の名前が伝わってないのは当然さ。だって彼には名前が無かったんだから」
「名前が…無かった?」
「そう。神々は自分の子に名前を付けない。感情の無い人形のような存在に名前なんて付けてもしょうがないしね。ああ、番号を振って呼ぶ事はあったかな。そこの彼女のように名前のある子なんて、本当に珍しいのさ。アフロディーテも変わり者だしね」
「…Meはママがアフロディーテ様で良かったと思うぞ…」
「……ま、名前が無いから彼は自分の事を魔王と呼ばせていたし、自分の事を出来るだけ記録を残さないようにしてた。…最愛の妻に付き合ってね」
最愛の…妻?初代魔王の妻で、表向き記録を残せない妻と言えば…
「勇者…アイシス?」
「ん?それは知ってるのかい?そうさ、彼女達の前世の勇者アイシス。初代魔王の妻の一人さ」
「僕は…一人しかいないよ…」
「「…」」
アイシスだけじゃなく、ユウとアイを見て彼女達と言ったな。
彼女達の前世……まさか…そうなのか?
「勇者アイシスについては後で話そう。先に初代魔王について続きを話そうか」
「「「………」」」
「魔族に味方して戦う事を決めた初代魔王は先ず一つの国を作った。魔族を束ね、導く象徴として」
「それがエルムバーン魔王国。初代魔王様が治めた国…」
それは知っている。…というより、初代魔王について知ってる事なんてそれくらいだ。
後は勇者アイシスの墓地にあった記録映像やファフニール様から聞いた話くらいだ。
「かと言って。初代魔王は魔族を守る為に他の種族を滅ぼそうとはしなかった。敵対してない者を無闇に殺したりしなかったし、むしろ魔獣の脅威から守ったりした。魔獣という共通の敵に関しては人族とだって手を取り戦った。味方は当然、敵からも不思議と愛される存在となって行った」
「そして世界中で女を作った?」
「おや?それも知ってるのかい?その通り、彼は世界中に子種を撒いた。自身が持つ『魔王の紋章』が血によって継承される物だと気付いた彼は魔王国を世界中に増やす事で、人族の国を抑え世界の均衡を保とうとした。その為に『魔王の紋章』を持つ者が国を作り治める存在となれるように。建国にも力添えをして。ま、女好きだったのも間違い無いと思うよ?何せ僕の子だしね。この性愛の女神エロースの」
…事ここに居たって、初代魔王はボクと無関係だとは言わない。別人である事は譲らないが。
だが、女好き云々…そこは否定したいな、何となく。
「彼の思惑通り、世界中で魔王国が建国。人族と魔族の勢力バランスが取れ始めた。だけど彼が寿命で死ぬまで戦争は無くならなかった。そして彼が死ぬ間際に願った事。今度は平和な国で平和な時代を生きたいという事。そしてもう一つ。世界から不幸を無くしたいという事。いや、世界から不幸を消し去りたかったと思った、が正しいか」
「…だからボクを日本に転生させた?」
「そう。そして世界から不幸を無くしたいという我が子の願いを叶える事にしたのさ」
「何故、初代魔王に………ボクにそんなに拘る?名前も付けなかったくせに」
「我が子が可愛いのは当然だろう?それに本当に君だけなんだ。感情が芽生え、神々に真っ向から反抗した子なんて。だから君が愛おしくて堪らないのさ。それに名前は素敵な名前を付けて貰ってるじゃないか。凄く良い名前を、ね」
…何だ?少し含みを感じる…名前?名前に何かあるのか?
確かにこの世界において名前は重要な意味を持つけど…
「以上が僕が世界を作り変える理由、僕とジュンとの関係さ。そしてアイシス君達の前世…ああ、前世と言えばね。ジュン、今君の周りに居る女の子、婚約者達。その殆どが初代魔王の妻の生まれ変わりなんだよ。勿論そうじゃない子も居るし、初代魔王には百人以上の妻が居たから、まだまだ全然足りないんだけどね」
「私達が…」
「前世でもジュン様の妻…」
「私も?ねぇ私も?」
『セリアは違うやろ。セリアの前世はわいが神殿に安置される前まで独身やったし』
「……むぅ」
「うん、僕が記憶してる限り君は初代魔王の妻には居なかったねぇ。因みにジュン、君と婚約はしてないけど君にアプローチしてる女の子達。その中にも前世が初代魔王の妻だった子は居るよ。例えば…マーヤ。アレキサンドリスの三つ子王女。カミーユとその侍女。親衛隊の何人かと…あとはドワーフのステファニアとドネールの十二人姉妹と――」
「待て。待て待て待て待たんかい!サラっととんでもない名前入れてんじゃない!三つ子王女とか十二人姉妹とかも大概だがドワーフのステファニア!?あの人が前世で初代魔王の妻?おかしいでしょ、色々と!」
だってあの人は男だもん!幾ら心が乙女でも身体は男だもの!子供が作れないでしょーが!
「ああ、うん。あの子はねぇ…前世では普通にドワーフの女の子だったのに。何で今世では男として生まれちゃったのか…可哀想に。いっそ僕の力で女性体に変えてあげようかと思った程だよ。まぁ今の彼女…彼を好きな子もいるようだから、止めておいたけど」
「お、おおう…」
知りたくなかった…その事実だけは…次にステファニアさんに会う時どんな顔したらいいんだ。
「…しかし、あんた、随分ボクの周りの事に詳しいみたいだな?監視でもしてたのか?」
「監視なんてしてないよ。時々様子を見てはいたけどね」
「……それじゃ、そろそろ話してもらおうじゃない」
「僕の前世…初代魔王の妻、勇者アイシスの事」
「アイシスの前世にウチとユウがどう関わって来るのか、を」
「…いいよ。でも予め断っておくけど、僕は嘘を言わない。でもそれを真実だと証明する事は出来ない。そのつもりで頼むよ…ま、薄々気付き始めてるみたいだけど」
「「「………」」」
確かにユウ達も薄々感じてるらしい。
ボクも同じだ。多分…ユウ達と同じ解答が浮かんでいる筈。
「秘密裏に初代魔王の妻になった勇者アイシスは三つの魂を持った…多重人格者だったのさ」




