第546話 再び始まる女の戦い、の前座
「さー!先ずは前座よ!男性陣は二組しか申請が無かったからいきなり決勝戦よ!賭けは女性部門からね!」
「楽しそうですね、アンナさん…というかボクらは前座扱いですか」
男性陣の殆どは空気を読んで参加自粛。奥さんがいる人は最初から断念。
後は『ユニコーンの涙』欲しさに賭けに周った人が大半。
で、ボク達のチームの対戦相手だが…
「人の事言えないのは重々承知だけどさ。ヘンリーは大丈夫なの?参加して」
「…大丈夫です。禊は済みました」
「見事な往復ビンタでしたね」
ま、ヘンリーの両頬にある紅葉から想像は付いてたけども。
ネスは向こうで不貞腐れてるし。
「…それで、二人は誰の胸を狙って?というかライリーの参加はちょっと意外だね」
「そうですか?まぁ、私も男ですから。女性の胸に触りたいという願望は勿論あります」
「…それで、誰狙い?言っとくけど、レベッカはダメだからね」
九歳児の胸を揉むとか。例え優勝の賞品として認められていてもダメ。
「まさか。レベッカ様は眺めて愛でるのがいいのです。確かに抱きしめて頬ずりしたいという気持ちはありますが」
「…お前、そんなんだからレベッカ様の護衛時にお前に監視が付くんだよ…」
「…もうちょっと自重なさい。で、誰を?」
「アンナ様ですね。あの幼い容姿ながらも成熟した色気…このチャンスを逃す手はありません!」
「え?わ、私?」
…何という怖いもの知らず。ヴェルリア王国の第三王妃の胸を狙うとは。
そりゃママ上とアンナさんが言い出した賞品だし、拒否はしないだろうけど。
チャレンジャー過ぎないだろうか。
「で、ヘンリーは…ユリアの?」
「………はい」
「ヘ、ヘンリー…貴方ね…」
シスコンとロリコンのコンビか…中々濃いコンビ…いや、トリオか。
「それで?まさかお祖父ちゃんがそっちに居るとは思いませんでしたが…お祖父ちゃんは自殺願望でもあるんですか?」
「いや…自殺願望なんてあるかよ。大丈夫だ、これは浮気にはならん。それにわしも最初はお前のチームに入ろうと思ったんだが既に決まってたし。というか、有りなのか?そのメンツ」
ボクのチームはボクとセバスト。そして三人目は…
「大丈夫です。エリザ様には御許可頂きました。何も問題ありません!」
「色々と失った物はありそうだがな…信用とか評価とか」
「セバストに同意」
三人目はルシールさんだ。
ボクとセバストが組むのは決まっていたが三人目をどうするかと悩んでいる内にルシールさんがメンバー表を提出。受理されてしまった。こっちは男性のみのチーム戦である筈なのに。
「だぁって~。ルシールの参加を認めないと、人数が揃わないじゃない?」
「…レオさーん?ディノスさーん?」
「俺は酒の方がいい」
「俺もだ。というか、俺に聞くなよ…」
くっ…ボクの周りにはどうしてこうフリーの男が少ないのか。
居ても酒の方が好きだったり。子供だったり。
セバストの存在が如何に貴重か解るな。
「というか、ジュンはフリーじゃないからね?ウチらのだから」
「自分は参加しても問題無いとか思ってるみたいだけど。選んだ相手によっては問題に発展するからね?お兄ちゃん」
「……心の中を的確に読み過ぎじゃない?」
だがしかし!その程度で引き下がるボクでは!
「エリザ様とアンナお母様の許可は出ても私達の許可が出たわけじゃないですよ?ジュンさん」
「私の眼に嘘と誤魔化しは通じませんから。誰の胸を狙ってるか一人一人絞っていきましょうか?」
「………」
パメラさんにマリーダさん…怖いっス。何故だ。二人まで読心術を極めたとでも言うのか。
「いや…そんなもん参加してる時点で…」
「セバストまで心の中を読まないように」
「…もういいかしら?それじゃ、始めちゃってー!」
雑な感じで始まってしまったビーチバレー大会男性部門。
ルールは対戦相手に対して直接的な攻撃をしなければ魔法の使用も紋章の仕様も有り。
ヘンリーとライリーも、世界樹の実で新しい力を手に入れてる。
お祖父ちゃんも数百年以上に渡る人生を生きて来た、戦争も経験してる猛者。
即席チームとはいえ、決して油断は出来ない。
「取り合えず…セバスト!」
「お、おう!」
セバストの『鏡の紋章』で分身体を呼び出す。最近、五体出す事が出来るようになった。
「おい!それ有りなのか!?流石にズルくねぇ!?」
「有りですよ、お祖父ちゃん!」
分身体はオリジナルのセバストより当然弱いがビーチバレーのボールで受ける衝撃で消えるほど弱くもない。
これで実質八対三。これで断然有利に…
「そうか。有りなのか。言質は取ったぞージュン!祖父ちゃんの偉大さを思い知れい!」
「え」
お、お祖父ちゃんも分身体を!?
まさかお祖父ちゃんも『鏡の紋章』持ち?
「言っとくがわしが持ってる紋章は『鏡の紋章』じゃないぞ。何を持ってるかは秘密――」
「今のは『模倣者の紋章』の能力のようです。誰かが取った数秒前の行動を再現する事が出来る能力のようです」
「うぉおい!簡単に人の能力をばらすな!ていうか何で解かった!?」
「申し訳ありません、御義祖父様。やはり私はジュン様の味方ですので」
『模倣者の紋章』?察するに行動というより眼にした紋章の能力や魔法を再現する事が可能なのだろう。どんな能力も再現可能なのかは解らないが…多分、お祖父ちゃんの能力と『模倣者の紋章』の熟練度によって再現可能な領域が上限が決まるのだろう。
お祖父ちゃんなら大概は再現出来そうだ。
そしてマリーダさんが見抜く事が出来たのは『分析者の紋章』の力だ。
眼にした能力を分析、解明する事が可能。植物を見れば毒の有無も解るし、武具を見れば素材も機能も解る。
鑑定眼のような側面も持つ能力なのだ。
熟練度が上がれば人の体調や心理状態を見抜く事も可能になるらしい。
益々マリーダさんに隠し事が出来なくなる…なんとも恐ろしい。
「流石は先代魔王様です。これで状況は五分。という事は、です」
「後は俺達次第って事だな!全開で行くぜ!」
ヘンリーが紋章を三つ同時に使用する。
『拳闘士の紋章』と『愛の紋章』。そして世界樹の実で新たに手に入れた『覚醒の紋章』だ。
覚醒と聞くと真の能力に目覚めるとか隠された才能が発揮されるとか思いがちだが『覚醒の紋章』の能力は違う。
『覚醒の紋章』の能力は味覚・視覚・嗅覚・聴覚・触覚を向上。集中力を研ぎ澄ませる。
そして直感力…第六感とでも言えばいいのか。直感も鋭くなる。
スポーツ選手なら欲しくてたまらない能力だろう。
ライリーが新たに獲得した能力は『百眼の紋章』。
紋章の力で眼のマークを刻んだら、それは彼の眼になる。
鳥の額に刻めば飛んでる鳥と同じ景色が見えるし、魚に付ければ海の世界が地上に居ながら見れる。
生物に限らず岩や壁、本にだって付けられる。
盗撮…じゃないな。盗視と言った方がいいか。
非常に便利な能力だがビーチバレーでは使い道が無い能力だろう。
「早く始めちゃってー!前座なんだから!」
「……はいはい。行きますよー」
もう少し戦意が上がる声援が欲しい。
だけどまぁ…やるからには勝つが。どんな手段を用いても!
胸の為に!
「ジュン様…私達との訓練より真剣だ…そんなに胸を揉みたいのか」
「大丈夫。フィービーの胸はターゲットじゃないと思うよ」
「五月蠅いな!言われなくてもわかってる!」
「だから泣かなくてもいいじゃない…」
「今のはナターシャが悪いと思うな…」
…何かフィービーが泣きながら叫んでるが、今は放っておこう。
先ずは様子見で普通にサーブだ。
「オラァ!」
「え?」
ボクのサーブにヘンリーが瞬時に反応して打ち返してきた。
その動きはかなり速いし、打ち返したボールの速さもかなりのモノだ。
だけども…
「よっしゃあ!先ずは一点…あだぁ!何すんだこの野郎!ってハズラッド様!?」
「アホゥ。サーブを直接相手のコートに打ち返すのルール違反だ。ルールくらい把握しとけ」
「え?そ、そうでしたっけ?」
「そうですよ…全く…ちゃんとアイ様の説明にありましたよ」
素人が遊びでやってる事だし、三人制ビーチバレーなんて日本には無かったし細かいルールまでは定めてないが…基本ルールくらいは説明してる。そんなに複雑でも多くもない内容だった筈だが…
「今ので一点リードされたぞ。もう同じミスすんなよ」
「……はい」
「気合いを入れ過ぎて空回りしないようにしてくださいよ、ヘンリー君」
一度失敗して頭が冷えて冷静になったヘンリーの動きは良い。
お祖父ちゃんもライリーも鍛えられた戦士。お祖父ちゃんの分身も居るし、ボールは全て拾われている。
だがこちらも負けていない。
セバストの分身が居るし、セバストとルシールさんも新しい力を手に入れている。
セバストが手に入れた力は『夢幻の紋章』。
対象の全感覚に訴えかけ幻、または起きながら夢を見ているかのような感覚にさせる能力。
幻は触れれば感触があるし、匂いだって感じる。
眼の前の誰かを他人に見せる事も可能。ただし、対象に触れた上で紋章を使用しないといけないのでビーチバレーでは使えないが。
ルシールさんが手に入れた紋章は『守人の紋章』。
クリステアの『守護神の紋章』と少し似てるが、こちらは誰かを守る時に自分自身を強化してくれる。魔力も身体能力も。
現在はボクとセバストを守ると定める事で紋章を使用してる筈だ。
ベルを守るという意思の強さが影響して獲得出来た紋章なのだろう。
どうしようもない変態なルシールさんだが、ベルに対する忠誠心は本物らしい。
「う~ん…長い!」
「いい勝負過ぎて決着が着きそうに無いわねー」
状況は五分。
皆反射神経も良いし身体能力も高い。
分身体で人数も水増しされてるから狭いコートではボールを打ち込む隙も少ない。
最初のヘンリーの反則による失点で、ボク達が一点リードしてるだけだ。
試合開始からニ十分。
ずっと互いにボールを落とす事無くラリーが続いてる。状況は動いてない。
「仕方ないわ。セバストー!お義父様ー!決着が着きそうにないから分身は消して―!」
「…仕方ないですね」
「ま、お互いが消すならな」
これで漸く状況を動かせる。
先程迄はコート内に隙間が無くて使えなかったが…ボクの新魔法をお見せしよう。
「分身が消えても簡単に点を取らせは…って、なにぃ!?」
「ボールが消えた!?」
「必殺!消える魔球です!」
勿論嘘だ。
そんな魔球、プロにビーチバレー選手だって打てやしない。
これはボクの空間魔法…あのマッド爺は転送魔法と呼んでいたか。
物体を任意の場所へ空間を超えて転送する魔法だ。
あのマッド爺は魔法陣を使用して遠くの場所へ魔獣を送る事が出来たようだが、ボクは目視で見える範囲にしか転送出来ない。
だが、ビーチバレーではそれで充分。
ボールを打った瞬間、相手コートの地面スレスレに転送すれば…
「くっそ!間に合わねぇ!」
「なんなんだ、こりゃあ!」
「ボールを打った方向とボールが出て来る場所が一致しない…魔法ですね」
ライリーは直ぐに見抜いたか。
だが、見抜いた所でこれは防げない。
「ハズラッド様!ヘンリー君!ジュン様の目線でボールが出る所を読んでも無駄です!直感に従って受けてください!」
「お、おう!」
「直感って言われてもなぁ…まぁ、今はそれしかねぇか!」
それしか無いだろうな。
だが、それじゃ完璧には防げない。
紋章の力で直感力を強化されたヘンリーが結構拾えていたが、それでもボク達の優位は揺るがない。
結果、ボク達の圧勝で幕を閉じた。
「あ~あ…負けた負けた。くっそー…フェンリル一家とかホリィって姉ちゃんの胸とか揉みたかったなぁ、ちくしょう」
「……やっぱり、自殺願望でもあるんですか?」
神獣一家を怒らせたらどうなるか…胸を揉んだ程度で殺されはしないと思うけど。
「……それで、ジュンは誰の胸を揉むつもりなのかなー?」
「お兄ちゃん、言っておくけど。婚約者以外から選んだらめんどくさい事になるのは確実だよ?」
「…はい」
怖い。アイとユウだけでなく婚約者全員の眼が怖い。勝利の御褒美は後で楽しむとしよう……いや、止めておく方が無難かな…




