第542話 神の名 2
「ご無沙汰しております、ジュン殿」
「お久しぶりです、エクトルさん」
今日はマークスさんの結婚式の前日。
ボクはヴェルリア王国に来ている。
勿論、お父さんとお母さん。お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、それにレベッカも来ている。
今は招待客を招いての歓迎パーティーの最中だ。
今はエクトルさんがボクの相手をしてくれている。
ユーグ陛下が気を利かせてくれて、常に誰かが張り付いてくれているのだ。
というのも…
「見て、あの方がジュン様よ」
「ああ…噂通りの美形…神に愛されるのも納得ですわ」
「どうにかしてお近づきに…」
「あの男、邪魔ねぇ…早く消えてくれないかしら」
という風に。ボクを狙ってる野獣のような眼をした女性達を遠ざけてくれているのだ。
婚約者が傍に居れば大丈夫だと思いたいが彼女達も挨拶回りがあるし。こういう時はノエラ達使用人達は下に見られてしまうし、あまり大勢はパーティー会場に連れて行けない。今傍にいるのはノエラとシャクティだけだ。
「何だか、すみません…」
「いえいえ。これくらいの事…陛下からも頼まれた事ですし」
「相変わらず大変そうだな、ジュン殿」
「ジュンさんの人気は上がる一方ですもんね」
「ああ、フランコ君。クローディアさんも」
「挨拶回りは終ったのか?フランコ」
「うん。此処は引受けるから父さんも挨拶回りに行って来るといい。まだなんだろう?」
「うむ。それではジュン殿。また後ほど」
「はい。有難う御座いました」
エクトルさんも挨拶回りに向った。
聞いた話だがフランコ君の兄、ロランさんも婚約が決まったらしい。
アルジェント公国の大臣の娘だそうだ。
「ところでジュン殿。何故グリムモアの王族が此処に?」
「私、ハイエルフの方は初めて御見かけしました。ダークエルフのように肌が黒いのですね」
「アレは単なる日焼けです」
セフィさんも、宣言通りに参加していた。
日焼けして真っ黒なままなのに。エヴァ様にはこってりと絞られたらしく、今の所は大人しくしているが…余計な事をしそうなのでアイとユウに張り付いてもらっている。
「セフィさん…セラフィーナ殿下とは以前ドワンドに赴いた際に知り合ったんだけどね。エルムバーンに遊びに行くと言って聞かなくて」
「なるほど。あの方もジュンさんを狙っていると」
「ほんとに大変だな。未だに婚約の申し込みは後を絶たないんだろう?」
「いっそもうこの場で高らかに宣言したらどうです?私はもう婚約者を増やしたりしませーん!って」
「そうしたいのは山々なんですけどね。婚約の申し込みを断るのは自由だけど、婚約者を増やさないと世界に向けて宣言するのは母に止められてまして」
「エリザ様に?何故」
「どうも母はボクに婚約者をもっともっと増やして欲しいみたいで。無理強いこそしないもののボクと結婚したいって子は応援するつもりみたいです」
全く…どういうつもりなのか。ママ上一押しのカミーユさん達の事は毎日のようにプッシュしてくるし。
どうしてそこまで息子の嫁を増やしたいのか。全くの謎である。
「わからなくもないですね」
「え?わかるんですか、クローディアさん」
「私も今では一児の母ですから。我が子が誰からも愛される人気者、それも英雄と称され神様に褒め称えられるほどの。自ら妻になりたいという女性を沢山娶るのはわかりやすいステータスシンボルとも言えますから。もっと自慢したいんじゃないですか?エリザ様は」
…そういうモノだろうか?出来の良い子供を自慢したいというのはわかるんだけど…
「そう言えばジュン殿の似顔絵や姿絵がグンタークでも売られていたな。アレはエリザ様が仕切ってるんだろう?」
「あ、うちの家臣達にも人気なんですよ。特に若い女の子達に。グンタークのお店じゃ何処も品薄ですし…良ければ御土産にしたいので何枚か頂けます?」
「すみません、勘弁してください」
グンタークでも売られていたか…いや、別大陸のウィスラー魔王国でも売られていたんだ。
陸続きのグンタークで売られているのは当然か。
「私達も頼まれたよ。ジュンの似顔絵を全てと最新版を手に入れられないか、とね」
「あ、カタリナ様」
「ヴェルリア王家姉妹揃い踏みですね」
挨拶回りに行ってた、カタリナさん達が戻って来た。
今回は急な変更にも関らず沢山の国から招待された国賓が大勢居る。
挨拶回りも時間が掛かるので三人も疲れた顔してる。
「あー疲れた。ジュン、何か食べさせて。あ〜ん」
「自分で食べなさい」
「良いじゃない、それくらい」
「一人にやると全員にしなくちゃいけないから。諦めて」
「むー…ケチ」
「ジュン殿は相変わらずだな。女好きな癖に人前でイチャイチャしないのは」
「フランコ君の中でボクはまだ女好きなんだね…」
「否定は出来ないだろう?」
まただ…アイシスやカタリナさん達と婚約した後に会った時にも散々イジられたが…まだイジり足りないらしい。そのうちにリベンジしよう。
「あんまりジュンさんをイジメちゃダメよ、フランコ」
「わかってるよ。…そうだジュン殿。もう一人、教えて欲しい人がいるんだった」
「ん?誰かな?」
「ベルナデッタ殿の隣にいる場違いな男は誰だ?ジュン殿が連れて来たんだろう?」
「あ、私も気になってました。挨拶するべきなのかどうか悩みましたし」
「ああ…」
レオさんの事だな。
今、ベルはレオさんと一緒にサンドーラ王家と家族団欄中だ。ルシールさんも傍に付いてる。
「あの人はベルのお兄さんですよ。レオ・ディス・サンドーラ。サンドーラ王国第二王子です」
「…冗談ですよね?」
「えっと…パメラ様?」
「本当です。間違い無く、あの人はベルのお兄さんです」
「悲しい程に礼服が似合って無いがな」
筋肉でパツパツなのは仕方無い。でもモヒカンが台無しにしてる。
礼服を着るのは渋々納得してたが髪型は断固として変えてくれなかった。
本当は結婚式にも参列したくないって言ってたのを無理に付いて来てもらったのだ。
「はぁ…しかし、何故レオ殿がエルムバーンから?」
「まぁ、なんやかんやとありまして」
「「「是非、詳しくお聞きしたいです」」」
「わっ。ビックリしました」
「み、三つ子?」
アレクサンドリス王国の三つ子姉妹の登場だ。
フランコ君とクローディアさんは初対面らしい。
「あんまり楽しい話でも無いですよ?」
「では別のお話で構いません、ジュン様」
「輪に入る切欠が欲しかっただけですから」
「私達、ジュン様に興味があるんです」
「「「私達にも興味を持って欲しいというのもありますけど」」」
「わー…流石は三つ子ですね」
「見事に揃っているな…」
三つ子なら誰でも出来る訳じゃないと思うが。見事なのは間違い無い。
「ええと…ああ、そうだ。アーマード・モスの情報、有難うございました。御蔭で目的が達成出来ました」
「お役に立てたなら何よりです」
「ですが…お役に立てたという事は…」
「アーマード・モスを討伐されたのですか?」
「はい。丁度ウィスラー魔王国で依頼が出ていてSランク冒険者を探していたので」
「「「まぁ!是非ジュン様の武勇伝をお聞かせ下さい」」」
「う…」
やはりユニゾンで頼まれると断り難い…でも自分の武勇伝を語るのは、ちょっとなぁ…
「ジュン様の武勇伝ですか?」
「是非わたくし達にもお聞かせ下さいませ」
う、増えた。
周りで話し掛けるタイミングを窺ってた令嬢達だ。
「フフフ…此処は私の出番のようね」
「え?」
「おい、レティシア?」
「貴女まさか…」
「そう!紋章を使うわ!大丈夫よ、ちゃんとアーマード・モス討伐の話はユウ達から聞いたから」
レティシアが得た紋章は『吟遊詩人の紋章』だ。
とても珍しい紋章でお祖父ちゃんも知らない紋章だった。
その効果はレティシアが歌ったり物語を語ると凄い臨場感溢れる歌と物語になる。悲しい歌を聞けば涙が止まらなくなる。陽気な歌を聞けば笑い出す。
物語を聞けばまるで自分が物語の登場人物になったかのように、或いは目の前で物語が現実となって展開されてるような錯覚に陥るのだ。
つまりは精神に働きかける紋章で、精神魔法適性も与えてくれる。
レティシアの趣味が影響して獲得した紋章なのだろう。
「待って、待ちなさいレティシア」
「大丈夫か、それ。何か危険な予感が…」
「大袈裟ね。ただ物語を聞かせるだけじゃない。じゃ、始めるわよ」
それから一時間かけて。
レティシアはアーマード・モス討伐の話を物語風に語ったのだが。
紋章の効果で話を聞いた人にはまるで目の前でボクとアーマード・モスの激しい戦いを繰り広げられたかのように感じ。
レティシアの語りが終わった頃には皆がボクをうっとりとした眼で見ていた。
というか、ボクそんなにカッコよく戦ってなかったと思うよ?
「レティシア…凄いわ。これ朗読劇を開けば凄い人気になるわよ。お金も稼げるわ」
「え?えへへ…そうですか?やりましょうか?」
「ええ。企画は任せて。勿論ジュンが主役の物語よ」
「全力で阻止させて頂きます」
いつの間にか輪に入っていたママ上が恐ろしい計画を立て始めた。
音楽会と同様…何としても阻止しなくては…




