第555話 結局平和でした
「……それで?これはどういう事なのかしら?」
「……どう、と言われましても…御覧の通り、としか」
ママ上のセコい作戦に敗れ、遂に皆と一線を超えるしかないのかと思われた日の翌日。
結果を確認しに現れたママ上は落胆の色を隠せないでいる。
ボク以外の全員がマジックハウスの居間でグッタリとしているのだ。
決して事後では無いのは昨日から服装が全く変わってない事から解かる。
「それじゃ解らないわ。ちゃんと説明して頂戴。どうしてジュンはぐっすり眠ったって顔してお茶してるのに、ユウ達は疲れ切った顔してるの」
「ええと…」
こうなった原因。それは誰も譲らなかったのだ。
誰が一番最初にボクと寝るのか、を。
シャンゼ様は勿論、アイとユウも。カタリナさんもパメラさんまでもが。
結果、話合いになったわけだ。喧嘩はおろか言い争いにすらならなかったのは、ボクの婚約者は全員仲良くする事が絶対。殴り合いの喧嘩はご法度。というのが暗黙の了解になってる。
だが二十人以上も集まってお互いが譲らない中、話合いだけで解決するはずも無く。
結果、何事も無いまま朝を迎える事になったのだ。
「そんなのジュンが決めれば良かったじゃない…」
「勿論、ボクが決めればいいという意見もありましたよ。ですけど…」
「一番に選ばれた人はジュン君が一番好きな人になる…選ばれれば幸せだけど、もし選ばれなかったら?」
「そう思うと怖くて…ジュンさんに決めてもらうという意見は早々に消えました」
「……」
頭が痛い。そんな顔してますね、ママ上…でも、ボクは御蔭様で平和に眠れました。
「じゃあもうくじ引きにしなさい。ほら、今からでも!」
「それはウチが提案しました。却下されましたけど」
「だってアイには『先見の紋章』があるんだもん。自分が当たりくじを引く予知が出るまで粘る気でしょ」
「…こういう時のアイシスは無駄に鋭い…」
「そうじゃなくてもくじでは確立が低すぎますからね…」
「皆どうにかして自分が一番にって考えですから。何せ…最初は特別ですから」
そんなこんなで。
誰もが一切合切引かない状況が出来上がり。
ボクは部屋で待ってるから皆で決めてくれと言い残し、部屋で休ませてもらったのだ。
但し、一人では無く、三人で。
「ベルとハティは…元気そうね?」
「ベルとハティは話合いに参加せずに、ボクと部屋で遊んだ後は寝てますから」
「だって~御話しの内容、よくわかんなかったし、つまんないんだもん」
「……うん。わたしは、別に何番でもいいし…」
という訳で、三人揃って遊んだ後はそのまま寝ていたのだ。
勿論、何にもしてない。ただ一緒に寝ていただけです、誓って。
「だーかーらー!どーしてその状況で何にもしないのよ!」
「その状況で手を出したら翌朝どうなるか…わかるでしょうに」
確実に殺される。皆の怒りは頂点に達するどころか天元突破して世界の崩壊に繋がるかも。
「…はぁ~…問題なのはジュンだけじゃなかったと言う事ね。幸い、バカンスが終わるのはまだ先よ。それまでに解決しなさいね。それじゃ、行きましょ」
「え?何処にです?」
「この島に来てるお客様はジュン、貴方のお客様が殆どなんだから。貴方が居ないとダメでしょ。昨日は殆ど何もしてないし、子供達も貴方と遊びたし、貴方が居ないと出来ない遊びもあるんだから」
そう言えば、折角招待したのに、殆ど喋ってない人も多数。
それにボクの結婚式の話もあったな。
「ほら、皆も行くよ。顔洗って、身だしなみを整えて」
「ふあ~い…」
「結局徹夜かぁ…」
「朝食が終わったら貴女達は少し眠ればいいわ。でも…ジュンを一人にしたら大変な事になるかもしれないわよ。島に居る間はジュンを好きに誘惑していいって言ってあるから。…期待は出来そうにないけど」
「……今更その程度の事に怒ったりしませんけど、変に焚きつけたりしないでくださいよ。厄介な人もいるんですから」
マーヤさんとかカミーユさんとかクオンさんとか。
あの人達が本気で迫って来たらと思うと怖い。
カミーユさんは紋章の力がコントロール出来ないうちは危険極まりないし、マーヤさんとクオンさんは怖いもの知らずなとこあるからな…
「……もう!どうして私の息子なのにこんな風に育ったのかしら。お母さんがジュンに感じる唯一の不満ね。女の子を抱くのがそんなに怖い?」
「え?怖い?ボクが怖がってるって言うんですか?」
「違うの?一線を超える事で、婚約者達との関係が何か変わるんじゃないか。自分から進んで誰かを抱く、それをすると周りの見る眼が自分のみならず婚約者も変わるんじゃないか。それが怖いんじゃないの?」
「そんな事は…」
…どうだろうか。ある…のかもしれないな。
「ジュンはどういう訳か、女を抱く事を特別視してるというか神聖視してるというか。もっと気軽に考えていいのに。婚約者以外の女の子を無理やり襲う訳じゃないんだし~御義父様みたいになれとは言わないけど~」
「………」
「…ま、もういいわ。二ヵ月後には結婚式ですものね。食事に行きましょ」
「はい…」
結構ボクの事見てるんだな、お母さん…あんな事も言えるんだなぁ。
「ハハハ!そうかそうか!何も無かったのかぁ!いや、良かった!」
「私はダーリンを信じていましたよ、ウフフフフ」
「…何がそんなに楽しいの」
「他人の不幸を笑うのは良くないと思うわよ」
皆集まっての朝食が済んだ後。
エルとミネアの二人がゴーレムでの海中探査を希望したので希望者を集めて島の周りをぐるっと一周中だ。
「わー!わー!綺麗ですね!シルヴァン様!」
「はい。でもポーラさんの方が綺麗ですよ」
「え…も、もう!シルヴァン様ったら!」
…シルヴァン君…なんて自然に定番の口説き文句を口に出来るんだ。
やはり彼はジゴロの才能があるのでは。
「ふむ…いいな、今の。ハニー、わたしにも今のシルヴァン殿と同じセリフを頼む」
「あ、ズルいわよ!ダーリン、私にも!」
「言わないから。誰かが言った後に真似して言うとか。恥ずかしさ倍増だから。そんな事より…どう?エルミネア教国の改革は」
「二人の命を狙う輩とか出て来たりしてない?」
「そういうのは出て来ていない。考えてる輩はいるようだがな。そういうのは即排除してる」
「ファフニール様の加護もありますから。早々おかしな輩は出て来ませんよ。今のエルミネア教国には神獣のドラゴンをどうにかする力はありませんから」
「だから改革は順調に進んでいる、やる事は山積みで毎日忙しいがな」
「あ、おかしな輩ではありませんが…ドネールのエジェオ殿下がしつこく求婚を迫って来てますね。私とミネアの両方を妻に、と」
「ああ、居たな、そんな奴も」
彼か…相変わらず小者のようだ。
彼の姉達もボクを狙ってるらしいし…やだやだ。
ドネール王国にはもう近づかないでおこう、そうしよう。
「ドネールと言えば…あの湖を覚えていますか?ダーリン」
「湖というと…あの神様が作ったと思われる円形の湖?」
「はい。あの湖はやはり普通では無いようなのです」
「というと?」
「湖が出来て数ヵ月。湧き水があるわけでも山から流れる川と繋がってる訳でも無い。だと言うのに一向に水が減る様子が無いんだ。周辺の村が水を引いて消費してるのにも関わらず、な」
「ただでさえ、あそこは周辺が荒地です。雨が降っても直ぐに乾いてしまいます。そんな場所なのに水が減らない。生物も棲み付かない。水も綺麗に澄んだまま。エルミネア、ドネール、ポーンドの三国の国境を跨いで存在している為に三国が協力して調査していますが、何も解っていません。やはり神の力が作用してるとしか、思えないそうです」
「本当に水以外何も無いしな。出来るだけ深く潜って調べてもみたが、水中にも何も無かったそうだ」
「……なるほど」
あの島でバカ神…エロースと会話した時、湖の事は聞かなかったな。
リヴァさんやメーティスはあの湖に神様の力は感じないと言っていたけど、やはり何かあるのか?
あの湖は教皇の言葉に信憑性を持たせる為に作っただけだと思ってた。
だけど他にも何かある…のか?
もう一度調べる必要が…あるかな?つい今しがたドネール王国には近づかないと心に誓ったのに…はぁ。




