第532話 神の島 4
「え~温泉に入ってたの?ズルい!僕も入るー!」
「温泉でキンキンに冷えたエールを呑むのもオツなんですぞ、ジュン殿」
「遺跡探索が終わって時間に余裕があれば入ろうね。バルトハルトさんはいい加減お酒の量減らした方がいいですよ」
セフィさん達をグリムモアに送った後。
アイシスとバルトハルトさんと合流して遺跡の前へ。
今頃セフィさん達はエヴァ様に絞られてるだろう。
遺跡探索はいつものメンバーで行う。
ミズンさん達人魚族チームはエルムバーンで休暇だ。
「それじゃ探索開始しよう。先頭はいつものようにゴーレムに行かせる。クリステア」
「はい。ようやく新しい力を試せますね」
「危険な物が何もない可能性もあるけどね」
隊列はいつものように先頭がクリステア。殿がバルトハルトさんだ。
神殿の中は外見以上に綺麗で長い間放置されてたとは思えない程に綺麗だ。
空気も澱んでいないし、床に埃がたまってもいない。
「というか…あからさまにおかしいね」
「何が?今のとこ何も無いただの空間じゃない?」
「アイシス、外観と中の広さ。合ってる?」
「え?………ああ!ホントだ!中の方が明らかに広い!」
そうなのだ。
外から見た神殿の大きさは精々大きめの一軒家程度。
だが中は確実にそれ以上。何せ廊下の端が見えないのだ。
「どういう事?」
「考えられるのは空間魔法で内部を拡張してる。もう一つは幻覚の類」
「じゃあ……どうするの?」
『何言うてるんや。此処はマスターの出番やんか」
「え?僕?……ああ!破幻眼か!あんまり出番が無くて忘れてたよ」
忘れないで、せっかくの能力…確かにあまり出番は無かったけども。
「どう?」
「使ってるけど…何も変化ナシ。僕の眼に破れないとなると幻の類じゃないね」
という事は空間魔法で空間を拡張してるのか。
この遺跡がどのくらい前の物が知らないが…その間ずっと空間の拡張を維持してるのか?
神族だから可能と簡単に考えていいのだろうか…
「それにしても…何だかジュン様が設計された病院に似てますね」
「あ、私も思ってた。後はあのマッド爺の秘密研究施設にも何となく」
「言われて見れば…」
外観が神殿なのとは裏腹に。
中は近代的というか…神殿のような厳かな雰囲気の作りじゃない。
確かに何処かの研究所のような印象を受ける。
「ジュン、探査魔法は?」
「使ったけど、阻害されてる。でも何て言うか…探査魔法対策というより…何か別の対策を取った結果探査魔法も阻害してるって感じだ」
「どゆこと?」
「探査魔法で調べられる箇所もあるんだよ。調べられない範囲の方が多いから、結果まともに解からないけど。虫に食われて穴だらけの地図みたいに」
恐らくは部屋の一つ一つが封印…或いは結界か何かで護られてる。
結果探査魔法で調べられない箇所が多くなってる、と。
「如何されますか、ジュン様」
「一つ一つ部屋を調べて行くしかないかな。扉を開ける時は…ノエラ」
「はい。罠の確認と解除はお任せを」
神殿の中は先ずロビーのような場所があって中央に端が見えない長い廊下。
廊下の左右には扉がある。というより、扉しかない。
最初外から見た時はそれほど大きな建物ではないから、もし大きな遺跡なら地下に続く階段があるだろうと思っていたが…下に降りる階段も上に上る階段も無い。
「じゃあ…先ずはこの部屋だ。ノエラ」
「はい。罠はありません。鍵も掛かってないようです」
「では…開けます」
「うん。気を付けて」
扉を開くと中には…何も無かった。
空き部屋だ。正確には空っぽの本棚や机と椅子はあったが。
特別な物は何も無い。
「…誰かの私室?だったのかな」
「そんな感じだけど…結構最近まで使われてた感じじゃない?」
「確かにね。でも状態保存の魔法がこの遺跡全体に掛かってるとしたら…あまり当てにならないわね」
そうか、そういう事もあるか。
空間拡張の魔法が活きてるなら状態保存の魔法だって活きてるか。
何にも無さそうに見えるが、隠し扉等が無いかを確認。
何も無いのを確認してから次の部屋へ。
同じ手順を繰り返して部屋を調べて行く。
十、二十と部屋を調べて行くが何も発見出来ない。
空の部屋が続くだけだ。
「何にも無いね…つまらない位に」
「ウチも正直…危険なトラップとかがあるよりは何も無い方がいいけど、こうも何も無い部屋が続くとね…」
「うん…リリー何か聞こえる?」
「何も聞こえないですう」
「ハティは?」
「んんと…ちょっと薬っぽい匂いがする」
「薬?」
「んと…病院の中みたいな?薬屋みたいな…そんな感じ」
病院…消毒液の匂い?
ボクには全く感じないが…此処はやはり病院か研究所だったのか?
立地条件から考えると研究所の線が濃厚か。
「メーティス、ウル。何か感じる?」
『神様の力とか勇者の遺物っぼい気配は感じひんなぁ』
『僕も同じだね。タダね…』
『せやねん。タダなぁ…』
「何かあるの?」
『ジュンはんは嫌がると思うけど…多分、アンデットがおるで』
『居るね。地下かな?』
「よし、帰ろう」
遺跡に存在するアンデットとか。定番過ぎて嫌過ぎる。わざわざ会いに行く理由も無い。
「まぁまぁ。人のアンデットとは限らないじゃん」
「確率は高いと思うけどね。でもさ【ヘパイストス】があれば平気でしょ?」
「そう言えばそうだった」
いや、でも…【ヘパイストス】を装備して尚、行きたくないと考えるって事はトラウマには効果が無いって事じゃ…
「やっぱり帰ろう」
「あ。ジュン様、下に降りる階段がありましたよー」
「……」
シャクティ…空気を呼んで欲しかった。
見つけたからには降りるか…
「いいの?まだこの階の部屋の調査、全部は終わってないでしょ?」
「そうですな…察するにこの階段がある扉は丁度中央になるのでは?つまり残り半分ですな」
「そのようですね」
此処が何らかの研究施設だったとして。
一階は恐らくは研究者達の私室だったんじゃなかろうか。
だとするなら残り半分も同じ作りの部屋で空き部屋で何も無いと予想されるが…
「一応確認するか。でも次からは丁寧に調べず扉から中を見るだけにしよう。勿論何も無ければの話ね」
「「「はーい」」」
さて…また暫くは何も無い部屋を見るだけの時間…かと思いきや。
一部屋目から様子が違った。
先ず鍵が掛かっていた。但し外から開けれる。家のドアとは逆だ。
そして扉を開けたクリステアが抜剣して構えた。
だが直ぐに怪訝な顔をして首を傾げた。
何かと思い部屋の中を覗いて見たら…
「うわぁ…悪趣味」
「ほんと…悪趣味」
部屋の中にあったのは人形だ。
人を模して作られた裸の人形が複数体置いてある。
関節部分をよく見れば人形だとわかるが部屋を開けていきなりこれが視界に入ると裸の人間に見えなくもない。
「申し訳ありません。お騒がせしました」
「いや、いいよ。無理も無いし」
「だね。胴体はともかく頭は凄いリアルだし」
デパートや服屋にあるマネキンのよりもリアルではある。
この世界にもマネキンはあるが此処までリアルじゃないし、クリステアが思わず身構えるのも無理はない。
「それにしても何でこんな物…」
「研究資料?もしくは研究の産物?」
「どちらにせよ、鍵が外から開けれるのは変だよ。普通中から簡単に開けれるようになって無いと。これじゃまるで…」
中に居る人を外に出さないようにしてるみたい…って、まさか!
「クリステア!嫌な予感がする!ドアを閉めて!」
「え?あ!」
『ケケ…ケケケ!!!』
「人形が笑ってるですぅ!」
「うわっ!怖っ!怖ー!」
遺跡に入って最初の発見。それは生きた人形だった…




