第55話 西の街ダイラン
今日も今日とて冒険者ギルド通いのボクです。
転生してからずっと何かしら働いてるボクだが冒険者の仕事は案外ボクに合ってるのかもしれない。
冒険者の仕事には危険が付き物ではあるが色んな場所へ行き色んなものを目にできるのは楽しい。
そして今日はボクもDランクになったので少し活動範囲を広げようと、王都から西の街に来ている。
ここは治癒魔法使いとして働いてた時に定期的訪れていた街の一つだ。
「ふ~ん。流石に王都よりは小さいけど綺麗な街だね」
「西の街ダイラン。漁港があって魚料理が美味しいらしいよ」
ここは現代地球で言えば兵庫県明石辺りかな?
明石と言えばやはりタコだろうか。
「たこ焼きとか売ってるかな」
「たこ・・・ですか?」
「あのニョロニョロの気持ち悪い奴か?あんなの誰が食うんだよ」
「「「え」」」
もしかしてタコを食べる習慣はないのか。
エルムバーンは位置的に現代地球で言えば日本を含むというのに。
「食べた事無い?」
「もしかしてデビルフィッシュとか呼ばれてる?」
現代地球では欧米等ではタコはデビルフィッシュと呼ばれ悪魔の使いとされてるとかなんとか聞いた事がある。
まあこの世界では悪魔、とゆうか魔族はボク達なのだが。
「いや、そんな名前で呼んじゃいないぞ?タコはタコだな。ただ気持ち悪いから食べないが」
「そう、ですね。漁師達でも食べないと思います。とゆうかアレは食べられるのですか?」
タコを食べるという考え自体が無いのか。
てゆうかボクが知ってるタコがこの世界のタコでいいんだろうか。
「念のため聞くけど、みんなの知ってるタコはニュルニュルしてて墨を吐く八本足のアレでいいんだよね」
「そうだな。それだな」
「間違いないと思います」
「リリーも同じですぅ」
「わたしは知らないです」
「わたしもです。ティナとわたしは海のない山近くの村で育ったので海の魚については良く知らないです。海を見るのも初めてです」
今日はいつものメンバーにティナとニィナが付いてきてる。
今度はティナとニィナに実戦を経験させようということだ。
ハティは今回はお休みだ。
「そうか。ティナとニィナは海は初めてか。今は冬だから泳げないけど夏の海で泳ぐのは気持ちいいぞ。夏になったら海水浴に行こうな」
「はい!」「楽しみなの!」
素直に喜ぶ二人の頭を撫でる。
ユウの小さい頃を思い出すなぁ。
「先ずは冒険者ギルドで依頼を受けるんでしょ?」
「そのつもりだよ」
「領主に挨拶に行かなくていいの?」
「ん?ん~行かなくていいだろう。事前に連絡してないし。捕まると長いからな。冒険者の仕事をする時間が無くなってしまう」
この辺りを治める領主の館はこの街にあり、領主とも面識はあるのだが少し苦手なタイプだ。出来れば会わずに済ませたい。悪い人ではないのだけど。
「受けた依頼の内容次第だけど終わったらここで魚料理を食べよう」
「「「は~い」」」
「楽しみなの!」「楽しみです~」
タコが手に入ったらたこ焼きを作ろうかな。
たこ焼きの鉄板はステファニアさんに作ってもらおう。
「ここがこの街の冒険者ギルド?」
「王都の冒険者ギルドとあまり変わらないね」
日本のコンビニや銀行等と同じように建物の作りとシステムを同じにする事でどこでも同じように利用出来るようにしてるんだろうな。
「おい、兄ちゃん。いい女連れてんじゃねぇか。俺にも分けてくれよ」
冒険者ギルドに入って早々酔っ払いに絡まれた。
しかもテンプレな絡み。
ユウとアイがボクの後ろに隠れるけど残念ながら彼の言ういい女ってノエラとリリーの事だと思うな。
まあここは無視だ。
「おい、聞いてんのかよ。場違いな執事服の兄ちゃんよ」
「あ?オレか?」
あれ?絡まれたのはセバスト?
「そうだよ。女ばっか連れやがって。一人くらい回せよ。そっちの黒髪の姉ちゃんなんかオレ好みだぜ。胸は今一つだかな!ガハハハ」
こ、この酔っ払いめ・・・
ボクを女扱いするだけじゃなく好みだとう・・・
鳥肌が立つわ!
どうしてくれようかと考え答えが出るまえに酔っ払いの男は周りにいた冒険者にボコボコにされてた。
「て、テメエら何しやがる・・・」
「そりゃこっちのセリフだ馬鹿が」
「お前が絡んだ相手はこの国の魔王子様御一行だ」
「そしてこの街の恩人でもある」
「治癒魔法で俺達冒険者の怪我や病人の病も治してくれたんだ」
「あの人に迷惑かけるなんて、殺されても文句言えないぞ」
迷惑かけられたくらいで殺そうなんて思わないよ。
さっきはちょろっとイラっとしたけども。
街の人が殺すって事かな。
いや、領主の方が危険だな。
あの領主に知られたら
この酔っ払いに明日は来ないかも知れない。
酔っ払いの男はすっかり酔いが醒めたらしく青い顔して土下座してから逃げ去っていった。
ボクとしてもそれ以上どうこうするつもりは無いので周りの冒険者に礼を言ってから今日受ける依頼を決めるべく掲示板に向かう。
「いや~久々にジュンの美女っぷりが発揮されたね」
「まあお兄ちゃん、背が高いから大人の女性に見えちゃうしね」
君たちはフォローしてくれよ。
「ノエラさん、ああいう時はどうしたらいいんですか?」
「とりあえずボコボコにしちゃえばいいの?」
「そうですね。ジュン様が無視してる間は無視してなさい。ですが相手が目に余るようならやってしまいなさい」
「「はい」」
メイドとしてそれはどうなんだろう?
とゆうかティナとニィナはあいつボコボコに出来るの?
「周りの奴らがもう少し遅かったらオレがやってたぜ。命拾いしたなあいつ」
セバストも結構物騒だな。
血に飢えてるんだろうか。
「ジュン、これなんかどう?マウンテンバッファローの討伐。焼肉食べ放題が出来るよ」
マウンテンバッファローは難度Bの大型トラックくらいある野牛の魔獣だ。野牛だけあって草食でその肉はかなり美味いらしい。
「焼肉食べ放題は魅力的だけどティナとニィナに経験を積ませる相手としてはあまりよくないかな」
「あ、そっか。となるともっと弱くてそこそこ数がいる相手だね」
「お兄ちゃん、じゃあこれは?洞窟に住み着いたサハギンの群れの討伐」
サハギンか。
確か単体での討伐難度E。群れになると討伐難度D。
さらにそれが水中になると単体討伐難度C。群れだと討伐難度Bにまで跳ね上がる。
「住み着いた洞窟の状況次第かな。水中にあるような洞窟だと無理だろ。寒中水泳とかしたくない」
「洞窟に関しては受け付けで聞いてみましょ。受けるか受けないかは聞いた後で決めましょ」
他のみんなの顔を見ると不満は無さそうなのでユウの言うとおりにする。
丁度どの受付も空いてるので一番近い受付へ。
「すみません。サハギン討伐の依頼についてお聞きしたいのですが」
「は、はい!」
受付嬢のお姉さんは緊張してるようだ。
話しかけただけでビクリとしてる。
さっきの酔っ払いの時にボクが誰か気付いたのだろう。
他の受付嬢達はジェスチャーで「頑張れ!」と言ってるようだ。
「あの、今は冒険者として来ているので普段通りにしてください。多少失礼が有ったとしてもボクは気にしませんから」
「は、はい」
それで少しは落ち着いたようだ。
話を進めるとしよう。
「サハギン討伐の依頼について質問です。洞窟の状況を教えて下さい」
「はい。山の麓にある洞窟でして。その洞窟の奥には小さな地底湖があるのですが、そこと海が繋がっているらしくて。それでサハギンが住み着いたらしいです」
「じゃあ退治してもいずれまた住み着くんじゃ?」
「はい。ですので定期的にでる依頼になると思います」
まあ、魔獣が出る地底湖に潜って穴を塞ぐなんて出来ないか。
魔法でなんとか出来るといいんだけど。
「洞窟までの道中と洞窟内にサハギン以外の魔獣は何かいますか?」
「報告には上がっていません。洞窟付近で熊を見たくらいです」
サハギン以外に危険な魔獣もいない。
となると問題はないか。
みんなも同意見のようだし受けるとしよう。
「じゃあこの依頼を受けます」
「はい。よろしくお願いします」
依頼受注の手続きも完了し洞窟に向かうことにする。
「あ!ジュン様ぁ!」
冒険者ギルドから出たところで女の子に名前を呼ばれる。
あの子はここの領主の一人娘でリディア嬢だ。
ボクが治癒魔法で病を治して以来懐かれてしまった。
金髪巻き毛のいかにもお嬢様といった感じの見た目で中々の美少女。確か同い年だ。
昔は病人だった事を感じさせない走りで近寄って来てそのままの勢いで飛びついてくる。
「お久しぶりです、リディアさ、ん!?」
「「「え?」」」
飛びついて来たリディアさんをボクは受け止める事が出来ずに今は飛んでいる。まるで投げられたボールのように飛んでいる。
飛んでいった先が誰もいない海のほうだったので壁に激突、あるいは人を吹き飛ばすことがなかったのは幸いといっていいんだろうか。
しかしこのままだと海に落ちる。それは嫌だ!
なので魔神の紋章と魔王の紋章を発動。リディアさんを支えたまま飛行魔法を使いなんとか海に落ちるのを避ける。
危なかった・・・
「申し訳ありません!」「ごめんなさいジュン様・・・」
「いえ、気にしてませんから。顔を上げて下さい」
リディアさんと一緒に頭を下げてるのはこの街の領主でリディアさんの父オルトロイ・ダイラン。
リディアさんの病を治してからというもの大袈裟なまでの忠誠をボクに捧げてくれている。
本気なのがわかるだけにやりづらい。
因みに貴族がいないエルムバーンで苗字があるのは王族以外では領主のみ。自分が暮らす街の名前を苗字として名乗る事が許されている。
「いいえ!娘の不始末は私の不始末!ジュン様を突き飛ばすなどあってはならぬ事!かくなる上は私の首で責任を!」
「いいえお父様!今回の件は私の不始末!私が責任を取ります!」
「いいや私が!」「いいえ私が!」
「もういいですから!」
これだ。
こういうとこが苦手なんだよね。
オルトロイさんは以前からこんな感じだったけどリディアさんもこんな感じだったのか。
流石親子。
「しかしジュン様。なんの責任も取らない訳には」
「そうです。やはり私が」「いいや私が」
仕方ないなあ。
本当はこういうの偉そうで嫌なんだけど。
「判りました。これからボク達は冒険者としてサハギン討伐に向かうとこだったんです。帰って来たらこの街で美味しい魚料理を食べようって話をしてました。オルトロイさんにはその美味しい魚料理を用意して貰えますか?それを罰としましょう」
「なんと寛大な。承りました。このオルトロイ。最高の魚料理を用意してご覧に入れます!」
「有難う御座いますジュン様」
ようやく納得してくれたようだ。
みんなも仕方ないなあという顔をしてくれているので大丈夫だろう。
「ところでジュン様。そちらの方々は?」
そういえばノエラとセバスト以外は初対面だったか。
「紹介します。この子は―――」
一人ずつ紹介していく。
領主だけあってユウとアイの名前は知っていたようだ。
「ユウ様にアイ様も御一緒でしたか。益々最高の魚料理を用意しなければなりませんな」
「あの、ユウ様とアイ様も冒険に行くのですか?」
「ウチも将来冒険者になる積もりだしね」
「私もそうよ」
「そうですか。凄いのですね。私には無理ですわ。怖くて」
「普通はそうですよ。ところでお聞きしたいのですが」
「はい。何でしょうか?」
「リディアさんのあの力は一体?」
あの力は普通じゃない。
冒険者用の装備をしてなければどうなってたか。
「ああ、私実は怪力の紋章を持っていますの」
結構そのままの紋章を持っていた。
怪力の紋章は確か所有者に怪力を与え怪力に耐えうる肉体の強度も与えてくれる。
非常に冒険者向きの紋章のように思う。
制御出来ればだが。
「普段はちゃんと制御してますのよ?でもジュン様をお見掛けして感極まってしまって。それで・・・」
「初夜とか相手の人、殺しちゃうんじゃない?それ」
アイ、突然ナニを言う。
「手を縛ってしまえばいいのでは?」
ノエラも食いつかなくてよろしい。
「え~初めてがそんなアブノーマルで大丈夫?」
ユウも食いつかなくていいから。
「アリだと思うの!」「私もアリだと思います」
ティナとニィナまでもが!
「あの私、普通の縄じゃ簡単に引き千切ってしまえますので別の案でお願いします」
リディアさんも律儀に答えなくていいから。
もう洞窟に向かおう。
「それでは行ってきます」
「御武運を」「お気を付けて」
何だか冒険前にぐっと疲れた気がするけど気を取り直して行こう。
洞窟までの道中は順調そのもの。
そうなると会話に華が咲く。
内容はもちろんダイラン親子だ。
「凄い親子だったね。悪い人達では無いんだけど」
全く同意。
「領民からの評判は良いらしいです。魔王様の信頼も厚いとか」
ボクもそう聞いている。
「リディアさんも美少女だよね。十二歳にしては巨乳だし」
そこも全く同意見だ。
「ねえお兄ちゃん」
「なに?」
「お兄ちゃんの周り巨乳の人多すぎじゃない?」
「知らないよ、そんなの!」
少なくともボクが意図的に集めているわけじゃない。
そんなこと言われても困る。
「ジュン様」
「なんだいティナ?」
「ジュン様は巨乳が好きなの?」
答えにくい質問が来た。
何でそんな事を聞く?
「それは秘密ということで」
「いいえ、ジュン様。これは非常に重要な事なのです。是非教えて下さい」
どこが重要なのか。
是非ボクに教えて欲しい。
「大丈夫よ、二人共。ジュンは巨乳が好きというよりおっぱいが好きなのよね」
「どっちかと言えば巨乳が好きって程度よね」
君らが答えるんか~い。
しかも正解だし。
「洞窟に着いたぞ。気を引き締めて行くぞ」
「誤魔化した」「誤魔化したね」「誤魔化しましたね」
いいから行くぞ!




