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第553話 母、怒る 2

『さー突如として始まります!ジュンVS御義母様!司会はウチ、アイ・ダルムダットと!』


『アスラッド・エルムバーン』


『ハズラッド・エルムバーン』


『『『以上の三名でお送りします!』』』


「……エルムバーン魔王家の伝統芸なのですか?これ」


「気にしない方がいいですよ、姉上」


 予想通りにギャラリーは大勢。

そして司会が付くの予想通りだけど…わざわざ拡声マイクまで用意したのか。


 戦いの舞台は砂浜

ギャラリーは危険だから出来るだけ距離を取って出来るだけ強固な結界を張るように、とママ上の指示があった。ママ上がどれだけ強いのかは知らないけど…本気でやるつもりなんですね?


 そして見るからに完全フル装備。ママ上がの戦闘用装備とか見た事無かったが…すっごいお高そう。冒険者時代の装備だろうか。


『御義父様、御義母様のあの装備は?』


『エリザの冒険者時代の装備だな。長い間使って無かったが、手入れはしていたから、問題無く使えるだろう』


『随分お高い装備に見えますけど、どの程度の物なので?』


『エリザの武器は鞭と短剣。どちらも特別製の最高級品だ。そしてあの軽鎧は神の祝福を受けた防具だ』


『え』


「えー!」


 そんなの持ってたのか。初めて聞いた…確かに何か凄そうな防具に見える…


『あ~やっぱりなぁ。時たま城の中で気配が増えたり減ったりすると思うてたんや』


『僕も。なるほど、あの気配の正体はアレだったんだね』


 感じてたんかい!教えて…もらっても何にもならなかったか。

多分、秘密だったんだろうし。


「アスラッドもお喋りねぇ。まぁいいわ。この鎧の名前は【ゼウス】よ。雷と炎、破壊と再生の神様よ。どんな能力を持ってるかは内緒」


 ゼウスって…現代地球じゃギリシア神話においての最高神じゃないか。

この世界ではそういう神様なのか…とんでもない能力を持ってそう。


「それじゃ始めるわよ。ルールは相手を戦闘不能にするか負けを認めさせるか!それと完全に一対一の勝負だから精霊やゴーレム、召喚獣を呼び出すのは禁止!いいわね!」


「…いいでしょう」


 ボクの得意な戦術…というより、フェンリル一家を召喚する事を封じて来たか。

本気で勝つつもりですね、ママ上。


『それでは!試合開始ー!』


「最初っから飛ばして行くわよ!ジュン、覚悟しなさい!」


「怪我しないでくだ――うわおぅ!」


 開始と同時にママ上は距離を取って鞭で攻撃してきたのだが…十メートルは離れてるのに余裕で届いた。そしてこの破壊力…気を纏ってるし、最低でも中位紋章の『蛇鞭の紋章』…いや、ひょっとして上位紋章の『龍鞭の紋章』か?


『いきなりの全力攻撃!鞭とは思えない破壊力です!一撃で砂浜の形が変わりました!御義祖父様、御義母様が持ってる紋章は何か御存知ですか?』


『エリザが持ってる紋章は『龍鞭の紋章』だ。詳細な能力まで説明するとエリザが不利になるから言わんが、中距離戦ではエリザが圧倒的に有利だろうな』


『だな。ジュンは距離を詰めるか、更に距離を取りたいところだろうが…エリザはそれをさせてくれないだろう。転移魔法は封じてあるしな』


 え?転移魔法は封じてあるって…今日も『キャンセラー』を起動してるの?


「ちょっと!ママ上、それはズルくないですか!?」


「試合が始まる前から戦いは始まっているのよ!それに転移魔法を封じておかないと、私に勝ち目が無いじゃない!当然でしょ!」


 ダメだ、言っても無駄だ。

…なら、どうやって距離を詰めるか…と、ボクが考えてると思ってるだろう。

ママ上も、周りで見てる皆も。

実際、そうするつもりだけど…もう少し中距離戦で情報を集めるとしよう。


「じゃあ反撃しますけど!なるべく怪我しないでくださいよ!」


「むむ!」


『此処でジュンの反撃!オーラフラッシュ乱れ撃ちだぁ!』


 この距離はママ上に分がある。それは間違い無い。

だけどボクにだって攻撃手段が無い訳じゃない。

ママ上がこの距離で戦いたいなら、この距離でママ上の手の内を暴く。


「甘ーい!」


『気を纏った鞭で全弾迎撃したぁ!流石は御義母様!』


 こっちは両手…双剣での乱れ撃ちなのだが、一本の鞭で全て防がれてしまった。自分の全面で鞭をグルグルと回して…まるで新体操のリボンのように。カミーユさんに贈った鞭と同じで、あの鞭も伸縮自在らしい。


「なら!更に魔法も加えて!」


「無駄よ!私だって魔法は使えるもの!」


 オーラフラッシュの乱れ撃ちに加えてファイヤーアローの連射で攻撃。

さっきより手数は断然上だが、あっさりと防がれてしまった。

ファイヤーアローはある程度の誘導が出来る。

左右に回り込ませ、上からもママ上に向けて放ったのだが、ママ上もファイヤーアローで迎撃。ママ上は魔法もかなりの実力のようだ。


 というか『魔王の紋章』持ちのボクの魔法を防げるという事は…少なくとも『魔道士の紋章』くらいは持ってないと厳しい筈だ。

火属性の魔法に限るなら『火の紋章』か『炎の紋章』でも何とかなるだろうが。


「…予想以上に強いですね、お母さん」


「ふふ〜ん。母の偉大さが解った?私は魔法だって結構使えるんだから。ところで、上のやつはいつ落ちてくるのかしら?」


「あ、バレてました?」


 こっそりヒュージアクアフォールを上空で準備してたのだが、きっちりバレてたらしい。だが問題ない。この水でママ上を押し流すのは目的じゃない


「こんなの!落ちてくるって分かってれば避けるのなんて簡単よ!」


「でしょうね!」


 それに此処は砂浜で目の前は海。

一時的に水溜まりが出来てもすぐに海に流れて消えてしまう。

だけども!


「!これは?」


「名付けて!アイスプリズンです!」


『おおっとぉ!落ちて来た水が御義母様を囲んで凍り付いて行くぞぉ!』


 ヒュージアクアフォールの水を操作し、ママ上をドーム状の氷の中に閉じ込めた。厚さニメートルはある氷の牢獄だ。

氷系の魔法は水が無くても使えるが、水が有った方が素早く使える。

火魔法が使えるママ上なら簡単に脱出出来るだろう。

だから―――


「こんなの!簡単に壊せるわ!でも寒いじゃないの!…って、あれ?ジュン?」


「エリザ様!ジュン君は下です!」


「下?きゃあ!」


「つっかまえたー!」


 アイスプリズンでママ上の視界を塞ぎ。

土魔法で地面を掘り進み、探査魔法でママ上の位置を確認、ママ上の足下から出て、ママ上の脚を掴む事に成功した。


「このまま砂に埋まってもらいます!」


「くぅっ!そうは行かないわ!」


「なっ!熱っ!あつー!」


『何と!御義母様が一瞬で炎に!これは一体なんだー!』


 ノエラが『変幻の紋章』の練習で使って見せた炎への変化。

アレにそっくり…というより、殆どそのままだ。


 炎に姿を変えたママ上は、さっき迄ボクが立っていた位置まで移動。

今の攻防はお互いの立ち位置を交換するだけで終わった。


『今のは一体何でしょー?御義父様、解説を』


『うむ。あれが【ゼウス】が持つ力の一つだ。炎と雷への自在な変化。変化したまま相手にぶつかれば上位魔法並の威力が出せる』


「ちょっと!あなた!喋り過ぎよ!」


 なるほど、それが【ゼウス】の能力。

そしてまだ他にも何か能力があると。


「もしかして【ゼウス】の能力、ノエラに見せた事があります?」


「あら?どうして解ったの?」


 やっぱりか。

それがあったから、ノエラも『変幻の紋章』を手に入れてすぐに、炎や雷に変化するなんて発想が出来て、成功したんだろう。

で、ノエラには【ゼウス】の存在は口止めしたんだろう。

という事は、だ。


「ノエラー?【ゼウス】の能力、知ってるなら教えてー」


「申し訳ありません、ジュン様。エリザ様に固く口止めされてまして…お許しください」


「うんうん。偉いわよ、ノエラ」


 やっぱりダメか。ならば…


『聞こえる?ノエラ』


『え?ジュン様?これは一体…』


 以前、ヒーノも使っていた精神魔法の一つ、念話だ。

これなら周りに人が居ても内緒話が出来る。


『という訳で。【ゼウス】の事、教えて』


『ですが…』


『……教えてくれたらハグしてあげる』


『【ゼウス】の能力は炎と雷に変化するだけでは無く、炎と雷を出す事も可能です。それと【ガイア】程ではありませんが、回復能力があります。私が知る能力は以上です』


『…教えてくれてありがとう』


 自分から持ち掛けておいてなんだが…簡単にバラし過ぎない?

いいけどさ…


 しかし、流石は神様に祝福された武具。

厄介な能力を持ってる。これじゃ捕まえるのは難しいな。

どうしたモノかな…

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