第565話 神様の世直し 10
部屋の中に並んでいたのは、神族によって白猿のクローンに何らかの処置を施された末に黒毛になったと思われる存在。世界樹の番犬ならぬ番猿にされていた黒猿と同様の存在達だ。
「…なるほどね。考えてみれば当然か。神獣と同等の存在を作る技術があるんだから、あの三匹だけって事は無いよね」
「ヤバいよな。一体何匹作ってるのか知らないが、神獣を兵隊にしてるという事だろ?」
「脅威ですね。数次第ですが小さな国なら簡単に滅ぼせてしまいそうです」
「…そうかなぁ。ウチはそこまで脅威的な存在には感じないけど」
「あ、僕も。僕が戦ったエルムバーンの白猿には遥かに及ばない存在だと思うな」
アイとアイシスは黒猿をそこまで脅威に思ってないらしい。
確かにボクの魔法をまともに受けたり、皆にアッサリと仕留められたり。
白猿を強化した存在にしては弱いなとは感じていた。
ボク達が強くなったせいかなとも思っていたのだが。
「私も同意見。多分だけど、毛が黒くなったのは服従…自分達に逆らわないようにするための処置の結果じゃないかな。弱いのは…成長を早めた結果じゃないかなぁ」
「成長を…早めた?どういう事でしょう?」
「だってさ。この黒猿の元って白猿兄でしょ?どう考えても。じゃあどんなに長くても生まれてから二年しか経ってないし。経験も知能も何もかも足りてないんじゃないかな」
「なるほど…確かに。こんな容器の中で成長させられた者に戦闘経験などあろう筈がありませんからな」
「ま、あの白猿兄のコピーだからって線もあるけどねー」
…或いは両方かな。両方って線が濃厚な気がする。
そしてそれでもメイド型アンドロイド達よりは戦闘能力は上。
数次第では十分な脅威だな。
いや、かなりの数の黒猿がいると考えるべきか。
「……それで、この子猿はどうしよっか、お兄ちゃん」
「…現状では放っておくしかないかな。先に進もう」
一応、奥に進むまでにある部屋は全て確認した。
扉を開けて中を確認するだけだが、それで十分だ。
何せ全ての部屋で黒猿が入った容器、或いは空の容器を確認出来たのだから。
確認出来た容器の数は五十。
「……で、この扉の奥に何があるかだけど」
「えっと…波の音がちょっと聞こえるですぅ」
「潮の香がするよ、ご主人様」
「波?潮?」
「つまり海があるって?こんな地下深くに?」
一体なんだろうか…海水プールでも有ると言うのか?
「開けてみるしかないでしょ。ほら、行くよジュン」
「うん…」
扉をあけるとそこにはプールがあった。
百メートル以上はあろうかと思われる大型プール…いや生け簀か?
それが左右にあり、中央は通路になってる。
中には魚が沢山いるようだ。
そして一番問題なのは生け簀では無く。
「メイド型アンドロイドと黒猿が居るのはいいとして」
「新しいの出て来たね。一階に居た神族と雰囲気が似てるけど、もしかして…」
『間違いない。アヤツらはエロースの眷属。戦闘に特化した神族じゃ』
そこに居たのは女神エロースの眷属で神族。
背中に翼のある騎士。間違いなく天使だろう。
鎧を着て武器を持った男性に見える天使が五人。
それぞれ装備してる武器が違う。
片手剣と盾、斧槍、双剣、斧、大剣。
だがそれ以外は全て同じだ。
鎧のデザインも背格好も顔も。
「神族が出て来たって事はつまり…」
『うむ。アヤツが直接動いて対策を取り出したと見ていいじゃろう。そして、かなり焦っておる』
「焦っている?」
『アンドロイドや猿と違って自らの眷属たる神族は早々に補充が利く存在では無い。言うなればあの神族達は奴の切札。そして残り少ない筈の神族を迎撃に出したというのは奴がお主らの接近に焦りを抱いている証拠じゃ。どうやら急げば間に合うようじゃな』
『…残念ながらその通りだよ、フレイヤ。全くしつこいね、あれだけコテンパンにされてもまだ追って来るなんて』
「この声…」
「何回か聞いたあの神様の声ですぅ!」
ようやくのお出ましか。
いや、まだ声だけで姿は見せていないが。
『そしてやはり侵入者は君達か…参ったね。君達は殺したくないんだけどなぁ…大人しく帰ってくれたりしないかい?』
「……あんたが世界を作り替えるなんてバカな事を止めてくれれば無理に押し通ろうなんてしないけど?」
『バカな事なんて酷いなぁ。全ては君の望みだというのに』
「…またそれか。あんたの行動全てボクの為だとでも?ボクは世界を作り替えようなんて願った事は無いぞ」
『いいや。君は確かに願った。ジュン、君は色んな事を願ったからこそ君に成った』
「何を言って―――」
『ジュン!奴の言う事に耳を貸すでない!奴は時間稼ぎをしてるだけじゃ!』
『フレイヤ…そうか、まだ話してないんだね?』
何だ?一体…女神エロースは一体何を言っている?
そしてフレイヤ様は何を隠している?
『急げ!こんな時間稼ぎをするという事は世界の改変が始まるまでの時間がもう残り僅かの筈じゃ!』
『…仕方ない。お前達、時間を稼げ。あともう少しで完成なんだ、邪魔されたくない。最悪、ジュン以外は死んでも構わない。だが極力殺さないように』
「ジュンだけは殺したくないって事ね」
「どうしてお兄ちゃんに拘るのか…隠している事はあとで話してもらうわよ、神様?」
『………』
本当なら今すぐに聞き出したい所ではあるが…相手は動き出した。戦うしかない。
「…おい、女神エロース。この部屋は何なんだ?何だってこんな部屋がある?」
『その部屋は単なる生け簀さ。神族だって食事は必要だし、その猿にもね。此処から先に多少壊れても困らない部屋はもうそこくらいしか無くてね』
単なる生け簀、ね。壊れても困らないというのは本当だろうな。
「ジュン!そんな話してる場合じゃないよ!時間が無いなら此処は僕が全力を出して―――」
「ダメだ、アイシス!後ろに下がって!」
「え?――」
生け簀からマーマンが左の生け簀から飛び出し右の生け簀へと移った。
アイシスが下がって無ければ不意打ちを受け水中に引きずり込まれただろう。
「あ、あぶな…どこが生け簀!?魔獣が居るじゃん!」
『いや、生け簀だよ?その黒い猿は察してると思うけど神獣白猿を元にしてるけど、もう神獣じゃあない。魔獣と言った方が良い存在。食事も魔力を宿した物が当然必要。だから生け簀の中に魔獣が居たって不思議じゃないだろ?』
魚影から魚以外が居るのは解ってた。
今のマーマン以外にもまだ居るな。
…というかマーマンを食わせるの?
前面にメイド型アンドロイドと黒猿と神族。
そして左右から不意打ちしてくる水棲魔獣…結構ヤバいかも。




