第527話 ドワーフの夢 12
「「「「………」」」」
「……」
「ああ、来たわね、ジュン様」
「依頼の品は出来てるよ……どうしたんだい?変な顔して」
「ステンナさん。ジュン様達は大師匠を見て心配してるんだよ。私らはもう見慣れたけど」
ドワンドのジドさんの家に依頼の品を取りに来たのだが。
いつぞやのステファニアさんよりもやつれて精も根も尽き果ててる。
依頼を出した時はドワーフらしい小太りだけど筋肉質なお爺さんだったのだが。
この短期間で何十キロも落ちて痩せこけた小っちゃいお爺ちゃんが居る。
「あの…ジドさん?大丈夫ですか?寝てた方が良いんじゃ……」
「……」
「相変わらず何て言ってるのかウチには解らない…」
「ああ、えっとね。大丈夫だって言ってるわよ。ちゃんと最後まで見届けたいってさ。それに実際大丈夫よ。ここ数日碌に寝てないし、まともに食べてないだけだから。今日の宴会で元通りになるわよ」
「宴会?という事はもしかして…」
「ええ。師匠の夢は叶ったの。ジュン様の御蔭よ」
「ついでに私もね」
「え?ステンナさんも?という事は二つも神様の祝福を?」
「私というか私達か。クリステアの盾は私とスティーブの合作だからね。一応、私も神様の祝福を貰ったと言えるだろ?」
ボクの防具だけじゃなく、クリステアの盾まで神様の祝福を貰えたのか。
ジドさんを見るついでに見てくれてたのだろうか。
「えっと…それじゃ見せて貰えますか?」
「……」
「ええ、こっちよ」
隣の部屋に置かれてたのは親衛隊に配る量産品の盾と腕輪。
量産品と言っても腕輪は兎も角、盾は高性能だ。
例の光の盾を出す機能とアカード帝国で会ったミカエルさんの盾に付与されていた盾の向こう側を透視出来る機能を付けてある。
腕輪には透視機能を付ける意味が無いので、代わりにティナ達のイヤリングと同じで魔法通信の機能を付けた。盾と腕輪も余分にあるので、親衛隊だけでなくカタリナさんやメリッサ達に贈る予定だ。
護身用には十分だろう。
カミーユさん達にもあげていいかもしれない。
そして腕輪と盾とは別に飾られてる、ボクの防具とクリステアの盾。アイとユウの防具もある。
「じゃ、先ずはユウ様とアイ様の防具ね。これは余ったオリハルコンの糸を縫い込んで補修しただけだけど、防御力はうんと上がった筈よ」
「うん、ありがと」
「前より重くなってる筈なのに、変わってない?」
「軽量化の魔法が付与されてるもの。多少オリハルコンを縫い込んだ程度じゃ変わらないわよ」
アイとユウの防具は補修とサイズ調整されただけだが新品同然に綺麗になってる。
さて、アイとユウには悪いが此処からが本番だ。
「お次はクリステアちゃんの盾ね。ステンナ」
「あいよ。これさ」
クリステアの盾は量産の盾とはデザインから違う。
小さな子供ならすっぽりと隠れそうな大きさの盾で、華美な装飾と鳥…鷹かな?鷹が描かれている。クリステアの趣味か?
能力は透視と光の盾を出す機能とクリステアのオーダーした機能が付いてる筈だ。
「有難う御座います。素晴らしい出来ですね」
「だろう?あんたのオーダーは全て満たしてる筈だよ。試してみな」
「はい…では」
光の盾と透視は問題無いようだ。そしてクリステアがオーダーした機能は…魔力の剣?
盾の下部から魔力の剣が出るようにオーダーしたのか。
ボクの【アトロポス】やノエラやセバストの武器のように結構伸ばせるみたいだ。
「なるほどねぇ。防御力を伸ばすのと同時に攻撃力も伸ばしたのね」
「ちょっとした二刀流みたいね」
「はい。これで戦い方の幅が広がります」
「問題無さそうだね。じゃあ…」
「はい。【アテナ】の能力ですね」
アテナ?それがクリステアの盾に祝福を与えた神様か。
ギリシア神話に出て来る戦いと知恵と芸術の女神だったか。
この世界では家や街を護ってくれる守護の女神だったか。
「…これは…凄い…流石守護の女神様の祝福ですね」
「どんな能力なの?使って見せてよ」
「はい…いきます」
クリステアが眼を瞑り集中すると、ボクの身体が薄い光の膜で包まれた。これが【アテナ】の能力…?
「クリステア、これは?」
「はい。その光は強力な結界を圧縮したようなもので、その光に包まれてる間は物理攻撃にも魔法攻撃にも強くなります。また、身体能力も強化してくれます。補助魔法と重ね掛けすれば相当な強化となる筈です。一度に複数の人に付与する事も可能です」
「それはそれは…」
「僕の『勇者の紋章』に近い能力だね」
見た感じかなり強力な護りだ。ステファニアさんが作った魔力障壁を張る魔法道具よりも遥かに強力だろう。
勿論併せて使う事も可能だし、これだけでパーティーの防御面はほぼ万全じゃなかろうか?
「ただ…ジュン様一人に付与するだけでもそれなりに魔力を消費しました。一日に付与する回数はそれほど多くはなさそうです」
そこは神様に祝福された武具の能力共通か。
確かに強力な能力だし、それぐらいは当然か。
「ですが全身を覆うのでは無く…例えば盾だけを覆うなど限定すれば消費する魔力は抑える事が出来ます」
「それは…盾気とも併用出来るの?」
「可能です。試す事は出来ませんが、神獣のドラゴンのブレスでも防げるかもしれませんね」
「そりゃ試すには危険過ぎるでしょ…」
でも神獣のドラゴンのブレスが防げるかもしれない、か。
恐らくは防げると言っても完全には防げないだろうが、それでも大したモノだ。
「じゃあ姉さん、後で模擬戦しないとね」
「ええ。使い心地を確かめなくては」
「今日は街を上げての大宴会であんた達も参加してもらうんだから、今日中に模擬戦は出来ないと思うわよ」
「それどころか確実に二日酔いになるから。数日は無理じゃないかね」
「街を上げての大宴会?」
「そんなに凄い事なの?一度に二つも神様の祝福が貰えるのって」
「……」
「それもあるけどね。師匠に…ジュン様の防具に祝福を授けてくれた神様がね。ドワーフにとって最高の神様なのよ」
「ドワーフにとって最高の神様とは?」
「着てみれば解かるわ。さ、今日の大本命よ」
ボクの防具は所々に細かい装飾が施されているが見た目はそう大きく変わってない。
だがアイとユウの防具同様新品同然。肩当てや胸当ては正しく新品なのだが。
「……」
「ハイオリハルコニュウムは肩当や胸当て以外にも使ってるわ。アイ様とユウ様の防具同様、糸状にして布地に縫い込んでるわ。着心地はどう?」
「最高です。以前よりも軽くて…動きやすい。まるでボクの身体の動きを予め知ってるかのように動きに抵抗感がまるで無い」
「……」
「腕輪と同じように光の盾を出す機能と魔法通信の機能を付けてるから使って見ろってさ」
「はい」
光の盾はクリステアの盾と同じくなんら問題無い。
魔法通信の機能は今回作った幾つかの腕輪と繋がるようになってるみたいだ。
カイエンとクリステアと…親衛隊の小隊長クラスに持たせようか。
「……」
「問題無いようね。それじゃ神様の祝福を確認して御覧なさい」
「はい」
ボクのサーコート…防具一式に祝福をくれた神様の名はヘパイストス。
確かこの世界でも現代地球でも鍛冶の神様だった筈だ。
「このサーコートの名前は【ヘパイストス】になったわけですか」
「……」
「そう。私達ドワーフが崇めてる鍛冶の神。その神様から祝福を頂くのはドワーフにとって最高の栄誉。他の神様から祝福を頂くのも夢だけどヘパイストス様から頂くのが最高の栄誉なの。何せ今までヘパイストス様から祝福を頂いたドワーフは存在しない。師匠が初めてなのよ」
「それは…」
つまりジドさんは全ドワーフの中で最高の腕を持つと認められ、名前はドワーフの歴史に残るって事か。
「おめでとうございます、ジドさん」
「……」
今のは「有難う」って言ったんだな。今のは通訳が無くても流石に解かった。
「それで、その【ヘパイストス】はどんな能力があるの?ジュン」
「ああ、えっとね…装着者の体調・精神状態を常に万全の状態に保ってくれる。あと、装備自体も最高の状態を保つみたいだ」
「えっと…思ったよりその…地味?」
「そんな事無いよ。凄い能力だと思うよ」
「その通りよ。だってそれ、私達鍛冶師の手によるメンテナンスが必要無いって事でしょう?」
「はい。もっと言えばこのサーコートは決して壊れないという事です。ドラゴンブレスの直撃を受けても傷一つ付かないでしょうね」
「え。なにそれ、凄い」
最高の状態を保つというのはそういう事だ。この防具一式は決して壊れる事は無い。
そして体調と精神状態を万全に保つというのも有難い。
ボクには決して毒も精神魔法も通じないという事。
呪いも防いでくれるみたいだ。
「ありがとう御座います、ジドさん。最高の防具です」
「……」
「礼を言うのはこっちだ、だってさ。私からも礼を言わせてもらうわ。最高の仕事をさせてくれて、ありがとう」
礼を言うジドさんとステファニアさんの眼には涙が。
二人だけじゃなく、ドミニーさんとステンナさんもだ。
「おーい!あんた達!宴会の用意が出来たよ!」
「……」
「ええ、行きましょう。ジュン様はそのまま宴会に参加してくれる?皆見たがると思うから」
「あ、はい」
ネネさんの姿が見えないと思っていたが、どうやら宴会の準備に出ていたらしい。
宴会を開くのはジドさんの家では無く集会所。
だが街に居る全ドワーフが参加するだけあって集会所の外まで溢れていた。
「さー!今日はとことん呑むわよ!」
「「「「おー!!!」」」」
宴会が始まる前も始まった後も。
ボクは暫くドワーフにもみくちゃにされた。
見せろ見せろと言って。
痴漢目的じゃないのは解ってるが、体中弄られてしまった。
ジドさんも同じようにもみくちゃにされていたが。
宴会は長時間続き。
ボク以外の全員が酔いつぶれるまで続いた。
元々酒に酔わない体質だったが、もしかしたら【ヘパイストス】は酒酔いもしなくなるのかもしれない。
尚、その日ドワンドは酔っ払いだらけで二日酔いで倒れそこら辺で吐く人が続出。
ドワンドの街は酷い惨状だったという…




