第525話 ドワーフの夢 10
ビッグ・モスを倒した後。
ウィスラー魔王国王都グースベイの目の前で倒してしまった為に、大勢の街の住民に目撃されてしまった。
冒険者ギルドの職員が来る迄に、街の外にはボクとハティとビッグ・モスの死体を見物に来た住民で溢れていた。
流石にこの状況で此処から離れるわけにも行かず。
かといってあまり長時間音沙汰無しだとユウ達が心配する。そこでハティに先に戻ってもらった。
従ってボク一人で大勢の好奇の視線に耐えてるわけだが…これが中々に辛い。
早く此処から離れたい。
兎に角早く来てくれと願いながら、ギルドの職員が来るのを待っていた。
「ジュン様ー!」
「うっ!来た!」
距離的に城より冒険者ギルドの方が近いのに、マーヤさんが先に来た。しかも馬車でも馬に乗ってでもなく、走って、だ。
更に裸足だ。手に靴を持ってる。
「随分早いですね…兵士から報告を受けて来たにしては早すぎるように思いますが」
「偶然なのです。何となく窓の外を見ていたら…ジュン様が、それはもう華麗に美しく魔獣を倒す場面が見えまして。私、思わず窓から飛び出してしまいました」
「…城の何階ですか?」
「四階からです」
「…飛行魔法でですか?」
「いいえ。私、魔法は得意じゃないんです。でも大丈夫です、身軽さには自信があります」
「…良い子は真似しないように」
四階から飛び降りて身軽さが関係あるんだろうか。
いや、流石に一気に地面に降りたわけじゃなく、先ず三階の屋根に降りるとかしたんだろう。
「それでジュン様…この魔獣は?アーマード・モスなんですか?」
「冒険者ギルドの人が来たら説明しますよ…というか、離れて下さい。大勢の人が見てますから。誤解されますよ」
「いいじゃないですか。誤解を真実にしてしまいましょう!」
「いいから、離れて下さい!」
「あん…」
この人にしがみつかれると腕が幸せに包まれるのだが…あまり長時間はイケない。中毒になってしまいそうだ。
しかも何か…前回よりダイレクトに柔らかな感触が伝わって来る気がするし。
「外だとスースーする…」
「え?何です?」
「いえ、何でも。オホホホ」
「そうですか?…ところで、靴を履いたらどうです?」
「あ、はい……」
「どうかしました?」
「あの、申し訳ありませんが…履かせていただけませんか?このドレスでは難しくて…」
…出来なくはないと思うが…此処は外。ドレスを汚さずに履くのは難しい、か?
「仕方ないですね…足を上げてください」
「有難う御座います。ちゃんと御礼はしますので」
「御礼なんていいですよ、これくらいの事で」
グースベイの住民の眼がある中、エルムバーンの魔王子がウィスラーの魔王女に靴を履かせるというのは…誤解されるかもしれないが、これくらいなら…って?何だ??
「あの…マーヤさん?何の真似です?」
「うふふ…御礼です。少々恥ずかしいですが」
両足に靴を履かせた途端、スカートの中に頭を入れられた。
これじゃまるで変態…というかスカートの中が丸見え……って!えええええ!?
「ちょ!ちょーっとぉぉぉ!!な、何で!?何考えてるんです!?」
「ジュン様がいつ戻られてもいいように準備していました。男性はこういうの御好きなんでしょう?」
「どこで得た知識なんです!?捨ててください、そんな知識!」
昨日の宴から引き続き下着を着けてないのか!それなのにスカートの中に入れられたら……嫌でも見てしまう!
更に今日はブラも!道理で抱き着かれた時、前回より幸せに包まれた気がした筈だ!
「おい…マーヤ様とジュン様が…」
「マーヤ様…なんて大胆な…」
「外でこんな…人の眼があるのに…どっちの趣味だ?」
「もしかしなくてもラブラブ?ラブラブなの!?」
「喜ぶべきなの?悲しむべきなの!?」
「嫌ー!複雑!複雑な気持ちだわ!」
ああ!?予想通りに住民にとんでもない誤解を!
というか複雑とか叫んでる人!美女かと思ったら声からして男だよね!
この国にも居るのか、オカマさん!
「ち、違います!全て誤解!」
「フッ!その通り!私とジュン様はラブラブなのよー!」
「こらー!?御願いだからこれ以上ややこしい事態にしないでください!」
「やっぱり!おめでとうございます!」
「もう御婚約はされたんですか!」
「それはまだだけど、時間の問題よ!」
「だからぁー!勝手な事言うなー!」
い、一体此処に何人の住民が集まってるのか知らないが、此処は他国…何人に誤解され誤った情報が伝わろうが知ったこっちゃないで済ませる事も可能かもしれないが…
「うふふ…これで私とジュン様が只ならぬ関係という噂は直ぐに広まって周辺諸国にも伝わり…私はジュン様の女だと認識される訳です。婚約の話も、もう来なくなるでしょうね」
「貴女って人は……」
この手段の選ばなさ…アンナさんと同じだ。こういうタイプの女性は苦手だ…先が読めない…
「安心してください。私はシャンゼ様と仲が良いですし、他の婚約者の方とも仲良くします。婚約者同士が不仲になる事を望んでいないのはシャンゼ様に聞いて知っています。私も必ず仲良くしますから」
「……そういう事じゃありませんよ。それにこんな事態になったからってボクは貴女を婚約者にするつもりは……」
「怒らないでください、ジュン様。この通り謝罪しますし、お詫びに何でもしますから」
「…どうしてそこまで?ボクと会ったのはお茶会の時が初めてでしょう?一目惚れでもしたって言うんですか?」
「一目惚れ……そうかもしれません。でも、私達が初めて会ったのはお茶会の時じゃありませんよ?」
「え?」
「いえ、ジュン様にとってはお茶会の時で正しいかもしれませんね。私が初めてジュン様にお会いしたのは九年前……フレムリーラの城に集まった重篤の患者をジュン様治癒魔法で癒した時…あの中に私も居たのです」
「あの中に…」
九年前…フレムリーラで重篤の患者を集めて纏めて治癒魔法で癒した時に、他国の王族も居る事は聞いていた。
その中にマーヤさんが居たのか。言われてみれば黒髪の猫人族の少女が居たような…
「あの時、ジュン様に治して頂くまで私は…城の中ですら自由に歩けない身体でした。今ではこの通り、城の四階から飛び降りても平気なくらいにまで元気ですけど」
「…それは何よりで」
リディアといいレヴィさんといい…病から解放された少女には何か力が宿る物なのだろうか。
皆、昔は病弱で寝たきりだったとは思えない。
「それからずっとジュン様に御礼をしたくて…シャンゼ様からジュン様の御話しを聞いたり、噂を耳にしたりして。ジュン様への感謝と尊敬が恋と愛に変わるのに時間は掛かりませんでした。そしていつかジュン様に全てを捧げる時の為に、女として全てを磨いて来ました。特に身体を。綺麗だったでしょう?」
「マーヤさんが美人でスタイルが良いのは認めますよ…」
「うふふ…有難う御座います。ジュン様にお褒め頂けるなんて。それだけで今日まで自分を磨いて来た価値がありました。きっと皆に嫉妬されます」
「…皆?」
「はい。あの時、ジュン様に癒して頂いた王族や貴族は私だけじゃありません。皆、ジュン様に感謝していつかご恩返しをする為にと自分を磨いております。殿方も同じですよ」
そう言えば感謝状が届いてたか。何かあれば何でもするから遠慮なく言ってくれとか書かれてたような。
ついでに婚約の申し込みも来てたな…
「因みに今夜の祝勝会に招待してあります。勿論女性は下着を着用しないように伝えて―――」
「参加者は下着の着用を必須でお願いしますね」
他国の王族にまで何させようとしてるんだ…まさか鵜呑みにしてる人居ないだろうな………いそうだな~………
「あ。来ましたね、冒険者ギルドの方と…父様も」
「父様?」
…まぁ、王都の直ぐ傍に魔獣が来たとなれば魔王様の耳にも入る、か。
ウィスラー魔王国魔王イーサン・ウィスラー様。マーヤさんの父親だ。
イーサン様にも説明の必要があったし、手間が省けたと思うべきか。
そして説明の結果。
ビッグ・モスがアーマード・モスの上位種だと認められ、尚且つアーマード・モスが十匹以上も生息してた事実から、今回の件は国の存亡を脅かす事態だったとイーサン様と冒険者ギルドに認められた。
それから墓所が荒らされていて卵が植え付けられている事も説明。
内部に入る許可も貰っておいた。扉は破られていたし、これで憂いなく入る事が出来る。
墓所の中に何て出来れば入りたくはないが…皆が待ってるし、早く戻ろう。
「それではジュン様!祝勝会の用意をしてお待ちしてます!楽しみにしててくださいねー!」
「ほんとーに普通の宴にしてくださいね!ほんとーに!」
どうしても不安になるが…昨日の宴以上におかしな事になんてならないだろう。
多分、きっと…




