第536話 神の島 8
神族の遺跡、その地下一階にある部屋。
其処には魔獣が入った容器が並んでいて、中には神獣白猿の姿まであった。
「嘘…ゴブリンとかは兎も角、白猿まで居るなんて…早く出してあげよう!」
「待った、アイシス。どうどう」
「あっ!ちょっとジュン!何で止めるの!?」
「今どうやって助けようとしてた?」
「え?剣で容器を斬って」
普通でしょ?当然だよね?て、顔してるな。
しかし、それはちょっと性急に過ぎる。
「アイシス…これがどういう物で、中の白猿がどういう状態なのか解らない以上、いきなり容器を割るというのは賛成出来ない。先ずは調べてからだよ」
『そやでマスター。せめて他の魔獣で試してからにしようや』
「う、うん…」
その場合は実験に使われる魔獣が可哀想だが…白猿以外は人を襲う魔獣ばかりで、解放したらボクらに襲い掛かって来るだろうから問題は無いか…
「…ねぇ、ジュン」
「ん?何か?」
「いつまで触ってるのかな」
「はい?」
おおう!咄嗟にアイシスを抱きしめる形で止めたのだが…胸に手が行ってた。防具の上からだし、何も楽しくは無かったが。
「ごめん、気付かなかった」
「い、いいよ、婚約者だし………ちょっと待って。気付かなかったってどういう事。僕の胸は触っても気付けないくらいちっちゃいとでも!?」
「そんな事言ってないでしょ…防具の上からだからだよ」
「でもアイシスの胸がちっちゃいのは事実」
「セリア酷い!」
相変わらずセリアたんは身内にも容赦無し。
今のはいつもより心に刺さったらしい。アイシスは涙目だ。
「ところで…この白猿ってもしかして…」
「うん。多分そうだと思う」
「ヤーマン王国の白猿兄だよね」
嫁さんを求めて旅に出た後どうなったのか知らなかったが…まさかこんな所に居るなんて。だが本当にこの白猿がボク達が知ってるあの白猿兄なら…
「アレって二年前の事だよね?あの後直ぐに捕まってこの中に入れられたんだとしても…少なくとも二年前まで此処は使われてたって事にならない?」
…そういう事になるかな。これでほぼ確定だろう。
この施設を作ったのはあのバカ神だ。この世界に降りて来てる神様は他に居ない筈。
神様の言葉を信じるなら、だが。
「それで、結局どうするのさ。壊さないなら蓋を開けるの?」
「……」
魔獣が入った容器は全て機械と管とで繋がっている。
天上から伸びる管と繋がっており破壊せずに中から出すには機械を操作するしかない。
神族だってそうしてた筈なのだから、何処かに操作パネルがある筈だ。
まさかそこだけは魔法とかファンタジーな力でやってたとか無いだろうし。
「多分、どうにかしてこの機械…道具を操作して容器を開く事が出来る筈だから。少し調べよう」
「どうしてわかるの?」
「アイシス。そうじゃないとこれを作った人だって毎回破壊するしか無くなる」
「あ。そりゃそっか」
そういう事だ。そこで部屋を手分けして調べた。
操作盤…パネルと言った方がいいか。操作パネルは部屋の中心にあった。
途中、どうやってかは解らないがゴーストやゴブリンゾンビまでも容器の中に居るのを見つけてしまった。
メーティスとウルが感知してたアンデットはどうやらこれの事らしい。
肉体のあるゴブリンゾンビは兎も角、実体の無いゴーストをどうやって容器の中に捕らえているんだろう。
「でさ。操作パネル?っていうの?操作パネルを見つけたのは良いけどさ、ジュン。操作出来るの?」
「見た所…私達の言語形態とは異なる言語が表示されているようですが…」
「これはルーン語ですよ」
「ルーン語?ジュン殿はルーン語を理解出来るので?」
「少しですけどね」
この世界のルーン文字は筆記体。そしてルーン語は英語だ。
この操作パネルに使用されてる言語も英語。
「という訳で。此処はユウの出番だね」
「うん。任せて」
操作パネルはパソコンのようにキーボードがあり、容器を操作するにはパスワードを入力する必要があるようだ。
勿論、ボク達はパスワードなんて知らない。だがユウならば問題無い。
「……ユウ様は何をしているのでしょう?」
「さぁ…オレにはサッパリだ」
ユウは今、操作パネルを…パソコンを操作しパスワードを解除している。物凄い速さで。
前世でもユウはパソコンが得意ではあったが此処まで凄くなかった。まるで超凄腕のハッカーだ。
「…よし。プロテクト解除完了。全ての操作が可能になったよ」
「凄いね、ユウ…ウチには出来そうもないよ…」
「こんなに早く出来たのは『大賢者の紋章』の御蔭だけどね」
ユウが新たに得た力は『大賢者の紋章』。『賢者の紋章』が進化した。
魔法適正と魔法能力が今までよりも向上。更に思考加速も手に入れた。
これによりユウの頭脳に磨きが掛かり、難解な暗号の解読だろうと複雑な数式を用いた計算だろうと一瞬で解けるようになった。
「ユウ、この魔獣達はどういう状態にある?」
「眠っているだけみたい。容器の中の液体を抜いてから出せば眼が覚めると思うよ」
「何の研究をしてたのかは?」
「それはこの端末じゃ解らないけど…容器の中の魔獣から血を抜いたり逆に入れたり、薬を投与したり出来るみたい」
それは想像の範囲内だけど…それだけじゃ何の研究をしてたのかは解らないな。となると…
「じゃあ白猿を出してあげて。彼から話を聞こう」
「うん。ちょっと待ってね……はい、出来た」
白猿が入った容器から液体が抜けていき。容器が開いた。そして直ぐに白猿が動き出した。
「…皆、用心して。戦闘準備」
「え?何で?僕達が知ってる白猿なら……」
「彼が白猿兄だとしても彼が何をされたのか解らないし、状況が解らず混乱して襲い掛かって来るかもしれない。念の為だよ」
もし精神が壊されでもしていたら…神獣白猿は強い。不意を突かれたら全滅の危険だってある。
彼は白猿一家の中では弱いようだったが、警戒は必要だろう。
『ん……ふあ~あ…あ~よっく寝た。母ちゃん、メシはー?』
「……大丈夫そうだね」
「だね。それにしてもテンプレな…もっと捻りのあるリアクションは無かったの?」
『んあ?…あ!お前らは!妹が出て行った元凶!何でうちに!…って、此処何処だよ!?』
「落ち着いてください。此処は神族の遺跡…いえ、研究施設です。何故此処に貴方が居たのかはボク達が聞きたいのです。貴方が眠る前の最後の記憶は?思い出せますか?」
『神族の遺跡?研究施設?何でそんなとこに…ええとぉ~何でだ?父ちゃんと母ちゃんは何処だ?』
寝起きで混乱してるのか?まるで人間のような反応をするな。なら…
「落ち着いてください。一つずつ思い出して行きましょう。先ず貴方は妹さんが結婚して、そのショックから立ち直る為に御嫁さんを探しに出ましたよね?その後どうなったか。教えて貰えますか」
『御嫁さん?……そうだ、俺は旅出て…海に出たんだ!』
「海に?空を飛んで出すか?」
『いや、泳いで』
「…泳いで?泳いで何処へ向かうつもりだったんです?」
『てきとー。泳いでればそのうちどっかに着くだろ?どうせ行く宛とか無かったし』
無計画にもほどがある…初めて会った時から思ってたけど、もしかしなくても彼はバカなんじゃないだろうか。
「…それで?何処かに着いたんですか?」
『ええと…ああ、そうだ!海で魔獣に襲われたんだ!デッケェ魚に!んで海中じゃ上手く戦えなくて…何とか倒したけど負傷しちまって…何とか陸地に着いて…ええと…そこから覚えてねぇ』
「負傷?何処を負傷したんですか?」
『腹…あれ?治ってんな…傷跡もねぇ』
辿り着いたのはこの島か?そこで気を失って…神族に捕獲されたか。傷は神族が治した…いや、もしかして彼を捕獲したのではなく助けた?ついでに研究にも利用するという目的もあったのだろうけど。
「他には全く思い出せませんか?此処でされた事とか」
『全く思い出せねぇ…どれくらい寝てたのかも解らねぇ。ていうかお前ら、ちょっとデカくなってねえ?』
「妹さんが結婚して、もう二年になります。話から推測して貴方は約二年間、此処で眠っていた事になります」
『二年も?よく解んねぇけど…取り合えず、何か食いものくれ。何か腹減ってしょうがねぇや』
「…セバスト」
「ああ。えっと白猿って何を食うんだ?肉か?果実か?」
『そうだなぁ…肉がいいな。ガッツリしたのくれ』
「肉…今すぐ食えるのは干し肉くらいしかないな」
『干し肉~?まぁいいや、くれ』
…白猿兄に問題は無いようで、それはいいのだが…大した情報は得る事が出来なかったな。
分った事はやはり二年前までは神族が此処に居たという事。
『うめぇ~!この干し肉うめぇな!』
「そりゃ良かったな…」
さて、白猿兄を救出出来たのは収穫だけど…ここで何の研究をしていたのか、何とか調べないと。




