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第521話 ドワーフの夢 6

 襲い掛かって来たアーマード・モスは一匹。

仕留めたオブシダンベアーを捕食に来て、側に居たボク達も一緒に捕食するつもりらしい。


「全員、一旦距離を取れ!ルチーナ!」


「はい!」


 アーマード・モスはボク達に向けて鱗粉を降らした。

オブシダンベアーと同じように、ボク達も毒で仕留めるつもりだ。

情報によると、かなり強力な毒らしい。

毒耐性の装備があっても吸わない方が良い。

ルチーナの【ヴァーユ】の力で風を起こし、鱗粉を上空へ吹き飛ばして貰った。

ついでにアーマード・モスにもダメージが入った筈だが…


「ピンピンしてるね」


「風属性に強い?」


「いや、単純に防御力が高いんだろう。何せアーマード・モスだしな」


 アーマード・モスの幼虫アースワームも外皮が堅い魔獣だった。

そしてアースワームの大きさは幅一メートル、長さ八メートルが平均。

だが成虫になると幅は羽がある分拡がるが、胴体は五メートルに収縮される。

だからと言って良いのか解らないが羽も胴体もアースワームより堅い。

所々は堅い金属か石で覆われており、それが鎧を着ているようだからアーマード・モスという名がついた訳だ。


 身体を覆う物は個体ごとに違う。

鉄鉱石をよく食べた個体は鉄で覆われるし、銀鉱石なら銀で覆われる。

そして額に角があり、その角の材質も個体によって違う。角の材質は身体を覆う物と同じではあるが、繭も同じ材質。故に繭から出る時にはその角で破る訳だ。


 目の前のアーマード・モスは銀を身に纏っている。

角も銀製のようだし。恐らくはあの滝の裏の洞窟にあった繭の主。その片割れだろう。


「さて。毒がある以上近接戦は避けるべき。そして此処は山中でウィスラー魔王家にとって重要な山。派手な魔法で山を傷付ける訳にはいかない。となると、だ。リリー先生!お願いします!」


「はいですぅ!」


 リリーが矢を放つ。柔らかそうな腹部を狙ったようだがアッサリと躱されてしまった。


「うっそ!たかが蛾のくせに俊敏!」


「でもまだまだですぅ!」


『僕の矢が単純に真っ直ぐ飛ぶだけなんて思わない事だね!』


 リリーの放った矢は大きく弧を描き戻って来た。

そして再びアーマード・モス目掛けて飛び…躱された。


『あっるぇ!?』


「背後からの攻撃も躱されちゃったですぅ!」


 流石は昆虫型。複眼によりかなり視野が広いようで、死角は無いらしい。


「ま、まだまだですぅ!こうなったらウルさん!アレですぅ!」


『アレだね、マスター!』


「今、必殺のぉー!」


「『ホーミングアローレイン!』」


「ですぅ!」『だよ!』


 あの敵を自動追尾する矢はホーミングアローと呼ぶらしい。

それを雨あられと連射し、上から落とすのがホーミングアローレイン。

リリーの新必殺技だ。


『全方位から自動追尾する矢の雨だよ!速度もさっきよりずっと速い!躱せるものならー!』


「躱してみやがれですぅ!」


 アーマード・モスはそれでも躱し続けたが、やがて躱しきれずに矢に貫かれた。

一本、二本と刺さり、動きが鈍った瞬間に残った矢が額に刺さりとどめを刺した。


「ふっ…またつまらぬモノを射ってしまったですぅ」


「……アイ?」


「…ぴゅふゅーぴゅふゅー」


「そんな吹けてない口笛で誤魔化すのは無理だから」


 多少アレンジはあるとはいえ…バルトハルトさんにも仕込んでそうで怖いな。


「中々厄介な相手ね。防御力が高くてそこそこ速くて目が良いから回避率が高い。リリーみたいに避けようの無い攻撃か範囲攻撃魔法じゃなきゃ遠距離で仕留めるのは難しいね」


「ですねー私の糸で捕まえるのも難しそうです」


「そう?シャクティの糸なら捕まえられそうだけど」


「見ててくださいねーアイ様」


 アーマード・モスは全体的なフォルムはデカいカイコガのような姿なんだが羽の輪郭が薄い刃になってるようだ。

シャクティが落ちてる枝を拾って試したら綺麗な切り口が出来た。


「リリーさんの矢も何本か斬れてます。アイ様なら気付いてると思ったん

ですけどー」


「う…あんまり見ないようにしてたから…気持ち悪くて…」


 戦闘中に相手から目を逸らすなんて言語道断だが…責める気は無い。

気持ちは解るし、普段のアイなら絶対にしないから。


「ところでセバスト?黙々と解体してるけど…まさか…」


「いや、食わないぞ?アースワームの肉は珍味だったがアーマード・モスの肉は不味いらしいし。討伐証明になる額の角と折角だから身体に着いてる銀を回収してるだけだ」


「そっか。良かった……いや、待って?それって美味いって話なら食べるって事?」


「ん?まぁな。美味いって聞けば普通食べるだろ?」


「兄さん…」


「セバストさん…私達に出す料理にはおかしなモノは入れないでくださいね。おかしなのは姉さんとノエラさんだけで充分ですよ。只でさえ城にはおかしな人が増えてるんですから」


「お、おう」


 全く以てその通り。城の誰がおかしな人なのかは明言しないが。


「私達がおかしな人?良い度胸ですね、ルチーナ」


「私の何処がおかしいと?失礼な話です」


「自覚が無いのが本当に怖い…先ず自覚して。お願いだから」


「貴女は何を言っているんです。貴女は恐らくは私のジュン様に対する愛情表現の事を言っているのでしょうが、愛する人に愛情表現をするのは普通ではしょう?」


「私もです。ジュン様以外にはしてませんし。普通な筈です」


「アレが愛情表現なら二人はこの世界で最も恋愛ベタな女よ…」


 本当にな…アレは愛情表現じゃなくて誘惑…


「それにルチーナ。まるで自分は普通だと言っているようですが。私達がおかしな人なら貴女も十二分におかしな人ですよ?」


「どこがよ!私が変な人ならこのパーティーにまともな人は居ないわよ!?」


「…ん~…すんごい引っ掛かるけど、見逃してあげる」


「ウチもすんごい引っ掛かる」


 ボクもすんごい引っ掛かる。

まるでボクも普通の人のラインギリギリみたいじゃない。


「だって貴女もジュン様の御入浴を覗いてたじゃないですか」


「荒い息遣いで。誰よりもハァハァと」


「そ!そんな事無いわよ!」


 うう~む…やはりルチーナはクリステアの妹…ナターシャも同じじゃないだろうな。


「解体が終わったぞ」


「御苦労様。毒の鱗粉は吸い込んで無いね?」


「大丈夫だ。羽に水を掛けて鱗粉が飛ばないようにしたしな」


「水を?」


「ああ。ほら、マンイーターを倒した時の事を思い出してな」


「なるほど」


 そうか、水浸しにすれば毒の心配は殆どしなくてよくなるのか。

それに羽が水浸しになれば重くて飛べなるかもしれないな。

次はその作戦で行ってみるか。


「さて、じゃ探索を続けるよ」


「うん。それにしても山頂までまだまだあるけど、思いの他早く遭遇したね」


「山頂の湖の近くに居るって話だったけど、まだ殆ど登ってないのにね」


「そうですねーこの山結構高いですよね」


「一千メートル級だよな。此処は精々二百メートル付近か」


 確かに。山頂付近から此処まで追って来たのかな。

だとしたら追跡能力も高いのか。確か蛾や蝶は嗅覚がかなり鋭いって聞いた事がある。

もしくは山頂付近の魔獣はアーマード・モスに狩りつくされた?

…まさかね。

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