第523話 ドワーフの夢 8
「…何匹いる?」
「……七匹かな」
「アレで全てなら想定より四匹多い程度で済んだねー………」
「いえ、あの……この際、数は問題ではないのでは?」
「明らかに別の問題がありますよねー明らかに」
うん、まぁ。ちょっと現実から目を逸らしただけです。
そう、数が発見した繭の数より多いというのは想定の範囲内。
だがしかし。到底無視出来ない大きな問題が。
「何アレ。他のと比べて明らかにデカいよね」
「そうだな…二倍はあるか?」
目的地の湖がある山頂。
その周辺には予想通りにアーマード・モスが生息しており、それぞれが岩や木の上にいたり、仕留めたのであろう魔獣を捕食していたり、周囲を警戒するかのように上空を旋回して飛んでいたりした。
それをボク達は遠くから隠匿結界を張りつつ観察している。
七匹の内、鉄の角を持った個体が三匹。銀の角が一匹。銅の角が一匹。
アダマンタイトと思しき角を持った個体が一匹。
この六匹はいい。
此処に来るまでに倒した個体よりは大きいが、個体差と言えるレベルだ。
だが最後の一匹。
湖の側に建てられた神殿のような建物。恐らくはウィスラー魔王家の墓所…その屋根に居る個体。
そいつが恐ろしくデカい。
見るからに他のアーマード・モスの二倍はあろうかというサイズだ。
そしてそいつにはこれまでとは違う質感の角。
恐らくはオリハルコンの角だ。
「どうなってんの、アレ。オリハルコンの角を持ってるっぽいのはいいとしてさ。どうしてあそこまでサイズが違うの」
「変異体なのか進化したアーマード・モスなのか…どちらか解らないけど…アーマード・モスなのは間違いないでしょ」
「確かに、大きさ以外の特徴は一致してますが…」
あそこまでデカいと…日本で有名だった映画に出て来る某怪獣を連想してしまう。
双子の小人が歌ったら言う事聞いてくれたりしないだろうか。
「ジュン様。アイツらが捕食中の魔獣を見てくれ」
「あまり見たく無いけど…あの魔獣がどうかした?」
「アレ、水棲の魔獣だ。デビルクラブって名前の、魚に蟹の爪が付いたような魔獣だ。恐らくはそこの湖に生息してるんだろうが…」
「水棲の魔獣?そのデビルクラブはサハギンみたいに陸上に出る事があるの?」
「無い。精々魚と同じように水面をジャンプして一瞬出て来るくらい。自分から陸上に上がる事は先ず無い」
「じゃあ、どうやってアイツらはあの魔獣を仕留めたの?」
「それが解らないから不思議なんだ。一体どうやって…」
「あ、デカいのが飛んだよ」
まさか見つかったか?と、思って身構えたがボク達が目的では無いようだ。
あのデカいアーマード・モス…ビッグ・モスと呼ぶが…ビッグ・モスは湖の上に行くと湖面に向けて雷撃を放った。そして浮かんで来たデビルクラブに向けて今度は別の力を放った。
「今度は風かぁ」
「雷撃でデビルクラブを仕留め、風で空中に飛ばし…角で刺して陸上に運んで捕食する、か」
「他の奴らが食べてるのはアイツのおこぼれって訳ね」
「そういう仕組みが出来上がってるという事は…あのアーマード・モスは一つの群れを成しているという事でしょうか?」
「アーマード・モスは群れで行動する魔獣では無かった筈ですが…」
それを成しているのはやはりビッグ・モスだろう。
アイツはやはり特殊な個体で、群れのボスとして君臨しているのだ。
「しかし、なるほどな。謎が解けたよ」
「というと?セバスト」
「此処に来るまで、アーマード・モス以外の魔獣…殆ど見なかったろ?」
「言われて見れば…最初にオブシダンベアーを見た後は一度も見てないね」
「恐らくはアイツをボスとしたアーマード・モスの群れがこの山の魔獣をほぼ狩り尽くしたんだ。湖に棲む魔獣に手を出すほどに。そんな勢いで狩って食ってるものだからデカくなるのが早いのも納得だ。羽化した時期がほんの僅かの差でも成長に差が出る程に」
アーマード・モスは、そんな勢いで狩りをする程に食欲旺盛な魔獣だとは聞いてない。
群れのボスであるビッグ・モスがそうさせているという事、か。
「それで…どうする?」
「どうするって…倒すしかないだろ?」
「そうだけどさ。どうやって倒すの?」
「……」
ビッグ・モスは明らかにアーマード・モスの上位個体。
討伐難度Sのアーマード・モスの上位個体となると冒険者ギルドの定義では規格外。
あのギガロドンと肩を並べる存在となる。
国を脅かすレベルの魔獣…ランク付けに拘るなら討伐難度SSランクの魔獣になるだろう。
しかもSランクの魔獣六匹と群れを成していて、群れごと討伐となると…討伐難度SSSランクとかになりそうだ。
それをやるには…もう少し情報が欲しい所だ。
今回はアイシス達も居ないし…
「という訳で。もう少し情報収集だ。アイ」
「了解。何時ものやつね」
「お兄ちゃん、私も出すよ」
そう。いつものやり方で情報収集だ。
ギガントロックゴーレムを六体出して突撃させた。
それから空中に居るヤツへガーゴイル型のゴーレム四体。
「さあ。どうするかな」
「情報収集の為に、瞬殺されないようにしないとね」
六体の内、ボクが出した二体のギガントロックゴーレムを盾型にした。
アイが出した二体を腕が斧になってる武装型。
ユウが出した二体はノーマルだ。
「早速動いたね」
「ビッグ・モスは動いて無いよ?」
ビッグ・モスはゴーレムを見てもいない。
いや、視野が広いから顔を向けて無いだけで実は見てるのかもしれないが。
六匹のアーマード・モスは先ずガーゴイルを破壊。その後、空中で輪を作り、旋回を始めた。
まるでフォーメーションを組んでいるかのようだ。
「まるでじゃなく、フォーメーション…陣形を組んでるよね」
「はい。間違い無く。六匹のアーマード・モスはゴーレムを囲むように飛んでいます。何らかの攻撃の為の陣形でしょう」
空中を旋回していたアーマード・モス達は突然旋回を中止。
ゴーレムに頭を向けた。アレは…電撃攻撃か!
「アイ!ユウ!ゴーレムを輪の外へ出せ!」
「駄目!間に合わない!」
ゴゴオぉぉぉ!っと。
アーマード・モスが放った雷撃が雷鳴と共にゴーレムに降り注ぐ。
アーマード・モスが作った輪の中全ての範囲に雷が落ち、地面に無数の焦げ跡を残した。
当然、ゴーレムは完全に破壊された。
「どうやらあの雷撃は複数で協力して放つと威力が上昇、範囲が拡大するようですね」
「同調魔法みたいなもの?ヤバいね…」
クリステアの見立てで間違い無いだろう。ボクも同意見だ。
だけど、そうだとするなら奴らにはある程度の知能がある事にならないだろうか。
それとも本能で出来る物だろうか?
雷撃を協力して放つのはまだしも、陣形を組むのは…
「ビッグ・モスが命令を出してるのかもよ、お兄ちゃん」
「群れのボスだからか?」
「うん。アーマード・モスは頭のいい魔獣って話は無かったし。アレ全部が特殊な個体って考えるよりは、あのビッグ・モスが司令塔だって考えた方が合理的かなって」
「ビッグ・モスは大きい分、普通のアーマード・モスより脳みそも大きいでしょうしねー」
……そういう事なんだろうか?確かに脳も大きいだろうけども。
どちらにせよ、アイツらが脅威なのは確かな事実。
街の一つや二つ、簡単に滅ぼせるだけの力がある。
どうやって倒すか…




