第56話 意外と美味しいんですよ?
洞窟の内部はそこそこ広い。
これなら狭くて頭をぶつけるとかは無さそうだ。
「暗いね、ジュン明かり着けてよ」
「ああ。『ライティング』」
先頭のセバスト、中央のボク、殿のノエラにそれぞれ魔法の明かりをつけた棒を渡す。
「もっとこう洞窟全体を明るくできない?」
「できなくはないけど流石にサハギンに気づかれちゃうだろ?」
水中に逃げられたら面倒だ。
「サハギンって知能はあまり高くないんでしょ?大丈夫なんじゃない?」
「どうだろうな。まあとりあえずはこれでも充分だろ?不要なリスクを負う事もない。足元には気を付けて」
「「は~い」」
洞窟内を慎重に進む。
洞窟内はほぼ一本道だが窪みは所々あってそこに潜んでいるサハギンが時折襲ってくる。
「えいっ」「え~い」
散発的に襲ってくるサハギンは大したことも無く。
ティナとニィナの二人で問題なく処理出来ている。
二人の武器はノエラと同じで短剣二刀流。
そして魔法も織り交ぜて戦っている。
ユウと同じような戦闘スタイルだ。
「魔法は学校で覚えたのかい?」
「はいですの」「そうです」
「ティナとニィナもルーとクーも学校では非常に優秀らしいですよ」
「オレ達が鍛えてるんだから、当然だな」
四人のチビッ子メイド達は戦闘技術だけでなく勉強も頑張っていて文字も覚えて簡単な計算もマスターしたらしい。
友達も沢山出来たとか。
「偉いぞ、二人とも」
「「えへへ」」
二人の頭を撫でると嬉しそうに笑う。
頑張ってる子は褒めてあげないとね。
「もうすぐ冬休みだろう?偶には友達と遊びに行ってもいいからね」
「いいんですの?」「いいんですか?」
「ルーとクーも誘っていくといい。遠いとこ、危ないとこにはいかないようにね」
「「は~い!ありがとうございますう」」
うんうん。
素直な子供は可愛いね。
「ジュン様もまだ子供だろうに」
「ジュン様も偶には働かずに遊びに行かれては?」
そういえばそうだった。
ボクはまだ十二歳の子供だった。
とはいえ訓練はともかく冒険者の仕事は結構楽しんでるんだけどな。
「どこか遊びに行くのに御薦めの場所とかある?」
「私達、使用人の部屋で遊ぶのはいかがでしょう」
使用人の部屋でナニするんじゃい。
「念のため聞くけど使用人の部屋で何するの?」
「女遊びです」
「却下で」
子供に女遊びなんて勧めるんじゃない。
「王都の隣にある街にカジノがある。カジノなんてどうだ?」
「お、カジノかあ。いいかも」
前世では行った事ないなカジノ。
ギャンブル自体あまりやらなかったけど。
偶にはいいかもしれない。
「ジュン、ウチも!ウチもカジノ行きたい!」
「お兄ちゃん、私も!」
「そうだな。近い内にいこうか」
「「いえ~い!」」
そんな事を話しながら進めるくらい安全に洞窟を進む。
ちょっとおかしいな?
「今まで何匹サハギン出た?」
「え~と」「五匹ですジュン様」
ニィナが答えてくれる。
まだたったの五匹か。
「少ないなあ」
「そう?もっと沢山いないとおかしいの?」
「洞窟内部には最低五十匹はいるって話だったんだ。それにしては襲ってくる数が少ないように思えて」
「ふ~ん。探査魔法で探れないの?」
「やってみたけど、地底湖のある場所に何匹か固まってるだけみたいなんだ」
海に戻ってるのかな。
だとすると待ち伏せをしなければならないだろうか。
「そもそも何故、サハギンはこの洞窟に住み着いたのでしょう?」
「何かおかしいの?ノエラ」
「はい。ここは水気があり地底湖があるとはいえ地上です。水中で生活をする彼らが住処とするのはおかしいかと。確かに陸上でも問題なく行動が出来る生物なのですが・・・」
つまり、海で何かあってここまで逃げてきた、と。
「あー、なんか嫌な予感がしてきた」
「「同じく」」
なんか最近すっきりと終わる依頼を受けてないなあ。
見通しが甘いのだろうか。
「いざとなったら転移で逃げるからそのつもりで」
「「「了解」」」
洞窟を進み、最終地点である地底湖が見える位置で止まる。
「ひぃふぅみぃよぉ・・・十匹ね」
「途中でいたのも合わせても十五匹。五十匹には遠く及ばないね」
「おかしいなあ」
既に別の何かがサハギンを襲ったのだろうか。
そして返り討ちに合った?
でもそんな形跡は無かったしな。
「ジュン様、あれを見てくれ」
セバストが指さす方向をみるとサハギンの鱗や腕、血の跡等がある。
戦闘跡か?
「何かがここでサハギン達を襲ったのは間違いないみたいだ。そして気になるのは、だ」
「洞窟の入り口方面を背にして、地底湖のある方を正面にして戦ってる?」
「そう。あるいは地底湖から出て来た何かから逃げるように戦ったみたいだ。地底湖の傍には戦闘跡がない」
水中戦が得意なサハギンが水中で戦おうとせず逃げ出す相手。
そしてこの地底湖は海と繋がっている。
嫌な予感が強くなってきたなぁ。
「ジュン様、地底湖の底の方から音が聞こえるです。何か出てきます」
耳をピコピコさせながらリリーが教えてくれる。
流石、兎人族。耳の良さは折り紙付きだ。
「サハギンも騒ぎ始めた。出て来るぞ!」
地底湖の水面が波打ち盛り上がっていく。
そこから出て来たのは白い体に青色の斑点を持ったヒョウモンダコだった。
あの気持ち悪い見た目は間違いなくヒョウモンダコ。
ただしサイズがタコのそれじゃない。
以前みた神獣のドラゴン、バハムートよりもデカい。
「ありゃ、大ヒョウモンダコだ!」
「やっぱりアレ、タコなの!?」
「デカすぎない!?」
アイとユウが驚くのも無理はない。
ボクも驚いている。
水中から出ている部分だけで十五メートルはあるか?
「なあ、ジュン様。あれ本当に食えるのか?」
「私も実物を見て改めて思うのですが、無理ではないでしょうか?」
「リリーは無理ですぅ。気持ち悪いですぅ」
「あれはボクが思ってたタコじゃないから!」
流石にあれはボクも食べようとは思わない。
てゆうか現代地球のヒョウモンダコとサイズ以外が同じなら猛毒を持ってるはずだ。
「あのタコ、サハギンを食ってる」
「サハギン達はあのタコに追われてここまで逃げて来たのでしょう」
サハギンが恐慌状態でこっちに逃げて来る。
戦うしかないか。
「まずサハギンを始末する。タコにはなるべく近づくな。あのタコには毒があるはずだ。注意しろ。セバストとノエラはティナとニィナのフォローだ」
「「「了解」」」
戦闘開始だ。
逃げて来るサハギンを魔法で打ち剣で切り飛ばす。
みんなもサハギンを攻撃し、タコが減らしてた事もあってサハギンはあっさり殲滅できた。
そしてエサであるサハギンを殺したボク達が気に入らなかったのかタコはボク達に襲いかかってきた。
「セバスト!こいつどんな攻撃してくる!?」
「八本の腕で攻撃してくる!あとは墨を吐いてくる!墨には毒があるから食らうなよ!」
この洞窟はボク達からすればそこそこ大きい洞窟だがあの巨体で墨を吐かれたら逃げ場がほとんどない。
ボクは防具に付与された毒耐性でなんとかなるかもしれないけど他のみんなはそうはいかない。
どうするか。
「墨を飛ばしてくるぞ!距離を取れ!」
セバストが警告を発するがよけきれそうにない。
ここは魔法で防ぐ!
「アイスウォール!」
魔法で氷の壁を作り墨を防ぐ。
やはり墨を飛ばされたらこの場所では回避は困難だ。
「どうする?ジュン」
「アイは近づかないほうがいいな。打撃はあの体には効きにくいだろう。というより接近戦は避けるべきだな。捕まったら終わりだ」
「だね、じゃあ魔法?」
「必然的にそうなるけど、ここが洞窟の中だっていうのがね。あまり派手な魔法だと洞窟が崩れるかも」
そして火魔法も危ないだろう。
これだけ広ければ大丈夫かもしれないが酸欠や一酸化炭素中毒も怖い。
「とゆうわけで、ここはこの魔法だ」
魔法でどんどん周囲の温度を下げていく霜がおり地底湖が凍り、洞窟の壁も氷結していく。
ボクより前方にある範囲は一面真っ白な世界になる。
「アブソリュートゼロ!」
魔法で絶対零度の空間を作り出し地底湖ごと大ヒョウモンダコを氷漬けにする。
あっという間に巨大なタコの氷像の出来上がりだ。
それを剣で切り付けて粉々に砕く。
「お兄ちゃん、凄い。でも寒いぃぃぃぃ」
「流石ジュン、でも寒いよぉぉぉ」
「「御主人様寒いですぅぅぅ」」
みんなが凍えそうなので討伐証明に砕けた大ヒョウモンダコの足の氷像を持ってダイランの街に転移で戻る。
戻ってすぐ冒険者ギルドの受付嬢と話をする。
「だ、大ヒョウモンダコを討伐したんですか!?サハギン討伐に向かった先の洞窟で!?どうしてそうなるんです!?」
冒険者ギルドの受付嬢に推測混じりではあるが経緯を説明する。
すると最初は困惑していたが最終的には納得できたようだ。
「はぁ~なるほど。そうでしたか。しかし凄いですね大ヒョウモンダコは討伐難度Aの魔獣ですよ?懸賞金も掛かってます。確認が取れ次第支払れる事になります」
「懸賞金?」
「はい。恐らくはこの辺りの海で猛威を振るっていた個体でしょう。何隻か船も沈められてますので懸賞金が付きました。ですので確認が取れ次第の支払いとなります。サハギン討伐の報酬は今支払いますね」
受付嬢と話してるとリディアさんが迎えに来た。
「お帰りなさいませ、ジュン様。お迎えに上がりました」
「ただいま、リディアさん。わざわざすみません」
「これぐらい何でもありません。さぁこちらへ馬車を用意してあります」
用意してもらった馬車に乗りオルトロイさんが待つ館へ向かう。
「リディアさん、そんなにくっつかなくても・・・」
「あら、いいではありませんか。ジュン様ったら全然会いに来てくれないのですもの」
馬車ではリディアさんがボクの隣に座りやたらくっついてくる。
一応、目の前に婚約者って事になってるアイがいるんだけどなあ。
「リディアさん、婚約者の前で、抱き着くなんてあまり感心できませんよ」
「すみません、アイ様。ですが今回は目をつむってくださいませ」
アイとユウはむくれっぱなしだ。
ノエラはなんだか値踏みするようにリディアさんを見てる。
「御主人様モテモテなの」「御主人様、いつか女性に刺されないように注意してくださいね」
この際ティナの発言はともかくニィナの発言はスルーできない。
この状況はボクが作り出してるわけじゃないと思うんだ。
違うよね?
館に着いて通された部屋は沢山の料理が並んでいるパーティー会場だった。
オルトロイさんが気を効かせて学校や病院の元訓練生達も招いたのだ。
一度顔を出して話を聞こうかと思っていたので丁度いい。
料理の件も合わせて素直に礼を述べておく。
「有難うございます。オルトロイさん。気を使って頂いて。魚料理も美味しいです」
「いえいえ。これぐらい何でもありません」
礼を言われた時の反応がリディアさんと同じだ。
流石親子だな。
「どうかされましたか?」
「いえ、何も。美味しいですねこの料理」
少し笑ってしまった。
話のそらし方もわざとらしかったかな?
「あなた、ただいま戻りました」
「おお、ソフィア、戻ったか」
オルトロイさんの妻、リディアさんの母親、ソフィアさんだ。
姿を見ないとは思ってたけどどこかへ行ってたのか。
「お久しぶりです。ソフィアさん」
「お久しぶりです、ジュン様。仕事で離れており顔を出せずにすみません」
このソフィアさんは元ダイラン領騎士団の団長で今でも騎士団の指揮を執る事がある女傑だ。
「ソフィアさんが仕事で出掛けるという事は何かありましたか?」
「はい。実は最近。ダイラン領の東側で盗賊団による被害が徐々にですが増えておりまして」
「盗賊、ですか」
「ええ。それで私が騎士団を率いて・・・あ、申し訳ありません。このような場で御話しするような内容ではありませんね」
「いいえ、尋ねたのはボクですから」
「盗賊・・・」「お姉ちゃん・・・」
ティナとニィナの顔が暗い。
何かあったかな?
「ティナ、ニィナ。何かあったかい?」
「何でもないの」「大丈夫です」
そう言って二人は離れたとこで食事をしていたリリーのとこへ駆けていく。
大丈夫かな?あからさまに元気がないけど。
「ジュン様。以前あの二人から聞いたのですが、ティナとニィナの家族は盗賊に殺されてしまったらしいのです。それを思い出してしまったのでしょう」
傍に控えていたノエラがそう教えてくれる。
それは子供にはつらい記憶だろう。
いや、大人も子供も関係ないか。
誰でもつらいだろう。
「成程、そうか・・・」
「申し訳ありません、ジュン様」
「いえ、ソフィアさんのせいではありませんので」
悪いのはその盗賊だ。
ルーとクーも両親を謎の魔獣に殺されている。
四人のチビッ子メイド達は歳のわりにつらい人生を歩んでいた。
今度、何か買ってあげよう。
「あ、あ~ゴホン。そ、それよりジュン様サハギン討伐のほうはいかがでしたか?」
気を使ってオルトロイさんが話題を変えてくれる。
基本良い人なんだよね。
少々付き合いづらいとこがあるだけで。
「はい。サハギン討伐は問題なく。ただサハギンが洞窟に住み着いた原因は大ヒョウモンダコでした。大ヒョウモンダコを倒すほうが大変でしたね」
「だ、大ヒョウモンダコを倒したのですか!?」
驚くオルトロイさんに経緯を詳しく説明する。
そこにリディアさんも加わり他の招待客も集まり場は盛り上がる。
「素晴らしい」「流石は魔王子様」「あいつには私の船も沈められたんだ」
等々。ボクを称賛する声が絶え間なく続く。
褒められるのは悪くないんだけどやはり褒めちぎられると困ってしまうな。
「娘の治療だけでなく病院や学校の設立。加えて我が領地の厄介者だった大ヒョウモンダコの討伐。ジュン様には頭が上がりませんな」
「本当に。私どもに何か出来る事があれば何でもお申し付けください」
「大袈裟ですよ」
リディアさんの治療はともかく大ヒョウモンダコの討伐は成り行きだ。
あ、そうだ。タコと言えばアレだ。
「あの、大ヒョウモンダコ以外のもっと小さい、柄のないタコは漁で捕れたりしませんか?」
「もっと小さいタコ、ですか?ええ偶に捕れますが捕れても海に返してますね」
よかった。普通のタコもいるっぽい。
「あの、一匹手に入れて貰えませんか?」
「え、ええ。それは構いませんが・・・どうなさるので?」
「タコを使った美味しい料理がありますので御馳走しますよ」
「た、食べるのですか?タコを?」
「美味しいんですよ?意外と」
怪しむ、というより若干引いているダイラン夫妻と後日タコを入手してもらう約束をして別れる。
たこ焼きの鉄板をステファニアさんに作ってもらい再びダイランの街を訪れる。
「本当に食べれるんですか?これ・・・」
「まあ、見ててください」
用意してもらったタコは日本でよく見かけた普通のタコだ。
茹でたタコをかじってみるが問題ない。
たこ焼き用ソースは無かったが代用できるソースは有ったのでそれを使う。
幸い青のりも有ったので用意する。
そうしてできたたこ焼きをみんなで試食する。
恐る恐るといった感じで食べるみんなだが一口目で不安は消し飛んだようだ。
「美味しい!」「本当だ美味しい!」「ジュン様凄い!」
ボクが凄いわけじゃないんだけどね。
街の名物にするのでたこ焼きの詳しい作り方を教えてくれとオルトロイさんに頼まれたので伝える。
前世ではたこ焼きが好きなユウにせがまれてよく作ったのだ。
その経験が生きた。
ボクも久しぶりに食べれて満足だ。
こうしてダイランの街に新名物たこ焼きが生まれたのだった。
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